2021年12月26日日曜日

『山田穂』の正式名称は『新山田穂1号』?『山田錦』の母親?白鶴酒造誤情報覚え書き


今日のお題はこちら。

タイトルにもある通り“山田穂の正式名称は新山田穂1号”という誤った説についての解説?です。
はい、”誤った”と書いてますが、これ明確に、議論の余地なく間違いです。

それでもいろんな酒屋やサイトでこのように説明しているのを見たことがないでしょうか?
また、“『山田錦』の母親は『新山田穂1号』だ“としているサイトまであるようです。

なぜこのような誤情報が拡散されて根付いてしまうに至ったのか?(と、もう既にタイトルバレしていますが…)

元凶が「誤解を修正」するのではなく、削除してなかったことにしてしまったので、このままでは後世に謎が残ってしまうと思い、備忘録的にこの記事を作っておこうかと思います。
『新山田穂1号』等各所でも軽く触れているのですが、改めて全体の経緯を残しておきたいと思います。

何より消費者の正確な情報選択の一助になりますように。

 
目次




 
まず基本から 在来種『山田穂』について

『山田穂』は明治時代の兵庫県の在来種です。

その由来については3つほど説がありますが、いずれにせよ少なくとも明治時代には広く兵庫県内で栽培されていた品種(群)であることは間違いありません。
兵庫県農事試験場ではこの品種群『山田穂』を収集し、明治45年(1912年)に原種(奨励品種)に指定しています。
原種指定するにあたってはある程度の選抜(純系淘汰)が行われたことが予想され、兵庫県農事試験場が配布していたのは『山田穂(在来品種群)』とは大なり小なり異なり、特性が統一された『山田穂(純系淘汰)』と言うほうがより正確でしょう。

『新山田穂1号』は大正時代に『山田穂』からの純系淘汰で育成された品種です。
妹に翌年育成完了した『新山田穂2号』がいます。
妹の2号とは違って、選抜当初年の業務行程に収集先の記載がなく、どこからどのように集められた『山田穂』群から選抜されたかは不明ですが、大正10年(1921年)に『新山田穂1号』と命名され、従来の『山田穂』に代わって原種指定されています。

そして
酒米の王として有名な『山田錦』の母本は『山田穂』であり、「これ以外の記録は令和元年現在見つかっていない」と兵庫県酒米試験地から回答を得ています。
時代から考えて、原種指定から外れてはいたものの、『山田穂(純系淘汰)』が『山田錦』の交配親となったと推測され、『新山田穂1号』が交配親になったという記録はありません。


育成者の後継組織である兵庫県酒米試験地の回答ですから

『山田錦』の母本は『山田穂』

これは新しい記録が見つかりでもしない限り覆ることはありえません。
ですから“『山田錦』の母親が『新山田穂1号』”ということはあり得ません。
そして同様に“『山田穂』の正式名称が『新山田穂1号』”などという事実も当然ありません。

ただ、これは誤解のないように断っておきますが、一般に知られている名前と品種名が異なるという事例はあります。
令和3年度で「新潟県産コシヒカリ」の正式な品種名は『コシヒカリ新潟BL1号』『コシヒカリ新潟BL2号』『コシヒカリ新潟BL3号』『コシヒカリ新潟BL11号』の4種混合…というように「(品種の)正式名称が他にある」ことは、ないわけではないです。
『新山田穂1号』と同時代(大正~昭和)にも、例えば三重県では『伊勢錦92号』『伊勢錦100号』『伊勢錦133号』『伊勢錦222号』『伊勢錦241号』『伊勢錦279号』『伊勢錦416号』『伊勢錦656号』『伊勢錦713号』『伊勢錦722号』延べ10品種がすべて「伊勢錦」の名称で普及されており、有名な岡山県の「雄町」にしても最多期には『雄町2号』『雄町4号』『雄町288号』『雄町92号』『雄町98号』の5品種を含んでいました。
ただ、繰り言になりますが、兵庫県で『新山田穂1号』を『山田穂』の名で普及していた、そんな記録はありません。(あります?)

