2020年10月24日土曜日

負けた?いやいや、かったんですよ?



いや…買うっしょ?

日本酒にしても餅製品にしてもですが、「〇〇県産酒米使用」や「〇〇県産もち米使用」みたいな表記ばかりで、稲品種ヲタクとしては寂しい限りですが
こんなふうに単一銘柄がちゃんと表示されている商品を見るとつい「応援しなくちゃ…」ってなるんですよ(ただし自分が擬人化していない品種にはそれほど強く働かない模様)











短稈渡船とは?~0~【結論だけ?のまとめ】

山田錦の交配父本になった『短稈渡船』とは?
平成の世ではあらゆるところで「復活」した…それって本当に「山田錦の父親」?
長々とした解説は別に、なるたけ簡潔にまとめました。


【注】これはあくまでも管理人墨猫大和の集めた情報による私見です。
必ずしも「正確な情報」ではない点にご注意ください。

”ちゃんとした根拠や論拠”で反論することは十分可能な内容だと思います。
ただし、当時(明治~大正期)の資料を基に反論ください。
現代の慣習や書籍を元に反論されても、この問題は「そもそもその根拠が間違っている」という話ですので意味がありません。





↓より詳しい根拠を読みたい方はこちら↓


結論(時間が無い方のために)

『山田錦』の父親である『短稈渡船』は遠い昔に失われてしまい、存在しません

どこかの研究機関で保存している、なんてこともありません。
「残っていたものを復活させた」というのは酒蔵側の誤解か妄想です。

「山田錦の父親を使った日本酒です」というものを目にしているのならそれは誤りか虚偽表示です。

信じられない方は以下をお読みください。


ちなみに『短稈渡船』の読み方は、滋賀県に習うなら「たんかんわたりふね」です。

最初に、管理人が問題だとしている点

このページも大分閲覧数が増え、見当違いの批判も時折来るようになったので大前提を

酒蔵や酒屋が
①推測や未確定であることを一切説明することもなく
「山田錦の親」を復活させて使っていると宣伝・表示
していることを問題としています。


『滋賀渡船2号』を使用した日本酒に「渡舟」と名付けて売ろうが、「短稈渡船」と名付けて売ろうが、その言葉自体にはなにも制約も違法性もないのですから実際問題があるとは言っていません。(誤解を招くので正直言って倫理的には問題あると思いますが)
『新山田穂1号』使っている日本酒に『山田穂』と名付けようがどうぞご自由に。

ただし「山田錦の親」という謳い文句を付けるなら大きく意味が違ってきます。(山田錦の父親『短稈渡船』、山田錦の母親『山田穂』)
これに「遺伝的に近縁だから」とか「品質は同じだから」なんて言うなら論点がズレています。
「魚沼産コシヒカリ」として売っているものが、別品種で、産地が違っても「魚沼と同じような環境で」「遺伝的に近縁な品種を使って」「品質が同じ」なら許されるなんてことがありますか?
そういった論調には私個人は同調しかねます。

後述しますが
・すでに存在していない「山田錦の親」
・推定や類似品であるという説明を一切せず
・売る側に有利な情報だけを宣伝に使っている
これは大きな問題ではないのでしょうか?

「古い品種が現存しないなんてことわかりきっている。別のものを使っているのは当たり前」と言う企業もいましたがそれが世間一般の感覚なら私のそれが大きくズレているようです。
少なくとも私は「本当に『山田錦』の親である『短稈渡船』や『山田穂』が現在まで保存されていて、それを復活させて使っているんだ」と思っていました。(というか酒蔵側がストレートにそのまんまの謳い文句で宣伝していますし)


さて改めて

山田錦の親『短稈渡船』とは?


・『山田錦』育成の際、交配父本(花粉親)として用いられた品種(『山田錦』の父親)。

・交配を担当した兵庫県立農事試験場の独自の呼称であり、一般には普及していない

・”滋賀県の品種”との記録が兵庫県側にはあるが、『短稈渡船』は前述の通り育成者ではない兵庫県側による独自の呼称であるためその正体は不明

現代に『短稈渡船』として保存されている品種はない(すでに失われてしまい、この世に存在しない)



すでに存在しない?
では現代の『短稈渡船』とはいったいなに?


『滋賀渡船2号』、『滋賀渡船6号』、『渡船』(これは本当に栽培されているものが存在しているか不明)など、すでに存在しない『短稈渡船』以外の品種を酒蔵側の裁量(独断)で「山田錦の親」「短稈渡船」として表示しているものです。

そんなこと出来るの?

