2017年11月30日木曜日

【粳米】富山86号~富富富~【特徴・育成経過・系譜図・各種情報】

地方系統名
 『富山86号』
品種名
 『富富富
育成年
 『平成29年(2017年) 富山県 県農林水産総合技術センター農業研究所
交配組合せ
 『F1【コシヒカリ富筑SDBL2号×コシヒカリ富山APQ1号】×12-9367B』
主要生産地
 『富山県』
分類
 『粳米』
『富富富』です。ふふふ…よろしくお願いしますね。

うまみ。あまみ。ふと香る。ほほえむうまさ、富山から。


北陸県勢の新品種ラッシュの中、富山県が送り出した(不憫な)新品種、富山86号『富富富』(ふふふ)の擬人化です。


どんな娘?


どこかつかみどころがなく、影が薄いが実はかなり優秀。(だがそれと一般受けが良いかは別問題)

もともとおっとりぼんやりな性格に加えて
富山県ではもっと楽な役回りをすると思っていたのに、急に高級ブランド路線に担ぎ上げられ困惑気味。
周囲のドタバタに気苦労は尽きない日々が続いています。


教育自体はかなり高レベルなものを受けてきたものの、実地でそれを発揮できるかどうか彼女自身も周囲も非常に心配しているところです。



概要

【富山の水】【富山の大地】【富山の人】
「富」山の豊かな水や肥沃な大地で「富」山の生産者が育てた「富」山づくしの米、が名称の由来。
食べた人が幸せな気分になってつい「ふふふ…」と笑ってしまう…そんな願いも込められているそうです。

『富富富』はもう兎に角曖昧
なんといっても曖昧
悪く言えば(もう言ってるけど)中途半端
ちなみに高級路線を目指すと言っている割にはそのブランド化戦略すら曖昧。(で結局挫折したという・・・)
あ、でも公式ホームページは一番凝って(金がかかって)ます。
そして育成が凄いハイテクです。(とは言え”米”としての販売・売れ行きには残念ながらおそらく多分絶対に影響しない)


〇名称公募
系統名も公表せず、「富山県の新しい米」というすさまじく曖昧な状態で名称公募。
この時点ではまだ3系統候補があった様子ですがなんとも違和感(管理人の主観)
とりあえずそんな曖昧な品種にも名称公募には9,411件(県内7,468点、県外1,938点、不明5点)の応募があり、平成29年3月26日、東京都内のホテル(ホテルニューオータニ)で品種名『富富富~ふふふ~』発表。

〇ロゴ
どうにも曖昧で私が解釈を間違えているかもしれませんが富山県は『富富富』に関して「デザインをアレンジできる」としていて、これは特定のロゴを作らないという事なのか、塗り絵のようなロゴになるという事なのか…
仮にも高級路線、ブランド化を目指しているのなら、そのブランドのイメージを担うロゴがそんな曖昧でいいのかなぁ…
よくわかりませんが…というのが名称公募開始時点でのこと
ところがH30.2.22に富山美術館3階ホールでキャッチコピーとロゴデザインの発表が行われてみると?
 古代から現代に至る米作りの歴史を「富」の字体で表現。白と赤を基調にした日本を意識させるデザインに仕上げられています。
 …うん?
 「デザインをアレンジできる」というのはどこにいった?


〇食味
「極上の旨味と粘り」「高品質」「日本穀物検定協会でも高評価」といった文言は並ぶものの、アミロース含有率や具体的な食味評価試験値などは公表無し?
精玄米重やら稈長やら倒伏程度やらの数値はあるんですが、それは農家の皆さんにアピールすることでは?
どうもアピールする点がずれている感じ(管理人の主観)

※一応公式表現を記載
①極上の旨みと粘り
②炊き上がりはつやがあり透明
③高温でも白未熟粒が少なく高品質←食味関係あります?(味を表現してる?という意味で)

富山県農業研究所が成分分析結果を(ようやく)発表。(H30.2.22)
 「甘み」と「うま味」に関わる成分がコシヒカリより2割多く含まれているそうです。
 「甘み」とは果糖、ブドウ糖、ショ糖、麦芽糖のことで
 「うま味」とはアスパラギン酸やグルタミン酸のことです。
 (ちなみに我が山形県のつや姫はアスパラギン酸6割、グルタミン酸3割多いデスどやぁ
 「甘み」成分が多いことから『富富富』は口に入れる前からデンプンの分解が進んだ状態である事を示しているそうです。
 で
 これ自体は『富富富』の優秀さを物語っていると思います。
 それはいいんですが
 試験販売前(もしくはせめて販売と同時)にこういう重要な情報を発信できていないあたり、『富富富』というか富山県の後手後手感を感じるんですが…(管理人の偏見)


まぁ…育種状況がわかってくると『富富富』の戦略がどうも曖昧な印象を受ける理由がよくわかる気がします。
”最高級品種を目指す!”なんて銘打っている『富富富』ですが、育種開始(とされている)平成15年当初から食味の”し”の字も出てきません。
もちろん『コシヒカリ』は極良食味品種で、そのNIL種を育成目標としているならば、極良食味品種になるだろう、ということは分かりますが…結局『コシヒカリ』と同じ味の品種、ということですよね?
無論、食味というのは絶対的数値で表せるものではなく、個人の主観が含まれるため絶対的な上下は決めつけられませんが、『富富富』の育成目標は、『コシヒカリ』と同価格・同食味帯で栽培特性や収量に優れる品種としての路線の『石川65号(ひゃくまん穀)』と同じ、ではなかったのでしょうか?
新潟県の『新之助』、福井県の『いちほまれ』(は正直ちょっと胡散臭いんですが)と、コシヒカリを超えよう!という品種は育種の選抜過程で初期から食味にかかわる検定を行っています(ということになっている)。
『新之助』に至っては稈長を無視して食味重視で選抜を行うなど、栽培特性はある程度犠牲にしても…という姿勢がうかがえます。

それに対して『富富富』は結果的に食味が『コシヒカリ』より優れるものに変化していた、とわかったのがおそらく平成28年か平成29年、デビュー直前です。
さらに、具体的に「「甘み」「うま味」がコシヒカリよりも多い!」と発表できたのが名称発表(H29.3)からほぼ一年たった平成30年も2月の末…

