2020年9月6日日曜日

飼料用稲(米)とは?


飼料用稲ってなに? WCS用品種? 飼料米用品種?

(※以下このブログにおける独自設定※)

WCS用品種の首長を務める中国飼198号『たちすずか』(ひよりやま)
飼料米用品種の首長を務める西海203号『ミズホチカラ』(みなみあるぷす)
WCS・飼料米兼用品種の首長および飼米っ娘全体の首長を務める北陸187号『夢あおば』(きたあるぷす)

(※以上このブログにおける独自設定※)

…と、それ以前に
そもそも飼料用稲(米)ってなんなのでしょうか?
なんでわざわざ『コシヒカリ』などではなく飼料用稲を作っているのでしょうか?
というお話。


前段(背景)

昭和37年(1962年)に1人当たり118.3kg/年のピークに達した米の消費量は、以後下降を続け、平成2年(1990年)には70kg/年、平成28年(2016年)には54.4kg/年まで落ちています。
個人の米の消費量が一貫して減少し、さらに日本の人口そのものも減少する中で、当然全体としての米の需要量も著しい減少を見せており、平成29年(2017年)算出の値で毎年8万トンもの需要量が減少(平成27年以降は10万トン/年とペースアップ)し続けています。

そのように需要の少なくなっている厳しい状況のお米ですが、それでも日本にとっては食料安全保障、食生活、農業・農村、国土・環境などに不可欠のものであり、日本人の歴史・文化とも密接な関係にあります。
稲作や水田の持つ多面的機能(景観の保全、地下水涵養など、食糧生産以外の機能のこと)を守る観点からも、主食用米の需要が少なくなったからと言って、水田も同じように減らす、と単純な対応は出来ません。

かといって需要を無視して大量に主食用のお米を作り続ければ、値崩れなどにより日本全体の稲作が大打撃を受けかねません。
となれば、余った水田で「主食用米以外」のものを育てる必要性に迫られます。(という政策が正しいかどうかはひとまず隅に置いておいて・・・)

所謂生産調整、転作と呼ばれるもので、水田で畑作物を育てるのもその一環ですが、その中でも今回の主題となるのが「飼料用稲(米※)」です。
※ただし「米」を収穫目的物としない場合もあるのでやはり「飼料用稲」が正確か。

特に土地柄、もしくは基盤整備が不十分で湿田となっており、畑作物には向かないような場所でも、飼料用としての水稲であれば問題無く栽培でき、かつ水田としての機能も維持できるため、より幅広く耕作放棄地の防止に役立つことが期待されています。
そういった水田保護の意味を持つ以外にも、外国からの輸入に頼っている飼料の国産化による食糧自給率の向上にも寄与できるとされています。
特に世界的な人口増による穀物需要の高まりから、飼料用穀物の輸入に関しても安泰とはいえなくなった近年は、国産体制の整備が急務とされています。(という政策が正しいかどうかは(以下略))


飼料用稲とは? WCS用・飼料米用・兼用

読んで字の如く…と言えばそのままなのですが
家畜の餌として利用することを目的とした稲のことです。

飼料用と一口に言っても飼料形態で二つに大別され、地上部全体(籾、茎、葉)を収穫しWCS(発酵粗飼料) として牛の粗飼料に利用されるWCS 用(茎葉が多収)と、牛や豚、鶏の濃厚飼料として用いられる飼料米用(籾が多収)とがあります。
籾及び茎葉の両方が多収で飼料米・WCS兼用とされているものも多いです。
※ただし飼料米用は加工用や業務用として用いられている品種もあり、飼料専用ではないものもある。

そんな飼料用稲に求められる能力は4つ、「収量性」「栽培特性」「病害抵抗性」「飼料適性」です。

「収量性」「栽培特性」「病害抵抗性」は「(籾もしくは茎葉もしくは両方の)収穫量が多く」「多肥栽培でも倒れにくく」「病気などにも強く育てやすい」事が求められているのですが、これは全て「低コスト」に繋がるものではないでしょうか。
前述したとおり、家畜の飼料は海外からの輸入に頼っているところが大であり、当然その価格も日本の主食用米とはすさまじく大きな差があります。
なのでなるべく手を掛けず(病気にかかりにくい、倒れにくい)、単位面積当たりの収量もなるべく多い(たくさん穫れる)品種が飼料用稲には求められています。

最後の「飼料適性」については、家畜の嗜好性やWCS(後述)にした場合のTDN(後述)の高さなどが求められ、米の味や品質などに注目して育成される主食用品種とは違い、茎や葉の消化性の良さなど、まさに飼料用として求められる能力のことを指しています。
前述した「栽培特性」、所謂「倒れにくさ」は茎が固いことで獲得することも多く、その為にはリグニンケイ酸といった成分が多い方が良い(固くなりやすい)のですが、これらは難消化性のため、この「飼料適性」の点から見るとあまり好ましくなく、単純に倒れにくい稲を育てればそれでよしとはいきません。
飼料用品種の育成も一筋縄ではいかない事がうかがえますね。