〇日本酒の表示制度上、「品種名」の表示には何も規定がないので、悪い言い方をすれば酒蔵側が好き勝手自由に(無根拠や間違ったものでも)表示できます


〇農産物検査法に基づく産地品種銘柄(お米の産地・産年・品種の証明)もありますが、これも管理機関である地方農政局は「品種名の根拠を確かめたり」はしないので、悪い言い方をすれば好き勝手に品種名を設定できてしまいます(『茨城県産渡船』)

そして前述したとおり、そもそも「産地品種銘柄名を表示しなければならない」という法は日本酒にはありませんので、いずれにせよなんとでも出来てしまいます。

かなりいい加減であることがおわかりいただけたでしょうか。



その混乱の元は?


兵庫県立農林水産技術総合センター池上氏らの論文が根拠?

~酒米品種「山田錦」の育成経過と母本品種「山田穂」「短稈渡船」の来歴~において
兵庫県に導入された年次(大正7年頃)であることに加え、『短稈渡船』の特性(当時)とジーンバンクで保存されている『渡船2号』の特性(現代)がよく似ていることから「『短稈渡船』と『滋賀渡船2号』はほぼ同じものではないか」と推測しています(ただし脱粒性の特性は一致していない)


推定であるこの論を拡大解釈して、断定されているものとして広まったと思われます。

ここで押さえておきたいポイント

「ほぼ同じものではないか」と推測しているのであり「『(滋賀)渡船2号』が『短稈渡船』である」とは言っていない。(この推測を元に研究が行われていることは確か)

・同年に滋賀県で『渡船』からの純系淘汰により育成されている品種は少なくとも『滋賀渡船2号』『滋賀渡船4号』『滋賀渡船6号』の3種あること(そして『渡船』純系淘汰『い號』系統には偏穂数型・脱粒性「難」の系統もある)

・『滋賀渡船4号』は現存しておらず、特性表もないので比較できていない





なお
〇『山田錦』の育成者である兵庫県
〇『短稈渡船』の育成者とされている滋賀県
〇酒蔵府中誉が「『短稈渡船』を保存している」としている農研機構
〇産地品種銘柄『茨城県産渡船』が設定され、『茨城県産短稈渡船』が販売されている茨城県
いずれの機関も「『滋賀渡船2号』が『短稈渡船』であるという事実は認めていない」と解答しています。

関係機関、そして何より育成者が認めていないもの売る側の都合で断定していいのでしょうか?



その他様々な説?が(根拠は…?)


【茨城県で栽培されていた?】
酒蔵府中誉を紹介する記事では
「農業を営む80歳ほどの男性から「父と祖父が短稈渡船という酒米を作っていた」という話を聞いた」
との記事があります。↓↓↓
しかし『山田錦』の父本である『短稈渡船』は、あくまで兵庫県の試験場内だけで扱われた”独自の呼称”ですので、これが一般に普及された記録はないはずでは?
茨城県で”短稈渡船”と言う名称の品種が栽培されていたこと自体は否定しませんが、仮に栽培されていたとしてもそれは「山田錦の親」『短稈渡船』とは違うものではないでしょうか?
(兵庫県では原種(奨励品種)指定は『渡船』でしたし、滋賀県では『滋賀渡船2号』『滋賀渡船4号』『滋賀渡船6号』『滋賀渡船白銀』…)

ちなみに府中誉は農研機構から種子譲渡を受けているので、その品種は『(滋賀)渡船2号』であることは明白です。


【倒れにくいものを『短稈渡船』と呼んでいる?】
「渡船」は1895年に滋賀県立農事試験場において「備前雄町」から選抜された系統で、倒伏しにくいものを「短稈渡船」とよんでいる。
細かい指摘になるのですが
これは創作の部類に入るでしょうか(何を根拠に言っているのか不明なので断言できませんが)
「『短稈渡船』は兵庫県の試験場における独自の呼称」ですね。
概ね意味は間違ってはいませんが…倒伏しにくいだけで「短稈渡船」と呼ぶようなことは無いです。


【もうなにがなにやら…】
「短稈渡船(たんかんわたりぶね)」は、山田錦の父にあたり、九州福岡県産雄町が海を渡り滋賀で栽培され稈(わら)が 短く倒伏しにくい品種となり九州より、海を渡った為、 渡船となり、短い稈の渡船、「短稈渡船」と名付けた。