『コシヒカリ』と同等の食味…そんな品種では、言っては何(失礼)ですが何のブランド力もない富山県産米が高級路線に食い込めるとは思いません。
石川県の『石川65号(ひゃくまん穀)』のごとく、栽培特性の優れたコシヒカリで、生産コストを抑えて『コシヒカリ』と同価格帯を…ぐらいに考えていたのではないでしょうか?
それが食味試験を行ったらなんと、食味が良い方向に変化している、と。
これを受けて急遽路線変更でもしたのか…もしくは県政側が周辺県の動きを見て思いつきのように「高級品種を出せ」とでも言いだしたのか…
⇒令和3年9月25日の富山テレビの報道で「やっぱりな」な報道
『富富富』の戦略が「コシヒカリ超え」から「コシヒカリ並」に変更されたことを受けて
県の担当者曰く「もともと『コシヒカリ』の暑さに弱いという弱点克服に主眼がおかれて開発された品種(食味の向上やコシヒカリ超えなんて想定してないよ:管理人意訳)
まぁそうですよねとしか・・・だからこんなにグダグダちぐはぐしているんですよね・・・
県農林水産企画化市場戦略推進班曰く「『コシヒカリ』に置き換わる品種にするという話は当初からあった(『コシヒカリ』を超える米なんて考えはなかった:管理人意訳)
まぁそうですよね


モヤモヤ曖昧『富富富』の行く末や如何に。



魚沼並みの高級品種を目指す?ブランド戦略の経過…そして末路


もう見てて不憫になるほど身内からの援護がありません。
『いちほまれ』や『新之介』と肩を並べろ!と富山県が言う割には、周知・宣伝・準備・戦略すべてが(墨猫大和の主観で)中途半端でぐだぐだです。
そんな体制で『魚沼産コシヒカリ』他高級路線品種達に挑めというのか…
西部戦線にずらりと並べられたケーニヒスティーガーにスチュアートで立ち向かわされているかのごとくです(例え下手)

すでに前述した「名称公募」「ロゴの発表」「食味のアピール」ですでにグダっておりますが、同じようなネタは事象は尽きません…


→まず最初からして
 平成29年(2017年)10月30日から開始(~11月30日まで)した『富富富』の生産者募集に対して同年11月末時点での応募総面積が約400haと、目標の1,000haの過半にも届かなかったそうです。
 『富富富』の生産も登録制によるものですが、「新品種に対して取り組むかどうかこの期間に決断できなかった生産者が多い」と富山県は言ってますが・・・
 というかそれ以前に周知が足りなかったんじゃないの?というのが率直な感想。
 というかというか、それなのになぜ1,000haも当初から目指したのか…
 ブランド化に向けて質は無論のこと、ある程度の”面”を制圧できる量は欲しいところですが…

→そしてトップからして
平成30年のデビューを前にして富山県の石井知事が「あんまりよそのことを気にしないで、しっかりやっていけば大丈夫だと思いますが」などとズレたことを言っていたり
他県と競合していかなきゃならんのに競争相手を気にしないでどうやって戦うつもりなのか?
「よそで何やってても美味いモノ作ってりゃ売れるでしょ」なんて時代錯誤もいいところでは?

→と言うかそもそも言っていることが
富山県自体が「ブランド化を図り、主力米をコシヒカリから切り替えるか、今後3年の市場評価を見極めたい」などと曖昧・悠長なことを言っていたり
あなたたち『富富富』の宣伝にもう2億円以上(2018年のPR予算2億5,000万円)ぶっこんでいるんですよね!?
それでその「失敗したらまぁ諦めるか」かのようなその発言してもいいのか!?
ちなみに広告には女優の木村文乃さんを採用した模様。
ちなみにちなみにこの”見極めたいの3年間”で富山県がPRに使った総額は6億5千万円だそうです。(富山県民怒って良いのでは?)
 
さらに追い打ちは続きデビュー3年目の令和2年(2020年)11月13日
栽培面積はこの3年間でおよそ2.5倍の1,282haに増えましたが、県産コシヒカリの20分の1程度。
富富富ブランド化戦略会議において富山県は「『富富富』を『コシヒカリ』に代わる主力品種にした上で、『コシヒカリ』以上の価格を目指す」とその骨子案を提案。
しかし、各委員からは
バラ色の計画もいいが、実態に即した計画に軌道修正出来る体制を。せっかくいいものを作ってもらって売り先がないというのは一番不幸なことでは」(神明 森脇部長)
「今まで通りの高価格帯での販売はちょっと無理もあるのでは」(富山県農業法人協会 橋本会長)
「店で並んでも定価で捌けず、見切り(値下げ)シールを貼って売られたことが多々」(大和産業 川合部長)
「消費者からコシヒカリの方がおいしいから高い富富富は買わないという声を聞いている」(富山県消費者協会 平野常任理事)
と異論轟々…何で身内からもこんな袋だたきにあうん?と思うところですが
①富山県がろくな体制も戦略もなしにそれこそ理想論ばかり言っている(差別化や宣伝の徹底が出来ていないのは事実)
②富山県の農家・販売業者は高価格帯を望んでいない

いずれかでしょうか…本当に大丈夫なんでしょうか。
なお富山県はあくまでも「『コシヒカリ』以上の価格帯を求めたい」とのこと。
本当に大じy…

→そしてこんな経過を辿れば結末はやはり・・・
令和3年産(2021年産)の『富富富』の概算金が令和3年8月19日に全農富山県本部より発表。
その金額は1等米で11,800円/60kgと前年比で2,700円の減。
富山県産『コシヒカリ』が11,000円/60kgで、『富富富』生産者に加算される800円/60kgを除けば同水準まで落ち込みました。
コロナ禍で全国的に米価が下落気味なので減は致し方ないにしても、問題なのはやはり『コシヒカリ』と同水準に妥協したという点です。

これは前述した『富富富』の戦略推進会議において、令和2年度の時点で既に「県産コシヒカリを上回る」から「県産コシヒカリと同等以上」へと方針を変更したことを受けてとのことだそうです・・・ええ(困惑)
平成30年~令和2年度(2018~2020年度)はずっと14,500円/60kgと据え置いてきたのですが・・・この減額からずるずると「コシヒカリ以下」とならないよう祈ります・・・



育種経過


平成15年(2003年)に新品種開発プロジェクトがスタート。(したらしい)

富山県の基本構想は交雑育種法による「新しい品種」ではなく、『コシヒカリ』の弱点を克服した『コシヒカリIL』の類の品種でした。
その為平成15年にスタートした、と言ってもその前半は高温障害耐性遺伝子の特定などの研究に充てられていた様子。
ただ、もしかしたら『コシヒカリ富筑SDBL2号』の育成も『富富富』の育種期間に含めてる?

