2019年8月21日水曜日

短稈渡船とは?~2~【各蔵元返答】

これはあくまでも管理人墨猫大和の集めた情報による私見です
必ずしも「正確な情報」ではない点にご注意ください

”ちゃんとした根拠や論拠”で反論することは十分可能な内容だと思います。
ただし、当時(明治~大正期)の資料を基に反論ください。
現代の慣習や書籍を元に反論されても、この問題は「そもそもその根拠が間違っている」という話ですので意味がありません。








目次


緒言

さて
前回述べたように山田錦の父本『短稈渡船』は現存していません。
そしてなにより(おそらくこの話のもととなったであろう)論文著者の池上氏は「『滋賀渡船2号』が似ているとは思う」としながらも明確に『短稈渡船』は現存していないと回答されています。

そんな中ですが、『短稈渡船』使用を謳った日本酒を販売されている蔵は存在します。


私の「『短稈渡船』が存在しない」について、「いろんな酒蔵さんがその名前で販売しているのに違うはずがない。何を見当違いの批判をしているのか」と思った方
見当違いの解釈で『滋賀渡船2号』(や『滋賀渡船6号』)をいう品種を「山田錦の親『短稈渡船』」に仕立て上げているのはまさにその酒蔵さんです。
みんなでやれば怖くない、なんて子供でもあるまいし、「多数がやっていれば正しい事」などあり得ません。


と言うわけで全国12の蔵元に質問状を送りました。

◯こちらで調べた『短稈渡船』についての現状(現存していないのでは?)
◯蔵で使用している”山田錦の親『短稈渡船』”とは何なのか。
◯【山田錦の親『短稈渡船』】であるという根拠は?
◯消費者の優良誤認を招くことになってはいないか?

令和元年8月3日に発送
令和元年8月20日までを回答期限として、同封した返信用封筒での返送を依頼しました。

ただし、最初に述べておきますが
以下の内容は原料となっている米の品種名表記にかかわる問題であり、各蔵元で販売している日本酒の質や味を貶めるものではありません。
醸造において米の品種名などは関係なく、ただそこにある”コメ”で最適の手法を用いて日本酒を製造しているはずです。

ただ、純粋に、本気で「山田錦の親を使っているんだ」と思って買った方がいた場合、その方々に対してどう答えるの?と言う話です。



各蔵元からの返答一覧


◯返答無し…1蔵

◯茨城県水戸市本町 吉久保酒造(株)

返答期限としていた8月20日を過ぎても返答無し(8/21まで待ちました)。
”山田錦の親使用”と変わらず宣伝しています。
こちらからの指摘を受けても態度を全く改めないことからも、”山田錦の親品種使用”と宣伝するために別品種を使用しながら『短稈渡船』と表示している悪質な確信犯と言えるでしょうか。


◯返答あり…11蔵(想定外+1蔵
以下、回答のあった順に


①愛知県 (株)八木酒造部
地元の農家さんから滋賀県の『渡船2号』を使った日本酒を作らないかと打診があり、現在に至っている。
別品種と言う認識は無く、酒造業界では『渡船2号』を『短稈渡船』としているのでそう表記していた。
今後関係者に確認するようにしたい。
地元農家さんが『渡船2号』の栽培を辞めるので「山丹正宗 短稈渡船」は現在の在庫をもって販売終了。

⇒ちょっとまってください2021年になっても「山田錦の父親短稈渡船」とか書いて売ってるんですが?



②京都市 玉乃光酒造(株) 様
原材料は『渡船2号』です。(と言うが、ホームページ上ではがっつり『短稈渡船』と紹介している)
『短稈渡船』と推測される『渡船2号』を使用しているので商品名を”短稈渡船”と命名している。(と言うが、HPでは”山田錦の親”断言している)



③静岡県 三和酒造株式会社 様
JA近江大中湖及びその組合員であるシガ産業から滋賀県産の『山田錦』を購入していた。
2002年の夏に滋賀県を表敬訪問した際に『渡船』なる古い品種があることを聞き、ぜひとも使いたいと申し出、2006年秋に80俵を購入。
原材料名をどのように表記したらよいか近江大中湖農協及びシガ産業に再三再四問い合わせ、「『短稈渡船』と表示してください」とのことだったのでその通りに表示した。
この問い合わせを受けてJA側に確認をしたが明確な回答はもらえなかった。

2019BYの出荷から『短稈渡船』の表記を外すことにした

こちらからもJAに問い合わせました。
で肝心のJA近江の返答は?
JA近江ではありません。JAグリーン近江です!!(←原文ママ。本当にこんなメールが来ました)
蔵側のことは蔵側に聞いてください
『滋賀渡船6号』を出荷しています

帰ってきた答えは本当にこれだけ
経緯とか、蔵への対応とか、一切なし
まったくの他人事と言ったつっけんどんな回答のみ

そのくせ自分の呼称だけは無駄に気にしている様子で逆にこっちが注意されました。
担当者がアレなのかグループ全体がこうなのかは知りませんが、JA(グリーン)近江のお里が知れますね…蔵元さんも苦労するわけです…

とは言え
蔵側が「指導された」
JA側が「指導していない」
こればかりは水掛け論なので第三者には真偽のほどは分かりません(が、態度的にJA近江がかなり怪しい)


