2021年10月7日木曜日

酒米「八反錦」の特徴?そんな品種はありません(『八反錦1号』と『八反錦2号』の違い)


さて、当ブログで度々取り上げていますが
酒蔵の勝手な都合で無根拠にいろんな品種を『短稈渡船』と呼んだり短稈渡船とは?~0~【結論だけまとめ】
蔵側に都合の良い解釈で『新山田穂1号』を”山田錦の母”扱いしたり『山田錦』の親に間違われている品種?
もはや有象無象なんだかわからない品種が「亀の尾」として出回っていたり『亀の尾』とその純系淘汰品種たち

これらからも分かるように、酒造業界における酒米の品種の扱いが(あくまでほんの一部ですが)無法状態なのは改めて述べるまでもないことですが、広島県生まれの酒造好適米品種『八反錦1号』、『八反錦2号』も前例に漏れず、といった感じです。
日本酒のラベルには大半が「使用品種”八反錦”」としか書かれておらず、日本酒を解説するようなサイトでも「広島県酒米の代表品種”八反錦”」と紹介されていることが圧倒的多数です・・・
日本酒の銘柄名に何を表示しようが勝手ですが、「使用品種名」に「八反錦」は違うでしょ?(意固地)
あなたたちは『八反錦1号』のこと言ってるんですか?『八反錦2号』のこと言ってるんですか?という話です。(ほぼ私怨)

妹の方が(背も)胸も小さいので、同じに見えるようにお姉ちゃんは着痩せ効果のある黒色の水着を着ているんです(半分冗談)


『八反錦1号』と『八反錦2号』の違いを見比べてみましょう。

前座 姉妹品種だから同じようなもの、なんてことはない

両親が同じ交配組み合わせ、というだけでなく、本当に同じ交配の後代から育成されたもので最も有名なのはやはり『越路早生』五姉妹でしょうか。
・・・と、長女基準で言うとなんのことやら分からない人が圧倒的多数だと思いますが、『農林22号』と『農林1号』の交配後代から育成された『コシヒカリ』を含む5品種のことです。

『コシヒカリ』の姉妹品種である『越路早生』『ハツニシキ』『ホウネンワセ』『ヤマセニシキ』
これらを全て「コシヒカリだ」と言って売るなんてことは誰もしてません。
違う品種だから当然ですよね?
新潟県における熟期だけ見ても、『コシヒカリ』だけが中生品種で他の4姉妹は全て早生品種。
食味についても『コシヒカリ』の次点で「比較的良い」と評価されるのは『越路早生』ぐらいで、他3姉妹の食味評価はそれほど高くありません(食味の評価は人それぞれなれど一応一般的評価として)。

当然、それぞれ別々の品種なのですから稲の形態をより細かく見れば他にもいくらでも違いはあります・・・が
むしろ実態は逆で「違いがあるから別の品種と認定される」といえるでしょう。
違うものを同じものとしてひとくくりにするなんておかしな話です。よね?

でもそれを平然とやっているのが悲しいかな酒造業界(の一部)・・・
いえ、『コシヒカリ新潟IL』のようにちゃんと「客観的に同じに扱うに足る根拠」があればいいですよ?
「だって同じ”渡船”って名前に付いてるんだし・・・」とか、小学校の国語の授業の問答じゃないんですから、”稲”として生物的に、”米”として物理(科学)的に、同じである根拠を説明できなければ意味がありません。

2人の違い

改めて
『八反錦1号』と『八反錦2号』はそれぞれ「違う品種」です。
その特性は以下の通りです。(対象として改良元の『八反35号』も併記・・・これも「八反」ではないですよ?)

※基本的に育成論文のものを使用していますが、わかりやすいように一部別試験の数字も使って育成時の評価通りになるようにしています。
同条件で栽培した場合においても、必ずしも特性通りの差が出るとも限らないのがこれまた難しいところ・・・と言いだしたら切りが無いので、「わかりやすさ」優先です。

※いや品種登録時の特性で比べろよというのはごもっともなんですが、具体的な数値を乗せた方がわかりやすいじゃないかなぁ・・・と。「わかりやすさ」優先です。

項目/品種名八反錦1号八反錦2号八反35号
稈/細太
稈/剛柔やや柔
芒/多少やや少
芒/短-
稃先色黄白黄白黄白
粒着密度やや疎やや疎
1穂籾数807294
脱粒性
出穂期8月10日8月10日8月10日
成熟期9月24日9月17日9月23日
稈長82cm72cm92cm
穂長19.4cm18.8cm19.1cm
穂数/㎡400本360本310本
玄米千粒重25.4g26.1g24.0g
収量/10a587kg579kg517kg
倒伏度合い0.502.3