話戻って
その素材となった品種は
・『コシヒカリつくばSD1号』(『コシヒカリ』の長い稈長を改善・短稈化)
 →稈が短く倒れにくい『コシヒカリ』
  ※短稈性遺伝子【sd1】所有
・『コシヒカリ富山BL2号』(『コシヒカリ』のいもち病に弱い性質を改善・真性抵抗性)
 →いもち病にかかりにくい『コシヒカリ』
  ※いもち病真性抵抗性遺伝子【Pita-2】所有
・『コシヒカリ富山APQ1号』(『コシヒカリ』の暑さに弱い性質を改善)
 →暑さに強い『コシヒカリ』
  ※高温登熟耐性遺伝子【Apq1】所有
・『12-9367B』(『コシヒカリ』のいもち病に弱い性質を改善・ほ場抵抗性)
 →いもち病にかかっても悪化しにくい『コシヒカリ』
  ※いもち病ほ場抵抗性遺伝子【pi21】所有

これらの品種はすべて遺伝子座のほとんどが『コシヒカリ』と同等で、耐病性や耐暑性といった一部の遺伝子だけが違う品種です。
これらの品種を掛け合わせ、【短稈化】【高温登熟耐性】【いもち病真性抵抗性】【いもち病圃場抵抗性】の遺伝子以外は『コシヒカリ』と同じ新品種を目標としたようです。
選抜の際には遺伝子マーカーを利用、ピンポイントに目標の遺伝子を持つ個体のみを選抜できたようです。

交配は平成24~25年(2012~2013年)に行われました。
平成24年(2012年)に『コシヒカリ富筑SDBL2号』を母本、『コシヒカリ富山APQ1号』を父本として交配。
翌平成25年(2013年)に『F1(雑種第一代)』の中からDNAマーカーを使って【いもち病真性抵抗性】【高温障害耐性】の遺伝子を持つものを選抜(【短稈】は目視での確認が容易に可能だがマーカーを使用したのだろうか?)。→このF1世代では選抜を行っていないようです。

翌平成25年(2013年)にその『F1』を母本、『12-9367B』を父本として交配。
平成26年(2014年)に交配種子約3,000個体の中からDNAマーカー技術を用いて目標の4遺伝子(【Apq1】【sd1】【Pita-2】【pi21】)がホモ接合体となっている16個体を選抜。
平成27年(2015年)には前年度の16個体を16系統として、ほ場選抜の中で3系統まで絞りこみ『富山86号』『富山87号』『富山88号』の地方系統番号が付されます。

最終的な選考は”食味”を元に
・富山農業研究所
・日本穀物検定協会
・富山米新品種食味評価会(アンケート結果)
・富山米新品種戦略推進会議
それぞれの食味評価を踏まえ、『富山86号』が選ばれました。

名称公募の結果、平成29年(2017年)3月26日に品種名『富富富』が発表されました。




このように「高温耐性」「短稈」「いもち病真性抵抗性」「いもち病圃場抵抗性」これらを『コシヒカリ』本来の食味を崩さずに(検証が遅れましたがむしろ食味はより良くなって)導入した試験場の手腕と技術は非常に素晴らしいものと言っていいと思います(謎の上から目線)。
『新之助』や『いちほまれ』の宣伝文句が「20万種から選抜」なので「3,000系統から選抜」とされている『富富富』が一般傍目には選りすぐられた感が薄いかもしれませんが、そんなことは決してないのです。
むしろ希少性・技術的面では『富富富』の方が優るかもしれません。


しかし



しかし


それは残念ながら消費者には一切関係無い話
こんな話に飛びつくのは稲品種マニアくらいじゃないかな…(飛びついている管理人)




どうも彼女を「ふふふ…」と笑わせてしまうとオヤジギャグを言わせている気分になります…


H29.11.30~ 父本『12-9367B』について予想してた頃のお話

eco-farmerさんに情報頂きました。

ぐぁぁああぁぁぁ…これは分かりづらい…ほんっとうに分かりづらい…愛知県のミネアサヒSBL(中部138号)の系譜並みに分かりづらい…(父方?がまだよくわかりませんが…)
『いちほまれ』と違ってこれは富山県正解ですわ…伏せておいて正解ですわ…
ちゃんとした系譜図載せたら線が多すぎて酔いますわ…

親はコシヒカリ戻し交配品種のオンパレード。
私(どや)やKayさんの大方の予想通り、『富富富』は『コシヒカリ』の極近縁種でした。(コシヒカリ富山APQ1号はまさにピタリ!お見事!)

母本と父本がまだはっきりとわかりませんが…おおむねこんな感じでしょうか?
というか
父本の『12-9367B』とやらが(試験番号なのでしょうが)どんな系統なのか分かりません。
愛知県農総試育成の『中部137号(12-9326B)』の試験番号が近いので、おそらくこの育成過程の選抜系統の一つなのでしょうが…なぜかこの『中部137号』はデータベースに系譜図がないんですけど!?なにゆえ!?
中部140号以降は試験番号が『13-●●●●B』ですし配布開始年も違うのでやはりこの前の年の育種情報がないと…
Bはあれかな?いもち病のBかな?戻し交配による抵抗性導入の試験系統ってことかな?

→H29.12.1 父本『12-9367B』追記
 Kayさんにも情報いただきました!感謝感謝です(泣)
 『中部137号(12-9326B)』の交配情報ヒャッホー!
 陸稲『戦捷』のいもち病圃場抵抗性遺伝子を導入した、これまた『コシヒカリ』改良極近縁種『ともほなみ』を親に使っている点、かなりドンピシャ臭いデス!
 『富富富』の父本『12-9367B』もこの『中部137号』と同交配・同系統ではないでしょうか(無根拠)
 超・フライング気味ですが系譜図作ってしまいました。(そう言えば…本日「稲品種データベース」見たら『富山86号』項目だけ追加されてました。交配情報・系譜図他一切無し。近日更新?)
この系譜図は間違いです(H29.11時点での予想図)


→H29.12.17 系譜図修正
 やはりJAの系譜図は信用ならん…
 『12-9367B』はまだ情報載っていませんが

→R1.9.2 系譜図修正
米穀データバンク様の米品種大全6に基づき系譜図修正
『12-9367B』は陸稲品種『戦捷』由来の「pi21」保有…というのは当たってましたが…
こんなんだったのか…(最下部参照)



