さて、当ブログで度々取り上げていますが
酒蔵の勝手な都合で無根拠にいろんな品種を『短稈渡船』と呼んだり短稈渡船とは?~0~【結論だけまとめ】
蔵側に都合の良い解釈で『新山田穂1号』を”山田錦の母”扱いしたり『山田錦』の親に間違われている品種?
もはや有象無象なんだかわからない品種が「亀の尾」として出回っていたり『亀の尾』とその純系淘汰品種たち
これらからも分かるように、酒造業界における酒米の品種の扱いが(あくまでほんの一部ですが)無法状態なのは改めて述べるまでもないことですが、広島県生まれの酒造好適米品種『八反錦1号』、『八反錦2号』も前例に漏れず、といった感じです。
両親が同じ交配組み合わせ、というだけでなく、本当に同じ交配の後代から育成されたもので最も有名なのはやはり『越路早生』五姉妹でしょうか。
改めて
稈が軟らかかった『八反35号』から『八反錦1号』『八反錦2号』ともに稈の硬さが向上していますが、より稈長の短い『八反錦2号』が『八反錦1号』よりも倒れにくい品種となりました。
これはあくまでも育成時の醸造試験の成分表を一般論で読み替えた場合なので、実際の人間が感じる感覚とは違う可能性が大きいですし
何度も何度も、繰り言になりますが
日本酒のラベルには大半が「使用品種”八反錦”」としか書かれておらず、日本酒を解説するようなサイトでも「広島県酒米の代表品種”八反錦”」と紹介されていることが圧倒的多数です・・・
日本酒の銘柄名に何を表示しようが勝手ですが、「使用品種名」に「八反錦」は違うでしょ?(意固地)
あなたたちは『八反錦1号』のこと言ってるんですか?『八反錦2号』のこと言ってるんですか?という話です。(ほぼ私怨)
妹の方が(背も)胸も小さいので、同じに見えるようにお姉ちゃんは着痩せ効果のある黒色の水着を着ているんです(半分冗談) |
『八反錦1号』と『八反錦2号』の違いを見比べてみましょう。
前座 姉妹品種だから同じようなもの、なんてことはない
両親が同じ交配組み合わせ、というだけでなく、本当に同じ交配の後代から育成されたもので最も有名なのはやはり『越路早生』五姉妹でしょうか。
・・・と、長女基準で言うとなんのことやら分からない人が圧倒的多数だと思いますが、『農林22号』と『農林1号』の交配後代から育成された『コシヒカリ』を含む5品種のことです。
『コシヒカリ』の姉妹品種である『越路早生』『ハツニシキ』『ホウネンワセ』『ヤマセニシキ』。
これらを全て「コシヒカリだ」と言って売るなんてことは誰もしてません。
違う品種だから当然ですよね?
新潟県における熟期だけ見ても、『コシヒカリ』だけが中生品種で他の4姉妹は全て早生品種。
食味についても『コシヒカリ』の次点で「比較的良い」と評価されるのは『越路早生』ぐらいで、他3姉妹の食味評価はそれほど高くありません(食味の評価は人それぞれなれど一応一般的評価として)。
当然、それぞれ別々の品種なのですから稲の形態をより細かく見れば他にもいくらでも違いはあります・・・が
むしろ実態は逆で「違いがあるから別の品種と認定される」といえるでしょう。
違うものを同じものとしてひとくくりにするなんておかしな話です。よね?
でもそれを平然とやっているのが悲しいかな酒造業界(の一部)・・・
いえ、『コシヒカリ新潟IL』のようにちゃんと「客観的に同じに扱うに足る根拠」があればいいですよ?
「だって同じ”渡船”って名前に付いてるんだし・・・」とか、小学校の国語の授業の問答じゃないんですから、”稲”として生物的に、”米”として物理(科学)的に、同じである根拠を説明できなければ意味がありません。
2人の違い
『八反錦1号』と『八反錦2号』はそれぞれ「違う品種」です。
その特性は以下の通りです。(対象として改良元の『八反35号』も併記・・・これも「八反」ではないですよ?)
