2022年12月26日月曜日

【WCS用】青系208号~あおばまる~【特徴・育成経過・系譜図・各種情報】

地方系統名
 『青系208号』
品種名
 『あおばまる』
育成年
 『令和2年(2020年) 青森産業技術センター農林総合研究所』
交配組合せ
 『べこあおば×ふ系PL4』
主要生産地
 『青森県』
分類
 『飼料用(WCS用)』

「おうっ!あおばまるだっ!!」








どんな娘?

青森県飼料用稲の新世代。
肉体の強靱さを誇ることが多い飼料用稲品種達の例に漏れない屈強な体に加え、寒さへの耐性は比類無く、まさに新世代。(でもWCS用でそれって役に立つの?)
声が非常にでかい上に米っ娘の見た目以上に腕力が強いので、飼料用稲の仲間内はまだ良いのだが、他県の粳米っ娘の中には怖がる(ビビる)者も一定数いる。

WCS専用(厳密には”向け”)品種にしてはとんでもない(何が?)おかげで、某首長からは拒否反応を示されている…があおばまる本人は意に介していない様子。

細けぇ事は気にするな!


概要

青森県における令和の新世代飼料用稲の片翼、WCS(発酵粗飼料)用稲品種『あおばまる』の擬人化です。

「大きく生長した青葉(茎葉)を食べて、家畜が丸々と太るように」との願いを込めて命名されています。
相方の『ゆたかまる』と共に青森県の畜産業を支えることが期待されます。

青森県における飼料用稲品種は、WCS向けに『うしゆたか』(平成20年育成)と『みなゆたか』(平成21年育成)、飼料米用向けとして『えみゆたか』(平成28年育成)と平成に育成された”ゆたかシリーズ”(管理人の勝手な命名)が主役を占めていました。

それが令和に入りWCS・飼料米それぞれ新規品種が育成されました。
令和元年度(令和2年2月)に姉貴分となる飼料米用向けの『ゆたかまる』が青森県の飼料作物奨励品種に指定されたのに続き、令和2年度(令和3年2月)にWCS向けとしてこの『あおばまる』が指定されました。
令和4年(2022年)より一般に種子販売が開始されました。


WCS向けですので通常の水稲のように種子である米を収穫するのが目的では無く、茎・葉・籾の地上部全てを収穫することを目的としています。
先代WCS主要品種の『うしゆたか』に比例して収量(黄熟期全重)で2割増となっています。
ホールクロップのロール数で比較すると、『うしゆたか』で10aあたり8.5ロール分収穫できるところを、同条件下で『あおばまる』は10ロール分収穫できるようです。

とか言いつつも、先代『うしゆたか』の玄米収量がせいぜい650kg/10aだったのに対して『あおばまる』は800kg/10a近いので普通に飼料米用品種としても使えそうなものですが、青森県の指定ではあくまでも「WCS用」とのこと。
途中まで飼料米用として育成されていたものの、熟期が遅く草姿が大柄なので、発酵粗飼料用に切り替えたという変遷を持つようです。
飼料米用としては姉貴分の『ゆたかまる』に任せることとなりそうです。

「なぜかイナゴに食われにくい(公式)」そうで、ケイ酸吸収率が高いので葉が硬い、とかあるんでしょうか。

育成地において「中生の晩」に属し、出穂期は8月6日頃、成熟期は9月20日頃となっています。
青森県下ではこの熟期は遅いと判断されるようですが、WCS用であり黄熟期刈り取りが前提なので問題にならないとされています。
育成時に計測された稈長は94~96センチ、穂長は約17センチの「偏穂重型」で、耐倒伏性は「強」と判断されています。
WCS用品種にとって重要な地上部収量(全重)は黄熟期で約160kg/10a、成熟期で約210kg/10aと十分に多収です。(対照『うしゆたか』で黄熟期約125kg/10a、成熟期約170kg/10a)
そして玄米千粒重は31.0~33.6gと非常に大きいものとなっており、玄米の収量(粗玄米重)も700~800kg/10aまで至ります。(N成分1.0+0.4kg/a多肥区)
前述のように1粒当たりが大きく、穂発芽性も「易」とされているため、新規取り組みの際には播種量を増やしたり、催芽時・浸種時にも注意が必要とされています。
いもち病への真性抵抗性遺伝子型は【Pik】【Pita-2】を保有していると推測され、青森県内のいもち病菌レースでは感染しないために圃場抵抗性は「不明」と判定されています。
障害型耐冷性は「極強」です。
時折「極強10」と紹介されている場合もありますが、これは平成26年(2014年)以前の基準によるものと思われ、父親にして基準品種である『ふ系PL4』と同じ耐冷性ということだと思われます。