おまけ


『BL』…『いもち病抵抗性』
『SD』…『短稈~semi-dwarf~』
『SL』…『縞葉彼病抵抗性』
『APQ1』…『高温障害耐性』
『HD』…『晩生化』
なので
『SDBL』…『いもち病抵抗性』+『短稈』
『SBL』…『いもち病抵抗性』+『縞葉枯病抵抗性』

なので?『富富富』は…『コシヒカリ』に【短稈】【いもち病真性抵抗性】【いもち病圃場抵抗性】【高温障害耐性】を付与したので…
『コシヒカリ富山SDBLBLAPQ1・1号』ですね(嘘です)。
でも富山県は『富富富』にさらなる形質を付与する予定がある!みたいなこと言ってます。
…【縞葉枯病抵抗性】を付与して!さらに晩生化を図って!富富富ILとしての普及を!
これぞ『コシヒカリ富山HDSDSBLBLAPQ1』!
品種名は『富(短稈)(耐いもち)(耐高温)(耐縞葉枯)(晩生化)』!?(嘘です)



系譜図

でもまじめに『富富富』ってつまり『コシヒカリSDBLAPQ1』ってことですよね?

富山86号『富富富』 系譜図



参考文献(敬称略)

〇温暖化に対応した水稲新品種「富富富」の開発と栽培技術の確立:小島洋一朗




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2017年11月19日日曜日

~男米→新男米→ふくおとこの品種改良?の系譜~ザ!鉄腕!DASH!!

本日の「ザ!鉄腕!DASH!!」はTOKIOが品種改良(?)した!という触れ込みの『ふくおとこ』スペシャルでした。

後で改めて書きますが始めに結論。
この『ふくおとこ』は新品種新品種と謳われていますが”品種”と呼べるものではありません。
『新男米』を紹介するサイトなどでは「いつか品種登録を…」なんてことが書いてある場合もありますが、番組内の内容を見るに、今のままでは永遠に不可能です。


公式に”品種”と呼べるものではないので、残念ながらよく話題になる日本穀物検定協会の食味ランキング評価されるようなものではありません。



ただ、始めに言っておきますが、私は「ザ!鉄腕!DASH!!」大好きです。
もう本当に大好きです。

今回は「稲の品種改良」について少し書こうかな、というだけで批判する気はさらさらありません。
あ、でも
この『ふくおとこ』を検索すると、今回の放送内容「農家の苦労がわかる回」みたいな表現をよく見かけるんですが農業試験場の皆さんの苦労が分かる回」だしょ!?


目次



〇『ふくおとこ』の系譜・親品種達

まずは『ふくおとこ』の系譜図を下に示します。
母本の『新男米』、さらにその親株の『男米』については交配品種の記載はあるのですがどちらが母本でどちらが父本か明記されていませんでした。
…恥ずかしながら私も記憶にありませんので、仮の母本と父本を割り当ててます。
鉄腕ダッシュの公式HPをよくよく見たら記述がありました。

●男米
平成14年(2002年)に交配(?)。
これは”品種改良”というより”新品種開発”のようなニュアンスでしょうか?
『ひとめぼれ』と『たかねみのり』を圃場に1本1本交互に植えて、開花期を合わせることで自然?他家受粉させて(?)生まれたのがこの『男米』。
…えーと…正直稲は開花時に花粉がはじけ飛んでしまって9割8分は自家受粉してしまうので別品種を交互に植えたところで…交配するのは100粒に1~2粒では…?
なんだかそもそも『男米』は『ひとめぼれ』もしくは『たかねみのり』そのまんま説急浮上です…『男米』はいもち病に弱いってことは…『ひとめb…
ですがまぁ交配したことにしておきましょう…いやきっと選抜してますよ…うん…
自然交配(?)なのでどちらが母本でどちらが父本かは不明です。

●新男米
平成19年(2007年)に温湯除雄法を用いて人工交配。
いもち病に弱い『男米』の耐病性の改善が目的。DASH村初の人工交配(品種改良?)。
『ふくおとこ』の交配ではわざわざ手作業で雄しべを除いていましたが、『新男米』の交配の際はスタンダードに温湯除雄法で花粉を除いて(死滅させて)いたようです。
(【温湯除雄法】…43℃のお湯に7分浸けると雌しべは生きたまま雄しべの花粉だけ死滅させる事が出来る素晴らしい除雄法。)
母本の『男米』にいもち病に強い父本『ふくみらい』の花粉を交配。
この翌年に栽培した際、『新男米』の中でいもち病にかかるもの(交配成功?)とかからないもの(交配失敗?)が出て、罹病した株は刈り取り、選抜されました。
…これっていもち病にかかったのが『ひとめぼれ』交配株で、かからなかったのが『たかねみのり』交配株ってことじゃ…
いや、野暮はやめましょう。

『ふくおとこ』~系譜図~



今日の番組で紹介されていたので『ふくおとこ』の母本・父本は明確です。
母本は番組オリジナルの『新男米』。『男米』のいもち病抵抗性を改良したもの(前述)と紹介されています。
父本は『チヨニシキ』。愛知農総試育成の耐冷性・耐病性に優れた品種です。

温湯除雄法ではなく手作業で『新男米』の雄しべを取り除き、『チヨニシキ』の花粉を交配。
4,000粒の交配を実施して、得られた種子は107粒。
107粒の内、播種して発芽したのは57株。
交配に成功したと判断されるのは内35株。
この35株が『ふくおとこ』とされてます。
収量1kgの内、半分の500gを炊いて食べていましたね。



〇『ふくおとこ』は品種?なの?

さて改めまして
おそらく現代の常識から言えばこの『ふくおとこ』はとても”品種”と呼べるレベルのものではありません。(親株の『男米』、『新男米』と共に、ですが。)
繰り返しますが私は「ザ!鉄腕!DASH!!」大好きですよ?
批判とかではなく、あくまでも育種という視点からこの『ふくおとこ』を見ると?という話題です。

この『ふくおとこ』まだ雑種第1代です。
収穫された35株はこの代では比較的同じ性質を示しているとは思いますが…
交雑育種法を用いている以上、この種子をまいた雑種第2代からは一気に多種多様な性質を示す雑駁・雑多な集団へと変貌します。

”メンデルの法則”は有名ですよね?
赤い花と白い花を交配させると、その孫の花の色は『赤:白=3:1』となり、さらにその後代は…というやつです。
こんなのですね。「赤」が優先遺伝子、「白」が劣性遺伝子。