改めて整理すると、冒頭の珍説はいずれも荒唐無稽な間違った情報と言うことになりますが、それにしてもいろんなところに広まっています。
どこが震源地なのでしょうか。


ではどこから始まった誤情報?⇒白鶴酒造HP

『山田穂』は正式名称を『新山田穂1号』と言い、これが『山田錦』の母親である、という間違った情報

タイトルにもありますが、これは白鶴酒造のホームページから拡散した誤情報です。
今では削除されてしまったため通常の検索ではアクセスすることができず、過去のホームページを保存している各種サイトを利用しないともう見ることはできません。
仮に誤用している人たちが改めて確認しようとしても、再度見ることができないために正誤も分からず、さまよってしまうような状態になっています。

この件に関しては白鶴酒造に問い合わせをして回答を得ていましたので、それを踏まえて解説しています。

今回記事を作成するに当たり、デジタルアーカイブサービスであるウェイバックマシン(Wayback Machine)から平成29年(2017年)5月時点での白鶴酒造ホームページを参照しています。
スクリーンショットでも載せたいところですが、著作権的にもどうかと思うので雑な自作図で…
気になる方はウェイバックマシン等、デジタルアーカイブサービスを利用して該当ページを探してみてください。



幻の酒米?山田穂?のサイト説明

白鶴酒造のホームページで“幻の酒米「山田穂」”と銘打って、最初に「幻の酒米、山田穂とは?」というタイトルの解説が以下の通りのものでした



最初に「山田穂は正式名称を新山田穂1号という」と書いてあって、最後の文では「山田錦はこの山田穂を母親として交配」…
この文章を読んで「山田錦の母親=山田穂=新山田穂1号」だと思わない人はいるのでしょうか?(いや、いない)
さらに極めつけが同ページ内に掲載してあったこの系譜図です。




こんなものが載せてあって、前述の記載があったら100人が100人「山田錦の母親は新山田穂1号なのか」と考えるのが当然でしょう。
(ちなみに巻き添えを食っている『京ノ華1号』ですが、こちらは交配親が「新山田穂」としか記録されていないために、『新山田穂1号』か『新山田穂2号』か、どちらを親に使ったか分からないという性質のもので、白鶴酒造と同様の謎宣伝をしているわけではない点にはご留意ください)



さらに続く謎説明 『白鶴錦』の育成

さらに『白鶴錦』について記述した「独自酒米「白鶴錦」の誕生」という頁では以下のような説明があるのでさらに混乱を招いている印象です

【抜粋】
「山田錦」の母にあたる「山田穂」と父にあたる「渡船」を約70年ぶりに交配させ、「山田錦」の兄弟品種を作る試みです。

『山田錦』は母本『山田穂』と父本『短稈渡船』の交配です。
もう各所支離滅裂で何を言っているんだと思っていましたが…
これに対する白鶴酒造の回答は以下のようになります。

【質問①】
『山田錦』の両親は兵庫農試が純系淘汰した『山田穂』と『短稈渡船』であるのに、なぜ『山田穂』『渡船』と違う品種を掲載しているのか?


【白鶴酒造回答①要約】
山田錦の両親は『山田穂』と『短稈渡船』である。
だが一般にわかりやすいようにホームページでは厳密な学術的表現ではなく広義で比喩的な表現を用いている。
だから
“「山田錦」の母にあたる「山田穂」と父にあたる「渡船」を約70年ぶりに交配させ~
“「山田錦」の母にあたる「山田穂系の米」と父にあたる「渡船系の米」を約70年ぶりに交配させ~”
という意味だ。



????????????
「山田錦の両親」という狭義で具体的な対象を持ち出しておいて、その対象が“広義で比喩的な表現をしているから“とやらで「山田穂系の米」と解釈しろ、とは無理が過ぎませんか?
一切の但し書きも無しに一般消費者が「両親品種」と書いてる内容を「広義的な意味の両親のことか」と理解する…そんなことがありますか?

…ただここは本筋ではないので「白鶴酒造は『山田錦』の両親品種を『山田穂』と『短稈渡船』であると認識している」、ここだけ押さえていてください。

次は本題の「山田穂」関係について聞いてみました。


「山田穂」関係の白鶴酒造の回答は?



【質問②】
山田穂の正式名称が「新山田穂1号」などという事実はないはずだが、何を根拠にあのような宣伝をしているのか?