④茨城県 府中誉(株) 様
茨城県には『渡船』が長稈のものと短稈のものの2種類があると認識している。
府中誉では短稈の方の『渡船』を使用しているので区別するために『短稈渡船』と表記している。




⑤代表回答 JAみのり(兵庫県) 様

◯青森県 (株)西田酒造店 様
◯秋田県 福禄寿酒造 様
◯山形県 亀の井酒造(株) 様
◯宮城県 平孝酒造 様
◯福島県 宮泉銘醸(株) 様
◯福島県 高橋正作酒造 様
◯佐賀県 富久千代酒造㈲ 様
各蔵にはJAみのりから兵庫県産の『渡船2号』を出荷しているので、当方(JAみのり)から代表して回答させていただきたい。

原材料表記については今後どうするか蔵元の皆さんと検討していかなければならないと考えている。


…なんなんでしょうか、この兵庫県のJAみのりさん
素晴らしいではないか!?
滋賀県のどこかのJAさんとの対応の違いが…
出荷元だからと責任感見せる兵庫県と、片や出荷した後のことなんて知らんわと言う露骨な態度の滋賀県…付き合う相手って大事ですね、本当に。


⑥滋賀県 藤居本家
山田錦の父株は滋賀県から兵庫県に渡った『渡船』だと聞いていた。
当初復活したのは『短稈渡船6号』で、その後、山田錦の父本である『短稈渡船』でもお酒を造りたいと考えた。

酒米の系統図を見たり、人伝の話聞くなどした範囲の知識では『滋賀渡船2号』と『短稈渡船』が同一であるとの認識だった。
今後は消費者の誤解を招かぬようにしていきたい。







総括(管理人の独断と偏見による)

回答無かった蔵はどのような意図があるのか不明ですが、間違いを指摘されて無視を決め込むというのは…大人、というか一企業の対応としてどうなんでしょう?
もはやブラック認定(独断と偏見)待ったなし。

②のパターンはこちらの意図が伝わっていないのか確信犯なのか、『短稈渡船』使用と謳っているのに回答は「『渡船2号』です」と言動がかみ合っていない感じです。
そもそも「根拠を教えて下さい」に対して「短稈渡船と言われているから」・・・結局根拠を何も提示できないようです。
「短稈渡船と推測される渡船2号を使用しているので~」と言う回答ですが、ホームページ見ると完全に「山田錦の親『短稈渡船』」と断言しています。
これもブラック認定(独断と偏見)。
ちなみにこの蔵の説明だと過去に茨城県で「短稈渡船」を栽培していたとのことですが、兵庫県の試験場における独自の呼称(一般に普及されてない名称)であった”短稈渡船”がなぜ一般栽培されているのか不明です。
仮に本当だったとしても”稈の短い渡船”と言う意味での”短稈渡船”であり、山田錦の父本である『短稈渡船』とは違うモノ…だとは思いますが…

④のパターンはよくよく確認してみると「山田錦の親」とか「短稈渡船」と言っているのは外部の新聞記者や酒屋が書いたもの。
蔵元は渡船使用(ただしその渡船自体が何者なのか不明なのですが~第四回参照~)と確かに明記しています(『山田錦』の親、とは言っていますが…)
限りなく白。


①、③、⑤、⑥のパターンはひとくくりに「誤解していた」と言う結論になるでしょうか。
今後対応等検討されるそうです。
むしろちゃんとした根拠をもって『短稈渡船』表記されるなら喜ばしい事でしょう。

【2021年8月23日訂正】
①の八木酒造部、2021年5月製造の「短稈渡船」日本酒を未だに売っているのを確認しました・・・
『滋賀渡船2号』の表記はどこにもありません。
「勘違いしてただけだし、もう今後は売らないから・・・」みたいな回答をしておいてこれですよ・・・
完全に確信犯で消費者騙す気満々なのでしょう、ブラック認定です。



しかしながら残念な結果しかありませんでした…

もはやなんでこの『短稈渡船』を探せ!を始めたのか覚えていないのですが…
これだけネット上、日本酒の原材料等で表示されているんですから、どこかしらには『短稈渡船』があるのでは?という淡い希望をもって調査をしてきましたが、結局どこからも明確な回答を得ることはできませんでした。

兵庫県の池上研究員の論文の推測が誤解されたまま拡散した
もしくは
地元農家の独自の呼称である『短稈(である)渡船』と品種名としての『短稈渡船』が混同された?


というのが、『短稈渡船』誤使用問題の結論になるようです。
『短稈渡船』の表記を再考する、考え直す、と言う蔵元さんがどのような対応をするのかわかりませんが、今後正しい知識が広まるといいですね。
ちゃんと「推測であること」や「不明瞭だけど非常に近しい品種」のような説明をした上で売られればいいなと(個人的に)思います。



参考文献

〇酒米品種「山田錦」の育成経過と母本品種「山田穂」、「短稈渡船」の来歴:兵庫農技総セ研報
〇酒米品種群の成り立ちとその遺伝的背景:日本醸造協会誌



関連コンテンツ(日本酒業界が使う”品種名”って結構雑…)
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