「通常の稲の育種(交雑育種法)には10年はかかる」というのは、多様にバラける子孫の性質が安定するのに約10代は必要という点が大きいのです。
雑種1代~4代は性質が安定せず、多種多様であり、この時点で優秀でも子孫の性質が劣っていく可能性もありますし、この時点で劣っているように見えても子孫が非常に優秀であることもあるのです。(『コシヒカリ』も後者に該当します。)

交雑育種法の選抜開始時期には大きく”系統育種法”と”集団育種法”の二つがあるのですが
雑種第2代という早期から選抜を始める”系統育種法”は「雑種後代初期に性質を見極めるのが難しい」ことからあまり行われなくなったと聞きます。
主流は雑種第5~7代まで選抜せずに育ててから選抜を開始する”集団育種法”です。


『ひとめぼれ』『つや姫』『ゆめぴりか』等、現代の米は10代以上の時間を経て、容姿の異なるもの、栽培特性の異なるものを除くことで、ようやく性質を同じくする集団”品種”として認められているのです。



〇雑種群『ふくおとこ』

だらだらと長くなりましたが
この点から『ふくおとこ』を見れば、おそらく後年の世代は多種多様な性質を示す雑多な品種の集まりとなっていくことは明白です。
原則として、品種『ひとめぼれ』の子は『ひとめぼれ』で、品種『つや姫』の子は『つや姫』ですが、この『ふくおとこ』の子は同じような性質を持った個体の集まり『ふくおとこ』ではないのです。

先ほどの図を使って見てみましょうか。
なんと言っても今回の『ふくおとこ』の交配目的(達成すべき目標)は、味に【雑味】を含ませること、とのことでした。
【雑味】が少ない母本の『新男米』に、【雑味】の豊富な父本の『チヨニシキ』を交配することで、【美味しい】+【雑味】の『ふくおとこ』が出来た、とのストーリーでした。
でわ
これもまたあまり正確な表現ではないのですが
『【赤】=【雑味がある米】』
『【白】=【雑味が無い米】』
と見てみてください。(ホモ・ヘテロとかどっちの遺伝子が優性だとか自家受粉原則だとかはまぁなんとなくで解釈してください)

雑種第1代(今回の番組で試食されていた『ふくおとこ』もここに該当します)は、なるほどすべて【赤】=【雑味がある】米ばかりですね。
雑種第2代は…おっと、【白】=【雑味のない】米が4分の1混ざるようになってしまいました。
これが雑種第3代になると…【白】=【雑味のない】米は全体の4割近くになってしまいました。
図はありませんが
雑種第4代では
(【赤】=【雑味のある】米)(【白】=【雑味のない】米)97
雑種第5代では
(【赤】=【雑味のある】米)(【白】=【雑味のない】米)1715
だんだんと比率が1:1に狭まっていきますね。
一番最初は【美味しい】+【雑味】の『ふくおとこ』が出来たように見えても、選抜・固定をしなければこのように当初の特性はどんどん薄れていってしまうのです。(通常の育種ではこの【白】=【雑味のない】株を見つけ、捨てることで【赤】=【雑味のある】株の純度を高めていきます。)

無論これは【雑味】というたった一つの特性で考えた場合です。
実際は【雑味】以外の様々な性質(遺伝子)が組み合わさり、またこのような単純な遺伝をするものばかりでもないので、さらに複雑・多岐に変化をしていきます。
つまり
味の良いもの・平凡なもの、病気に強いもの・弱いもの等々、”個”で見ればバラバラな性質を持った株の集団になっていくという事です(当初の優秀な性質を残した株も残っているはずですが)。
番組の最後で”品種改良は後年優秀な種子を選抜していくことで約10年で完成する”ようなことで〆られていましたが、今回のように”株”の状態で選抜もせず、刈り取って種子にしてしまっていては永遠に不可能です。
(今回はそもそも雑種1代なので分離すらしてなかったとは思いますが)混ぜこぜにしてしまった種もみの状態では、どの株が優秀で、どの株が劣っていたのか、もはや知る術がないからです。
播種する籾(種子)を選別する塩水選などはあくまで充実した籾を選択するためのもので、栽培特性や食味の優れた種子を選択する性質のものではないので、上の図での【白】=【雑味のない】種籾は逆立ちしても選抜(排除)できません=”後年優秀な種子を選抜していく”こと自体不可能です。
おそらく番組としてもそんなことは知っていて、そこまで厳密に選抜する気もないのでしょう。


ということで
表記するなら雑種群『ふくおとこ』の表記が正確でしょうか?


〇もしかしたら…

母本の『新男米』、さらにその親株『男米』もおそらく固定化・選抜はしていないでしょうから、これら二つも雑多な性質を持った個体の集まり、呼べて”雑種群”という程度のものであったと推測されます。(というかまともに10年掛けて固定・選抜してたら番組にならないですものね。)
※蛇足ですが、こういった固定されていない雑種世代を交配親株に用いることは優秀な品種を生み出すには有効な手段とされています。
話を戻して、しかしそう考えると
そもそもこの【『新男米』×『チヨニシキ』】の雑種1代35株ですら何一つ同じ株は無かったのかもしれません。

この点から見ると
番組の中では発芽した種子57株のうち、22株が”出穂期が母本の『新男米』と同じだから”という理由だけで”交配失敗”の烙印を押されて除外されていましたが(『新男米』と見てわかる形質の違いのある品種群を作る、という番組の趣旨的には正しいのかもしれませんが)、もしかしたらこの22株は単に出穂期が同じなだけで、中には雑種群『ふくおとこ』『新男米』を遥かに凌ぐものがあったかもしれません。
※通常の交配であればこの判断は至極真っ当、”交配失敗”と判断して差し支えないものです。これは親株の遺伝子が純正のホモ接合体ではないと仮定したら、という話です。

雑種第1代で出来た雑種第2代、1kgの種子の半分を食べてしまいましたが、この中に雑種群『ふくおとこ』『新男米』を遥かに凌いでいくものがあったかもしれません。

両者共に、より耐病性にも優れ、倒伏に強い優れた遺伝子を持った個体があったかもしれません。
ただ
無かったかもしれません。
農業試験場の職員の方々は選抜・育種の際には日々このような葛藤と闘われています。(雑種1代を選抜したり食べちゃったりなんて無法はしてませんよ?)


〇でも、”品種”ってなんだろう?