稈が軟らかかった『八反35号』から『八反錦1号』『八反錦2号』ともに稈の硬さが向上していますが、より稈長の短い『八反錦2号』が『八反錦1号』よりも倒れにくい品種となりました。
芒のなかった『八反35号』から『八反錦1号』『八反錦2号』ともに短い芒がつくようになりましたが、育成時には『八反錦1号』の方が芒の発生がやや多かったようです。(とは言えほとんど同じ?)
粒着密度が『八反35号』よりも疎になったものの、収量性は大幅に改善しましたが、穂数のやや多い『八反錦1号』が『八反錦2号』よりもやや多収となっています。
そんな3品種、出穂期はほぼ同じですが、熟期が最も早いのは『八反錦2号』、一週間ほど遅れて『八反35号』、さらに1~2日遅れて『八反錦1号』となっています。
『八反錦1号』と『八反錦2号』では熟期に10日近い差があると言うことですね。

・・・と、特に違いがある特性を抜粋してみると以下の通りになります。


項目/品種名比較結果
成熟期2号の方が約1週間早い
稈長2号の方が約10cm短い
穂数/㎡1号の方が約40本多い
収量1号の方がやや多い
倒伏度合い2号の方が倒れにくい

同じ交配後代から選抜されたとは言え、植物体の稲としてこれだけ違いがあるのです。

・・・とは言え、では実際問題「清酒になったときの質に差があるのか?」というのも気になるところではないでしょうか。(でもじゃあ原料米の品種なんてなんでも良いの?とも思うのですが)
育成時の醸造試験結果はどのようになっているのでしょうか?


では一番大事?な日本酒の質は?

『八反錦1号』と『八反錦2号』の育種論文に掲載されていた国税庁所定分析法による製成酒の成分表より作成しました。
両品種共に同じ賀茂鶴酒造研究所による醸造のようですが、『八反錦1号』は昭和57年産米使用の大吟醸酒(精米歩合40%)『八反35号』と『八反錦2号』は昭和56年産米使用の中吟醸酒(精米歩合60%)と試験年も精米歩合も違うものの結果を合わせています。
そもそも同じ醸造条件なのかも不明ですが・・・(でも普通同じ条件にするのではないでしょうか・・・?)

ただ
後年行われた『八反錦1号』の精米歩合60%の醸造試験でも製成酒の各成分が似たようなものだったので・・・比較して良いんじゃない?(素人判断)

項目/品種名八反錦1号八反錦2号八反35号
日本酒度+4.5-8.0-2.0
アルコール%18.219.519.6
エキス分%5.17.696.62
酸度ml1.681.741.72
緩衝酸度1.131.471.11
アミノ酸度ml0.961.931.78
直糖%1.3283.4392.846


日本酒マニア的な人にはこれでどういうお酒か一目で分かるんでしょうか?(私には正直何が何やら)
・・・と言うわけにもいかないのでさらっと解説すると
(詳しいことはSAKE Streetさんの記事を読みませう。本筋ではないので細かくは解説しません。)

「日本酒度」は『八反錦1号』がプラスで、『八反錦2号』が大きくマイナス、『八反35号』がその中間といった感じですね。
これはプラスになるほど辛口、マイナスになるほど甘口と一般的には解釈されるそうです(必ずしも一概にそのような味に感じるとは限らないそうですがまずは一般論をば)。

「エキス分」は糖分や旨味といった成分量を表し、これが高いほど甘味が強いそうなので、『八反錦2号』が一番甘く、二番目は『八反35号』、三番目が『八反錦1号』ですね。

「酸度」については、この数値が高いほど辛く、少ないと甘く感じるそうで、1.6以上の値は「酸味を感じられるジューシーな部類」(表現完全パクリ)に入るそうです。
この値は3品種ほぼ変わりありませんね。

「アミノ酸度」は『八反錦1号』が最も少なく、『八反錦2号』が『八反35号』よりもさらに多い、といった感じでしょうか。
これも日本酒の味に関わり、一般的にはこの値が高いと濃厚芳醇、低いと淡麗すっきりな味と解釈されるそうです。(とは言えアミノ酸の種類によっては(略))


「緩衝酸度」?「直糖」?知りません(投げやり)

あくまでも一般論で、かつ3品種の比較で総評すると


『八反錦1号』は淡麗すっきり・辛口で酸味を感じるあまり甘くないお酒
『八反錦2号』は濃厚芳醇・かなり甘口で酸味を感じる甘いお酒
『八反35号』は濃厚芳醇・中庸で酸味を感じる甘いお酒


これはあくまでも育成時の醸造試験の成分表を一般論で読み替えた場合なので、実際の人間が感じる感覚とは違う可能性が大きいですし
そもそも各酒蔵の醸造方法によって完成形の日本酒の味は変化するでしょうから、これが直接市販品の味に繋がるものではありません。
ですが、『八反錦1号』と『八反錦2号』、そしてその親の『八反35号』と比較しても「同じような米」ではないことが分かるのではないでしょうか。

これを「八反錦」や「八反」などと雑にひとくくりにしていいものとは、私は思えません。
・・・まぁこの程度では「違う」と証明するにも反復数が圧倒的に足りていないとは正直思いますが、では逆に「同じもの」と客観的に証明できるような検証データ(客観的な)あるんでしょうか?