【白鶴酒造回答②要約-1】
ホームページの記述は“当社が復活させた山田穂”について書いている



????????????
先にはっきりさせておきますが、白鶴酒造で復刻栽培しているのは兵庫県で保存していた『新山田穂1号』で、これは明確な事実です。
”当社が復活させた山田穂”とは何を言っているのか?となりそうですが、この回答には続きがあります。

【質問②】

続【白鶴酒造回答②要約-2】
当社で復活させたのは『新山田穂1号』。
『新山田穂1号』は在来種『山田穂』から選抜されたのだから、山田錦の母親となった『山田穂』と同時期に同県下で“山田穂”として栽培されていたもの



??????????????
はい、余計意味が分からなくなりました。
「同時期に兵庫県内で“山田穂”として栽培されていた」…?
そんな記録どこにあるんでしょうか?
試験場の業務功程でも、原種(奨励品種)指定も、明確な別品種として扱っていたはずですが?
ちなみに先に紹介した系譜図の横にはこんな謎の文言が載っていました。

上図の赤波線部分「同じ品種と考えられている」とは一体…?

遺伝的に近縁であることは推測されますが「同じ品種」とまで言っているのはどこの誰でしょうか?
『新山田穂1号』はどこで栽培されていた『在来山田穂』から選抜されたか記録が残っておらず、『山田錦』の母本『山田穂』との関連性はあくまでも不明のはずですが…?
それに『新山田穂1号』の育成時に『在来山田穂』より稈長が常に15cm以上短かった記録との整合性をどう取るつもりなのでしょう?

ちなみにここでも『新山田穂1号』のことを「山田穂」だと書いており、「新山田穂1号は農林水産省農業生物資源研究所の植物遺伝資源としての登録名」と、まるで「あくまでも本来の呼名は”山田穂”である」とでも読む側に思わせたいかのような文章になっていますね。
登録名も何も、兵庫県では大正時代から『新山田穂1号』の名前で扱われており、「山田穂」の名前で扱われた記録は何もない、というのは前述したとおりです。


それにしては白鶴酒造はなんとも謎主張を書き連ねているものです。
きっと私が知らない何か論文なり記録があるのだろう、ということで
これには追加で質問を行いました。

【質問③】
現存する兵庫県立農事試験場の業務功程全てを当たったが、試験場で『山田穂』と『新山田穂1号』は明らかに別品種扱いしている。
「同時期に同県下で“山田穂”として栽培されていた」とする根拠は何なのか?


【白鶴酒造回答③要約-1】
当社の言う“同時期”とは品種命名以前のことだ

『新山田穂1号』は在来種:山田穂から選抜された品種だ。
これらのことを根拠(※1)に山田錦の母親山田穂も、後に新山田穂1号と命名される在来種:山田穂も、同時期に兵庫県下で栽培されていたものであり、当社では広義的に同じ総称である山田穂として扱っている。


※1「これらのこと」とそれっぽく書いてますが、原文も『新山田穂1号』の選抜経過が書き連ねてあるだけで、結局選抜元は不明ですし、「山田錦の親:山田穂」については一切書かれておらず、何をもって”同じ品種である根拠”なのか…意味不明です。
在来種を遺伝的に均一な集団と考えているなら明らかな間違いで、「同じ名前の在来種から選抜されたから同じ品種」は間違いです。
そんなことない、と養護する人が時たま現れますが、「神力」と呼ばれていた「山田穂」がある、等々の複雑怪奇な関係性把握していないからでは?

なんにせよ
??????????????????????????????????
状態になりましたが
…さらに白鶴酒造の主張を並べると以下の通りです…


【質問③】

続【白鶴酒造回答③要約-2】
そもそも山田錦は大正期に交配された品種であり、遺伝的な真の母親(個体)は現存していないのは自明であり、「山田錦の母親」という表現は「真の母親と類似した同系の米」を指す比喩として認識されると考えるのが自然である



この時点での本音を一言で書くと「は?」に尽きます…

「山田錦の母親、山田穂を復活させ使用」

この文章は

「山田錦(は大正期に交配された品種なので、遺伝的な真)の母親(は現存していないのは自明であるので、「真の母親と類似した同系の米」)山田穂(系の米=『新山田穂1号』)を復活させ使用」

と読み取るのが“自然”だそうです。
全く読み取れなかった私はきっと不自然な人間なのでしょうね(棒読み)
皆さんはどうですか?

