2019年12月16日月曜日

幻の酒米『渡船』?~産地品種銘柄とは?品種名?商標?~


短稈渡船とは?~3~【在来種『渡船』について】で判明しましたが、産地品種銘柄に設定されている『茨城県産渡船』について、設定されている品種はなんだかよくわからないモノです。

「え?産地”品種”銘柄なのに”品種”が分からないってどういうこと?」

となる人が大半ではないでしょうか?


「お米に関する名前」は大別して三種類

このブログ内でも度々用いていますが、”お米に関する名前”として世間一般で皆さんが目にしているものは

①品種名
②銘柄名(産地品種銘柄)
③商品名

大別してこの三種類の内のどれかだと思われます。

ただ、メディア、業者、個人等がこの名称を使うにあたっても、この三つの違いを良く理解しておらず、誤った表現をしていることが多々見受けられます。
また正しく使用していても、情報の受け手の方が勘違いしている様子も見受けられます。
とは言え“お米に関する名前”は、事業者でも無い限りは三つの意味を混同していても特に実害はありません。

なぜ実害がないか?といえば…
基本的に大半が三つすべて同じ名称であることも大きいと思われます。
例:山形97号『つや姫』
『つや姫』『ひとめぼれ』『ヒノヒカリ』等々…大体すべて同じ

かつ、米に関しては栽培・流通品種のほとんどが公的機関が育成しているものですから、仮に名称が異なる場合があっても公表や情報掲載がしっかり成されており、「よくわからない」ような状態になることはありません。
ただ三つとも明確に本来持っている意味は違いますので、今回はそのことについて書いていきたいと思います。


それは本当に「お米の名前」ですか?

『コシヒカリ』『あきたこまち』『つや姫』といった名称、これらを「お米の名前」だと認識している人が多いのではないでしょうか?
ですが、ここでは先ほどから「お米の名前」ではなく「お米に関する名前」と回りくどいような言い方をしています。
その訳は・・・

①品種名=稲の名前
②銘柄名=お米の名前
③商品名=お米の商品の名前

となるからなんです(墨猫大和独自解釈)。
「お米の名前」と書いてしまうと、②そのまんまになってしまうために、一応避けてきました。

さらに、それぞれ関連する法制度も異なります。

①品種名=種苗法(例外あり)
②銘柄名=農産物検査法(例外無し)
③商品名=商標登録(例外あり)

世間では混同されて使われている事が非常に多いのですが、きちんとそれぞれの意味があるんです。



①品種名=稲の名前 について


突然ですが
「お米」は植物体「稲」の種子です。
ですので以下「稲の品種」という単語を用います。

日本では主に公的機関が日々、稲の品種の開発を行っており、新品種が生まれています。

そんな稲の新品種は
○生まれる確率がおよそ数十万分の一【参考→稲の品種が生まれる確率って?
○育成にかかる時間は10年以上がザラ
○育成に必要な経費は10億円以上

皆さんが何気なく目にしている『つや姫』、『新之助』、『金色の風』のような新品種は、10年以上前から、億を超える金が注ぎ込まれて作られているのです。
そして無論、試験場の皆さんの努力と血と汗と涙(一部大袈裟)の結晶です。

ではここまで育成者が時間を掛け、金を掛け、努力を掛けて作った「新品種」・・・それをなんの努力もしていない第三者に売られたりしたら開発者は骨折り損のくたびれもうけです。
種子を増やすこと自体は大半の作物においてそう難しいことではありません(質はともかく)。
自分で時間やお金を掛けなくとも、他人の開発したモノを増やして売れば簡単に儲けられます・・・ということが出来ないように日本では「種苗法」によって品種の育成者の権利が守られています。

種苗法は品種登録された新品種について、育成者の権利を保障し、25年間(R1現在)は第三者が種苗として売買することを禁じています。(【昭和53年以降は15年間】【平成10年以降は20年間】【平成17年以降は25年間】と保護期間は徐々に伸びてます。)
これによって育成者は最長25年間種子を占有して販売することができ、開発費用の回収・利益の確保などが見込めるわけですね。
ちなみに保障期間が過ぎれば、だれでも種子の売買が出来るようになります。

この品種登録され、知的財産として保護されている稲(植物体)の名前が概ね「品種名」です。
概ね…ということで必ずしも現行栽培品種がこの条件に当てはまるわけではありません。


