2017年12月25日月曜日

イラスト『メリクリ!』

題材
 『クリスマス』

登場品種  
 山形97号  『つや姫』

「つや姫サンタが新米お届け!」

クリスマスイラスト。
めりくり!

本当は後ろに『はえぬき』『雪若丸』も描くはずでしたが…
うん…
手抜きのイラストは本当によくわかりますね。

2017年12月20日水曜日

【粳米】岩手107号~銀河のしずく~ 【特徴・育成経過・系譜図・各種情報】

地方系統名
 『岩手107号』
品種名
 『銀河のしずく』
育成年
 『平成27年(西暦2015年) 岩手県 県農業研究センター』
交配組合せ
 『奥羽400号×北陸208号』
主要産地
 『岩手県』
分類
 『粳米』
『銀河のしずく』ですよ~!



白くてつややか、かろやかな食感


岩手県ブランド米戦略”銀・金”の双璧を成す『銀河のしずく』の擬人化です。


どんな娘?

ちょっと打たれ弱くて生真面目な金色の風とは対照的なお姉ちゃん。
良く言えば些細なことは気にしないおおらかさ、悪く言えばちょっといい加減な性格を持っていますが、あくまでも妹を盛り立てる心遣いだけは決して忘れません。

岩手県出身で初めて大々的に表舞台に出ただけあって、先輩品種にも物怖じしない度胸も兼ね備えた娘です。


概要

粒が大きく、粘りが程よくかろやかな食感、冷めても変わらない美味しさの品種です。

立場としては姉になるのですが、最高級路線を歩む妹『金色の風』の次点ポジション…なのかな?
…山形県の”姫・若”だって負けな(略

岩手県中部、および沿岸部で作付可能な良質良食味の岩手県オリジナル品種として、主に『あきたこまち』からの作付転換を担います。
食味ランキングでの特A獲得等、順調に評価を上げることに成功しており、相対取引価格も県内で高い部類となっています。(R5現在)
令和5年(2023年)に全農岩手県本部発表によれば、令和8年(2026年)までに販売数量を5万トンまで延ばす計画だそうで、代わりに県内の『あきたこまち』や『ひとめぼれ』は減産となる見込みです。

ロゴマークの八角形は”米”そのものを表現。また、”お米を作り上げる八十八の工程”、”末広がりの未来へ”の意味を込めて。そして八角形の角を丸くし、色にニュアンスを加えることで食味の特徴である「かろやかな口あたり」「ほのかな甘味」を表現しているとのこと。
八角形の紋様は、上部のひし形は”銀河の星の輝き”を、下部は”こぼれ落ちるしずく”を表現しています。
ロゴマークの9色には以下のような10の美味しいお米のポイントを表しています(順不同)。
…9色なのにポイントは10あるとはこれ如何に?
妹に当たる『金色の風』と同じ…ようで同じでなかったりします。

ポイント意味
無色改良白さと良食味を追求した品種改良
太陽稲の生長を促す輝く太陽
灰色銀河美味しいお米を育む銀河の夜空
濃い水色澄んだ空気、爽やかに広がる夜空
大地元気な稲がすくすく育つ豊かな大地
肥料美味しいお米を育てる肥料設計
水色清らかな水をたたえるたくさんの川
茶色たい肥や稲わら等による土づくりの徹底
桃色お米づくりに関わる人々の愛情
黄色豊かな稔り黄金色に輝く稲穂の波

よくよく見るとロゴタイプデザインにも細かな表現がありました。
『銀河のしずく』の
・『河』のさんずいにはしずくのデザインがあり”美しい銀河から今まさにこぼれ落ちようとするしずく”を表現。
・「ず」の濁点もしずくに見立てた表現になっています。
”ずっと見ていても飽きのこない、やさしく軽やかでありながら味わい深く、生命観をも感じさせるお米の食味を表現したロゴタイプ。”


育成地での出穂期・熟期は『あきたこまち』より2~3日遅い「中生の中」。
耐倒伏性「やや強」、耐冷性「極強」、耐病性「やや強」と栽培特性も優れます。


名称公募

平成27年(2015年)、主力オリジナル品種が不在だった岩手県で、農家待望(だと想像)となる食味ランキングで特A獲得が期待される新品種『岩手107号』の名称公募が開始されます。

公募のポスターによる「岩手107号は、こんなお米です」による宣伝文句は
「黄金の國、いわて。」が育んだ、白く艶やかに炊きあがるお米
心地よい食感がもたらす、あっさりとした粘りと噛むほどに広がる甘み
食味ランキング最高位の「特A」評価が期待できる、岩手県待望の新品種
「岩手107号」は、岩手の本気が生んだ、食卓の新しい主役となるお米です。
というものでした

募集期間は平成27年(2015年)7月1日~7月31日の間で、はがきか専用ホームページからの応募ができました。
最優秀賞(1名)には賞金10万円と『岩手107号』60kg、優秀賞(1名)に賞金5万円と『岩手107号』10kgが用意されていました。

名称公募への応募数は県内外、そして海外からの応募も含めた8,168件。
この中から名称選考委員会が候補名称を12点まで絞り込み、さらにそこから消費者等からの意見も踏まえて、選考を進めました。
そして最終的に平成27年(2015年)11月26日、盛岡市の「エスポワールいわて」で開催された新名称発表会において新品種名『銀河のしずく』が発表されました。


名前の由来は
【銀河】 …キラキラと光る星空から、お米一粒一粒の輝きをイメージ。
      また、宮沢賢治の作品のタイトルから「岩手」をイメージ。
【しずく】…お米の白さ、つや、美味しさを表現。



ロゴマークは平成28年(2016年)3月25日、「生産・販売キックオフイベント」において発表されています。(ロゴが持つ意味は前述の通り)


育成経過

育成開始当初、岩手県では『ひとめぼれ』『あきたこまち』の2品種が作付面積の約8割を占め、日本穀物検定協会の食味ランキングにおいても特Aを獲得するなど、良質米を生産していました。
しかし、対して岩手県オリジナル品種は1割以下の作付面積でしかなく、食味ランキングでも特A獲得に至らない状況が続いていました。


岩手県中部及び沿岸部で主力でありながら耐冷性・耐病性に劣る『あきたこまち』に代わる良質良食味品種の早急な育成と普及が求められていました。

ということで
平成18年(2006年)県中央部向けの良食味米の開発を主眼に母本『奥羽400号』、父本『北陸208号』として人工交配、得られた種子は51粒。
母本の『奥羽400号』は耐冷性と耐病性に優れ、父本の『北陸208号』は『コシヒカリ』並みの良食味が特徴でした。

同年12月から翌平成19年(2007年)4月まで、温室内でF1の29個体を養成。
同じく平成19年(2007年)は世代促進。
F1から得られたF2種子は全粒採種、全量混合播種。
F2の養成個体は700個体。
F3世代は2,000個体養成。
平成20年(2008年)に2,000個体を一株一本植えで選抜を開始。
圃場で短稈かつ強稈の優れた草姿の個体70個体を選抜し、さらにその中から玄米品質に優れる13個体を選抜。
平成21年(2009年)、前年度選抜した13個体を系統として、1系統につき40個体を系統養成。
葉いもち病圃場抵抗性検定及び耐冷性検定をこの世代から開始。
13系統の中から圃場で草姿の良い9系統を選抜し、さらに「味度値」「耐冷性」「玄米品質」に優れる3系統が選抜されます。
この3系統からさらに3個体/1系統選抜しました。
(平成22年(2010年)には選抜された13個体に対して食味試験を実施…と公式HPには記載ありますが、これは間違いのようです。)
平成22年からはF6~F7世代が生産力検定に供試されます。(食味試験もここで)
対象は前年度選抜された3系統9個体。これを3系統群9系統として系統養成。
いずれも収量性が高く耐病・耐冷性に優れていたため、1系統群あたり1系統5個体を選抜し、各系統群に『岩1077』(後の『銀河のしずく』)、『岩1078』、『岩1079』の番号が付されます。