キーワード 【WCS】 【TDN】

飼料用稲を理解するのに欠かせない「WCS」や「TDN」という単語の意味は次の通りです。


○【WCS】ホールクロップサイレージ(発酵粗飼料)
稲やトウモロコシなどの高栄養の子実と繊維質の茎葉を持つ作物をまるごと収穫し、サイレージ発酵させた粗飼料。
稲の場合、出穂期以降に刈り取った稲体をロール状に梱包した後、ラップ材でラッピングする。
稲に付着している乳酸菌(人間の手で添加する場合も多い)により発酵させ、栄養価の向上に加えて、嫌気状態となることで長期保存が可能となる。
「稲発酵粗飼料」「稲WCS」とも表記、口頭では「ホールクロップ」と略すことも(多分)。
稲WCS(ホールクロップサイレージ)
稲WCS(ホールクロップサイレージ)例(おふざけ)


○【TDN】可消化養分総量
飼料がいくら栄養素を持っていても、それが家畜に消化吸収されなければ意味がない。
そこで家畜が飼料を食べた際に消化吸収する三大栄養素、「炭水化物」「タンパク質」「脂肪」について、飼料中の何割の養分を実際に消化吸収できるか示す単位が考案され、以下の式で算出されている。

TDN含量(%)=可消化粗タンパク質+可消化粗脂肪×2.25+可消化粗繊維+可消化可溶性無窒素物
(脂肪に2.25がかかっているのは、他の3栄養素の2.25倍の熱量を持つため)

TDNの値が高いほど消化吸収されやすい飼料、値が低いほど消化吸収されにくい飼料との解釈(でいいんでしょうか…)
ただしエネルギー評価指標として精密性に欠けるとの指摘もあり。
専用品種は50%~60%のTDNとなっていることが多い。
栄養価は基本的に籾の方が高い(不消化の問題を除く)ため、籾と茎葉部分でTDN値は異なっている。

TDN(可消化養分素量)例
【注】使用している値は何の根拠もありませんテキトーです【注】
「貧籾はステータスだ、希少価値だ」




飼料用の専用品種は?(専用以外でも…)

話は戻って

農研機構を中心に専用品種の開発が盛んに行われており、飼料用としての要求を満たした新品種が数多くあり、特に飼料米用品種としては、「需要に応じた米の生産・販売の推進に関する要領(令和2年度現在)」において、国が認可している「多収品種」各都道府県が認可している「特認品種」の2つの区分が設けられています。

国の委託試験等によって、飼料等向けとして育成され、子実の収量が多いことが確認されている「多収品種」は令和2年度現在で25品種が指定されています。
概ね700kg/10a以上の収量(粗玄米重)を持つ品種が並びます。

対する「特認品種」は、一般的な品種と比べて子実の収量が多く、当該都道府県内で主に主食用以外の用途向けとして生産されているもので、全国的にも主要な主食用品種ではないもののうち、知事の申請に基づき地方農政局長等が認定した品種のことを指します。


一方で一般の主食用米品種を飼料用として使用していることも多いそうで、後述する交付金の面や収量などで不利な点もありますが、漏性稲やコンタミ(異物混入)にそれほど気をつける必要も無く、今までの栽培感覚で扱えるなどの点から一般用品種を用いる農家さんも居るそうです。(要出典…ちょっと情報精度に難あり?)

福島県の主食用米品種『天のつぶ』も生産の大半が飼料用、なんて報道がありましたね


飼料用稲の注意点


「飼料用」という新しい分野ですので、当然栽培するに当たってもいくつか注意点があります。

①コンタミの防止(飼料米用品種)
飼料米用とされている品種は当然人間が食べて美味しいお米でないことが多いです。
識別性を持たせるためにお米の品質が非常に悪い品種も珍しくありません。
そんな飼料米が一般に栽培されている『コシヒカリ』や『ひとめぼれ』に混ざってしまっては大変です。
収穫する機械(コンバイン)の清掃を徹底するなどして、主食用と飼料用が混ざることのないように気をつける必要があります。

②漏性稲への対応
前述のコンタミの防止と同様ですが、飼料用稲品種を栽培した後に主食用米品種を植えた場合、前年のこぼれ籾による漏生稲の発生にはより注意が必要です。
『タカナリ』『もちだわら』『北陸193号』などは脱粒しやすく、越冬しやすいとされています。
基本的には飼料用の水田は固定されることが望ましいのですが、熟期が遅いものを採用してそもそも熟する前に刈り取る、畑作を一回挟んで水稲をいったん根絶するなど対応が必要です。