例外① おばさん古参の品種達
近代に開発された品種はちゃんと品種登録されているのですが、そもそも種苗法など無かった時代の品種については、そもそも品種登録などされていません。
『亀の尾』『旭』はもちろん、復刻米の『滋賀渡船2号』や『強力2号』のようなものも、品種登録されていません。
ただ、やはり「稲(植物体)の名前」として農業試験場で用いられていたことは間違いないです。

例外② 無戸籍品種達
【近代に開発された品種はちゃんと品種登録されているのですが】
・・・とは言いつつも、やはりどこにでも例外というモノが存在します。

かなりのメジャー品種となっている『あきたこまち』さんが代表格ですが、彼女は品種登録されていません。
つまり種苗法の保護を受けたことがない品種と言うことになります。
彼女の場合は母集団を育成した福井県と、母集団から選抜育成した秋田県とでその権利を譲り合って、結果双方登録せずと言うことで決着したというのが顛末になります。
民間で、かつ偶然見つけたような品種に関しても登録されないこともあるようです(『イセヒカリ』)

ただ種苗法は種子の財産保護を目的とした法律であって、品種名を定義する法律ではありません。
登録しなかった品種は種子販売の権利が守られないだけで、品種名を付けられないというようなことはないのです。

品種名とは?
品種の定義に沿った稲の集合体で、その集合体に用いられる名称を”品種名”と言うのが無難なのではないかと思います(少し曖昧)



②銘柄名(産地品種銘柄)について

実りの秋
田んぼで収穫されたお米は、乾燥・調整・袋詰めを経て出荷・・・されますが

例えば
「山形県産 つや姫 令和○○年産」
とか
「青森県産 青天の霹靂 平成◯◯年産」

こんな表示が玄米30kg袋や、精米5kg、3kg袋に書いてあるのを見たことがないでしょうか。
この表示自体、実は勝手にすることが出来ません。
虚偽表示をするという意味ではなく、たとえ山形県内で本物の稲の品種『つや姫』を令和元年度に栽培、収穫したものであっても、その事実だけではこのような表示をしてはいけないんです。(日本酒における原料米品種表示とは別物)


このような表記をするために必ず受けなければならないのが
農産物検査法に基づく登録機関による農産物検査
です。

この検査を受けていないお米は「その他品種」のような表記しか出来ません。
ですから先ほどの例で言えば、収穫した後に登録機関で検査を受けて初めて「生産地」「品種」「生産年」、つまり「山形県産 つや姫 令和元年度産」と表示して売ることが出来るようになります。

これが「産地品種銘柄」で、地方農政局が各都道府県毎に品種を設定しています。
各都道府県毎に設定している、ということは、県によっては登録されていない「品種」もあるということです。
そして登録されていない品種は、栽培しても検査を受けることが出来ないので、未設定品種について大規模に栽培・販売を予定している際は、地方農政局へ設定申請を行うことが必須となります。(現在山形県で『青天の霹靂』を栽培しても、販売する際は「その他品種」としか表示できないことになります。)

そしてここで注意点
「銘柄名(産地品種銘柄)」は基本的には「生産地名」と「品種名」(+「生産年」)の組み合わせですが、ここの「品種名」は先ほどの「①品種名」とはまた意味が異なるという点が非常にややこしいので注意が必要です。
同じ「品種名」に依る混同を避けるために、墨猫大和の独自解釈をさせてもらえば”「銘柄名」は「生産地名」と「お米の名前」の組み合わせである”ということになります。

例外①品種群設定
『コシヒカリ新潟BL』が有名ですが

1.形質が酷似しており、品種間の差別化が難しく
2.品種間の品質の評価に差がなく
3.取引上で同一銘柄とすることについて、取引関係者の合意が形成されるもの

と言うことで、見た目状の品質などに差異が認められない場合に複数品種を一つの「お米の名前」として設定できます。
なので品種名は銘柄名と異なるモノとなります。



例外②組織の方針
石川県や千葉県では品種名と銘柄名を異なる名前で登録しています。
後述する登録商標との兼ね合いで、農産物検査や出荷時の混乱を避けるために銘柄名=商品名とすることが目的だと思われます。
なので厳密には『ひゃくまん穀』や『ふさこがね』という稲の品種は存在しませんが、お米の名前として存在します、という言い方になります。