平成23年(2011年)に前年の3系統15個体を3系統群・15系統として系統養成を行い、2系統群から2系統10個体が選抜されます。
平成24年(2012年)、場内の生産力検定及び特性検定、加えて山形県農業総合研究センターでの系統適応性検定の結果から『岩1077』は『岩手107号』の地方系統番号が付されます。奨励品種決定調査供試系統として配布されます。
この年は2系統10個体を2系統群・10系統として系統養成→1系統群当たり1系統5個体を選抜します。
平成25年(2013年)~平成26年(2014年)は1系統5個体を1系統群5系統として各90個体を栽培。奨励品種決定調査・特性検定が行われます。

いろいろあって

平成27年(2015年)に岩手県の奨励品種に採用。

『ヒメノモチ』の適地を除き、県中央部の『あきたこまち』『ひとめぼれ』からの置き換えが予定されています。





系譜図




岩手107号『銀河のしずく』 系譜図


参考文献


○銀河のしずく公式HP:https://www.junjo.jp/ginganoshizuku/

○水稲新品種「銀河のしずく」の育成:岩手県農業研究センタ-研究報告




【粳米】岩手118号~金色の風~【特徴・育成経過・系譜図・各種情報】

地方系統名
 『岩手118号』
品種名
 『金色の風』
育成年
 『平成28年(西暦2016年) 岩手県 県農業研究センター』
交配組合せ
 『Hit1073×ひとめぼれ』
主要生産地
 『岩手県』
分類
 『粳米』
「金色の風、『銀河のしずく』とともに”岩手県銀・金”、よろしくお願いします。」


黄金の國から全国へ美味しい新風を吹き込む。



岩手県ブランド米戦略”銀・金”の双璧を成す『金色の風』の擬人化です。


どんな娘?

銀河のしずくの妹(直接的な血の繋がりは無い)。
妹という立場ではありながら、自分が岩手県のトップに立たなくてはならないという重責に銀河のしずくの後押しを受けて頑張って立ち向かっています。

生真面目でちょっと神経質なところがあるせいで、何かをする際に少し手が縮み気味になり、成果が上がらないこともチラホラ…
ただしそれは自分の力を冷静に見つめ、対処しようと必死に頑張っている事の表れでもあります。


概要

高品質の『ひとめぼれ』(食味ランキング連続特A)の産地ながらも主力となる高品質かつオリジナルの品種が不在だった岩手県。
その岩手県が『銀河のしずく』に続いて打ち出す真打、それが彼女です。

品種名の『金色の風』は平成28年(2016年)12月8日発表。
平泉町の世界遺産・中尊寺金色堂やたわわに実った稲穂をイメージし、日本の食卓に新しい風を吹き込むという願いを込めて。

ロゴマークのデザインは(株)純情米いわてが手掛けました。
流線型の金色に彩られた風が一粒のお米をやさしく包み込むイメージを表現しています。
また、風が舞うように配置された10個の色面は、お米の美味しさを生み出す10のポイントを象徴しています。
姉に当たる『銀河のしずく』と同じ…ようで同じでなかったりします。

ポイント意味
ハイテク最新の科学技術を用いて開発
太陽稲の生長を促す輝く太陽
銀河美味しいお米を育む銀河の夜空
濃い水色澄んだ空気、爽やかに広がる夜空
大地元気な稲がすくすく育つ豊かな大地
黄緑肥料美味しいお米を育てる肥料設計
水色清らかな水をたたえるたくさんの川
橙色たい肥や稲わら等による土づくりの徹底
桃色お米づくりに関わる人々の愛情
黄色豊かな稔り黄金色に輝く稲穂の波


アミロース含有率は15%前後の低アミロース米…なのかどうかかなり微妙なライン(H26~H28平均で15.7%)。
(低アミロース米はアミロース含有率が15%以下のものを言う…と管理人は勝手に考えている)※コメント欄参照~解釈は様々あるようです~
母本の『Hit1073』は『ひとめぼれ』の突然変異、そして父本は『ひとめぼれ』と岩手県主力であった『ひとめぼれ』の低アミロース化改良品種”スーパーひとめぼれ”とも言えるでしょう。(下系譜図参照)だけど本当の”スーパーひとめぼれ”は他に居たりする。
ほどよい粘りとふわりとした食感、そして豊かな甘み。
農研開発の『ミルキークイーン』や北海道の『ゆめぴりか』、さらに同期では宮城県の『だて正夢』が同じ方向性…かな?


もともと高品質米栽培でポテンシャルの高い岩手県。
この『金色の風』は「相対取引価格で全国5位以内」を目指すと言うほど意気込みと自信(?)を感じます。
『金色の風』『銀河のしずく』基礎能力の高い二種の新主力品種参入でこの米戦国時代に凱歌を上げられるかどうか、注目・・・でしたが
令和5年(2023年)時点で生産量は1,000トンを上限としてあまり拡大できておらず、苦戦が窺えます。


【何れも育種における試験値】
育成地に於ける熟期は『ひとめぼれ』内の「晩生の中」です。
稈長は約87.8cm、穂長は約19.8cmと『ひとめぼれ』並で、偏穂数型の品種です。
穂数も『ひとめぼれ』とほぼ同等ながら、1穂籾数が明らかに少ないとされています。(アミロース低減性遺伝子の副作用とのこと)
その為、千粒重は『ひとめぼれ』(22.5g)に比して重い23.1gですが、収量性は522kg/10aと『ひとめぼれ』(563ka/10a)に劣り、懸念材料の一つとされています。
また、前述の通り長稈の部類に入るため、耐倒伏性は「やや弱」との判断で、この倒れやすさも欠点とされています。
葉いもち圃場抵抗性は「やや弱」、穂いもち圃場抵抗性は「中」で、真性抵抗性遺伝子型は【Pii】と推定されます。
耐冷性は『ひとめぼれ』並の「強(旧・極強)」と強いですが、高温耐性(高温登熟耐性)については「やや弱」と判断されています。(『ひとめぼれ』の高温耐性は「中」)


日本穀物検定協会の食味ランキングでは大苦戦*商品そのものの評価ではありません。

岩手県が満を持して繰り出した『金色の風』でしたが、多くの産地品種が高品質を謳うにあたって一種の登竜門、「特A」(基準米より特に良好)を狙う穀検の食味ランキングでは大苦戦を強いられています。

平成29年度に参考品種として参加しましたが、評価は上から二番目の「A」(基準米より良好)
この年は正式参加となった『銀河のしずく』も「A」評価となり、岩手県はかなり肩を落としたことでしょう。

雪辱を誓ったであろう平成30年度も同じく参考品種として参加。
しかしながら上がるどころかさらに一段階下げて「A'」(基準米と概ね同等)とまたもや最高評価を受けられず。

元号変わって令和元年度は…なぜか正式参加なし。
一部報道では「審査の基準となる作付面積1,000haに届かず、参考品種は2年のみの審査の為、審査の対象にならなかった」と言っているところもあります。
ただ、作付面積1,000ha以下の品種なんていまやちらほら(福井『いちほまれ』、神奈川『はるみ』)ありますから、これは少し古い基準のことを言っており、正確ではないように思われます。