「そんな細かいこと言う必要ないだろう」と言う人もたまにいますが・・・

何度も何度も、繰り言になりますが
『短稈渡船』や『新山田穂1号』の時点で、「名前が同じ感じなんだから同じで良いじゃん」という、”感想文”を送ってくる方がたまーにいます・・・

私生活で存分に妄想されている分には一向にかまいません。
でもそんな無根拠俺様ルールで好き放題に解釈したものを、他人が金を支払って購入する商品に掲載しないでください、というのは当然の話ではないのでしょうか


『コシヒカリ新潟IL』は「コシヒカリ」の名称で売られていますが、これは新潟県が『コシヒカリ』といもち病耐性以外がほぼ同じ近縁品種になるよう意図して育成(戻し交配)され、食味試験などの客観的証明も行い、承認されているものです。

それに対して酒造業界における品種名変更は一体何を根拠に行われているのでしょうか?
『短稈渡船』に関しては、その根拠を答えられない蔵が大半で、答えたにしても根拠も示さずに「短稈渡船と言われているから」とか言ってくる蔵もありましたが、真に恐ろしいのは「根拠もないものが平然と表記され、しかもそれを指摘するような人も全くいなかった」というこの事実です。
蔵側がその気になれば半分詐欺みたいな商品がいくらでものさばる現状だと言うことです。


「幻の米復活」「昔重用された酒米を復刻」そんな歴史があったことが事実にしろ、それを謳って売られている商品の材料が何を使っているか分からない、謳い文句と同じ米かも分からない、チェックする機関も取り締まる法も無いというのが恐ろしく思えるのは私だけでしょうか?
その辺の田んぼから抜き取ったイネを「これが幻の酒米です」とか言って売られても、消費者側は何の疑問も持たずに受け入れて売られていくわけですよね。
・・・とは言いつつ、あまりにも細部まで規制で縛るのは余計な事務や負担を増やすことになりそうなので、結局目に余るものは指摘して自浄に期待するしかないんでしょう・・・(でもいまだに”山田錦の父親”やっている蔵があるのを見るとうーんと思ったり・・・)

ひとまず『八反錦1号』を「八反錦」と表記したところで実害なんてないですし
他多くの復刻系品種についても実際消費者に不利益に働くことはない(・・・多分。『短稈渡船』関係を除く)のでしょうが、そういうことが平気で出来てしまう土壌には問題があるんじゃないの?というお話でした(・・・そうだっけ?)


・・・・・・・・・
似た名前だから同じ品種ってわけじゃないぞってお話でした。






※いやでも消費者から「その米の品種違うのでは?信じて買ったのに」的なこと言われたら酒蔵はなんて答えるんでしょう?



参考文献

〇酒造好適米新品種「八反錦1号」の育成について:広島県立農業試験場
〇酒造好適米新品種「八反錦2号」の育成について:広島県立農業試験場
〇八反系品種の改良とその特性の変遷について:広島県立農業試験場
〇酒造好適米有望系統「広系酒42号」と「広系酒43号」の特性:広島県立総合技術研究所農業技術センター
〇酒造好適米「八反錦1号」の代替系統「広系酒42号」の醸造特性:広島県立総合技術研究所食品工業技術センター


2021年10月2日土曜日

【酒米】広酒3号~八反錦2号~【特徴・育成経過・系譜図・各種情報】

地方系統名
 『広酒3号』
品種名
 『八反錦2号』
育成年
 『昭和59年(西暦1984年)』
交配組合せ
 『八反35号×アキツホ』
主要生産地
 『新潟県』
分類
 『酒米』






どんな娘?