③除草剤による薬害の確認
飼料用として育種された品種は外国の品種を交配している場合も多く、日本で栽培されている品種に一般的に使われている除草剤に感受性を示すもの(枯れてしまう)ものがあります。
ベンゾビシクロン、メソトリオン、テフリルトリオンという成分が含まれた除草剤は、従来の除草剤(スルホニルウレア)への耐性を獲得した雑草に極めて有効とされ、活用されていますが、一部の飼料用稲品種にはこの農薬成分で薬害が発生してしまうのです。
国指定の多収品種では『タカナリ』『オオナリ』『モミロマン』『みなちから』『ミズホチカラ』などで使用不能で、都道府県指定の特認品種でも『ふくおこし』や『兵庫牛若丸』などが使用不能とされており注意が必要です。
栽培予定圃場での耐性雑草発生状況、採用予定品種についても感受性の有無について確認が必要と言うことですね。

冒頭の3人衆のなかでは『ミズホチカラ』が感受性(薬害を受けます)



補助金漬け…な実態

飼料用米は平成26年度から「数量払い制度」により、収量に応じた交付金が水田活用の直接支払い交付金により支払われています。(55,000~105,000円/10a)
加えて国の追加配分として「多収品種への助成」(12,000円/10a)と産地交付金の県設定枠として「一般品種への助成」(2,000~3,000円/10a)もあります。

各都道府県によって別枠の交付金を設けているところもありますが、収量条件さえクリアできれば10aあたり12万円は補助金がもらえる計算です。

このような状況ですから“補助金漬け”との批判はあり、正直その通りでしょう。
ただこれは外国産の飼料と同じ金額で畜産農家が飼料用稲を使用できるようにするためで、それだけ外国産飼料は安く、これだけの補助金をつぎ込まなければ農家の生計が成り立たない、ということです。

これが良いか悪いかという議論はありますが、とりあえず棚上げしておいて…

そのような体制で2019年産までは国が指定する「多収品種」を作付けするだけで追加の交付金12,000円/10aが出ていましたが、2020年産からは飼料用米や米粉用の複数年契約を結んだ水田に対して12,000円/10aを交付するようになりました。
品種を選んで作付けするだけでもらえるような交付金では、農家の増収意欲を削ぎかねないということで「多収品種への助成」は廃止を含めて見直されます。
一方で、毎年の面積変動が大きい飼料用米の安定生産・供給に寄与するとして、複数年契約を結んでいる水田に対しての交付金が新設された形です。


最後に

平成20年に0.1万ha程度だった飼料用稲は、令和元年度で7.3万haまで増加しました。(とは言えピークだった2017年の9.2万haよりは減少)

この間、日本全体での水田の耕作面積は、需要減の勢いには反してほぼ横這いを維持できており、主食用米需要の減少による生産面積減少を、加工用米などの新規需要米やこの飼料用米の作付面積の増でカバーしている状況です。

日本の水田を、稲作文化を守る一助として、飼料用稲の活用は不可欠であると個人的には思います。

そして各機関で開発されている専用品種達は、主食用品種とは違う、目的に沿った突出した能力を持っていることは間違いありません。
そんな彼女達の今後の活躍に期待ですね。

東北(青森除く)の飼料用品種代表格2名『べこあおば』さんと『べこごのみ』さん



参考資料

○「イネで牛を育てる 農林水産研究開発レポートNo.15(2006)」:農林水産省農林水産技術会議
○「米をめぐる関係資料 平成30年7月」:農林水産省
○「飼料用米の推進について 令和2年8月」:農林水産省政策統括官
○戸別所得補償モデル対策 食料自給率の向上のために!(農林水産省):https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1011/report.html


2 件のコメント:

  1. 飼料用米も食用米とはまた別の利点があるんですね。確かにあのホールクロップサイレージなどもよく田んぼなどで見かけますが正直、つい最近までただの置物かと思っておりました(笑)
     私の友人に米穀店を営んでいる方がいるのですが、飼料用米のことで聞きたいことがあると申し出るとちょっと待ってろと言われお店の店頭で数時間待たせられるし...来たら来たでやっぱし俺もようわからんかった。と言われる始末...(実際のところその友人も食用米などのことは知っているようですが飼料用米についてはよくわからないとの事)農家などの方々にも聞いて情報収集したいところですがこのご時世だとうーん...。
    どうしようかなー...。(という私のクロネコさんに対するごちゃごちゃな愚痴でした)
     by12TK

    返信削除
    返信
    1. 飼料系はとにかく実態が目に見えないのでわかりにくいですね…
      「飼料米用」や「WCS用」として作付面積統計はあるものの、専用品種使っているのか主食用品種の流用なのかもいまいちわかりませんし…
      優先してどの品種を擬人化したらいいかも判断つきかねます…なんてのはあくまでも稲ヲタク視点での話ですし

      せっかく米穀店の方とお知り合いでしたら、売れ筋の品種や産地なんかを教えていただいて「美味しいお米」をより追い求めてみてはいかがでしょう(^o^)
      各県推しのブランド米以外にも美味しいお米がきっとあるはず…!
      作り手や開発者以外の視点の情報って貴重ではないでしょうか


      それにしても
      早く平常運転に戻れるといいなぁ、と私も思います。

      削除

ブログ アーカイブ

最近人気?の投稿