全体的に文章がおかしい気もしますが・・・とりあえずそれは置いておいて
前半はとりあえず、『渡船』起源のメジャー説明ですが…うん
そもそも『滋賀渡船2号』は”滋賀県の『渡船』”を選抜したわけではありません(根拠は?)。
複数県から収集しているので「滋賀県で栽培され~短くなった」というのは誤りですね。
ところで「名付けた」って、この説の中では誰が名付けたことになっているのでしょうか?(滋賀県?兵庫県?)
うろ覚えの知識をツギハギしただけのファンタジー文章にしか思えません・・・



【『滋賀渡船6号』が『短稈渡船』?】
URLは貼りませんが、頑なにこういう主張をされて系譜図まで作って宣伝されている酒屋さんがいらっしゃいます。
過去にそういう表示で売っていた酒蔵があったことは確かですが、その元は…要は何も根拠がありませんでした。
私もこの関連記事の中で「可能性はある」なんては言ってますが、現物がない以上推定しか出来ないという理由によるものですから…(分けつ数が実際かなり違う)

「山田錦の父系統・父方」だったり、「山田錦の親である『短稈渡船』の系統」は正しい表現だと思いますが…(正しい日本語を使いましょう)



総括


・山田錦の親『短稈渡船』は失われ、すでに存在しない。

・近縁品種のいくつかは現存し、『滋賀渡船2号』の特性が一部を除いて似ているとされている(しかし現存しない近縁品種も数多く、かつ『短稈渡船』自体が現存しない以上断定は不可能ではないか?)

・公的機関で「滋賀渡船2号が短稈渡船で山田錦の親」であると認めているところは存在しない


・『新種B』という『短稈渡船』っぽい品種もあるんですよ!















2020年10月18日日曜日

お米クイズ(誰でも正解できるクイズ)仲間はずれはどの娘?

今回のお題は「誰でも正解できるクイズ」3題です。




問:
4品種の中に仲間はずれが(令和元年度現在)1人います。
さて、それはだれでしょう?


…と言う問題ですが
「誰でも正解できるクイズ」なのでどの娘を選んでも正解です。

「じゃあクイズになっていないじゃないか」と思われるかもしれませんがそれぞれの品種が何かしら他の3人とは違う点があります。
ちなみに当方の擬人化による容姿はクイズに一切関係ありません。
あくまでも稲品種としての特性等々で違いを問題にしております。

どの娘を選ぶかで、あなたのお米知識度がわかります!
(正解だと思うイラストをクリックしてください。答えのページへ飛びます。)


第一問 美白米一族たちのなかで仲間はずれは誰?




〇『美白米女王』=『ミルキークイーン』(公式)
〇『美白米皇女』=『ミルキープリンセス』(非公式)
〇『美白米夏』=『ミルキーサマー』(非公式)
〇『美白米秋』=『ミルキーオータム』(非公式)



第二問 次の酒米っ娘たちのなかで仲間はずれは誰?





第三問 次の米っ娘たちのなかで仲間はずれは誰?








さて、全問正解できましたか?(いずれにせよ全問正解になりますが)
いろんな品種にいろんな共通点があったり違うところがあったり…それを利用すればこんな問題も作成可能となります。


ちなみになるべく頑張って調べたつもりですが間違いがあったり、私の気づかない「仲間はずれ」があるかもしれません(保険)
その際はご容赦ください(保険)






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2020年10月10日土曜日

お米に関するクイズ(超難問)

お米問題30問(試験公開中)

初級問題はお米に興味のある人なら超余裕(のはず)の問題10問
一問一点、合計10点満点。
満点なら次の中級問題へ

中級問題はお米に興味のある人ならそれなりに点数とれるレベル
ネットで検索すれば満点取れるレベル。
10問ですが問題難易度(と独断と偏見)によって点数割り振りの違う100点満点。
満点なら満足しませう。

上級問題すっ飛ばして超上級問題…は
近年の「インターネットで調べれば、ググれば簡単にわかるっしょ」をほぼ許さない極悪内容。
10問ですが配点の違う200点満点。


間違いあったらご指摘ください。
※(念のため)Googleフォームを利用して問題を作成しておりますが、メールアドレスの収拾等は行っていません。
  



クリックしてね(別サイトに飛びます)



初級で満点取れたらクリックしてね




満点取らせないための意地悪問題多数




リンクの背景と問題の難易度に一切関係性はございません



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お米クイズ(誰でも正解できるクイズ)









2020年10月8日木曜日

【WCS・飼料米用】奥羽飼395号~べこごのみ~【特徴・育成経過・系譜図・各種情報】

地方系統名
 『奥羽395号』(『水稲農林425号』)
品種名
 『べこごのみ』
育成年
 『平成19年(2007年) 東北農業研究センター』
交配組合せ
 『ふくひびき×97UK-46』
主要生産地
 『東方中北部以南』
分類
 『飼料用(WCS・飼料米兼用)』

どーもなっし。べごごのみだべ。



どんな娘?