日本三大酒どころの一角(なのかな?)、広島県で代々酒造好適米っ娘のまとめ役を務める“八反“の正当後継者『八反錦1号』の妹。
姉とうり二つで仕事ぶりも優秀なのは同じであるが、身長が少しだけ低い(実は胸も姉より少し小さかったり?)
一歩先を見据えて行動することが出来るのが強み。

姉の弱点を補う手早い仕事ぶりで補佐役をよく務めていたが、今では活動場所が新潟県に移ってしまった(でも実はこっそり広島県下にいるかも?)。
それでも姉妹品種らしく、八反錦1号とは以心伝心で意思の疎通に支障はない。


概要

広島県八反シリーズ、『八反錦2号』の擬人化です。

この品種名は“良質「広島八反」の流れをくみ、あでやかにグレードアップした珠玉の酒米というイメージ”を表し”県北の秋を豊穣の錦で飾りたい”という願いを込めた「八反錦」シリーズの2番目を表すものとして命名されました

直糖が多く、吟醸香と吟味を有し、味のバランスがとれた優良な本醸酒が出来ると育成時に評されました。

さて、酒米「広島八反」で古くから有名?な広島県。
稲の品種を判別できていない酒造業界では毎度恒例ではありますが、「広島八反」は在来の『八反草系品種群』、『八反10号』、『八反35号』等、様々な品種を一緒くたにした呼称であるようです。

その中でも昭和後期に奨励品種として広島県酒米の主力となっていた『八反35号』は、酒米として優秀であると評価されてはいたものの、栽培面では耐倒伏性が弱く、穂発芽も脱粒もしやすい為に収量面でも難があり、実需者側からはやや小粒で、吸水性も悪いとの声がありました。
良質、安定、多収である酒造好適米品種が望まれる中、『八反錦1号』が育成されましたが、その同じ交配系統の中から『八反錦1号』とほぼ同等の栽培特性・醸造特性を持ちつつ、成熟期が1週間早い特性を評価され、適地違いの品種として採用された姉妹品種がこの『八反錦2号』です。
熟期が『八反35号』に比べて2~3日遅くなった『八反錦1号』では適さない、標高400m前後の広島県東北部中山間部に普及することが想定されていました。

ただし、銘柄設定上、令和3年限時点で『八反錦1号』は広島県のみ、妹の『八反錦2号』は新潟県のみの栽培です。
『八反35号』の作付け適地を姉の『八反錦1号』と分担して担当するはずだった『八反錦2号』ですが、結果的に広島県内での検査数量は平成18年を最後に公式には無くなってしまったようです。
平地向けの『はえぬき』との二本立てとされながらも、結局自分の主産地の中山間地の作付けも(ほとんど)失った山形県の『どまんなか』と同じ運命を感じます。(個人談)
・・・まぁ実際のところ気温の上昇(温暖化)で中山間地でも『八反錦1号』が栽培できるようになったのか、醸造適性の面で少し劣るような評価が見受けられる『八反錦2号』を見限ったか、広島県から消えた理由は今現在見つけられていませんが・・・

・・・本当に消えたんですよね?これ
と言うのも、『八反錦2号』の最終検査年である平成18年にも約190tもの検査数量があるので、栽培面積を推測すると38haくらいにはなると思われ、栽培者が少なくなって消えた感じには見えないんですよ。
そして次年平成19年において、残った『八反錦1号』の検査数量が約140t急増しているんです。
これ、産地品種銘柄の設定上『八反錦2号』が消えただけで、『八反錦1号』と『八反錦2号』の2品種をまとめて「八反錦1号」の名前で検査するようになっただけじゃ?・・・と疑ってしまいますね。
『改良雄町』を“雄町”の名前で売ってる広島県なので余計怪しいところです。
酒蔵とかそもそも“八反錦”としか表記しますから、違いも何も分かっていないでしょうし・・・
酒造業界の闇は深い。
まぁきっと2号が減った分1号が増えたんでしょう(棒)
ちなみに平成5年(1993年)から検査数量が確認できている新潟県では、少なくとも令和現在でも頚城酒造がちゃんと『八反錦2号』を使用しているようです。

熟期の早さと耐倒伏性を買われてか、北海道初の本格的酒造好適米である『吟風』(単なる酒造好適米初は『初雫』)の3系交配父本になっています。

姉の『八反錦1号』は心白が大きく、腹白も多いため搗精時に胴割れが発生しやすく、高度精白が難しいとされ、大吟醸造りが難しいという評価があることからも、妹の『八反錦2号』も同様の問題を抱えているものと推測されます。

稈長は約72~76cmで『八反35号』より約15cm、『八反錦1号』より約10cm短く、穂長は両品種とほぼ同等です。
草型は『八反錦1号』と同じ中間型とされていますが、穂数は『八反35号』より多く、『八反錦1号』より少ないとされています。(1穂籾数は『八反錦1号』とほぼ同等)
玄米千粒重は『八反錦1号』と同等の約26gですが、育成時の試験では『八反錦1号』より0.5g程度重いようでした。
反収も510kg~570kg/10a程度は出るようですが、穂数が影響してか『八反錦1号』との比較ではやや劣るようです。
心白発現率は90%以上とされ、大きく鮮明な心白であり、腹白や胴割れの発生は極小との当初評価です。
アミロース含有量は20%強程度で、『八反錦1号』とほぼ同等です。
出穂期・成熟期は『八反35号』より4~5日早く、『八反錦1号』より1週間早い早生品種です。
いもち病耐性については葉いもち・穂いもち共に「やや弱」で、唯一親の『八反35号』よりも弱くなりました。
真性抵抗性遺伝子は保有していないものと推測されています。
脱粒性は「難」、穂発芽性は「やや難」と『八反35号』に比べて大幅に栽培しやすい品種になっています。
耐倒伏性は姉よりさらに強く「強」と評価されています。


