2020年10月24日土曜日

短稈渡船とは?~0~【結論だけ?のまとめ】

山田錦の交配父本になった『短稈渡船』とは?
平成の世ではあらゆるところで「復活」した…それって本当に「山田錦の父親」?
長々とした解説は別に、なるたけ簡潔にまとめました。


【注】これはあくまでも管理人墨猫大和の集めた情報による私見です。
必ずしも「正確な情報」ではない点にご注意ください。

”ちゃんとした根拠や論拠”で反論することは十分可能な内容だと思います。
ただし、当時(明治~大正期)の資料を基に反論ください。
現代の慣習や書籍を元に反論されても、この問題は「そもそもその根拠が間違っている」という話ですので意味がありません。





↓より詳しい根拠を読みたい方はこちら↓


結論(時間が無い方のために)

『山田錦』の父親である『短稈渡船』は遠い昔に失われてしまい、存在しません

どこかの研究機関で保存している、なんてこともありません。
「残っていたものを復活させた」というのは酒蔵側の誤解か妄想です。

「山田錦の父親を使った日本酒です」というものを目にしているのならそれは誤りか虚偽表示です。

信じられない方は以下をお読みください。


ちなみに『短稈渡船』の読み方は、滋賀県に習うなら「たんかんわたりふね」です。

最初に、管理人が問題だとしている点

このページも大分閲覧数が増え、見当違いの批判も時折来るようになったので大前提を

酒蔵や酒屋が
①推測や未確定であることを一切説明することもなく
「山田錦の親」を復活させて使っていると宣伝・表示
していることを問題としています。


『滋賀渡船2号』を使用した日本酒に「渡舟」と名付けて売ろうが、「短稈渡船」と名付けて売ろうが、その言葉自体にはなにも制約も違法性もないのですから実際問題があるとは言っていません。(誤解を招くので正直言って倫理的には問題あると思いますが)
『新山田穂1号』使っている日本酒に『山田穂』と名付けようがどうぞご自由に。

ただし「山田錦の親」という謳い文句を付けるなら大きく意味が違ってきます。(山田錦の父親『短稈渡船』、山田錦の母親『山田穂』)
これに「遺伝的に近縁だから」とか「品質は同じだから」なんて言うなら論点がズレています。
「魚沼産コシヒカリ」として売っているものが、別品種で、産地が違っても「魚沼と同じような環境で」「遺伝的に近縁な品種を使って」「品質が同じ」なら許されるなんてことがありますか?
そういった論調には私個人は同調しかねます。

後述しますが
・すでに存在していない「山田錦の親」
・推定や類似品であるという説明を一切せず
・売る側に有利な情報だけを宣伝に使っている
これは大きな問題ではないのでしょうか?

「古い品種が現存しないなんてことわかりきっている。別のものを使っているのは当たり前」と言う企業もいましたがそれが世間一般の感覚なら私のそれが大きくズレているようです。
少なくとも私は「本当に『山田錦』の親である『短稈渡船』や『山田穂』が現在まで保存されていて、それを復活させて使っているんだ」と思っていました。(というか酒蔵側がストレートにそのまんまの謳い文句で宣伝していますし)


さて改めて

山田錦の親『短稈渡船』とは?


・『山田錦』育成の際、交配父本(花粉親)として用いられた品種(『山田錦』の父親)。

・交配を担当した兵庫県立農事試験場の独自の呼称であり、一般には普及していない

・”滋賀県の品種”との記録が兵庫県側にはあるが、『短稈渡船』は前述の通り育成者ではない兵庫県側による独自の呼称であるためその正体は不明

現代に『短稈渡船』として保存されている品種はない(すでに失われてしまい、この世に存在しない)



すでに存在しない?
では現代の『短稈渡船』とはいったいなに?


『滋賀渡船2号』、『滋賀渡船6号』、『渡船』(これは本当に栽培されているものが存在しているか不明)など、すでに存在しない『短稈渡船』以外の品種を酒蔵側の裁量(独断)で「山田錦の親」「短稈渡船」として表示しているものです。

そんなこと出来るの?

〇日本酒の表示制度上、「品種名」の表示には何も規定がないので、悪い言い方をすれば酒蔵側が好き勝手自由に(無根拠や間違ったものでも)表示できます


〇農産物検査法に基づく産地品種銘柄(お米の産地・産年・品種の証明)もありますが、これも管理機関である地方農政局は「品種名の根拠を確かめたり」はしないので、悪い言い方をすれば好き勝手に品種名を設定できてしまいます(『茨城県産渡船』)

そして前述したとおり、そもそも「産地品種銘柄名を表示しなければならない」という法は日本酒にはありませんので、いずれにせよなんとでも出来てしまいます。

かなりいい加減であることがおわかりいただけたでしょうか。



その混乱の元は?


兵庫県立農林水産技術総合センター池上氏らの論文が根拠?