評価が散々だったことから新潟県の『新之助』のように、岩手県では食味ランキングには参加しないことにした…のではないでしょうか?(憶測です)



育種経過

岩手県において作付け面積全体の7割を占める『ひとめぼれ』は「極強(旧)」の耐冷性を活かし、冷害が多い当県における高品質米の算出に大きく寄与していました
県の1等米比率も2016年まで10年以上90%以上を維持するなど品質は高く、穀検の食味ランキングで『岩手県県南産ひとめぼれ』は同一品種同一産地最多の13年連続特A記録を持つほどです。
そんな高品質の岩手米ですが、市場取引価格は全国銘柄平均を下回り、全国上位の品種銘柄と比較すると1俵当たり3,000~8,000円もの価格差がありました。
これは山形県の『はえぬき』の状況と酷似していますが、高い玄米品質と食味評価を受けながら価格は安いという、岩手県からしてみれば適正な評価を受けていないと感じるに十分な状況です。

『ひとめぼれ』や『コシヒカリ』に替わって岩手県産米全体の市場評価を高め、かつそれら品種と同等の相対取引価格が期待できる岩手県最高級品種の育成が望まれていました。
『金色の風』はそんな岩手県において、県南部の特A評価栽培地向けとなる極良食味品種を開発目標に、(公財)岩手生物工学研究センターと岩手県農業研究センターの言わば”合作”で育成されました。

『金色の風』の交配母本は『Hit1073』、父本は『ひとめぼれ』です。
『Hit1073』は『ひとめぼれ』の突然変異低アミロース個体、『ひとめぼれ』は前述の通り岩手県の主力良食味品種です。

母本となる『Hit1073』の育成は、平成17年(2005年)から開始されました。
平成17年(2005年)、公益財団法人岩手生物工学研究センターにおいて2万個体の『ひとめぼれ』(の穎花)に対してエチルメタンスルフォネート(EMS)処理を行い、突然変異を誘発させます。
この年は9,300個体を栽植し、内2,709個体を選抜しています。
(ちなみに【12,000系統の『ひとめぼれ』突然変異系統から選抜】と各所で記述されていますが、「12,000」という数字は後にも先にも出てきません。『岩手118号』の育成には係わらない研究系統全体の事を言っているのかも知れませんが、兎に角ここでは『金色の風』育種論文に沿って記述します。)

平成17年(2005年)から平成19年(2007年)にかけては前述の2,709個体(系統)の突然変異系統について、各系統10個体栽植し養成が行われました。
平成20年(2008年)は栽植が行われず、種子の保管が継続されただけです。
保管年明けて平成21~22年(2009~2010年)の2ヶ年、岩手県農業研究センター圃場で有用変異体の選抜が実施されます。
ここでアミロース含有率が『ひとめぼれ』に比較して2~3ポイント安定して低く、食味官能値の高い『Hit1073』が選抜され、平成23年(2011年)は『Hit1073』のアミロース含有率の年次変動について確認を行っています。

時はほんの少し遡って平成22年(2010年)、育成された低アミロース系統『Hit1073』を母本、『ひとめぼれ』を父本とした人工交配(温湯除雄法使用)が岩手県農業研究センター作物研究室で実施され、3粒の種子を得ました。
同F1世代3個体は平成22年(2010年)12月から平成23年(2011年)3月にかけて温室内での養成が行われます。

翌平成23年(2011年)、F2世代76個体の中からMutMap法※により、アミロース含有率が『ひとめぼれ』比で2~3ポイント低い19個体を選抜します。
平成24年(2012年)F3世代は前述の19個体を19系統として養成し、19系統57個体が次年度の試験用に選抜されます。

平成25年および平成26年、生産力検定試験および特性検定試験に供試され、葉・穂いもち病圃場抵抗性検定、いもち病真性抵抗性遺伝子型の推定、生涯型耐冷性検定、穂発芽性検定及び食味官能試験が実施されます。
選抜課程としては、平成25年(2013年)F4世代は19系統57個体を19系統群57系統として系統養成されます。
この中から玄米品質あるいは食味官能評価の優れる12系統群12系統(各系統5個体)を選抜し、各系統群に『岩1229』~『岩1240』の試験番号が付されます。
平成26年(2014年)F5世代は、前年の12系統60個体を12系統群60系統として栽植します。
そしてこの中から、出穂後の枯れ上がりが少なく、草姿の優れる『岩1237』1系統5個体が選抜されます。

平成27年(2015年)、直近2ヶ年の試験の結果『岩1237』は熟期、いもち病抵抗性、耐冷性といった特性が『ひとめぼれ』並であり、食味は『ひとめぼれ』に優るとの判断がなされ、『ひとめぼれ』を超える極良食味の晩生品種として期待できると判断されます。
『岩手118号』の地方系統名が付され、奨励品種決定調査供試系統として配布されることになりました。
奨励品種決定調査は岩手県農業研究センター(北上市)で基本調査が実施され、そのほかに奥州、一関の2箇所で現地調査を実施しています。
この年のF6世代は前年の1系統5個体を1系統群5系統として栽植し、1系統10個体を選抜しています。

平成28年(2016年)も奨励品種決定調査を継続します。
基本調査に加え、金ケ崎(農業大学校)、奥州、一関の3箇所で現地調査を実施しています。
ちなみにF7世代は『No.1』~『No.10』の10系統を栽培し、内『No.5』が廃棄されます。
しかしながら新たに1系統が養成された(育成系統図では元の『No.9』から新系統『5』『9』に分離したようにも見えるが明記されていない)ので、最終的に全体で年度当初と同じ10系統を維持しています。
そしてこの年の12月に『金色の風』との名称が発表されました。

育成地での調査結果及び奨励品種決定調査の結果、『岩手118号』は『ひとめぼれ』と同等に良質で、強い耐冷性を有し、『ひとめぼれ』を上回る食味を持つ系統であることから、平成29年2月に岩手県の奨励品種に編入することが承認されました。
ただし試験の結果、やや長稈で倒れやすいことと、収量が『ひとめぼれ』に劣ることも明らかになっています。

育種最終の平成28年(2016年)時点でF7世代。
若干若い気もしますが、ほぼ『ひとめぼれ』同士の掛け合わせなので固定も早いという事でしょうか?

県南の『ひとめぼれ』特A評価地区に置き換わっての普及を見込み。
でしたが、令和5年(2023年)の全農岩手県本部発表によれば、『金色の風』の生産量は1,000トンを維持するとのことで、かなり生産量は制限する方針のようです。

系譜図
岩手118号『金色の風』系譜図


参考文献


○「金色の風」開発の物語:http://www.iwate-kome.jp/konjiki/

○やや低アミロース性の主食用水稲品種「金色の風」の品種特性:岩手県農業研究センター・岩手生物工学研究センター




関連コンテンツ







2017年12月18日月曜日

【粳米】青系187号~青天の霹靂~【特徴・育成経過・系譜図・各種情報】

地方系統名
 『青系187号』
品種名
 『青天の霹靂』
育成年
 『平成26年(西暦2014年) (独)青森県産業技術センター農林総合研究所』
 ※交配は青森県農林総合研究センター時代
交配組合せ
 『F1【夢の舞×青系157号】×青系158号』
主要産地
 『青森県』
分類
 『粳米』
青天の霹靂ッ!!!だよ!