蛇足
耐冷性(障害型冷害耐性)は平成21年(2009年)にそれまでの最高位ランク8「極強」(『コシヒカリ』や『はえぬき』)を「極強8」として、それよりもさらに冷害に強い「極強9」「極強10」「極強11」の3ランクが追加されました。
その後さらに国際基準に準ずる目的から、上記の追加で11ランクになっていた耐冷性は9ランクに圧縮されることとなり、「極強10」「極強11」は「極強」(ランク9)となりました。


飼料適性


飼料成分は先代『うしゆたか』とほぼ同等とされています。
『うしゆたか』は通常の食用粳品種である『むつほまれ』よりも粗繊維含量が低く消化が良く、無機成分組成(K/(Ca+Mg)当量比)が優れるとされているので、『あおばまる』も同様…と考えて良い物かは不明ですが…

K/(Ca+Mg)当量比は、K(カリウム)の過剰摂取を一因として発生する家畜のグラステタニー(低マグネシウム血症)を防ぐためにも2.2以内に収めることが目標とされています。
『うしゆたか』は育成時1.73(対照『むつほまれ』2.08)で十二分目標内でしたが、公表されていないのか、今は大して重要視されていないのか…?


雪印種苗株式会社に依頼して行われた近赤外分析による値ではTDN(可消化養分総量)が51.7~59.9、Vスコアは94~100ですので「良」評価ということになるでしょうか。


育種経過

詳細な育種論文って公表されるのかなぁ…

平成19年(2007年)に『べこあおば』を母本、『中母59』(後の『ふ系PL4』)を父本として交配、育種が開始されています。

◇母本の『べこあおば』は東北農業研究センターで育成されたWCS/飼料米兼用品種です。
◇父本の『ふ系PL4号』は障害型冷害への耐性の新ランク「極強10」を有する品種です(それ以外は知らぬ)

~そしてこの間不明~

平成28年度の農林総合研究所年報に「発酵粗飼料用品種『青系208号』を育成した」旨の記載があり、新配布系統一覧の中にも同様に『青系208号(黒2553)』が記載されていますが、これが上記の交配後代系統であり、後の『あおばまる』として品種化されるものとなります。

平成29年(2017年)から研究所内及び現地での栽培試験が開始され、年報によれば「本県に適する優良品種の選定」の項目で『青系208号』は「継続」の判断が成されています。
続く平成30年(2018年)もおそらく継続して現地試験が行われ、同上の項目において『青系208号』は「やや有望」と評されています。
同様に令和元年(2019年)は「有望」との評価がされ、ここで概ね奨励品種への採用は固まったものと推測されます。

令和2年度(2020年)は原種として9a、418kgの生産が行われています。
そして令和3年2月に飼料作物奨励品種に指定されています。

令和3年(2021年)は原種として99a、5,220kgの生産が行われ、この翌年令和4年から一般に種子の販売が開始されました。


系譜図


青系208号『あおばまる』 系譜図



参考文献

○平成28年度~令和3年度年報:青森産業技術センター農林総合研究所
○稲WCS用新品種「青系208号」の特性:青森産技農林総合研究所
○令和3年度普及する技術:青森産技農林総合研究所
○プレスリリース情報_「稲発酵粗飼料用新品種 「あおばまる」が出願公表」:青森産技農林総合研究所
○農林総合研究所 通信 第4号:青森産技農林総合研究所
○研究成果情報:農研機構https://www.naro.affrc.go.jp/org/tarc/seika/jyouhou/H20/suitou/H20suitou001.html
○粗飼料の品質評価ガイドブック:(社)日本草地畜産種子協会


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2022年12月10日土曜日

【酒米】~強力1号(強力)・但馬強力~【特徴・育成経過・系譜図・各種情報】

系統名
 『-』
品種名
 『強力1号(強力)』※兵庫県の産地品種銘柄は「但馬強力」で登録
育成年
 『大正4年(1915年) 鳥取県立農事試験場』
交配組合せ
 『在来種強力の中から選出』
主要生産地(平成~令和現代)
 『兵庫県』
分類
 『酒造好適米』※現代の区分による

我が強力じゃ、ん…いや今やそれは小妹のほう、か。
ならば…うむ、我は”但馬強力”じゃて。



※管理人独自論が多く含まれます(が、あくまでも大正時代当時の試験場の記録を根拠にしているので、むしろ世間一般の説はナニを根拠に色々言われているのでしょう?)※

どんな娘?