…………………………………
いくらなんでも無理があるでしょう…と思うのは私だけでしょうか。
というか「同じ品種と考えられている」ってさも一般論であるかのように書いておいて、実際自分たち(白鶴酒造)が勝手に同じ品種だと言い張っているだけではないですか…(それでその根拠は?)

それに、「幻の山田穂」のページは“当社が復活させた(自称)山田穂“についての説明だそうですが
「山田錦は、この山田穂を母親として1923年に兵庫県で人工交配」と書いているではないですか。
「当社が復活させた(自称)山田穂」『新山田穂1号』なのですから既に矛盾しています。
『白鶴錦』の質問で白鶴酒造は「山田錦の母親は山田穂だ」と答えているのですから、事実と異なるとわかっていながらこのような表現をあえてしているのは明らかです。
つまりこれは
「山田錦の母親」という売り文句を使いたいが為、それだけの為に、別品種である『新山田穂1号』を企業側に都合の良いように「山田穂」と宣伝していただけではないのですか?

そもそも
『白鶴錦』の説明ページの「山田穂」は「山田穂系の米」
「山田穂」の説明ページの「山田穂」は「当社が復活させた『新山田穂1号』」
と、説明も注意書きもないこんな企業側に都合の良いような解釈するのが”自然”と言われるとは…
この通りに解釈する消費者が多数、と本気で主張するつもりなのでしょうか。
どれもこれも後付けで企業側に都合の良いように拡大解釈した回答を送られたようにしか感じませんでした。



企業側にとってだけ都合の良い解釈

何が企業側にとって都合が良いのか、と思った方

管理人が指摘する以前に販売されていた白鶴酒造の商品「超特選純米大吟醸 山田穂」はこちら(雑作画)
※実際の商品を見たい方は検索してください。すぐ見つかるでしょう。



箱にも“山田錦の母親”と書いてあって、大きな文字で「山田穂」と…
さらに表書きの説明にはやはり「山田錦の母、山田穂」という旨の説明…
これで消費者が「実際は近縁な『新山田穂1号』を使用していると理解するのが自然」というなら、世間の人はエスパーかなにかですか?

ちなみに瓶の封緘紙や中に入っているリーフレットには一応(新山田穂1号使用)と書いてはありますが(雑作画)


こんなもの消費者が購入する時に目にできるような場所ではないと思うのですが…
実際各所でネット販売しているこの「超特選純米大吟醸 山田穂」で、この「新山田穂1号」部分が視認できるものを私は見つけられませんでした。(だから確信が持てなくて企業側に問い合わせる必要が出てきたわけですし…まぁ最終実物確認するしかなかったわけですが)

目立つところに(曖昧な)目を引く情報、肝心なことは目立たないところに…まるで典型的な詐欺商法の手口のようではないですか。(契約書に極小さく欠いてある特約事項…的な)
景品表示法的にもこういう行為(目立たないところに注意書き、的な)はもろアウトです。

これについて白鶴酒造からは「清酒の製法品質表示基準に則り表示している」と回答されました。
それらしいことを書いておけば納得するだろうとでも思われたのかもしれませんが、「清酒の製法品質表示基準」に品種名についての定義はなく、「品種名が表示できる」と定められているだけです。(短稈渡船とは?~4~【番外編 日本酒の品種名表示のルール】
その表示の可否は「その品種名であることについて説明責任を果たせるかどうかになる」との国税庁の回答も得ているので、「清酒の製法品質表示基準に則り表示している」など何の意味もない回答です。

さて、本筋に戻って

山田錦の母親の「山田穂」をつかったお酒

酒米の王と呼ばれ知名度も高い『山田錦』に関連して、一企業が出すこのような売り文句を見れば大多数の人間はこの言葉通りに受け取るのが当然ではないでしょうか。
山田錦の母親の「山田穂」を使っているのか、なら買ってみよう」と。

しかしその実
企業側は

山田錦の母親が残っているわけないですよね?
山田錦の母親の「山田穂」ではない「近縁の山田穂系の米」って意味です
山田錦の母親の「山田穂」ではない「新山田穂1号」です(それが正式名称で山田錦の母親です(?))
それが自然でしょう?