「こんにちは、さっぱり」

登場も命名もまさにその名の通り、『青天の霹靂』の擬人化です。


どんな娘?

お馬鹿な娘。(いや違うんですよ愛着を込めてですね…)

本州最北の地、青森県でも育つ元気さと活発さを兼ね備えた娘。
万事小さい事にはこだわらない&人懐っこい性格。

今のところ精神年齢が(なぜか)幼いので、今後大きく成長する可能性も。
お馬鹿じゃなかった天然。


概要

農業王国ながら極良食味米(ブランド米)というジャンルでは後塵を拝し続けてきた青森県がついに得たエース米。


品種名の『青天の霹靂』は、弥生時代最北の水田があった青森県の「青」、北の空の「天」、雷鳴の「霹靂」をイメージ(って言われても諺としての”青天の霹靂”イメージが強すぎて…)。
青森県の澄んだ空に突如現れた稲妻のように鮮烈な存在になってほしい、食べた人たちを驚かせるほどのおいしいお米になってほしい、との願いが込められています。

とは言え
ネット上ですら天の霹靂”の誤字が目立ち、ことわざなんだから手書きできなくても変換ぐらいちゃんとしようよ…と思ったり思わなかったり。
”霹靂”を手書きで書けというのは大変だとは思いますが”青天”くらいは…


程よいツヤと、柔らかな白さ。
粘りとキレのバランスがいい、上品な甘みの残る味わいのお米です。
平成26年(2014年)産米で青森県産米として初めて日本穀物検定協会食味ランキングで特A(参考)を獲得、さらに平成27年(2015年)に本ランキングでの特Aを獲得し、その評価を確固たるものとしました。

彼女の期待される役割は”青森県産米の牽引役”
そんな『青天の霹靂』は他県の例に漏れず、品質優先です。
10a当たりの収量は9俵(540kg)程度とし、作付け地域も登熟気温が確保できる津軽中央と津軽西北の良食味生産が可能な水田に限定されています。
他にもタンパク質含量6.4%以下(水分15%換算・目標は6.0%)、検査等級は1等か2等に限定といった出荷基準が設けられ、生産者も登録制です。
生産者には種子更新率100%(毎年種籾を買う)は当然として、土壌診断に基づく土壌改良の実施、農薬使用回数は通常の半分以下、栽培管理記録の記帳といった栽培基準に取り組む必要があり、青森県の良食味生産推進にかける意気込みが見て取れます。(とは言えこういった縛りが農家側からは不評…に思える節もあるのですが)

ブランド米生産支援システム「青天ナビ」も開発。
衛星画像を利用して『青天の霹靂』の生育状況を分析し、追肥や収穫の判断に用いるなど、結構ハイテクな取り組みも行っています。

そんな取り組みで”優秀な青森県産米の看板灯”としての役割を立派に果たしている『青天の霹靂』。
「青森県にはこんなおいしいお米があるんだよ」という事を知ってもらいたいがための宣伝としての特A獲得、品質保持と言う面が強かったかもしれませんが、今や単なる看板役ではなく、名実共にトップブランド米達に並ぼうかという勢い。
後輩品種の『はれわたり』を迎え、どのような立ち位置になるか、注目ですね。

育成地における熟期は「中生の中」に属し、草型は「偏穂重型」の品種です。
稈長は「やや短稈」(76~77cm)で、耐倒伏性は『つがるロマン』以上『まっしぐら』以下の「やや強」と倒れにくい品種となっています。
粒はやや大きめ(縦長)で、千粒重は22.8~22.9gです。
収量性は『つがるロマン』に優り、『まっしぐら』並の約610kg/10a程度です。(多肥試験で713kg/10a)
試験時のタンパク質含有率は6.5~6.7%、アミロース含有率は16.1~16.4%で極良食味と評されています。
いもち病抵抗性は、葉いもちが「極強」、穂いもち「強」と優れています。
真性抵抗性遺伝子型は【Pia】【Pii】と推定。
耐冷性も「強」といずれも前代主力の『つがるロマン』『まっしぐら』にやや勝る非常に優れた栽培特性を持ちます。


需要はありながら伸びない作付け

知事を筆頭(?)とした広報活動、印象的な名前・パッケージなどで市場での知名度、そしてその食味の良さを広げている『青天の霹靂』ですが…
平成31年/令和元年(2019年)より絶対量が足りていないという深刻な事態に陥っています。

2019年産米に向けた『青天の霹靂』、青森県の予想需要は1万262トン、作付面積にして2,138ヘクタール。
しかしながら、前年より20日間近く申請期間を延ばしたものの生産者登録は前年より16%減の708経営体(『青天の霹靂』の作付には事前の登録が必要)。
結果、2019年『青天の霹靂』の作付面積は1,566ヘクタール(前年比△323ヘクタール)にとどまる見込みとなり、予想需要の7割程度しか確保できませんでした。
もともと厳しい生産基準に加えて、追い打ちをかけたとされるのが「2018年産の不作」です。
猛暑が厳しい年でしたが、ただでさえ(主力の『まっしぐら』に比べて)収量目標が低い『青天の霹靂』がさらに天候不順により不作となり、農家の収入を直撃したと言われています。
翌2020年(令和2年)産は申請時点で692経営体、作付1,631ヘクタール、収量予想で7,800トンを確保の予定となりました。
2019年の栽培実績1,550ヘクタールより、一経営体あたりの作付面積が増えたことで81ヘクタールほど増える形となりましたが、やはり需要1万トンには届いていません。

2021年度(令和3年)は1866haになる予定(前年比実績+251haだそうです)。
大分増えましたがまだまだか・・・

 予想需要に生産量が届かないということは、本来『青天の霹靂』が流通するはずだったルートに、別品種が流通することを意味します。そして一度失った流通ルートを取り戻すことは容易ではありません。
 『青天の霹靂』にとって、天候不順時にも安定した収量を得られる栽培技術の確立が急務であり、試練の時が続きます。
ブランド化が正解か、業務用米が正解か、それは誰にも確実な未来は見通せない以上、ナニが正解かなど分かりませんが…いずれにせよ生産者当人の選択がどのような未来に繋がるのかは今後も注目ですね。


そんな彼女は非常に珍しい『コシヒカリ』の”来孫”です

○毎年10月10日は彼女、『青天の霹靂』の日です!覚えておこう!(誰得)
 【制定由来:1010=センテン=青天】


名称公募

平成26年(2014年)6月、”お米の食味ランキングで最高ランクの「特A」評価獲得を目指す品種”として『青系187号』の名称公募を青森県産米需要拡大推進本部が名称公募を実施しました。

ふっくらとして「つや」があり、味も良く、特に粘りと硬さのバランスが良く「こし」がある特徴のある米、と表現されています。

応募期間は平成26年6月16日から7月18日までの約1ヶ月間。
応募方法は専用ホームページからの申し込みか、ハガキによる応募。
ホームページは締め切り日18時が最終、ハガキは当日消印有効。

採用された名称応募者に送られる最優秀賞は賞金20万円に加えて副賞「青森県産農畜産物ギフト1万円相当」、さらに『青系187号』10kg(試食用サンプル)となかなか豪勢。
なお、この「最優秀賞」は応募した名前がそのまま採用された場合の賞であって、仮に応募された名前を元に青森県が補作した場合は「優秀賞」が1乃至2名に授与されるとされていました。
そんな優秀賞は賞金5万円と副賞「青森県産農畜産物ギフト5千円相当」、さらに『青系187号』10kg(試食用サンプル)だそうです。
…優秀賞って次点名称候補者に贈られるものだと思ってましたが、この名称公募についてはちょっと毛色が違ったようですね。