鳥取の強力姉妹の長女。

妹と同じく長身・すっきりとした美人。
容姿も妹と瓜二つながら、”お山”の大きさでわずかながら負けていることは密かに気にしている…とかいないとか。(いやゆうてさほど差は無いと思うんじゃて(本人談))

妹である強力2号と離れた地ながらも奇しくも同じ平成に復刻したが、本人らに特に感慨は無い様子。
ちなみに同じ兵庫県で復刻された伊豫辨慶1号とは鳥取・兵庫両県においての顔馴染みだが、鳥取県では「強力1号と辨慶1号」として、兵庫県では「但馬強力と辨慶」としての間柄だったため、互いの名を呼ぶときは多少混乱も見られる。

優しく人と接し、物腰も柔らかい妹と比較して、表面上の話しぶりは同じなのだがグサリと人に突き刺さるようなキツい物言いをすることがある。



概要

兵庫県で復刻栽培されている『強力1号』もとい『但馬強力』の擬人化です。
"但馬強力"と書いて”たじまごうりき"と読みます。

現代では「兵庫農試但馬分場が育成した”但馬強力”」なんてことが広く言われていますが、『但馬強力』は鳥取県の奨励品種『強力1号(強力)』の異名同種です。


復刻品種毎度恒例で、『強力』は特に酒造業界(と、採用機関の兵庫農試)の情報発信が雑すぎて間違った情報発信が多々見受けられる有様です。
また、一番有名で広がっていると思われる「酒米ハンドブック」ですら間違っているんです…繰り返しになりますが兎にも角にも「兵庫農試但馬分場が育成した」間違いです。
(詳しくは後述の育種経過にて)


現在「但馬強力」と呼ばれている品種は、兵庫県農林水産技術総合センターから譲り受けて復活させたと言われているようなので、兵庫県で昭和3年(1928年)に奨励品種に採用され昭和9年(1934年)を最後に姿を消した『但馬強力』かと思われます。
そしてそれは鳥取県農事試験場が選抜の上『強力』として大正4年(1915年)に原種指定、そして大正10年(1921年)に改名された『強力1号』の異名同種と思われます。


鳥取県の在来品種『強力』は、明治24年(1891年)に鳥取県東伯郡の渡邊信平氏が県内外から21種類の在来種を収集し、その中から選抜・命名した個体が始まりとされています。
その後鳥取県内で普及したモノを県農事試験場が収集し、奨励品種採用や純系淘汰育種を行い、『強力(後の『強力1号』)』や『強力2号』が育成されました。

『強力(1号)』は大正4年(1915年)から原種指定、大正10年(1921年)に『強力1号』に改名、その後昭和7年(1932年)を最後に原種圃から姿を消しています。
妹の『強力2号』は大正14年(1925年)には種子配布量で姉の『強力1号』を抜き、原種圃で確認できる最後の年は昭和20年(1945年)となっています。
『強力2号』に関してはその後数年で栽培が途絶えたとされていることが多いようです。

これら『強力1号』『強力2号』両品種は、少なくとも大正末期には鳥取県内の水田面積の約30%(約10,214.75町歩:2品種合計)を占めるなど一時代を築いたわけですが、先に『強力』として原種指定されていた後の『強力1号』について、兵庫県農事試験場但馬試験場が取り寄せ、優秀と認めて採用され、独自の名称を付けられたものが『但馬強力』となります。



”昔は食用米の『強力1号』(つまり『但馬強力』)、酒米の『強力2号』として普及”とか言ってる酒蔵もあるようですが…区別されていた様子はありません。
現にこのように『但馬強力』は兵庫県で酒造米として採用されているわけですし…?
何を根拠に言っているのかが不明なのでなんとも言えませんが。