と言うんですから
そして繰り言ですが中身を開けてみないと、購入してみないとそもそも『新山田穂1号』を使用していることに消費者側は気付けません。

これ、言葉通りに受け取った消費者側だけが馬鹿を見ていませんか?
消費者の誤解を良いように企業側が宣伝に利用していることにならないのですか?
商品選択の際に消費者の混同や誤解を生むような行為は、これは景品表示法の優良誤認行為や不正競争防止法の誤認惹起行為等々…法的にも問題があるものです。

最後に そんな理論が許されるのか

そして最後に個人的に許せないのが、回答中にあったこの表現です。

【白鶴酒造回答】
実際に「山田穂使用」商品の開発経緯については、記者会見でも公表し、論文も投稿しましたが、酒米及び醸造の専門家からも、あるいはマスコミ関係者、一般消費者からも問題があるとの指摘や意見はありませんでした。(原文まま)


そもそも「論文でも投稿した」とそれらしいことを書いてますが、実際提示されたこの論文とは「新山田穂1号の品種特性」です。
読んで頂ければ分かるかと思いますが「山田錦の母親は広義的な意味で新山田穂1号だ」なんて荒唐無稽なことを書いていないのですから当然専門家から指摘が入るわけがありません。
それに言っては失礼ですが『短稈渡船』の例で分かるように、自浄作用が全くないことが分かっている醸造関係者から指摘がなかったからなんだというのでしょうか?
ましてやマスコミや一般消費者など何も分かっていないド素人中のド素人です。
酒米関係の知識なら「“北から太陽が昇る”と言われればそのまま信じる」レベルでしかないでしょう。
そんな人間まで比喩に出して「指摘がなかったんだから問題ない」と言わんとするかのようなこの回答、いかがなものでしょうか。

冒頭で書きましたが、個人や酒屋、果ては酒蔵ですら「山田錦の母親は新山田穂1号です」と明らかに間違った情報をそのまま拡散している現状があることを伝えているのに、このようなことを言われるとは…
他者に責任転嫁するようなこんな主張には個人的には納得しかねます。

以上のようにいかにも自分たちの都合の良いような解釈を白鶴酒造は主張していますが、無責任にもこれらの元凶となったページを削除し、訂正情報発信はされていません。
仮に白鶴酒造の商品の表示が是正されても、根付いた誤解は修正されることともなく、変な誤情報はこれからも残り続けることになってしまいそうです。


この調子では過去の日本酒専門誌などでも多数引用しているでしょうから、さらに先の未来で情報の混乱を生むのは間違いないでしょう。


まとめ


山田錦の母親は『山田穂』であり、『新山田穂1号』ではない
育成者の兵庫県が公言しており

選抜経緯や時代を考えて『山田錦の母親・山田穂』と『新山田穂1号』が非常に近縁である可能性はあるものの
証明されていませんし、証明自体不可能です。(山田錦の母本となった『山田穂』の情報ってあるんですか?あったとして?)


『山田穂』は正式名称を『新山田穂1号』と言い、これが『山田錦』の母親である(という誤情報)

これは結局、白鶴酒造が残した負の遺産と言ったところでしょうか。
失礼
“自然な人間”であれば白鶴酒造の意図を正確に読み取れるそうなので、私のような不自然な人間達が勝手に勘違いしただけなのでしょうね(棒)
消費者に聞き取りを行っても、誤解や混同していない人が大半である…と、白鶴酒造は自信があるのでしょう。


白鶴酒造が勝手に「山田穂」と言い張っているのは『新山田穂1号』です。
「山田穂」の正式名称が『新山田穂1号』、などということはありません。

真面目な話



何年前からこのような誤解を生む表現が放置され続けたか不明(先のデジタルアーカイブサービスでは少なくとも平成24年10月には存在)ですが、誤解や混同により消費者に明らかに間違った情報を植え付け、正常な商品選択するにあたって正確な情報を得るのが困難になっています。
それを是正する意味を兼ねてこちらを掲載しています。

白鶴酒造に言わせれば
「山田錦の母親復活」の文字を見て純粋にそのまま信じて買う消費者の方が悪い(母親品種そのものじゃなくて近縁な米使っているに決まってる)らしいですが、そのような主張にはとてもではないですが同意しかねますし、この経緯を公開もせず、世間の誤解をそのままにすることもできかねます。


なぜ消費者側に誤解を生む余地を残しても謎理論で「山田穂」と表示する必要性があるのか。
なぜ素直に「新山田穂1号」として売ることができないのか。
結局「売り文句として魅力がないから」ではないのですか?