育種経過


昭和48年(1973年)に広島県立農業試験場で『八反35号』を母本、『アキツホ』を父本として交配が行われました。(交配番号『73-2』)

◇『八反35号』
広島県において早熟でいもち病耐性に優れ(といっても「中」程度か)、米は醸造適性が優れるとされていた品種です。
反面、稈が約95cm程度と長く、やや柔らかいこともあって耐倒伏性が「弱」と劣り、穂発芽性・脱粒性がいずれも「易」で、収量性も反収450kg弱程度と高くありません。
千粒重も約25gと、酒造好適米とされる品種の中では小粒の部類に入ります。

◇『アキツホ』
農林水産省東海近畿農業試験場育成で、昭和47年5月に『水稲農林234号』に登録された、交配当時としては生まれたばかりの品種です。
収量が500~560kg/10a、玄米千粒中が約23gと中大粒・多収の品種です。
耐倒伏性「強」で中短稈中間型と倒れにくく、穂発芽性・脱粒性ともに「難」となっています。
ついでに葉いもち病耐性「やや強」、穂いもち病耐性「中」とそこそこ強い部類です。
当初の育種目標は『日本晴』並の良食味品種、という程度の立ち位置だったようですが、平成・令和現代では清酒製造の掛米用品種として用いられているようです。
奈良県では原料米を(多分)この『アキツホ』100%で作っている酒蔵もありますね。(“多分”というのは毎度酒蔵の品種名表示が信じられないからでして・・・)


この交配は母『八反35号』の醸造特性と熟期、そしていもち病耐性を保持しつつ、父『アキツホ』の多収性、大粒、耐倒伏性、穂発芽・脱粒性を導入することを目的に行われました。

同年F1世代の世代促進が温室で行われます。
そして翌昭和49年(1974年)、昭和50年(1975年)のF2~3世代は苗代集団として集団育種が行われました。
ここまでは広島県立農業試験場本場で行われました。

昭和51年(1976年)から試験場所が「三和」とだけ記載されていますが、ここがどこだかわかりません(誰か教えてください)。(広島県立農業試験場吉舎支場?)
とにもかくにも
昭和51年、F4世代からは本田選抜が始まり、この年は4,400個体の中から326個体が選抜されます。(『1』~『326』)
さらに昭和52年(1977年)、F5世代は前年の326個体を326系統とし、各系統50個体ずつ裁植。
この中から58系統を選抜します。
次年度の系統設定から58系統175個体(1系統に付きおおむね3個体ずつ)を選抜したと推測されます(本当のところはわからないです)。
後に『八反錦1号』となる『203』や、『八反錦2号』となる系統『245』からは、昭和53年の系統設定時に4系統が設定されているので、有望な個体を各系統からランダムかつ、有望度の高い系統ほど選抜数を増やしたのでは?とも推測されます。(本当のところはわかりません)

昭和53年(1978年)、F6世代で『広酒系245』の系統名がつきました。
前年の58系統を58系統群とし、合計175系統を設定、そして各系統に付き50個体を裁植し、この中から52系統が選抜されます。
『広系酒245』系統群では『広系酒245-1』 ~『広系酒245-4』の4系統が設定され『広系酒245-4』が選抜されています。
また、この年より広島県立農業試験場本場及び現地3カ所の合計4カ所で生産力検定試験を実施しています。
昭和54年(1979年)F7世代は、52系統群134系統(各系統50個体)を裁植し、46系統を選抜。
系統群『広系酒245』 は設定4系統の中から系統『2』を選抜しています。

昭和55年(1980年)F8世代は46系統群96系統(各系統25個体)を裁植し、17系統を選抜。
系統群『広系酒245』 は設定4系統の中から系統『2』を選抜しています。

さらに昭和56年(1981年)F9世代で、前年選抜された『広系酒245-4-2-2』に『広酒3号』の地方系統名が付されたものと思われます。
全体の選抜としては17系統群42系統(各系統25個体)を裁植し、10系統を選抜。
『広酒3号』 は設定4系統の中から系統『2』を選抜しました。
また、この年から試作圃が設定されています。
ここで生産された米を使用し、賀茂鶴酒造で大量醸造試験を実施し、醸造適性の検討を行っています。
この年(昭和56年)は60%精白米を使用し中吟醸、翌昭和57年は40%精白米を利用して大吟醸の醸造試験を実施し、優秀と評価されたものの『広酒2号(八反錦1号)』とは少し異なり、”『八反35号』と大差がない”と記されています。