種苗法による品種の定義は以下の通り。
「この法律において『品種』とは、重要な形質に係る特性(以下単に『特性』という。)の全部又は一部によって他の植物体の集合と区別することができ、かつ、その特性の全部を保持しつつ繁殖させる事が出来る一の植物体の集合をいう。」(種苗法第二条第二項)
なんだか難しい言葉ですが
稲で言えば見た目で揃った稲の集団で、かつ孫子の代にも同じ性質を残せるもの…と言ったところでしょうか?
・『つや姫』を田植えしたら半分は背丈はバラバラになるし、倒れやすい株もあるし、施肥のタイミングが分からない…
・去年の『つや姫』は味が良くて暑さに強かったけど、今年の『つや姫』は味が悪い、その次の年は味は戻ったけど暑さに弱くなって…
なんてことでは困るよ~ということです。

そうすると、雑種第1代で選抜も(F1では出来ないんですが)せず、固定化もされていない『ふくおとこ』はとてもではありませんが”品種”としては認められないのがわかるかと思います。
『ふくおとこ』の後代は雑駁・雑多、多種多様な集団になっていくことは後述した通りですし、ある程度系統選抜をしないかぎり、この点は何年たっても解消され無いものと思われます。

ですが…

〇品種とはいったいどこまで厳密なモノでしょうか?



明治から大正にかけて日本を席巻した品種『神力』
財団法人広島県農林振興センター農業ジーンバンクに残されている品種『神力』を栽培・比較した成果表を見たことがありますが、出穂期は早生から極晩生まで、稈長は40cmから120cmまで、心白の発現性もバラバラ、紫稲まで存在します。
奨励品種になったものも『早生神力』、『中生神力』、『晩生神力』が存在します。



同じく明治に『亀の尾』『神力』と並んで稲の三大品種に数えられた『愛国』
『早生愛国』、『中生愛国』、『晩生愛国』と呼ばれる在来品種が存在し、じつに多様な性質を持った品種の集団であったことが推測されます。

このように大正~明治に見られる”品種”とは(同名異種の可能性もありますが)現代の基準では考えられないほど雑駁・雑多、多種多様な個体の集まりでした。
有名な『旭』も『朝日』との区別が判然としていません。


では、現代の”品種”はすべて統一された同一の”個体”なのか?と言えば
厳密には違います。
この点、特に『南魚沼産コシヒカリ』信奉者、『コシヒカリBL』批判者は大きく勘違いしていると思われるところです。
(あと良くも悪くも今回の番組でも勘違いする人がいるかな?)

前述したように品種とは”植物体の集合”です。
現代の品種は限りなく同一の性質を持つ集団になっていますが、DNAレベルで同一個体の集合でもなく、クローン体の集合でもありません。
ただ、その”違い”が目で見えないレベルまで統一された集団であることは間違いありません。
そしてそれを『品種』として認めているのです。

ですから、多少の”ブレ”はどうしても存在し、それは後代になるほど発現しやすいものです。
稲は自家受粉するので原則『つや姫』の子は『つや姫』ですが、(無意味・無用な事ではありますが)厳密に見れば他家受粉をする個体、突然変異を起こす個体が一定確率で発生する以上、栽培を続ければまったく同じ『つや姫』は存続しえません。
そしてそれは試験場で育種された品種のおおもとの”育種家種子”でも実は同じことが言えてしまうのです。
交雑育種法で生まれた品種は雑多な遺伝子の集合体で、世代を重ねるごとに性質は安定していきますが100%純系にはなりません。
品種のおおもと”育種家種子”ですら見た目の性質に現れない遺伝子の”ブレ”は存在するのです。

昭和50年頃、日本一の作付を誇った『日本晴』
各地の『日本晴』のDNAを調べてみると、いもち病抵抗性遺伝子を持つものと持たないものが存在するそうです。
育種段階で固定されていたように見えても、厳密にはわずかに違いがあった、ということの良い例でしょうか。(育種段階で少しドタバタもあったらしいですが)

佐藤洋一郎氏著「コシヒカリより美味い米」に『日本晴』について上記のような記載があるのですが、公式の報告書ではこの内容を確認できませんでした。
明確に残っているのは『日本晴』の子品種『黄金晴』が配布先の試験結果でいもち病抵抗性に差がありすぎ、真性抵抗性遺伝子が違う固体が混ざっているのでは?と記載されているものだけでした。
佐藤氏が勘違いしているのか、実際『日本晴』でも似たようなことがあったのか、これはわかりません。


しかししかししかし
これは原則問題にするようなことではありません。
そんなに極限まで同一のものを求めなくとも実用上問題はなく、仮に同一のものを求めるのならばその為にそそぐ労力と手間があまりにもそこから得られる成果に見合わず、非現実的です。

例えば市販されている雑巾。
1mm幅が違ったら何か問題がありますか?
「ちょっと!この2枚の雑巾、同じ製品なのに幅が1mm違うんだけど!?」
クレーマーの多い日本でもさすがにこんなことで訴える人はいないでしょうし、仮に1mm単位で雑巾の幅の製品管理などしても意味はないですよね?
布は伸び縮みがあるんですから多少の幅は容易に変わりえますし。
さすがに同一規格の雑巾の中で10cm、20cm単位で幅が違えば見た目にもわかりますとは思いますが、こういった製品に限らず、人間社会ではある程度の”ブレ”を許容しています。
乱暴な例えですが、こういうことだと私は理解しています。





言わずと知れた『コシヒカリ』
彼女ですら、奨励品種としての試験のために新潟県他各地に送られた時点で、いまだに性質にばらつきがあり、固定が完全でなかったとの記録があります。
ということは、より個体としての”ブレ”が発生する確率が高いという事です。
しかも彼女はすでに誕生から60年以上経過し、育種家種子もとうの昔に尽き(たと思います。)、世代交代を繰り返す中で、それこそ育種当時の『コシヒカリ』とは”個体”としては違ったものになっている可能性が高いのです。(無論”品種”としての『コシヒカリ』は健在です。)

根拠となる論文を見ていないので確証はないですが
日本各地の『コシヒカリ』をDNA鑑定するとやはり各地の『コシヒカリ』は、地域によって遺伝子座で微妙な違いがあるそうです。

偽コシヒカリ問題でDNA鑑定が用いられることも多々ありましたが、そこで顕在化したのがこの『本物のオリジナル・コシヒカリ』とは何ぞや?です。
前述したように”品種”『コシヒカリ』は各地で微妙に遺伝子座が異なっていることがあり、それによって本当の品種『コシヒカリ』を栽培していたにもかかわらず、『偽コシヒカリ』の烙印を押されてしまった農家の方もいます。
では
どの『コシヒカリ』の遺伝子座がオリジナルで本物なのか。
どの”個体”『コシヒカリ』を基準にすれば”品種”『コシヒカリ』の真贋を見極められるのか。
私個人の意見ですが、もはやこれは実体のない”個体『コシヒカリ』”を求めているのですから”答えのない問い”としか言いようがありません。