東北べこコンビの一人。
姐さん格のべこあおば同様、なぜか訛っている。
どこの方言かははっきりしない。

夢あおば、べこあおばは東北における先輩格で、彼女らより早い仕事が出来ることがウリ。
年齢は一番下だが常に先頭に立つ、東北勢(青森県除く)の引っ張り役。


概要

『べこごのみ』は「東北地方で牛を意味する”べこ”を名前に付けることにより、東北地域において牛が好んで食べ、飼料イネ栽培が振興されること」を願い命名されました
『べこあおば』もそうですが、「べこ=牛」と特に西日本の方はすぐにわかる・・・というかイメージできるでしょうか?

米不足の時代から過剰生産傾向となった昭和の時代からさらに平成へ、人口減少も始まっており、より一層の主食用米の減産=転作が必要とされていました。
しかし水田として耕作した場合の多様な効果、水田としての機能の保全を考えた場合、畑作ではなく同じ水稲の作付をすることが(労力の観点から見ても)望ましいことは事実です。
そして米が余っている反面、畜産業における飼料の国内自給率は25%程度(2008年当時)と低く、世界的な穀物需要の高まりによる価格高騰といった状況も踏まえ、国産自給飼料の増産は急務と考えられていました。

平成11年(1999年)以降、東北地域でも稲WCS(発酵粗飼料)用の作付が拡大しており、特に東北地域847ha(2005年時点)の作付の内、岩手県(113ha)及び秋田県(286ha)の2県で全体の約50%を占めていました。
2県はいずれも東北中北部に位置しています。
熟期の遅い飼料用品種しかないような状況だった東北で、中生の晩に属する『夢あおば』、続いて『べこあおば』が育成されましたが、それでも東北中部以南にしか適しておらず、WCS用稲栽培の盛んな東北中北部に適する、より早生の飼料用品種が求められていました。
その要求に応えることが可能になったのがこの『べこごのみ』です。
東北地域中北部以南をカバーする飼料米用・WCS用兼用品種で、『べこごのみ』よりも熟期の早い早生品種となっています。


育成地(秋田県大仙市)における熟期は「早生の早」で、主食用基幹品種と競合することなく黄熟期刈り取りが可能です。
稈長は79~87cm程度の「中稈」で、その稈は太く、剛柔は「やや剛」とされ、耐倒伏性は「強」です。
いもち病圃場抵抗性は葉いもちが「強」、穂いもちが「中」と判定されています。
真性抵抗性遺伝子は【Pib】【Pik】と推定。
耐冷性は「やや弱」であるものの、地上部を収穫するWCS用として考えれば、不稔の発生も問題にならないものと思われます。


飼料適性

地際刈取りした際の乾物収量は1.4t/10aと比較試験の際には『べこあおば』よりも多収で、なにより稈長が『べこあおば』よりも長いために、泥混入防止の為に地際から高めに刈り取りを行った際にも、収量減少率が少なくなる利点があります。

TDNは60%程度で、TDN収量は『アキヒカリ』より5%程度多収です。
黄熟期収穫した『べこごのみ』のVスコアは97以上と高品質になる実験結果も出ています。

育種経過

『べこごのみ』は東北農業研究センターにおいて『ふくひびき』を母本、『97UK-46』を父本として交配した後代から育成された品種になります。

母本の『ふくひびき』は中生の安定多収品種です。
父本となった『97UK-46』は多収系統となっています。

『ふくひびき』は東北地方で安定して収量性のある中生の食用品種です。
『97UK-46』は中国雲南省の多収系統の血を引く『奥羽342号』を父本、山形県の『雪化粧』を母本とした交配後代で、多収系統となっています。

平成9年(1997年)に東北農業試験場水田利用部において人工交配を行い(交配番号『奥交97-160』)、同年冬期にF1個体の養成を行いました。
平成10年(1998年)にF2世代800個体を集団養成し、その中から22個体を選抜しました。
平成11年(1999年)のF3世代からは系統育種法による選抜固定が行われます。
前年の22個体を22系統としてその中から5系統15個体を選抜します。
ただ、翌年すぐの平成12年(2000年)から平成13年(2001年)の間は系統の養成が行われず、育成継続の是非を検討するため種子保存されていました。

その後東北中北部における主食用品種よりも早期に黄熟期収穫の出来る早生の飼料用品種が求められ、平成14年(2002年)にこの系統が復活されます。
5系統群15系統とした中から熟期が早く、黄熟期乾物全重が高い系統の選抜が行われ、2系統10個体が残ります。