育成最終年となる昭和57年(1982年)、F10世代は10系統群30系統(各系統25個体)が広島県立農業試験場本場で裁植され、設定4系統の中から系統『2』を選抜。
これが最終的に『八反錦2号』となった系統となります。
昭和58年(1983年)でF11世代(雑種第11代)になります。

『八反錦1号』と同様に、唯一いもち病耐性についてだけは葉いもち・穂いもち共に『八反35号』にも劣る結果とはなりましたが、当初の育種目標であった「『八反35号』の利点を残しつつ、『アキツホ』の各種特性を取り入れた品種の育成」についえはおおむね達成しつつ、熟期が遅くなった『八反錦1号』ではカバーしきれない栽培地への普及が見込める熟期の早さと耐倒伏性「強」を買われて選抜された『八反錦2号』。
昭和59年(1984年)から広島県の奨励品種に採用され、同年9月に種苗法に基づく品種登録が行われました。

新潟県での採用経緯は調べられていませんが、食糧庁(当時)の調査で平成5年には新潟県で作付けが確認できます。


系譜図

広酒3号『八反錦2号』 系譜図



参考文献

〇酒造好適米新品種「八反錦2号」の育成について:広島県立農業試験場
〇八反系品種の改良とその特性の変遷について:広島県立農業試験場
〇広島県の独自酒造好適米『八反系品種』のデンプン特性及びタンパク質特性の品種間差異:広島県立農業技術センター他

【酒米】広酒2号~八反錦1号~【特徴・育成経過・系譜図・各種情報】

地方系統名
 『広酒2号』
品種名
 『八反錦1号』
育成年
 『昭和59年(西暦1984年)』
交配組合せ
 『八反35号×アキツホ』
主要生産地
 『広島県』
分類
 『酒米』

八反錦1号だよ。名前をちゃんと書いてもらえることは少ないかな?



どんな娘?

日本三大酒どころの一角(なのかな?)、広島県で代々酒造好適米っ娘のまとめ役を務める“八反“の正当後継者(昭和最終期~平成)。
就任当初の広島県下の酒造好適米っ娘は改良雄町に八反35号と先輩格ばかりであったが、それでも物怖じせずに役を勤め上げた肝っ玉の太さと大胆さを持つ。
ただ先代八反35号に比べてより優秀ながら、ある一面病弱になったので日々体調管理に気をつけているなど、繊細な一面も見せる。

平成に入り後輩も増えたが、最近はそんな後輩も生意気になり、昭和生まれをいじられているとか・・・
妹は県外に行ってしまったが(でも実はこっそり広島県下に?)、姉妹品種らしく以心伝心で意思の疎通に支障はない。


概要

広島県八反シリーズ、『八反錦1号』の擬人化です。

この品種名は“良質「広島八反」の流れをくみ、あでやかにグレードアップした珠玉の酒米というイメージ”を表しています。
そして、”県北の秋を豊穣の錦で飾りたい”という願いを込めて命名されました。

吟醸香高く、温雅な吟醸味を備えた優良酒が出来ると育成時に評されました。

さて、酒米「広島八反」で古くから有名?な広島県。
ただこの「広島八反」、稲の品種を判別しない(できていない)酒造業界では毎度恒例ではありますが、在来の『八反草』(と、おそらく純系淘汰育成後代複数種も含む)、『八反10号』、『八反35号』等、様々な品種を一緒くたにした呼称です。

その中でも昭和後期の時点で奨励品種となっていた『八反35号』について、酒米として優秀であると評価されてはいたものの、栽培面では耐倒伏性が弱く、穂発芽も脱粒もしやすい為に収量面でも難があり、実需者(酒造)側からはやや小粒で、吸水性も悪いとの声がありました。
良質、安定、多収である酒造好適米品種が望まれる中、育成されたのがこの『八反錦1号』です。
ただこの『八反錦1号』、稲の品種を判別できていない酒造業界では毎度恒例ですが(天丼)、姉妹品種の『八反錦2号』と一緒くたに「八反錦」と呼称されていることが多いです。
むしろこの「八反錦」すら前述の「広島八反」と一緒くたにされている感まであります。


銘柄設定上、令和3年限時点で『八反錦1号』は広島県のみ、妹の『八反錦2号』は新潟県のみの栽培です。
『八反錦1号』広島県酒米先代の『八反35号』の正当な改良品種と言え、熟期がほぼ同じであるため作付けに関しても『八反35号』と入れ替わるような形で普及したものと思われます。
この『八反錦1号』の熟期では適さない広島県内の地域(東北部中山間地等標高400m以上)については、妹の『八反錦2号』が適して・・・いるのですが結果的に広島県内での検査数量は平成18年を最後に公式には無くなってしまったようです。
山形県の『どまんなか』と同じ運命を感じます。(個人談)