※基本的に育成論文のものを使用していますが、わかりやすいように一部別試験の数字も使って育成時の評価通りになるようにしています。
同条件で栽培した場合においても、必ずしも特性通りの差が出るとも限らないのがこれまた難しいところ・・・と言いだしたら切りが無いので、「わかりやすさ」優先です。
※いや品種登録時の特性で比べろよというのはごもっともなんですが、具体的な数値を乗せた方がわかりやすいじゃないかなぁ・・・と。「わかりやすさ」優先です。
項目/品種名 | 八反錦1号 | 八反錦2号 | 八反35号 |
---|---|---|---|
稈/細太 | 中 | 中 | 中 |
稈/剛柔 | 中 | 中 | やや柔 |
芒/多少 | 少 | やや少 | 無 |
芒/短 | 短 | 短 | - |
稃先色 | 黄白 | 黄白 | 黄白 |
粒着密度 | やや疎 | やや疎 | 中 |
1穂籾数 | 80 | 72 | 94 |
脱粒性 | 難 | 難 | 易 |
出穂期 | 8月10日 | 8月10日 | 8月10日 |
成熟期 | 9月24日 | 9月17日 | 9月23日 |
稈長 | 82cm | 72cm | 92cm |
穂長 | 19.4cm | 18.8cm | 19.1cm |
穂数/㎡ | 400本 | 360本 | 310本 |
玄米千粒重 | 25.4g | 26.1g | 24.0g |
収量/10a | 587kg | 579kg | 517kg |
倒伏度合い | 0.5 | 0 | 2.3 |
稈が軟らかかった『八反35号』から『八反錦1号』『八反錦2号』ともに稈の硬さが向上していますが、より稈長の短い『八反錦2号』が『八反錦1号』よりも倒れにくい品種となりました。
芒のなかった『八反35号』から『八反錦1号』『八反錦2号』ともに短い芒がつくようになりましたが、育成時には『八反錦1号』の方が芒の発生がやや多かったようです。(とは言えほとんど同じ?)
粒着密度が『八反35号』よりも疎になったものの、収量性は大幅に改善しましたが、穂数のやや多い『八反錦1号』が『八反錦2号』よりもやや多収となっています。
そんな3品種、出穂期はほぼ同じですが、熟期が最も早いのは『八反錦2号』、一週間ほど遅れて『八反35号』、さらに1~2日遅れて『八反錦1号』となっています。
『八反錦1号』と『八反錦2号』では熟期に10日近い差があると言うことですね。
・・・と、特に違いがある特性を抜粋してみると以下の通りになります。
同じ交配後代から選抜されたとは言え、植物体の稲としてこれだけ違いがあるのです。
項目/品種名 | 比較結果 |
---|---|
成熟期 | 2号の方が約1週間早い |
稈長 | 2号の方が約10cm短い |
穂数/㎡ | 1号の方が約40本多い |
収量 | 1号の方がやや多い |
倒伏度合い | 2号の方が倒れにくい |
・・・とは言え、では実際問題「清酒になったときの質に差があるのか?」というのも気になるところではないでしょうか。(でもじゃあ原料米の品種なんてなんでも良いの?とも思うのですが)
育成時の醸造試験結果はどのようになっているのでしょうか?
では一番大事?な日本酒の質は?
『八反錦1号』と『八反錦2号』の育種論文に掲載されていた国税庁所定分析法による製成酒の成分表より作成しました。
両品種共に同じ賀茂鶴酒造研究所による醸造のようですが、『八反錦1号』は昭和57年産米使用の大吟醸酒(精米歩合40%)、『八反35号』と『八反錦2号』は昭和56年産米使用の中吟醸酒(精米歩合60%)と試験年も精米歩合も違うものの結果を合わせています。
そもそも同じ醸造条件なのかも不明ですが・・・(でも普通同じ条件にするのではないでしょうか・・・?)
ただ
後年行われた『八反錦1号』の精米歩合60%の醸造試験でも製成酒の各成分が似たようなものだったので・・・比較して良いんじゃない?(素人判断)
項目/品種名 | 八反錦1号 | 八反錦2号 | 八反35号 |
---|---|---|---|
日本酒度 | +4.5 | -8.0 | -2.0 |
アルコール% | 18.2 | 19.5 | 19.6 |
エキス分% | 5.1 | 7.69 | 6.62 |
酸度ml | 1.68 | 1.74 | 1.72 |
緩衝酸度 | 1.13 | 1.47 | 1.11 |
アミノ酸度ml | 0.96 | 1.93 | 1.78 |
直糖% | 1.328 | 3.439 | 2.846 |
日本酒マニア的な人にはこれでどういうお酒か一目で分かるんでしょうか?(私には正直何が何やら)
・・・と言うわけにもいかないのでさらっと解説すると
(詳しいことはSAKE Streetさんの記事を読みませう。本筋ではないので細かくは解説しません。)
「日本酒度」は『八反錦1号』がプラスで、『八反錦2号』が大きくマイナス、『八反35号』がその中間といった感じですね。
これはプラスになるほど辛口、マイナスになるほど甘口と一般的には解釈されるそうです(必ずしも一概にそのような味に感じるとは限らないそうですがまずは一般論をば)。
「エキス分」は糖分や旨味といった成分量を表し、これが高いほど甘味が強いそうなので、『八反錦2号』が一番甘く、二番目は『八反35号』、三番目が『八反錦1号』ですね。
「酸度」については、この数値が高いほど辛く、少ないと甘く感じるそうで、1.6以上の値は「酸味を感じられるジューシーな部類」(表現完全パクリ)に入るそうです。
この値は3品種ほぼ変わりありませんね。
「アミノ酸度」は『八反錦1号』が最も少なく、『八反錦2号』が『八反35号』よりもさらに多い、といった感じでしょうか。
これも日本酒の味に関わり、一般的にはこの値が高いと濃厚芳醇、低いと淡麗すっきりな味と解釈されるそうです。(とは言えアミノ酸の種類によっては(略))
「緩衝酸度」?「直糖」?知りません(投げやり)
あくまでも一般論で、かつ3品種の比較で総評すると
『八反錦1号』は淡麗すっきり・辛口で酸味を感じるあまり甘くないお酒
『八反錦2号』は濃厚芳醇・かなり甘口で酸味を感じる甘いお酒
『八反35号』は濃厚芳醇・中庸で酸味を感じる甘いお酒
これはあくまでも育成時の醸造試験の成分表を一般論で読み替えた場合なので、実際の人間が感じる感覚とは違う可能性が大きいですし
そもそも各酒蔵の醸造方法によって完成形の日本酒の味は変化するでしょうから、これが直接市販品の味に繋がるものではありません。
ですが、『八反錦1号』と『八反錦2号』、そしてその親の『八反35号』と比較しても「同じような米」ではないことが分かるのではないでしょうか。
これを「八反錦」や「八反」などと雑にひとくくりにしていいものとは、私は思えません。
・・・まぁこの程度では「違う」と証明するにも反復数が圧倒的に足りていないとは正直思いますが、では逆に「同じもの」と客観的に証明できるような検証データ(客観的な)あるんでしょうか?