平成15年(2003年)には『羽系飼793』の系統名が付され生産力検定試験、特性検定試験が実施されます。
この年は2系統群10系統の中から1系統5個体を選抜します。
以降1系統群5系統として1系統5個体を毎年選抜し、固定を図っていきます。
平成16年(2004年)のF6世代で『奥羽飼395号』の地方系統名が付され、希望する関係県や関係研究機関に配布され、地方適応性や飼料適性の検討が行われます。

結果熟期が早く、東北中北部における主食用品種よりも早く黄熟期収穫が可能であること、牛の飼料として適していることが明らかになりました。
また特に秋田県からは稲発酵粗飼料として高い評価を得、東北地域中北部における稲発酵粗飼料の振興を図れるものとして、平成19年(2007年)に品種登録出願が行われました。




系譜図

奥羽飼395号『べこごのみ』 系譜図


参考文献

〇直播栽培における飼料用稲新品種「べこごのみ」の生育特性:秋田県農林水産技術センター農業試験場
〇東北地域向けの早生稲発酵粗飼料専用新品種「べこごのみ(奥羽飼395号)」 _ 農研機構
〇東北地域向けの早生の飼料イネ専用品種「べこごのみ」の育成:東北農研研報





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2020年10月6日火曜日

【WCS・飼料米用】奥羽飼387号~べこあおば~【特徴・育成経過・系譜図・各種情報】

地方系統名
 『奥羽飼387号』(『水稲農林408号』)
品種名
 『べこあおば
育成年
 『平成17年(2004年) 東北農業研究センター』
交配組合せ
 『オオチカラ×ミズホチカラ』
主要生産地
 『東北中部以南』
分類
 『飼料用(WCS・飼料米兼用)


「べこあおばだべさ!」



どんな娘?

飼料用品種達の東北べこコンビの一人。

どこの方言かははっきりしないがかなり訛った話し方をする。(怒ったときのどまんなかとは話が通じやすい)
大食らいが多い飼料用品種達の中でも特に大食いで名を馳せた。
夢あおば以上のアレを誇りウェイトバランスを取るのが難しそうなものだが、足腰の強さもさらに夢あおば以上、ふらついたり転んだりはほとんどない。

牛と話すことができるとかできないとか…真相は闇の中。


 概要

東北地域に適した飼料稲専用品種『べこあおば』の擬人化です

名前は、【東北地域の「牛」を表す方言である「べこ」を名前に付けることにより,「べこ」が好んで食べ,東北地域に広く普及すること】を願って命名されました。
「べこ」を知らない西日本の方にはわかりにくいかもわからない(東北育ちの管理人としては非常にわかりやすい)ですね。
管理人の周りではむしろ「べご」の方が近いかも(どうでもいい

『べこあおば』育成までは東北地方の飼料用品種は晩生のもの(『クサユタカ』『クサホナミ』『ホシアオバ』等)が多く、これらは東北地域での栽培に適さないものでした。
その点『べこあおば』は熟期が「中生の晩」と比較的早く、さらに直播栽培にも適しており、東北地域の低コスト飼料用稲栽培に貢献するものとして期待されました(しかし使用実態が見えなくて悲しい)。
また極多肥条件での栽培に耐えられる特性は単なる多収品種としての利点だけでなく、家畜排泄物処理問題に於いても、水田に堆肥を利用することによる循環型農業(飼料稲を栽培し、その排泄物はまた水田に還元)の一端としての役割も担えるものとされました。

名前に「牛」が入っているだけあって耕畜連携が見据えられた品種のようです。

出水期は育成地(寒冷地北部)において「中生の晩」に属します。
東北中部以南に適しているとされ、東北地域北部まで行くと熟期が遅れ、主食用米(『あきたこまち』等)の収穫と競合してしまいます。(より熟期が早いのが『べこごのみ』)
稈長は70cm程度と短稈で、その稈は太く、稈質も「剛」の判定で、耐倒伏性は「強」と倒れにくい品種で、直播栽培においても『ふくひびき』などよりも優れた耐倒伏性を発揮します。
その為、家畜ふん堆肥を多量施用した極多肥栽培下(窒素施肥量18kg/10a)でも倒伏しない強さを誇ります。
いもち病への真性抵抗性遺伝子は【Pita-2】と推定され、この抵抗性を侵すレースが殆どないために、現状では圃場での自然発病は認められません。
ただし、圃場抵抗性は葉いもちが「やや弱」、穂いもちが「弱」とされ、親和性レースの発生により激発する可能性が高くなっています。よって状況に応じて適切な防除が必要です。
試験における収量(粗玄米重)は約700~900kg/10aと多収で、極多肥栽培下で970kg/10aや1,000kg/10a超の記録も持ちます。
植物体全体を収穫する際、平均で1.70t/10a(黄熟期・乾物重)の収量が見込まれ、平成13年(2001年)の試験では約2.0t/10aの高収量を示しています。