・・・本当になくなったんですよね?これ
『八反錦2号』も『八反錦1号』と同じようなもんだろ、とかいういつもの酒造業界の俺様ルール発動しているわけではないんですよね?
と言うのも、『八反錦2号』の最終検査年H18にも約190tもの検査数量がある&次年H19に残った『八反錦1号』の検査数量が約140t増えているのが気になるんですよ・・・
いや単純に『八反錦2号』減った分だけ切り替えて『八反錦1号』を増やした、というだけなら良いんですけども・・・
『改良雄町』を“雄町”の名前で売ってる広島県なので余計怪しいところです。
酒蔵とかそもそも“八反錦”としか表記してませんしね。

育成当初は広島農試で「極大粒」と称されていますが、千粒重26g(育成時)は酒造好適米の中では小さ・・・くはないんですが「極大きい」とも言えない部類に入ります。(『八反35号』の25gから見れば充分大粒化したのですが)
また心白が大きく、腹白も多いため搗精時に胴割れが発生しやすく、高度精白が難しいとされます。(大吟醸造りが難しい)
心白形状の発生割合は報告によって変化が大きいですが、腹白状が3~5割、点・眼状が3割、線状が1割程度のようです。
さらなる大粒・高度精白可能な酒造好適米を狙って、広島県では『千本錦』や八反系の後継として『広系酒42号』などが育成されています。(でも結局『42号』は不採用?かも?)

稈長は約85~89cmで『八反35号』より約10cm短くなり、穂長はほぼ同等、穂数はやや多く、草型は中間型とされています。
育成時の試験における玄米千粒重は約26gで、玄米品質は「上の中」と判定されました。
反収も約580kg/10a程度は出るようです。
心白発現率は80%以上とされ、大きく鮮明な心白であり、腹白や胴割れの発生は極小との当初評価です。
後年の評価として「心白が大きすぎる」と評され、腹白状や眼状が多くなってきているのではないかと管理人は推測します。
アミロース含有量は20%強程度にはなるようです。
出穂期は『八反35号』と同等ですが、成熟期は2~3日遅れ「早生の晩」です。
いもち病耐性については葉いもち・穂いもち共に「やや弱」で、唯一親の『八反35号』よりも弱くなりました。
真性抵抗性遺伝子は保有していないものと推測されています。
耐倒伏性は「中」、脱粒性は「難」、穂発芽性は「やや難」と『八反35号』に比べて大幅に栽培しやすい品種になっています。

育種経過


昭和48年(1973年)に広島県立農業試験場で『八反35号』を母本、『アキツホ』を父本として交配が行われました。(交配番号『73-2』)

◇『八反35号』
広島県において早熟でいもち病耐性に優れ(といっても「中」程度か)、米は醸造適性が優れるとされていた品種です。
反面、稈が約95cm程度と長く、やや柔らかいこともあって耐倒伏性が「弱」と劣り、穂発芽性・脱粒性がいずれも「易」で、収量性も反収450kg弱程度と高くありません。
千粒重も約25gと、酒造好適米とされる品種の中では小粒の部類に入ります。

◇『アキツホ』
農林水産省東海近畿農業試験場育成で、昭和47年5月に『水稲農林234号』に登録された、交配当時としては生まれたばかりの品種です。
収量が500~560kg/10a、玄米千粒中が約23gと中大粒・多収の品種です。
耐倒伏性「強」で中短稈中間型と倒れにくく、穂発芽性・脱粒性ともに「難」となっています。
ついでに葉いもち病耐性「やや強」、穂いもち病耐性「中」とそこそこ強い部類です。
当初の育種目標は『日本晴』並の良食味品種、という程度の立ち位置だったようですが、平成・令和現代では清酒製造の掛米用品種として用いられているようです。
奈良県では原料米を(多分)この『アキツホ』100%で作っている酒蔵もありますね。(“多分”というのは毎度酒蔵の品種名表示が信じられないからでして・・・)


この交配は母『八反35号』の醸造特性と熟期、そしていもち病耐性を保持しつつ、父『アキツホ』の多収性、大粒、耐倒伏性、穂発芽・脱粒性を導入することを目的に行われました。

同年F1世代の世代促進が温室で行われます。
そして翌昭和49年(1974年)、昭和50年(1975年)のF2~3世代は苗代集団として集団育種が行われました。
ここまでは広島県立農業試験場本場で行われました。