説明されていないことを企業側に都合の良いように解釈すると決めつけている点も実に不可解です。

2回目の問い合わせの際に書面で公開の要望をしましたが無視され
一時的に掲載されていたホームページの内容も誤解を訂正するものではなかった上にそのページすら削除されては、公益性を鑑みこのような方法で公開せざるを得ません。

先にも書きましたが既に広範囲に誤情報が根付いている以上、白鶴酒造が変な表示を止めるだけでなく、訂正情報発信を行わなければ是正されることはありません。
ここで訂正情報発信を行っていきます。




蛇足 『白鶴錦』の両親品種

前述してきたように、白鶴酒造のホームページを見れば普通…失礼、普通でない人間にとって白鶴酒造は
・『新山田穂1号』のことを「山田穂」と呼称していて
・『新山田穂1号』が『山田錦』の母親だと言っている
こう受け取ることでしょう。

これに輪を掛けて「独自酒米「白鶴錦」の開発」の緒言ではこんなことが書いてあります。


(前略)このことから山田錦の優れた酒造特性は両親品種から受け継がれていると考えられ、山田穂・渡船と類似していると考えられる新山田穂 1 号、渡船 2 号などの交配によって、新規な優良酒米取得を目的とした育種を行なった。


この2点を踏まえて
農林水産省における品種登録情報では『白鶴錦』は「山田穂と渡船2号の掛け合わせである」と書いてあれば

「山田穂」ということは、表記は「山田穂」でも品種は『新山田穂1号』なんだな
『白鶴錦』の母親が『新山田穂1号』で、父親が『渡船2号』なのか

こう解釈する人が少なくないのではないでしょうか?
というか実際コトバンクや酒米ハンドブックでも一部誤記載されていたほどですから、興味を持って真面目に資料を読み込んだ人ほどこのドツボに嵌まることでしょう。


結論から言えば

『白鶴錦』の母親は『山田穂』で、父親が『渡船2号』です。

実は正式名称が別に、とかありません。
『新山田穂1号』は親品種ではありませんし、ついでに『渡船』も親品種ではありません。

白鶴酒造の言う「自然な解釈のできる人間()」が少ないせいか、大分混乱が見られますが

『白鶴錦』の母親は『山田穂』で、父親が『渡船2号』です。


育成者の白鶴酒造がそう言っているのでとりあえずそう信じるしかないでしょう。
真相は闇の中ですが。



参考文献

ウェイバックマシン:https://web.archive.org/web/20200619101627/http://www.hakutsuru.co.jp/community/invent/yamadaho/index.shtml
〇酒米品種「山田錦」の育成経過と母本品種「山田穂」、「短稈渡船」の来歴:兵庫農技総セ研報
〇業務功程 大正4、6、8~14年度:兵庫県立農事試験場
〇水稲試験成績(大正4~5年度成績):兵庫県立農事試験場
〇米麦試験成績(大正6年度成績):兵庫県立農事試験場
〇農事試験報告(大正7年度成績):兵庫県立農事試験場
〇酒米を中心とした水稲遺伝資源のDNA多型:兵庫県農林水産技術総合センター研究報告.農業編
〇酒米品種「山田錦」の育成経過と母本品種「山田穂」、「短稈渡船」の来歴:兵庫農技総セ研報
〇新山田穂1号の品種特性:
〇ひょうごの農業技術No.111~特集 酒米生産現場の取り組み~:兵庫県立中央農業技術センター
〇水稲及陸稲耕種要項(昭和11年3月発行):農林省農務局:兵庫県立中央農業技術センター
〇醸造試験所報告第79号(酒造米ノ理化学的調査):醸造試験所
〇独自酒米「白鶴錦」の開発:白鶴酒造
〇新山田穂1号の品種特性:白鶴酒造他


2021年12月25日土曜日

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