 飼料適性

『べこあおば』は米粒が非常に大きいために一般用品種との識別性を持つとされています。

黄熟期収量(乾物重)は1.37t/10aで『夢あおば』よりもやや多く、直播栽培における黄熟期収量は1.28t/10aと落ちますが『夢あおば』と同程度です。

刈り取りの際に泥が入ると牛の嗜好性が落ちることから、飼料用稲では刈取りの際に地際から15cmほど高い位置で行われますが、その際に残ってしまう茎や葉は収穫損失となってしまいます。
『べこあおば』は短稈(全長が短い)ため、収穫損失率が高くならないか心配されましたが、現地試験において長稈の『夢あおば』などと大きな差はなく、実用上の問題はないものとされています。

飼料栄養価は近赤外線工分析法による推定ではCP(粗タンパク質)が5~6%で、Oa(高消化性繊維)が3~4%等となっており、TDN(可消化養分総量)は約62%となっています。
そこから算出されるTDN収量は『夢あおば』よりも1割程度多収です。



育種経過


『べこあおば』は東北地域に適した飼料稲専用品種の育成を目標に『オオチカラ』を父本、『西海203号(ミズホチカラ)』を母本として交配した後代から育成された品種です。

◇母本の『オオチカラ』は北陸農業試験場(当時)で育成された大粒の多収品種です。
◇父本の『西海203号』は九州農業試験場で育成された多収”系統”です。後に『ミズホチカラ』と命名される系統ですが、この時点ではまだ正式には品種化されていませんでした。

平成8年(1996年)に人工交配が行われ(交配番号『奥羽交96-746』)、冬期間に宮崎県総合農業試験場(当時)においてF1個体が養成されます。
翌平成9年(1997年)に東北農業試験場(当時)水田利用部でF2世代210個体を養成し、その中から24個体を選抜します。
平成10年(1998年)以降は系統育種法により選抜、固定を図っていきます。

F3世代にあたる平成10年(1998年)、前年の24個体を24系統として育成し、9系統が選抜されます。
平成11年(1999年)に9系統群45系統が養成され、1系統が選抜されます(系統番号『羽系668』-2745)。
平成12年(2000年)は平均的な熟期の系統に『羽系668-5』の系統番号を付し、1系統群5系統を養成し、2系統を選抜。
同年以降1系統群5系統養成、1系統選抜が繰り返されます。
この他に、生産力検定試験、特性検定試験を実施しています。

平成15年(2003年)、F8世代から『奥羽飼387号』の地方系統名を付され、希望する各県や関係試験研究機関への配布が行われました。
その中で栽培、給与試験等が行われ、地方適応性や飼料用稲品種としての適性が検討されます。
その結果、熟期、収量性、耐倒伏性、飼料特性の面で東北地域に適した飼料用稲品種としての適性を持つことが認められました。

東北地域の飼料用稲栽培の新興を図れるものと判断され、平成20年(2008年)に命名登録に出願し、水稲農林480号『べこあおば』として命名登録されました。
同年、種苗法に基づく品種登録の出願も行われています。

育種最終年度の平成16年(2004)年時点でF9世代でした。


 系譜図
奥羽飼387号『べこあおば』系譜図


参考文献

○直播栽培に適する稲発酵粗飼料専用品種「べこあおば」の育成:東北農研研報(2016)
○牧草サイレージにおける揮発性塩基態窒素含量とpHおよび水分含量との関係:篠田 英史




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飼料用稲(米)とは?



















2020年10月3日土曜日

【粳米】福島40号~福笑い(福、笑い)~【特徴・育成経過・系譜図・各種情報】

地方系統名
 『福島40号』
品種名
 『福笑い』(公称は『福、笑い』)
育成年
 『平成26年(西暦2014年)? 福島県農業総合センター』
交配組合せ
 『新潟88号×郡系627』
主要生産地
 『福島県』
分類
 『粳米』
米、擬人化、福、笑い、福笑い
福笑い「にこっ♪と笑っていきましょ♪」



「ふくしまプライド。」
ふくしま米をさらなる高みへ

日本一の米をつくりたい。


どんな娘?