昭和51年(1976年)から試験場所が「三和」とだけ記載されていますが、ここがどこだかわかりません(誰か教えてください)。(広島県立農業試験場吉舎支場?)
とにもかくにも
昭和51年、F4世代からは本田選抜が始まり、この年は4,400個体の中から326個体が選抜されます。
さらに昭和52年(1977年)、F5世代は前年の326個体を326系統とし、各系統50個体ずつ裁植。
この中から58系統を選抜します。
次年度の系統設定から58系統175個体(1系統に付きおおむね3個体ずつ)を選抜したと推測されます(本当のところはわからないです)。
後に『八反錦1号』となる系統『203』からは、昭和53年に4系統が設定されているので有望な個体を各系統からランダムかつ、有望度の高い系統ほど選抜数を増やしたのでは?とも推測されます。(本当のところはわかりません)

昭和53年(1978年)、F6世代で『広酒系203』の系統名がつきました。
前年の58系統を58系統群とし、合計175系統を設定、そして各系統に付き50個体を裁植し、この中から52系統が選抜されます。
『広系酒203』系統群では『広系酒203-1』 ~『広系酒203-4』の4系統が設定され『広系酒203-4』が選抜されています。
また、この年より広島県立農業試験場本場及び現地3カ所で生産力検定試験を実施しています。
昭和54年(1979年)F7世代は、52系統群134系統(各系統50個体)を裁植し、46系統を選抜。
系統群『広系酒203』 は設定5系統の中から系統『1』を選抜しています。

昭和55年(1980年)F8世代は46系統群96系統(各系統25個体)を裁植し、17系統を選抜。
系統群『広系酒203』 は設定5系統の中から系統『1』を選抜しています。

さらに昭和56年(1981年)F9世代で、前年選抜された『広系酒203-4-1-1』に『広酒2号』の地方系統名が付されたものと思われます。
全体の選抜としては17系統群42系統(各系統25個体)を裁植し、10系統を選抜。
『広酒2号』 は設定5系統の中から系統『2』を選抜しました。
また、この年から試作圃が設定されています。
ここで生産された米を使用し、賀茂鶴酒造で大量醸造試験を実施し、醸造適性の検討を行っています。
この年(昭和56年)は60%精白米を使用し中吟醸、翌昭和57年は40%精白米を利用して大吟醸の醸造試験を実施し、吸水は良好で、精白作業性は『八反35号』と同様に容易と評価されています。
麹製造時は直糖分が多く、被糖化性も良好でアミノ酸度が低く、酒母育成時はボーメ及び直糖の減少、アルコールの生成は極めて順調で、酸度、アミノ酸度の増加傾向も吟醸酒母として優良として、いずれも『八反35号』より優るとされています。

育成最終年となる昭和57年(1982年)、F10世代は10系統群30系統(各系統25個体)が広島県立農業試験場本場で裁植され、設定5系統の中から系統『4』を選抜。
これが最終的に『八反錦1号』となった系統となります。
昭和58年(1983年)でF11世代(雑種第11代)になります。
なお、同年度『広酒3号』系統群設定4系統から選抜された系統『2』が妹の『八反錦2号』です。

唯一いもち病耐性についてだけは葉いもち・穂いもち共に『八反35号』にも劣る結果とはなりましたが、当初の育種目標であった「『八反35号』の利点を残しつつ、『アキツホ』の各種特性を取り入れた品種の育成」についえはおおむね達成したと言えるのではないでしょうか。
昭和59年(1984年)から広島県の奨励品種に採用され、同年9月に種苗法に基づく品種登録が行われました。



蛇足

『八反錦1号』の育種論文では

酒造好適米品種(心白米を指す。以下酒米と略称)

と記載されてます。
「酒造好適米=心白米」は平成に入ってからは半分死語(という死語)※になってますが、心白至上主義であるこの時代はいまだこういう認識であったという証左になるでしょうか。

※1990年代に入ってから『吟の精』や『蔵の華』等、見た目の心白発現が少ないながら醸造適性の高い品種が育成され、農産物検査でも醸造用玄米の評価が見直されるようになりました。
「公式の心白至上主義の終焉」と管理人は勝手に思っております。


系譜図

広酒2号『八反錦1号』 系譜図



参考文献

〇酒造好適米新品種「八反錦1号」の育成について:広島県立農業試験場
〇八反系品種の改良とその特性の変遷について:広島県立農業試験場
〇酒造好適米有望系統「広系酒42号」と「広系酒43号」の特性:広島県立総合技術研究所農業技術センター
〇広島県の独自酒造好適米『八反系品種』のデンプン特性及びタンパク質特性の品種間差異:広島県立農業技術センター他
〇高温登熟障害に強い多収穫酒造好適米の開発:広島県立総合技術研究所
〇広島県産米の精米特性:広島大学

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