兵庫県における『但馬強力』としての評価は(昭和4年時点)
試験地における早生、とされながら熟期がやや遅いともされているので中生寄りと評価されていたとも受け取れます。(鳥取県では「中生」)
稈長は約135cm程度で穂長は約21.5cm、穂数は約11本の偏穂重乃至穂重型品種です。
鳥取県の各種試験時でも『強力2号』とほぼ変わり無い様子でしたが、兵庫県では若干稈が長いように見受けられます。
長稈でかつ穂重型、つまり穂が重いため、耐倒伏性が弱いことが推定されます。
収量は2.889石(3ヶ年平均)とされているので、単純な重量換算で430kg/反ほどでしょうか。
大正14年時点の評価で『強力2号』が『強力1号』に比して7.5%の増収であるとされていましたが、兵庫県における『但馬強力』の結果だけを単純に見ればそれほど差は無いようにも思えますが…こういうものは単純比較出来ないのでなんとも言えません。
米穀に関して具体的な数値の記載はありませんでしたが「粒型大」「心白多」「品質上」と評価されていました。



育種経過

鳥取県農事試験場では大正4年(1915年)に経年品種比較してきた11品種を原種指定します。
『茶早稲』『奥州』『丸山』『皇國』『福山』『芋釜』『福吉』『青木』『亀治』『早大関』そして『強力』です。
この『強力』らについては明確な純系淘汰試験が行われたものではありませんが、経年選抜により優秀な固体を選出・固定してきたものと推察されます。
その”経年選抜”をいつから行ってきたかは不明ですが、大正4年以前の試験報告については、明治39年(1906年)時点のものまでしか見つけられておらず、なおかつこの時期は栽培法の試験のみで品種改良について記載がありませんでしたので明治40年以降のいずれかの時期で始まったと思われます。
鳥取農試ではこの原種指定を行ったこの年から本格的に品種改良試験を開始し、強力系統としては『強力2号』が大正10年(1921年)に育成完了・原種指定を受け、同年原種指定されていた『強力』も『強力1号』と改名され、鳥取県の主力品種として普及していきます。


この『強力』を取り寄せて品種比較試験を行ったのが兵庫県農事試験場の但馬分場です。
と言うことで舞台は兵庫県に移るのですが、少しばかり時間を遡ります。
兵庫県農事試験但馬分場が正式に設置されたのは大正10年(1921年)のようですが、少なくとも大正8年(1919年)の時点で「但馬試作地試験」の記録項目がありました。
その大正8年の但馬試作地における品種比較試験(本試験)で、『強力』が供試されています。
ただしこれは取寄先欄が空欄で(他品種では取寄先記載されているものもある)ことから、兵庫県内で普及していた雑多なものを試験的に栽培試験したかなにかではないかと推測されます。
というのも翌年大正9年(1920年)の同試験で『強力』の記載は無くなっていました。

そして但馬分場が設置された大正10年(1921年)、品種比較試験に鳥取県から取り寄せた『強力』と『奥州』の2品種が供試されています。
この時点で鳥取県から兵庫県に渡っていたことから、大正9年時点で鳥取県で原種(奨励品種)指定されていた品種が提供されたことが推測されます。
『強力』は後の『強力1号』であり、鳥取農試で品種比較試験の結果大正4年に原種指定された最初期の原種の1つで、『奥州』に関しては大正4年純系淘汰開始・大正7年育成完了で最初期原種の『奥州』と入れ替えられた新参の品種(後の『奥州1号』か?)と思われます。
『強力』『奥州』共に鳥取農試では大正10年から『強力1号』『奥州1号』と改名されますが、まさに絶妙なタイミングで兵庫県に供試されたと言えるかも知れません。
なお、この年に但馬分場で純系淘汰が行われていた品種は『穀良都』のみで、『強力』についての取り組みは記述ありません。

大正11年(1922年)、鳥取県の『強力』が但馬分場の品種比較試験の本試験に引き続き供試され、「長稈ナルモ有望」との評価を受けています。

大正12年(1923年)、引き続き但馬分場で品種比較試験の本試験に供試されている『強力』は、ここまでの3年間の試験成績として反収2.784石が記録されています。
ちなみに、この年に但馬分場では新たな純系淘汰育種が開始されていますが、供試されているのは『改良大場』系統と『豊年穂』系統で、当然ですが『強力』系統の純系淘汰は行われていません。