例外③俗称(墨猫大和の想像)
銘柄は単一品種による設定が基本ですが、例外①のように品種群設定することもできます。
しかし品種群設定されていないのに別の品種名が用いられているものがあります。
私が知る限り『鳥取県産強力』と『茨城県産渡船』が該当しますが、登録されたのが現行の産地品種銘柄制度以前だからか、品種というものをよくわかっていない民間団体が登録したからか、理由は不明ですが品種名と銘柄名が異なります。

特に『茨城県産渡船』については稲の品種がなんなのかわかりません
品種銘柄を設定している関東農政局ですらなんだかわかっていません
という風に、「稲の品種名」についてはガバガバなのか産地品種銘柄というものになります。
結局地方農政局では厳密に「それって本当に○○っていう品種?」なんて確認しない、という事のようです。
あくまでも「お米の名前」ということになるかと思います。

(産地品種)銘柄名とは?
農産物検査法によって設定されている「お米(農産物)の名前」であり、銘柄に設定されていないものを勝手に表示することはできない(ただし、ここで必ずしも「稲の品種名」が使われているとは限らない。)。
産地とお米の名前を併記する(○○県産○○ヒカリ)のが正確な表示。


③商品名=お米の商品の名前 について

ということで、最後の「商品名」

これはもう単純明快、お米を売る際のパッケージの名称です。
品種名とも産地品種銘柄とも関係なく、米袋の表面に記載されているものですね(「強調表示」というらしい)。

稲品種『コシヒカリ』を「こしひかり」と平仮名で表示したり、「越光」のように漢字表記になっているものを見たことがあります。

ここで表示してはいけないものは商標登録(特許庁管轄)されている名称です。
民間開発品種などは下記のように販売名『龍の瞳』『女神のほほえみ』などで商標登録を行っていますので、申請者以外がお米をその名前で売ることはできません。

稲品種『つや姫』を「きらきらスター米(仮)」と表記しても売ってもいい(多分)ですが、「女神のほほえみ」とパッケージに表記してはいけません。
とは言え、JAS法による様々な規定はあるので、商標を侵さなければなんでもOKというわけでも当然ないので…と言っても米を販売する人以外関係ないですね。


(無断)出演、穂ノ国八恵さん(怒られたら消す)

最後にまとめ

そんなこんな書いてきましたが、ササっとまとめるとこんな感じですかね…


①品種名
 稲の品種の名称、「稲の名前」です。
 品種登録されて知的財産としての稲(種苗)が保護されています。
 ※ただし、古い品種は勿論最近の品種でも必ずしもすべてが品種登録されているわけではない。

 なお、商標登録されている名称は品種登録時に使えません。
 

②銘柄名
 地方農政局管轄の農産物検査法上の名称、「お米の名前」です。
 産地品種銘柄として設定されて銘柄としての米を証明、保護しています。
 ※ただし、必ずしも”品種名”が用いられているわけではない。

 この銘柄名以外を生産・販売者は勝手に米袋に表示してはいけません。
 

③商品名
 商品の一番目立つところに表示されている名称、「お米の商品の名前」です。
 商品として売る米のトレードマークとなるものですね
 品種名と異なるものが用いられている場合、商標登録されているものが大半です。
 ※商標侵害しなければ原則自由なので、必ずしも品種名で売られているわけではない

 ちなみに、大半の稲品種は品種登録前に商標登録しています(詳細はまた別の機会に)。

まぁただ、最初にも言いましたが、事業者(米の販売者)でもない限り、混同していても実害はございません(多分)




2 件のコメント:

  1. これを見て思い出したのですが、『青系酒195号』が『吟烏帽子』になる流れで、「酒蔵が原料米表記をするため」に「産地品種銘柄設定の手続きは急がねばならない」と言ってたの思い出しました。だから原料米の表示は農産物検査を通さないとできない……と思ってましたね、短稈渡船関連触れるまでは。

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  2. 清酒の製法品質表示基準を見ると
    ・殊に、特定名称の清酒に使用する白米は、農産物検査法によって、3等以上に格付けされた玄米又はこれに相当する玄米を精米したものに限られています。
    とあり
    また、原料米の表示については「任意記載事項」で
    ・表示しようとする原料米の使用割合が 50%を越えている場合に、使用割合と併せて表示できます。

    これだけ見ると、産地品種銘柄で指定されている品種名しか表示できないように思えますが…
    ”任意記載”で”品種名を表示できる”としか書いていないので、表示についての制限は書いていないようにも…解釈次第で何とでもできそうですが…
    日本酒に詳しい人に訊かないとわかりませんね…

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