「そんな細かいこと言う必要ないだろう」と言う人もたまにいますが・・・
何度も何度も、繰り言になりますが
『短稈渡船』や『新山田穂1号』の時点で、「名前が同じ感じなんだから同じで良いじゃん」という、”感想文”を送ってくる方がたまーにいます・・・
私生活で存分に妄想されている分には一向にかまいません。
でもそんな無根拠俺様ルールで好き放題に解釈したものを、他人が金を支払って購入する商品に掲載しないでください、というのは当然の話ではないのでしょうか
『コシヒカリ新潟IL』は「コシヒカリ」の名称で売られていますが、これは新潟県が『コシヒカリ』といもち病耐性以外がほぼ同じ近縁品種になるよう意図して育成(戻し交配)され、食味試験などの客観的証明も行い、承認されているものです。
それに対して酒造業界における品種名変更は一体何を根拠に行われているのでしょうか?
『短稈渡船』に関しては、その根拠を答えられない蔵が大半で、答えたにしても根拠も示さずに「短稈渡船と言われているから」とか言ってくる蔵もありましたが、真に恐ろしいのは「根拠もないものが平然と表記され、しかもそれを指摘するような人も全くいなかった」というこの事実です。
蔵側がその気になれば半分詐欺みたいな商品がいくらでものさばる現状だと言うことです。
「幻の米復活」「昔重用された酒米を復刻」そんな歴史があったことが事実にしろ、それを謳って売られている商品の材料が何を使っているか分からない、謳い文句と同じ米かも分からない、チェックする機関も取り締まる法も無いというのが恐ろしく思えるのは私だけでしょうか?
その辺の田んぼから抜き取ったイネを「これが幻の酒米です」とか言って売られても、消費者側は何の疑問も持たずに受け入れて売られていくわけですよね。
・・・とは言いつつ、あまりにも細部まで規制で縛るのは余計な事務や負担を増やすことになりそうなので、結局目に余るものは指摘して自浄に期待するしかないんでしょう・・・(でもいまだに”山田錦の父親”やっている蔵があるのを見るとうーんと思ったり・・・)
ひとまず『八反錦1号』を「八反錦」と表記したところで実害なんてないですし
他多くの復刻系品種についても実際消費者に不利益に働くことはない(・・・多分※。『短稈渡船』関係を除く)のでしょうが、そういうことが平気で出来てしまう土壌には問題があるんじゃないの?というお話でした(・・・そうだっけ?)
・・・・・・・・・
似た名前だから同じ品種ってわけじゃないぞってお話でした。
※いやでも消費者から「その米の品種違うのでは?信じて買ったのに」的なこと言われたら酒蔵はなんて答えるんでしょう?
参考文献
〇酒造好適米新品種「八反錦1号」の育成について:広島県立農業試験場
〇酒造好適米新品種「八反錦2号」の育成について:広島県立農業試験場
〇八反系品種の改良とその特性の変遷について:広島県立農業試験場
〇酒造好適米有望系統「広系酒42号」と「広系酒43号」の特性:広島県立総合技術研究所農業技術センター
〇酒造好適米「八反錦1号」の代替系統「広系酒42号」の醸造特性:広島県立総合技術研究所食品工業技術センター
〇ラベルの数字から想像する、日本酒の味わい - アルコール度数、日本酒度、酸度、アミノ酸度:SAKE Street
勉強になりました。今飲んでる酒の瓶に八反錦二号と書いてあったので検索てこのページにきました。
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