県内外を特に問わず、応募件数にも特に縛りは無く、広く公募が行われ、最終的に11,049件の応募が集まりました。
青森県産米需要拡大推進本部が設置したマーケティングに関係する大学教授や大学生、消費者団体や集出荷団体の関係者等11名で構成する「新品種名称選考委員会」は、この中から候補を5つまで絞り込みます。
その5つの候補の中から最終的に青森県が選定したのが『青天の霹靂』です。
(なお他4つの候補名は、あくまでも応募者に権利が帰属するので発表できないとの青森県のスタンスのため、不明です)


平成26年11月5日に行われた臨時の知事記者会見で、三村知事(当時)により名称発表が行われました。(なぜ臨時かと言えば、商標登録出願の発表が確認できたタイミングで行ったため…と言って何のことか分かります?)
応募者(野辺地町の志田氏)によれば「青森の天からふりそそぐ自然からできた、まるで青天の霹靂のような驚くほど美味しいお米」をイメージしたとのこと。
三村知事(当時)も「もうすごい自分としてもいい名前出してもらったなぁ」とご満悦の様子でした。


同年12月10日に行われた「あおもり米ファン感謝祭」において『青天の霹靂』命名者の表彰式が執り行われ、同時にあの特徴的なロゴデザインの発表も行われました。


育成経過

育種期間は福井県が宣っている『いちほまれ』に準拠するとなんとわずか3年である(キリッ!)←管理人のです(念のため)

改めて
米どころと知られる東北に加えて、平成に入って不味い米「やっかいどう米」の汚名を見事に返上した北海道が日本穀物検定協会で次々と特Aを獲得する中、唯一青森県だけがこの地域で特A獲得銘柄無し…という状況でした。
主力品種の『つがるロマン』『まっしぐら』などが、適度な食味と手頃な値段をウリとして県外で業務用として一定の評価を得てはいましたが、県産米のイメージアップと評価向上の牽引役となる新たなブランド米が待ち望まれるようになります。
そのような状況に対応するため青森県で行われてきた極良食味品種育成の中で、熟期が「中生」、耐倒伏・耐冷・耐病性に優れた極良食味品種を目指して交配が実施されます。(この時点では青森県農林総合研究センター)

温湯除雄法による交配は平成18年(2006年)8月。
母本が『北陸202号(夢の舞)』×『青系157号』のF1(雑種第一代)、父本が『青系158号』の三系交配で、交配番号は『青交06-52』です。

◆F1【『北陸202号』×『青系157号』】
多収でいもち病耐性の優れる『青系157号』に、『北陸202号(のちの『夢の舞』)』の良質・良食味を導入する目的で交配されたものです。
『北陸202号』の熟期が育成地において「極晩生」に属するため、この交配後代からでは「中生」熟期個体の出現数が少なくなることが懸念されました。(せっかく栽培特性と良食味を両立した個体が出てきたとしても、熟期が遅いと採用できない)

◆『青系158号』
育成地における熟期が「中生」の品種で、食味と耐冷性に優れる系統です。
母本であるF1に交配することで、「中生」熟期の交配後代の出現率を上げる目的で交配されました。

この交配から104粒の種子を得て、同年10月から平成19年(2007年)3月にかけてF1の世代促進栽培が実施されます。
104粒全てが播種されました。
平成19年(2007年)4月から平成20年(2008年)3月の期間はF2世代からF4世代まで世代促進が図られ、各世代約2,000粒を播種、全刈り採種されています。

平成20年(2008年)4月からF5世代90gを播種し、圃場に1粒1株植えとして約2,000個体の中から個体選抜が実施されます。
立毛観察では「中生」熟期の個体が80%、「晩生」個体が20%で、この点は当初の三系交配の目的は概ね達成できたとみることができるのではないでしょうか。
また稈長は「短稈」~「中稈」で、強稈で良型の個体が多いことから全体で「やや良」と評価されています。
これらの評価を元に207個体が圃場で選抜され、さらに室内で玄米品質調査が行われ、その結果81個体が次年度の系統種子として残されます。
白未熟粒の発生が多いことから玄米調査全体の評価としては「やや不良」とされています。

平成21年(2009年)、育種とは直接関係ないかもしれませんが、この年に青森県農林総合研究センターが地方独立行政法人青森県産業技術センター農林総合研究所に他機関と共に統合されています。
この年のF6世代から系統栽培による栽培と固定が進められていきます。
前年の81個体を81系統(1系統あたり24個体)として、障害型耐冷性及び葉いもち抵抗性検定にも供試されます。(『09PL1618』~『09PL1698』の81系統)
固定度、草型、熟期、いもち病抵抗性、玄米品質などを総合的に検討し、12系統が選抜され、各系統3個体を次年度の系統として残します。
なお、このF6世代における『09PL1687』が後の『青天の霹靂』となる系統です。


平成22年(2010年)F7世代は前年の12系統36個体を12系統群36系統として、1系統当たり60個体の系統栽培を継続。
さらに生産力検定予備試験、いもち病抵抗性、障害型耐冷性、穂発芽性などの各種特性検定に供試されます。
これらの検定の結果を総合的に判断し、2系統(各系統5個体)を選抜して『黒2391』『黒2392』の系統番号を付与します。(後者『黒2392』が後の『青天の霹靂』)
『黒2392』のこの時点での総合評価は「良」で、稈質が強く収量性は『つがるロマン』並、いもち病耐性、耐冷性も強く、良質・極良食味と評されています。

平成23年(2011年)F8世代は前年の2系統10個体を2系統群10系統(各系統60個体)として系統栽培。
系統群『黒2391』は『11PL3141』~『11PL3145』の5系統、系統群『黒2392』は『11PL3146』~『11PL3150』の5系統です。
またこの年より生産力検定本試験及び特性検定試験及び系統適応性検定試験に供試されています。
岩手県農業研究センターにおいて育成地相互交換系統適応性検定試験も実施されています。
熟期、収量、玄米品質、障害型耐冷性、いもち病抵抗性などの特性を総合的に判断し、『黒2392(『11PL3149』)』を有望として『青系187号』の地方系統番号を付し、奨励品種決定調査への配布が決定されます。

平成24年(2012年)、”青森県にも特A品種米を”の声が高らかに上がったのがこの年。(研究課題名「あおもり米優良品種の選定試験」・県単予算・2012~2014年度)
当時有望視されていた他4品種『青系172号』『青系180号』『青系181号』『青系182号』とともに『青系187号』もこの選抜に臨みます。
基本的な系統栽培(1系統群5系統各系統60個体)、生産力検定本試験、特性検定試験は継続しつつ、前述の選定試験に供試され、地域適応性等奨励品種候補としての検討も始まります。
この年は前述した5品種の中から『青系172号』『青系187号』の2品種が選考に残ります。


平成25年(2013年)からは青森県重点推進事業(あおもり米新品種「特A」プロジェクト事業)により、津軽地域の9カ所で特性調査等の現地試験を実施し、日本穀物検定協会他関係団体に食味についての検定・検討を依頼します。
各種試験や農家での栽培、日本穀物検定協会の食味官能試験の結果を経て、『青系187号』が先輩格の『青系172号』を下し、特A獲得を目指す青森県の”極”良食味品種として名乗りを上げることになります。
『青系187号』は炊飯米の外観、味、食感が良いとの高い評価を得、栽培面においても耐倒伏性や耐冷性、耐病性が優れていることから平成26年(2014年)2月に第2種認定品種(奨励品種の前段階として試験的に市場調査を行う品種)に指定されます。
そしてこの年のF10世代で育成が完了したとされており、育種期間は少し短めの8年です。