天のつぶの背中を見て育った娘。
どんなときでも笑みを絶やすまいと誓った。
そしてどんなときでも現実から目を逸らすまいと誓った。

ドストレート毒舌気味率直な物言いになってしまいがちな天のつぶとは対照的に、物腰は柔らかく他人に甘い優しい。

福島の諸先輩達の頑張り、優秀さを知っているが故に、現状比較的低価格に甘んじている現状には内心非常に悔しい思いをしている。
見た目と人当たりの良さとは別に、なんとかしなくてはと思う決意は非常に強い。


概要

平成23年(2011年)東日本大震災による被災、そして原発事故による風評被害により、それ以降価格下落に悩んでいる福島県の農産物。
しかしながら米に関しては、震災以前は高品質の『コシヒカリ』産地として高い評価を受けてきており、穀検の食味ランキングでは獲得銘柄数で幾度か最多を数えるなど、高品質・高食味の米産地としての実力は間違いなくあります。

そんな福島県の清らかな水、恵まれた気候風土のもと、生産者が磨き上げた技術と米づくりへのこだわり、開発者の情熱が結集したプレミアムなお米が「福、笑い」です。
初の県オリジナル水稲品種『ふくみらい』は失敗、その雪辱を誓った第二弾オリジナルブランド品種『天のつぶ』も東日本大震災同年のデビューとなり、風評被害も相まってこれもまた低~中価格帯に甘んじています。
3度目の正直、福島県産米の挑戦が行われています。


「つくる人、食べる人、みんなが笑顔になり、幸せになりますように」そんな願いを込めて「福、笑い」と命名されました(「、」付きは品種名でも銘柄名でもないので愛称に近い扱いになる模様)。
「福、笑い」を選んでいただいた皆さまのもとに、とびっきりの笑顔と幸福が訪れますように。(福島県公式)

大粒の『福笑い』は「強い甘み」と「独特の香り」を売りにしており、柔らかめの食感です。
県産米全体のイメージと価格をけん引する役目を担うことが期待されています。

平成30年(2018年)「減反政策廃止」の数年前、東北・北陸を中心とした米どころ各県がこれを契機として高級路線のブランド米や、各県独自の品種を発表、売り出していく中、音沙汰がないように見えたのが秋田県と、ここ福島県でした。
そんな各県の動きには遅れながら(同じ後発組の秋田県よりは1年先んじて)、平成30年(2018年)9月の時点で『福島40号』『福島44号』の2候補があり、消費者、流通業者、飲食業者らを対象にした調査を踏まえ、1品種に絞り込むと発表されていました

そして令和元年(2019年)に福島県の新ブランド品種『福島40号』が発表されます。
同年5月には県の奨励品種に指定、9月からは名称公募を行い、令和2年(2020年)2月10日に名称を「福、笑い」と決定・発表し、令和2年8月にパッケージデザイン(デザイナー:寄藤文平氏)が発表となりました。


「田園や米づくりにまつわる世界」をかたちにし、あたたかみや手づくり感のある「新しいプレミアム感」を表現しているそうです。

令和2年度(2020年度)は期間と店舗を限定しての先行販売のみ。
11月9日に福島市でPRイベントを開催、11月10日より東京、神奈川、福島の3都県の百貨店や米穀店、インターネットの合計25店で先行販売を開始。
先行とはいえ販売初年度となったこの年の生産量は、福島県内の農家13人(約6.6ha)により約37t。
この年の買い取り価格は60kgあたり18,000円前後と、同県産『コシヒカリ』より6,000円ほど高かったそうです。

令和3年度(2021年度)より本格デビューを予定しています。
生産予定は、作付面積25haで約130t。
今後も県やJAでつくる協議会が生産量を調節して、高価格の維持とブランドの確立を目指すと思われます。

他県ブランド米と同様に生産者登録制により、誰にでも作れる品種にはなっていません。
要件でも特筆すべきは「第三者認証GAP(農業生産工程管理)の取得」で、さらにその第三者認定GAPを取得した農家3戸以上で構成する「研究会」単位でしか生産に取り組むことができません。(R2年度は4研究会が認定)
減農薬や有機肥料使用などは謳われていませんが、こういった条件を課しているのは令和2年時点で国内唯一ではないでしょうか。(山形県の『雪若丸』の栽培要件にも一部GAPは課されていますが非認証のGAPです。)

出荷基準としては篩目1.9mm以上、粗タンパク質含量6.4%以下(水分15%換算)となっており、基準以下の玄米も含め、全量出荷が義務づけられています。



名称公募(そしていろいろと複雑なその”名称”)