繰り返しになるかもしれませんが”品種”は全く遺伝子的にも同一の個体の集合…などではないのです。
という認識を持っていると、彼女
『コシヒカリBL』があそこまで批判された理由がまったくわからないですよね。
彼女は遺伝子的には99%近くが『コシヒカリ』と同一とされています。(いもち病抵抗性が明らかに『コシヒカリ』と違うので別品種ではあります。)
そんな彼女が食味試験を行い、国の審査も受け、『新潟県産コシヒカリ』として売られることを許可されて何がおかしいのでしょうか?
さて
『コシヒカリ』がいいからと”育種家種子”を使わず、自家採取を繰り返せば、自然交配や突然変異で”品種”の同一性は失われていきます。
では他県の『コシヒカリ』を使えば?
でもそれはもしかしたら新潟県が育ててきた『コシヒカリ』とは遺伝子上99%近く一緒でも1%違う”個体”かも知れません。
どうも”コシヒカリ信奉者”の皆様はBLは気になるけどこちらは気にならないようです。
どうにも傍から見ていると不思議です。
今までの『新潟県コシヒカリ』とは少しでも違えば嫌だ!と言っている農家の皆さんが、なんと、平気でその少し違う(かもしれない)『他県コシヒカリ』を使うんですから。

”個体”『コシヒカリ』は世間一般で表現されているほど絶対的で普遍的なものではないのです。
この点、多くの農家と消費者が誤解しているところであり、その理解不足の一端が『コシヒカリBL』批判とも言えると思います。(評論家(笑)の方々の売名行為も大きいとは思いますが)


こう書いていくとまるで”品種”はてきとーに簡便な範囲で許容されてるのかぁ…などという誤解のないよう言っておきたいですが
”品種”を守る努力と苦労は日本各地、各品種で行われています。
遺伝子単位での同一性の保持などという非現実的なことはしていませんが、品種としての栽培特性・性質が失われないよう、日々関係者の努力によって守られ続けているのです。


〇まとめ

TOKIOの『ふくおとこ』からなんだか脱線しましたが
こういった”品種”定義の変遷やある程度の寛容性を考えると、『ふくおとこ』もある時代では十分”品種”と呼べるのかもしれませんね。

あと、肝心なのが『男米』『新男米』『ふくおとこ』全てにおいて言えるのですが、本当に狙い通りの個体になっているのか、大いに疑問です。


いもち病に弱いけど美味しい品種】×【いもち病に強いけど美味しくない品種】

の組み合わせで【いもち病に強くて美味しい品種】が出来るというのは理想で、その通りになるものではありません。
いもち病に弱くて美味しくない個体】【いもち病にそこそこ強くてまぁ美味しいと言えなくもない個体】等中途半端な性質の個体が交配した後代のほとんどを占めるというのが実情です。(固定化されていない、遺伝子上の関連性質等、様々な要因がありますが)
最終的に人間の思い描くいいとこどりの性質を備えた後代は集団の中ではほんのわずかなのです。
『新男米』に食味で雑味を持つ『チヨニシキ』を交配したからって単純に足し算のように雑味が加えられるとは限らないのです。
海洋調査などでまさに奇跡的な発見が続いているTOKIOならば…もしかしたら一発で狙い通りの性質を…



ただなんにせよこれでは”品種改良”とは呼べません。
今回のこれはただの”人工交配作業”をして雑多な集団を手に入れただけです。
例えるならダイヤの鉱脈から一抱えの大きな岩を掘り出したにすぎません。
大きなダイヤの原石が埋まっているかもしれませんが、それを岩の中から見つけ出して、さらにその原石を磨き上げてこその”品種改良”。
交配の後の選抜が胆です。




な~んて小難しいような、重箱の隅をつつくような理屈を並べて見るような番組じゃないですよね、鉄腕ダッシュは

という話でした。



蛇足

2018年初頭はいろいろありましたが…
無事!18度目の米作りが始まりました!


TOKIOオリジナル品種『ふくおとこ』の更なる発展をお祈りします。





〇続報・系統選別開始(令和元年~)

選抜しなきゃ意味ないだろう、という体でずっと書いてきましたが、令和元年度から『ふくおとこ』は系統育種を開始するようです!
セオリー通り、F2世代を播種した昨年は様々な形質を持った雑種群として分化していたようです。

選抜系統は以下の三つ

◯『福の旅人』…稈長が長い系統(『いのちの壱』のような優秀な品種?)※1
◯『福のやまびこ』…出穂が早い系統(過酷な環境に強い?)※2
◯『No1太一』…見た目の粒が大きい系統

※1『いのちの壱』発見のエピソードから、「稈長が長い品種=美味しい品種」のように紹介されていましたが、稲の背の高さと美味しさに絶対的な相関関係があるわけではありません。(ある程度の傾向があることは否定できませんが)
※2「過酷な猛暑となった平成30年度でもいち早く出穂した!=過酷な環境に強い」のように紹介されていましたが、これは単に出穂期が早いだけ。耐暑性があるかどうかとはまた別の話です。(無論暑さに強い系統である可能性はあります)


水稲の育種についてはコチラ→『稲の品種が生まれる確率って?』←でも紹介していますが、いまだ雑種第二世代の『ふくおとこ』は遺伝子固定がガバガバのはずです。
昔はこのように初期から”優秀そうな個体”を選ぶ系統育種法が一般的でしたが、何度も言うように遺伝子の固定が完全ではないので、この時期に性質の優劣をつけても後代までそれが維持されることが実質少ないため、ほとんど行われなくなった方法です。

つまり【系統育種法】で
早い段階で選抜して、「美味しい、病気に強い品種」だと思っても
何年か育成していくうちに「美味しくもない、病気に弱い品種」になってしまった…ということが起こりやすいのです。


あくまでも可能性の問題なので、選抜されたこの3つの系統がどのような成長をしていくか楽しみですね!







2017年11月13日月曜日

福井県のポストコシヒカリ『いちほまれ』さんに対する疑問徒然(暴走気味です、お許しください)

1.福井県は「『いちほまれ』は平成23年に育種開始。育種期間6年」と言っているが

「親元の『富山67号』と『イクヒカリ』の人工交配は平成19年」

やっぱり育種期間6年じゃないんじゃないのか福井県?(10年ですよね?)
食味値なんかは盛大に盛るくせに、変なところで鯖を読む福井県。なんなんでしょう?