平成26年(2014年)は同試験・同事業は継続されており、良好な特性と良食味性が再確認されています。
同年6月には、名称公募が行われ、11,049件の応募の中から『青天の霹靂』と命名されました。
さらに同年産(2014年産)の食味ランキングが平成27年(2015年)2月に発表され、『青天の霹靂』は参考品種ながら青森県産米初にして悲願の特Aを獲得します。
そして平成27年(2015年)4月に青森県の奨励品種に指定されることになります。



日本全国津々浦々に農業試験場があり、数多くの品種があると言っても、青森県の育種はそう簡単にはいきません。
青森県の特殊な環境に適する品種は、他地域とは全く違うからです。
県外で優秀な品種があるから奨励品種に使おう…ということが気軽に行えないのです。
特殊…と言うよりも稲にとって過酷な環境下で生まれた『青天の霹靂』はまさに青森県の何十年という育種、技術・努力・実績、その結晶といっても過言ではないでしょう。(正直この点、どこぞの『い○ほまれ』のエセ宣伝とは訳が違います。)



※当初はKayさんからの情報提供を頼りに執筆させていただきました。
 ありがとうございます。


系譜図

『山形40号』がいっぱい見えます。

青系187号『青天の霹靂』 系譜図


参考文献


〇青天の霹靂公式HP:http://seitennohekireki.jp/

〇あおもり米新品種名称発表について[臨時]H26.11.5

〇水稲新品種'青天の霹靂'の育成:青森県産業技術センター農林総合研究所研究報告第43号



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2017年12月10日日曜日

つぶやき四コマ『西海ってさ…』

新しい酒造好適米っ娘たちを作成中。
そんな今日の出来事…

ずーっと『西海134号』、さ・し・す・せ…せいかい…せいかい…ない!?
って米品種大全の無印~5、あと酒米ハンドブックで小一時間探してました…

いや東西~とうざい~ですし…関西~かんさい~ですし…
「西」ったら「さい」なんですけど、なんでかずっと脳内再生「せいかい」でした

というどうでもいい話。でした。


※『西海134号』
 現在佐賀県でのみ銘柄指定。
 山田錦を父本に耐倒伏性と耐病性の改善が行われた。
 ただし酒造適性はあまり高くない様子。
 実用品種としては珍しく姉妹品種の『西海135号』がある。

2017年11月30日木曜日

【粳米】富山86号~富富富~【特徴・育成経過・系譜図・各種情報】

地方系統名
 『富山86号』
品種名
 『富富富
育成年
 『平成29年(2017年) 富山県 県農林水産総合技術センター農業研究所
交配組合せ
 『F1【コシヒカリ富筑SDBL2号×コシヒカリ富山APQ1号】×12-9367B』
主要生産地
 『富山県』
分類
 『粳米』
『富富富』です。ふふふ…よろしくお願いしますね。

うまみ。あまみ。ふと香る。ほほえむうまさ、富山から。


北陸県勢の新品種ラッシュの中、富山県が送り出した(不憫な)新品種、富山86号『富富富』(ふふふ)の擬人化です。


どんな娘?


どこかつかみどころがなく、影が薄いが実はかなり優秀。(だがそれと一般受けが良いかは別問題)

もともとおっとりぼんやりな性格に加えて
富山県ではもっと楽な役回りをすると思っていたのに、急に高級ブランド路線に担ぎ上げられ困惑気味。
周囲のドタバタに気苦労は尽きない日々が続いています。


教育自体はかなり高レベルなものを受けてきたものの、実地でそれを発揮できるかどうか彼女自身も周囲も非常に心配しているところです。



概要

【富山の水】【富山の大地】【富山の人】
「富」山の豊かな水や肥沃な大地で「富」山の生産者が育てた「富」山づくしの米、が名称の由来。
食べた人が幸せな気分になってつい「ふふふ…」と笑ってしまう…そんな願いも込められているそうです。

『富富富』はもう兎に角曖昧
なんといっても曖昧
悪く言えば(もう言ってるけど)中途半端
ちなみに高級路線を目指すと言っている割にはそのブランド化戦略すら曖昧。(で結局挫折したという・・・)
あ、でも公式ホームページは一番凝って(金がかかって)ます。
そして育成が凄いハイテクです。(とは言え”米”としての販売・売れ行きには残念ながらおそらく多分絶対に影響しない)


〇名称公募
系統名も公表せず、「富山県の新しい米」というすさまじく曖昧な状態で名称公募。
この時点ではまだ3系統候補があった様子ですがなんとも違和感(管理人の主観)
とりあえずそんな曖昧な品種にも名称公募には9,411件(県内7,468点、県外1,938点、不明5点)の応募があり、平成29年3月26日、東京都内のホテル(ホテルニューオータニ)で品種名『富富富~ふふふ~』発表。

〇ロゴ
どうにも曖昧で私が解釈を間違えているかもしれませんが富山県は『富富富』に関して「デザインをアレンジできる」としていて、これは特定のロゴを作らないという事なのか、塗り絵のようなロゴになるという事なのか…
仮にも高級路線、ブランド化を目指しているのなら、そのブランドのイメージを担うロゴがそんな曖昧でいいのかなぁ…
よくわかりませんが…というのが名称公募開始時点でのこと
ところがH30.2.22に富山美術館3階ホールでキャッチコピーとロゴデザインの発表が行われてみると?
 古代から現代に至る米作りの歴史を「富」の字体で表現。白と赤を基調にした日本を意識させるデザインに仕上げられています。
 …うん?
 「デザインをアレンジできる」というのはどこにいった?


〇食味
「極上の旨味と粘り」「高品質」「日本穀物検定協会でも高評価」といった文言は並ぶものの、アミロース含有率や具体的な食味評価試験値などは公表無し?
精玄米重やら稈長やら倒伏程度やらの数値はあるんですが、それは農家の皆さんにアピールすることでは?
どうもアピールする点がずれている感じ(管理人の主観)

※一応公式表現を記載
①極上の旨みと粘り
②炊き上がりはつやがあり透明
③高温でも白未熟粒が少なく高品質←食味関係あります?(味を表現してる?という意味で)

富山県農業研究所が成分分析結果を(ようやく)発表。(H30.2.22)
 「甘み」と「うま味」に関わる成分がコシヒカリより2割多く含まれているそうです。
 「甘み」とは果糖、ブドウ糖、ショ糖、麦芽糖のことで
 「うま味」とはアスパラギン酸やグルタミン酸のことです。
 (ちなみに我が山形県のつや姫はアスパラギン酸6割、グルタミン酸3割多いデスどやぁ
 「甘み」成分が多いことから『富富富』は口に入れる前からデンプンの分解が進んだ状態である事を示しているそうです。
 で
 これ自体は『富富富』の優秀さを物語っていると思います。
 それはいいんですが
 試験販売前(もしくはせめて販売と同時)にこういう重要な情報を発信できていないあたり、『富富富』というか富山県の後手後手感を感じるんですが…(管理人の偏見)