~酒米品種「山田錦」の育成経過と母本品種「山田穂」「短稈渡船」の来歴~において
兵庫県に導入された年次(大正7年頃)であることに加え、『短稈渡船』の特性(当時)とジーンバンクで保存されている『渡船2号』の特性(現代)がよく似ていることから「『短稈渡船』と『滋賀渡船2号』はほぼ同じものではないか」と推測しています(ただし脱粒性の特性は一致していない)


推定であるこの論を拡大解釈して、断定されているものとして広まったと思われます。

ここで押さえておきたいポイント

「ほぼ同じものではないか」と推測しているのであり「『(滋賀)渡船2号』が『短稈渡船』である」とは言っていない。(この推測を元に研究が行われていることは確か)

・同年に滋賀県で『渡船』からの純系淘汰により育成されている品種は少なくとも『滋賀渡船2号』『滋賀渡船4号』『滋賀渡船6号』の3種あること(そして『渡船』純系淘汰『い號』系統には偏穂数型・脱粒性「難」の系統もある)

・『滋賀渡船4号』は現存しておらず、特性表もないので比較できていない





なお
〇『山田錦』の育成者である兵庫県
〇『短稈渡船』の育成者とされている滋賀県
〇酒蔵府中誉が「『短稈渡船』を保存している」としている農研機構
〇産地品種銘柄『茨城県産渡船』が設定され、『茨城県産短稈渡船』が販売されている茨城県
いずれの機関も「『滋賀渡船2号』が『短稈渡船』であるという事実は認めていない」と解答しています。

関係機関、そして何より育成者が認めていないもの売る側の都合で断定していいのでしょうか?



その他様々な説?が(根拠は…?)


【茨城県で栽培されていた?】
酒蔵府中誉を紹介する記事では
「農業を営む80歳ほどの男性から「父と祖父が短稈渡船という酒米を作っていた」という話を聞いた」
との記事があります。↓↓↓
しかし『山田錦』の父本である『短稈渡船』は、あくまで兵庫県の試験場内だけで扱われた”独自の呼称”ですので、これが一般に普及された記録はないはずでは?
茨城県で”短稈渡船”と言う名称の品種が栽培されていたこと自体は否定しませんが、仮に栽培されていたとしてもそれは「山田錦の親」『短稈渡船』とは違うものではないでしょうか?
(兵庫県では原種(奨励品種)指定は『渡船』でしたし、滋賀県では『滋賀渡船2号』『滋賀渡船4号』『滋賀渡船6号』『滋賀渡船白銀』…)

ちなみに府中誉は農研機構から種子譲渡を受けているので、その品種は『(滋賀)渡船2号』であることは明白です。


【倒れにくいものを『短稈渡船』と呼んでいる?】
「渡船」は1895年に滋賀県立農事試験場において「備前雄町」から選抜された系統で、倒伏しにくいものを「短稈渡船」とよんでいる。
細かい指摘になるのですが
これは創作の部類に入るでしょうか(何を根拠に言っているのか不明なので断言できませんが)
「『短稈渡船』は兵庫県の試験場における独自の呼称」ですね。
概ね意味は間違ってはいませんが…倒伏しにくいだけで「短稈渡船」と呼ぶようなことは無いです。


【もうなにがなにやら…】
「短稈渡船(たんかんわたりぶね)」は、山田錦の父にあたり、九州福岡県産雄町が海を渡り滋賀で栽培され稈(わら)が 短く倒伏しにくい品種となり九州より、海を渡った為、 渡船となり、短い稈の渡船、「短稈渡船」と名付けた。

全体的に文章がおかしい気もしますが・・・とりあえずそれは置いておいて
前半はとりあえず、『渡船』起源のメジャー説明ですが…うん
そもそも『滋賀渡船2号』は”滋賀県の『渡船』”を選抜したわけではありません(根拠は?)。
複数県から収集しているので「滋賀県で栽培され~短くなった」というのは誤りですね。
ところで「名付けた」って、この説の中では誰が名付けたことになっているのでしょうか?(滋賀県?兵庫県?)
うろ覚えの知識をツギハギしただけのファンタジー文章にしか思えません・・・



【『滋賀渡船6号』が『短稈渡船』?】
URLは貼りませんが、頑なにこういう主張をされて系譜図まで作って宣伝されている酒屋さんがいらっしゃいます。
過去にそういう表示で売っていた酒蔵があったことは確かですが、その元は…要は何も根拠がありませんでした。
私もこの関連記事の中で「可能性はある」なんては言ってますが、現物がない以上推定しか出来ないという理由によるものですから…(分けつ数が実際かなり違う)

「山田錦の父系統・父方」だったり、「山田錦の親である『短稈渡船』の系統」は正しい表現だと思いますが…(正しい日本語を使いましょう)



総括


・山田錦の親『短稈渡船』は失われ、すでに存在しない。

・近縁品種のいくつかは現存し、『滋賀渡船2号』の特性が一部を除いて似ているとされている(しかし現存しない近縁品種も数多く、かつ『短稈渡船』自体が現存しない以上断定は不可能ではないか?)

・公的機関で「滋賀渡船2号が短稈渡船で山田錦の親」であると認めているところは存在しない


・『新種B』という『短稈渡船』っぽい品種もあるんですよ!















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