数多くの高級志向のブランド米たちと同様に公募を行いました。
単なる応募・採用ではなく「皆さまからいただいたネーミング案をブラッシュアップして決定します」と、最初からある程度の改変を公称していました。

令和元年(2019年)9月2日から10月6日の期間でネーミング案を募集(専用フォームおよび応募用紙にて)。

『福島”40”号』にあやかってか、最優秀賞(1名)には賞金40万円と、副賞として福島県産品2万円相当を贈呈。
優秀賞(当初予定5名→最終9名)に福島県産品2万円相当、ということで応募はスタートしました。
「福島県産品2万円相当」の中身としては

・福島牛1kg
・福島県産『天のつぶ』40kg
・全国新酒鑑評会金賞受賞酒1本
・6次化商品「ふくしま満天堂」(福島県産品の生産・加工・販売プロジェクト商品)

とかなり豪勢な顔ぶれ。
『秋系821(仮称)』は賞金100万円という高額で世間の目を引きましたが、福島県もかなり副賞には力を入れていたことがわかるのではないでしょうか?(しかし結果…)

令和元年12月13日に応募数が発表され、その総数は6,234点。
過去のブランド品種たちの応募総数~【関連記事】新品種台頭 名称公募得票数のマジック~と比べ、副賞を勘案して公平に見ても、正直言って少しばかり寂しい応募数…なんてことはどうでもいいんだ売れてくれ!
アドバイザーチーム(以下のメンバー)による第一回名称ブラッシュアップ会議が11月25日に、12月23日にも第二回会議が開かれ、応募された名称のブラッシュアップ(選定作業)が行われます。

・総合アドバイザー 箭内 道彦 氏 福島県クリエイティブディレクター
・米の専門家 澁谷 梨絵 氏 株式会社シブヤ 代表取締役
・米の専門家 小久保一郎 氏 有限会社こくぼ 取締役
・料理人 野﨑 洋光 氏 分とく山 総料理長
・流通関係者 正田 峰仁 氏 株式会社髙島屋MD本部 食料品・リビングディビジョン バイヤー
・流通関係者 横田 純子 氏 特定非営利法人素材広場 理事長


最終的に決定された名称は「福、笑い」(応募された原案は「福笑い」)。
令和2年(2020年)2月10日の知事定例記者会見で発表されました。
原案応募者は10名で、抽選の上で最優秀賞1名(静岡県の20代男性)と優秀賞9名を決定しました。
わざわざ「、」がついていることについて、内堀福島県知事の記者会見での回答をそのまま以下に載せます。

「福、笑い」には「、」が付いております。ご存知のとおり、「福笑い」という一般的な言葉がありますが、このお米の新しい名称には、福島の「福」、笑顔の「笑い」、その両方が凝縮されているということを、より分かりやすく表現出来るよう、「、」を付けております。

ということで…このブログではお馴染み。
「決定された”名称”」と記載しておりますが、つまりこれは「品種名」ではない、ということです。
公式にも商品の表示上も「福、笑い」で統一されるでしょうから、一般消費者の方には一切関係ない話ですが品種名は『福笑い』(句読点なし)です。

というのも、品種登録の際の”品種名”には句読点を使用することができないので、おそらくこういう対応になったのではないかと思われます。『スーパーバイオレットアクエリアスピンクレディ平成白雪』もだめ
ちなみに商標登録も『福笑い』(句読点なし)です…が、類似判定で包括的に「福、笑い」もカバーできるから良し、としたのか、品種登録前の権利確保のために登録品種名と同じくしたのか…(後者は必須行為)福島県に聞いてみないとわかりませんね。
兎にも角にも

・販売名・公称「福、笑い」
・産地品種銘柄名『福笑い』(令和2年度までは『福島40号』でした)
・品種名『福笑い』

と、なかなか正確な名称を考えると頭の痛い品種です(でもこういうのがスタンダードになっていくのかな…)



育種経過



平成18年(2006年)より品種開発が開始されます。

『新潟88号』を母本、『群系627』を父本として人工交配、その後代から育成されました。

奨励品種指定の令和元年(2019年)まで実に14年の期間を要しています。(育種期間は?)


系譜図


福、笑い 系譜図
福島40号『福笑い(福、笑い)』 系譜図




参考文献

○福、笑い公式HP:https://fukuwarai-fukushima.jp/
○知事記者会見 令和2年2月10日(月):https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/chiji/kaiken202002010.html
○「福、笑い」生産に係る登録制実施要綱:https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/399690.pdf




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