まぁ…育種状況がわかってくると『富富富』の戦略がどうも曖昧な印象を受ける理由がよくわかる気がします。
”最高級品種を目指す!”なんて銘打っている『富富富』ですが、育種開始(とされている)平成15年当初から食味の”し”の字も出てきません。
もちろん『コシヒカリ』は極良食味品種で、そのNIL種を育成目標としているならば、極良食味品種になるだろう、ということは分かりますが…結局『コシヒカリ』と同じ味の品種、ということですよね?
無論、食味というのは絶対的数値で表せるものではなく、個人の主観が含まれるため絶対的な上下は決めつけられませんが、『富富富』の育成目標は、『コシヒカリ』と同価格・同食味帯で栽培特性や収量に優れる品種としての路線の『石川65号(ひゃくまん穀)』と同じ、ではなかったのでしょうか?
新潟県の『新之助』、福井県の『いちほまれ』(は正直ちょっと胡散臭いんですが)と、コシヒカリを超えよう!という品種は育種の選抜過程で初期から食味にかかわる検定を行っています(ということになっている)。
『新之助』に至っては稈長を無視して食味重視で選抜を行うなど、栽培特性はある程度犠牲にしても…という姿勢がうかがえます。

それに対して『富富富』は結果的に食味が『コシヒカリ』より優れるものに変化していた、とわかったのがおそらく平成28年か平成29年、デビュー直前です。
さらに、具体的に「「甘み」「うま味」がコシヒカリよりも多い!」と発表できたのが名称発表(H29.3)からほぼ一年たった平成30年も2月の末…

『コシヒカリ』と同等の食味…そんな品種では、言っては何(失礼)ですが何のブランド力もない富山県産米が高級路線に食い込めるとは思いません。
石川県の『石川65号(ひゃくまん穀)』のごとく、栽培特性の優れたコシヒカリで、生産コストを抑えて『コシヒカリ』と同価格帯を…ぐらいに考えていたのではないでしょうか?
それが食味試験を行ったらなんと、食味が良い方向に変化している、と。
これを受けて急遽路線変更でもしたのか…もしくは県政側が周辺県の動きを見て思いつきのように「高級品種を出せ」とでも言いだしたのか…
⇒令和3年9月25日の富山テレビの報道で「やっぱりな」な報道
『富富富』の戦略が「コシヒカリ超え」から「コシヒカリ並」に変更されたことを受けて
県の担当者曰く「もともと『コシヒカリ』の暑さに弱いという弱点克服に主眼がおかれて開発された品種(食味の向上やコシヒカリ超えなんて想定してないよ:管理人意訳)
まぁそうですよねとしか・・・だからこんなにグダグダちぐはぐしているんですよね・・・
県農林水産企画化市場戦略推進班曰く「『コシヒカリ』に置き換わる品種にするという話は当初からあった(『コシヒカリ』を超える米なんて考えはなかった:管理人意訳)
まぁそうですよね


モヤモヤ曖昧『富富富』の行く末や如何に。



魚沼並みの高級品種を目指す?ブランド戦略の経過…そして末路


もう見てて不憫になるほど身内からの援護がありません。
『いちほまれ』や『新之介』と肩を並べろ!と富山県が言う割には、周知・宣伝・準備・戦略すべてが(墨猫大和の主観で)中途半端でぐだぐだです。
そんな体制で『魚沼産コシヒカリ』他高級路線品種達に挑めというのか…
西部戦線にずらりと並べられたケーニヒスティーガーにスチュアートで立ち向かわされているかのごとくです(例え下手)

すでに前述した「名称公募」「ロゴの発表」「食味のアピール」ですでにグダっておりますが、同じようなネタは事象は尽きません…


→まず最初からして
 平成29年(2017年)10月30日から開始(~11月30日まで)した『富富富』の生産者募集に対して同年11月末時点での応募総面積が約400haと、目標の1,000haの過半にも届かなかったそうです。
 『富富富』の生産も登録制によるものですが、「新品種に対して取り組むかどうかこの期間に決断できなかった生産者が多い」と富山県は言ってますが・・・
 というかそれ以前に周知が足りなかったんじゃないの?というのが率直な感想。
 というかというか、それなのになぜ1,000haも当初から目指したのか…
 ブランド化に向けて質は無論のこと、ある程度の”面”を制圧できる量は欲しいところですが…

→そしてトップからして
平成30年のデビューを前にして富山県の石井知事が「あんまりよそのことを気にしないで、しっかりやっていけば大丈夫だと思いますが」などとズレたことを言っていたり
他県と競合していかなきゃならんのに競争相手を気にしないでどうやって戦うつもりなのか?
「よそで何やってても美味いモノ作ってりゃ売れるでしょ」なんて時代錯誤もいいところでは?

→と言うかそもそも言っていることが
富山県自体が「ブランド化を図り、主力米をコシヒカリから切り替えるか、今後3年の市場評価を見極めたい」などと曖昧・悠長なことを言っていたり
あなたたち『富富富』の宣伝にもう2億円以上(2018年のPR予算2億5,000万円)ぶっこんでいるんですよね!?
それでその「失敗したらまぁ諦めるか」かのようなその発言してもいいのか!?
ちなみに広告には女優の木村文乃さんを採用した模様。
ちなみにちなみにこの”見極めたいの3年間”で富山県がPRに使った総額は6億5千万円だそうです。(富山県民怒って良いのでは?)
 
さらに追い打ちは続きデビュー3年目の令和2年(2020年)11月13日
栽培面積はこの3年間でおよそ2.5倍の1,282haに増えましたが、県産コシヒカリの20分の1程度。
富富富ブランド化戦略会議において富山県は「『富富富』を『コシヒカリ』に代わる主力品種にした上で、『コシヒカリ』以上の価格を目指す」とその骨子案を提案。
しかし、各委員からは
バラ色の計画もいいが、実態に即した計画に軌道修正出来る体制を。せっかくいいものを作ってもらって売り先がないというのは一番不幸なことでは」(神明 森脇部長)
「今まで通りの高価格帯での販売はちょっと無理もあるのでは」(富山県農業法人協会 橋本会長)
「店で並んでも定価で捌けず、見切り(値下げ)シールを貼って売られたことが多々」(大和産業 川合部長)
「消費者からコシヒカリの方がおいしいから高い富富富は買わないという声を聞いている」(富山県消費者協会 平野常任理事)
と異論轟々…何で身内からもこんな袋だたきにあうん?と思うところですが
①富山県がろくな体制も戦略もなしにそれこそ理想論ばかり言っている(差別化や宣伝の徹底が出来ていないのは事実)
②富山県の農家・販売業者は高価格帯を望んでいない

いずれかでしょうか…本当に大丈夫なんでしょうか。
なお富山県はあくまでも「『コシヒカリ』以上の価格帯を求めたい」とのこと。
本当に大じy…

→そしてこんな経過を辿れば結末はやはり・・・
令和3年産(2021年産)の『富富富』の概算金が令和3年8月19日に全農富山県本部より発表。
その金額は1等米で11,800円/60kgと前年比で2,700円の減。
富山県産『コシヒカリ』が11,000円/60kgで、『富富富』生産者に加算される800円/60kgを除けば同水準まで落ち込みました。
コロナ禍で全国的に米価が下落気味なので減は致し方ないにしても、問題なのはやはり『コシヒカリ』と同水準に妥協したという点です。

これは前述した『富富富』の戦略推進会議において、令和2年度の時点で既に「県産コシヒカリを上回る」から「県産コシヒカリと同等以上」へと方針を変更したことを受けてとのことだそうです・・・ええ(困惑)
平成30年~令和2年度(2018~2020年度)はずっと14,500円/60kgと据え置いてきたのですが・・・この減額からずるずると「コシヒカリ以下」とならないよう祈ります・・・



育種経過


平成15年(2003年)に新品種開発プロジェクトがスタート。(したらしい)

富山県の基本構想は交雑育種法による「新しい品種」ではなく、『コシヒカリ』の弱点を克服した『コシヒカリIL』の類の品種でした。
その為平成15年にスタートした、と言ってもその前半は高温障害耐性遺伝子の特定などの研究に充てられていた様子。
ただ、もしかしたら『コシヒカリ富筑SDBL2号』の育成も『富富富』の育種期間に含めてる?