大正13年(1924年)から大正14年(1925年)にかけても同様に『強力』(鳥取県原産)は但馬分場の品種比較試験の本試験に供試され続けています。
大正13年には「強力良好ナリ」との評価、大正14年には「大粒種ニテハ強力等比較的多収」と記載がありました。
また別途大正14年からは水稲品種対肥料用試験への供試が始まっています。

大正15年/昭和元年(1926年)も大正14年から引き続き但馬分場にて品種比較試験と水稲品種対肥料用試験へ供試されています。
この年も『強力』(鳥取県原産)です。
この年の記録では成熟期が10月25日、草丈が4.64尺となっています。
巷の「強力は稈長が150cm近くまで伸びる」は、この草丈を稈長と勘違いしているように思えますが…果たして?

昭和2年(1927年)は但馬分場の品種比較試験の本試験のみの供試。
『強力』(鳥取県)は出穂期8月31日、成熟期10月24日、草丈3.66尺、茎数12.4本、玄米一升重404匁と記録されています。
一般的に「米一升は1.5kg」と言われますが、404匁は1,515gなので意外と平均的ですね。

そして昭和3年(1928年)、ついに兵庫県立農事試験場本場の原種圃に『但馬強力』が登場します。
注釈で「※原種ニ編入セリ」とあることから、この年から原種に採用されたのは間違いないです。
配布量は7.770石で、内3石3斗4升は但馬分場から配布したとの記載があるので、『但馬強力』に関しては本場と分場それぞれで原種栽培をしていたようです。
そしてこの年から試験への供試が一挙に増えます。(以下【】内は取り寄せ先表記)
まずは本場の水稲品種比較試験の本試験に『但馬強力』【原種】、水稲地方委託試験でも有馬郡、神埼郡、揖保郡全ての委託先に『但馬強力』が供試されています。
また酒造米試験地でも品種比較試験に『但馬強力』【原種】。
そして但馬分場では水稲品種比較試験に『但馬強力』【分場】、そして対肥料試験に『但馬強力』が供試されていました。
今までの試験記録や、取り寄せ先から判断してこの『但馬強力』は大正10年から但馬分場で品種比較試験が続けられてきた『強力』【鳥取県】と判断して良いでしょう。

昭和4年(1929年)、原種圃の配布量は7.770石で前年と変わらず、各種試験も継続されています。
本場では品種比較試験に加えて新たに対肥料用試験に供試。
地方委託試験では前年と同様の3郡に供試され、「早生大粒種ニテ但馬強力ノ成績良好」との評価。
酒造米試験地では変わらず水稲品種比較試験に供試。
但馬分場では水稲品種比較試験と対肥料用試験が実施されています。


以後は資料不備により今後の課題としますが、この後昭和9年(1934年)までの短い期間、『但馬強力』は兵庫県の原種(奨励品種)として配布されていました。


さて、『但馬強力』の育種結果の結論ですが…
詳細は関連記事の「兵庫県の『但馬強力』の正体は?」を見て頂きたいのですが、大正14年から但馬分場で『強力』系統の純系淘汰育種が開始されています。(なぜか開始年である大正14年の業務功程には記載がありませんが…)
この純系淘汰育種は大正14年に始まり、少なくとも昭和5年の時点でも2系統が残されまだ完了しておらず、そもそもその対照品種に『但馬強力』が使用されているので「兵庫県が純系淘汰育種したのが『但馬強力』」という一般に流布されている説は間違いでしょう。

鳥取農試が育成した『強力(強力1号)』を兵庫農試但馬分場が取り寄せ、品種比較試験の結果採用し、改名したのが『但馬強力』です。
なお、但馬分場で『強力』系統の純系選抜育種を行ったことは事実ですが、『但馬強力』とは関係がありません。




系譜図

『強力1号(強力)』(『但馬強力』) 系譜図





参考文献

〇兵庫県立農事試験場業務功程:大正8年~昭和5年度
〇鳥取県立農事試験場業務功程:大正4年~昭和22年度
〇鳥取県農事試験場成績報告. 第6報
〇酒質が優れる酒造好適米「鳥系酒 105 号」の育成 :鳥取県農業試験場・鳥取県産業技術センター
〇酒米品種・系統の主要特性(第1報 栽培適性と玄米形質):秋田県農業試験場
〇日本主要農作物耕種要綱:大日本農会
〇取県米穀検査所年報. 第4報(大正3年度)




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