いちほまれのトコでも書いているんですが…


『1.育種期間6年』について
新しい記事を発見して、その中で福井県の冨田部長の発言?がありました。

やはり違和感しか感じない…


ポストコシヒカリ(今の『いちほまれ』)の育成が始まったのは平成23年だ。
でも交配は数年前に行っていた。←?
通常育種は10年以上かかるというのに、社会や農業の情勢はどう変わるかわからない。
だからいろいろな交配を行った材料をストックするという福井農試ならではの対応を行っていた。←?
ポストコシヒカリの育成を始めた平成23年に、当初の育成目標に合うようなストックがあった。
ポストコシヒカリの『目標に合った候補』20万種を1本1本手植えした→選抜・育成。

はい…はい?
記事を書いた人の解釈によるものなのか、冨田部長様が…いやそれなりの立場の人だと思うんですけど…なんでこんな言い方になるかな…
育種のカギを握る交配に関して(予測できる・あるいは予測できない)社会情勢、農業政策、気候変動あらゆる変動に対応できるよう(予算や圃場の広さもありますから無限にとはいきませんが)可能な限り多様な交配を試すのはどの試験場だってやってることではないのですか?(やってないのかな…)
しかも
『いちほまれ』の耐倒伏性や耐病性の高さは無論、高温登熟障害に対する耐性も10年前に交配したのならばそれほど革新的で奇抜な交配組み合わせとも思えませんが…(すくなくとも温暖化を予想できないようなご時世では既になかった…ハズ)育成途上の『てんこもり』を親株に使ったのならばまだ話は分かるんですが、『いちほまれ』の交配した頃にはとっくに育成終わってませんでしたっけか…?
なんだかなぁ…オーソドックスですよねぇ…
福井農試は色々交配したストックを持ってて、ポストコシヒカリのプロジェクトが立ち上がったから、ストックの中から『目標に合った候補』を選んで育種を開始した…?
そもそも世代促進しかしていないストックの中から育成目標に合ってる候補をどうやって選んだんですかね?
『コシヒカリ』を育成した時のように取り合えず交配した中から探してみようかなんて、まさかそんな本当の(悪い意味での)『コシヒカリを育てた技術』を使ったなんてオチではないですよね?

いえ、言われていることはわかるんですよ。
平成23年にポストコシヒカリ開発のプロジェクトが立ち上がって、(福井県から?)育種目標が明示された、と。

今(平成23年)から交配していたのでは最低でも10年はかかってしまう、と。

独自?の取り組みで様々な交配組み合わせをしていた福井農試には育成途上(世代促進中)の『てんこもり』×『イクヒカリ』の後代雑種(の他にも交配組み合わせがあったかもしれませんが)があり、『ポストコシヒカリ』の育種目標と一緒だった、と。

これなら育種期間を短縮できるよー、と。

だから平成23年が育種開始で、6年の育種期間なんだよ、と。

なんだかこじつけというか理由の後付け臭い…気がするんですよねぇ…
プロジェクトが立ち上がる数年前から、福井農試では既に次世代の主力品種用の交配・育種を始めていて、あとから県の予算が本格的についた、って話ならわかるんですが…(個人の偏見ですよ!)
色々交配してたら、急にプロジェクトが立ち上がったので、その育種目標に合うストックから選抜しました!って…なんとも違和感…
「急な要請にも応えられるくらい豊富な交配をしているんだよ福井農試は!」って言いたいようなんですが、【目標設定】→【交配親選定】→【交配・選抜】の流れが常識として頭に染みついている私にとっては、なんだか福井県の対応が後手後手というか…たまたまうまくいっただけじゃない?な感じが…
育種という行為自体多分に『偶然』が大きく働くことは理解しているつもりで、「結果良ければすべてよし」だとは思うんですが、でもあんまり褒められた話じゃないんじゃない…ですよね?
ってそんなこと米を食べる消費者には関係ない話ですし興味もないでしょうし、『いちほまれ』の味や品質にはまったく関わりのない話…のように思えるんですが、ですが、ですよ?
正しい情報を正しく伝えないような組織は、他のことでも情報を正しく伝えてないんじゃないか…と心配になってしまいます。


ちょっとなんなんですよの!
わたくしばかり批判するような内容ばかり!
管理人!
うるへー!
なんだか気になるんだよ!仕方ないだよ!

なっ…なにが気に入らないというんですの!


選抜作業を「1本・1穂手作業で」とか「20万種から!」とかいちいち凄いことのように宣伝してるあたりだよ!

日本全国津々浦々他の試験場の方々は手作業での選抜をしていないのか!?
機械刈り取りで楽してるのか!?

日本全国津々浦々の他の試験場では100種200種の中から選抜しているのか!?
ひとつの品種がそう簡単に見つかるものなのか!?
う…


普通だわ!(多分)普通のことだわ!
選抜作業が地道で華やかさのないひたすらでひたむきな【手作業】なのは!
選抜元が数万、数十万になるのは!
我々の食卓はそうした一般人にほとんど知られていない『日本全国』の試験場の職員・育種関係者の方々の努力に支えられているのであって、福井県が、いちほまれだけ別格なのか!?そうなのか!?
こうなるともうなんだかすべてが嘘に見えるわ!
食味官能試験0.70ですら怪しく見えるわ!
『嘘は言ってない』けどなんだか変な操作とかされてそうだわ!
さぁさぁさあ!どうなんだいちほまれ!
お前の本当はどこにあるんだよぅ!?
うう…


がるるるるぅぁ!
はい、そこまでにしておきなさいな。
この状況を裏返せば、いちほまれも福井県も、後にはもう引けないわよね~
人でも何物でも、強い光を受ければその分だけ影は濃くなりますわ。
コシヒカリの姿を見てきた貴女ならこの意味、わかってますわよね、いちほまれ?
…はい。
知名度が上がれば当然批判も増えますわ。
そういう事にも、少しづつ慣れなくてはね。
とは言っても、こんな育種関係の細かい事を、しかも詳細情報が明かされる前に決めつけて批判しているようなのは放っておいていいですわ。
福井県関係者もプロなんですからそう誤情報を流し続けるようなことはしませんわよ。(多分…)
もけ!?
はぁ~い
墨猫さんは寝る時間よ~
じゃあ~
いちほまれも、おやすみなさいね~
…がんばるのよ
…!
はい…ですわ…
わたくし…頑張ります!

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