話戻って
その素材となった品種は
・『コシヒカリつくばSD1号』(『コシヒカリ』の長い稈長を改善・短稈化)
 →稈が短く倒れにくい『コシヒカリ』
  ※短稈性遺伝子【sd1】所有
・『コシヒカリ富山BL2号』(『コシヒカリ』のいもち病に弱い性質を改善・真性抵抗性)
 →いもち病にかかりにくい『コシヒカリ』
  ※いもち病真性抵抗性遺伝子【Pita-2】所有
・『コシヒカリ富山APQ1号』(『コシヒカリ』の暑さに弱い性質を改善)
 →暑さに強い『コシヒカリ』
  ※高温登熟耐性遺伝子【Apq1】所有
・『12-9367B』(『コシヒカリ』のいもち病に弱い性質を改善・ほ場抵抗性)
 →いもち病にかかっても悪化しにくい『コシヒカリ』
  ※いもち病ほ場抵抗性遺伝子【pi21】所有

これらの品種はすべて遺伝子座のほとんどが『コシヒカリ』と同等で、耐病性や耐暑性といった一部の遺伝子だけが違う品種です。
これらの品種を掛け合わせ、【短稈化】【高温登熟耐性】【いもち病真性抵抗性】【いもち病圃場抵抗性】の遺伝子以外は『コシヒカリ』と同じ新品種を目標としたようです。
選抜の際には遺伝子マーカーを利用、ピンポイントに目標の遺伝子を持つ個体のみを選抜できたようです。

交配は平成24~25年(2012~2013年)に行われました。
平成24年(2012年)に『コシヒカリ富筑SDBL2号』を母本、『コシヒカリ富山APQ1号』を父本として交配。
翌平成25年(2013年)に『F1(雑種第一代)』の中からDNAマーカーを使って【いもち病真性抵抗性】【高温障害耐性】の遺伝子を持つものを選抜(【短稈】は目視での確認が容易に可能だがマーカーを使用したのだろうか?)。→このF1世代では選抜を行っていないようです。

翌平成25年(2013年)にその『F1』を母本、『12-9367B』を父本として交配。
平成26年(2014年)に交配種子約3,000個体の中からDNAマーカー技術を用いて目標の4遺伝子(【Apq1】【sd1】【Pita-2】【pi21】)がホモ接合体となっている16個体を選抜。
平成27年(2015年)には前年度の16個体を16系統として、ほ場選抜の中で3系統まで絞りこみ『富山86号』『富山87号』『富山88号』の地方系統番号が付されます。

最終的な選考は”食味”を元に
・富山農業研究所
・日本穀物検定協会
・富山米新品種食味評価会(アンケート結果)
・富山米新品種戦略推進会議
それぞれの食味評価を踏まえ、『富山86号』が選ばれました。

名称公募の結果、平成29年(2017年)3月26日に品種名『富富富』が発表されました。




このように「高温耐性」「短稈」「いもち病真性抵抗性」「いもち病圃場抵抗性」これらを『コシヒカリ』本来の食味を崩さずに(検証が遅れましたがむしろ食味はより良くなって)導入した試験場の手腕と技術は非常に素晴らしいものと言っていいと思います(謎の上から目線)。
『新之助』や『いちほまれ』の宣伝文句が「20万種から選抜」なので「3,000系統から選抜」とされている『富富富』が一般傍目には選りすぐられた感が薄いかもしれませんが、そんなことは決してないのです。
むしろ希少性・技術的面では『富富富』の方が優るかもしれません。


しかし



しかし


それは残念ながら消費者には一切関係無い話
こんな話に飛びつくのは稲品種マニアくらいじゃないかな…(飛びついている管理人)




どうも彼女を「ふふふ…」と笑わせてしまうとオヤジギャグを言わせている気分になります…


H29.11.30~ 父本『12-9367B』について予想してた頃のお話

eco-farmerさんに情報頂きました。

ぐぁぁああぁぁぁ…これは分かりづらい…ほんっとうに分かりづらい…愛知県のミネアサヒSBL(中部138号)の系譜並みに分かりづらい…(父方?がまだよくわかりませんが…)
『いちほまれ』と違ってこれは富山県正解ですわ…伏せておいて正解ですわ…
ちゃんとした系譜図載せたら線が多すぎて酔いますわ…

親はコシヒカリ戻し交配品種のオンパレード。
私(どや)やKayさんの大方の予想通り、『富富富』は『コシヒカリ』の極近縁種でした。(コシヒカリ富山APQ1号はまさにピタリ!お見事!)

母本と父本がまだはっきりとわかりませんが…おおむねこんな感じでしょうか?
というか
父本の『12-9367B』とやらが(試験番号なのでしょうが)どんな系統なのか分かりません。
愛知県農総試育成の『中部137号(12-9326B)』の試験番号が近いので、おそらくこの育成過程の選抜系統の一つなのでしょうが…なぜかこの『中部137号』はデータベースに系譜図がないんですけど!?なにゆえ!?
中部140号以降は試験番号が『13-●●●●B』ですし配布開始年も違うのでやはりこの前の年の育種情報がないと…
Bはあれかな?いもち病のBかな?戻し交配による抵抗性導入の試験系統ってことかな?

→H29.12.1 父本『12-9367B』追記
 Kayさんにも情報いただきました!感謝感謝です(泣)
 『中部137号(12-9326B)』の交配情報ヒャッホー!
 陸稲『戦捷』のいもち病圃場抵抗性遺伝子を導入した、これまた『コシヒカリ』改良極近縁種『ともほなみ』を親に使っている点、かなりドンピシャ臭いデス!
 『富富富』の父本『12-9367B』もこの『中部137号』と同交配・同系統ではないでしょうか(無根拠)
 超・フライング気味ですが系譜図作ってしまいました。(そう言えば…本日「稲品種データベース」見たら『富山86号』項目だけ追加されてました。交配情報・系譜図他一切無し。近日更新?)
この系譜図は間違いです(H29.11時点での予想図)


→H29.12.17 系譜図修正
 やはりJAの系譜図は信用ならん…
 『12-9367B』はまだ情報載っていませんが

→R1.9.2 系譜図修正
米穀データバンク様の米品種大全6に基づき系譜図修正
『12-9367B』は陸稲品種『戦捷』由来の「pi21」保有…というのは当たってましたが…
こんなんだったのか…(最下部参照)



おまけ


『BL』…『いもち病抵抗性』
『SD』…『短稈~semi-dwarf~』
『SL』…『縞葉彼病抵抗性』
『APQ1』…『高温障害耐性』
『HD』…『晩生化』
なので
『SDBL』…『いもち病抵抗性』+『短稈』
『SBL』…『いもち病抵抗性』+『縞葉枯病抵抗性』

なので?『富富富』は…『コシヒカリ』に【短稈】【いもち病真性抵抗性】【いもち病圃場抵抗性】【高温障害耐性】を付与したので…
『コシヒカリ富山SDBLBLAPQ1・1号』ですね(嘘です)。
でも富山県は『富富富』にさらなる形質を付与する予定がある!みたいなこと言ってます。
…【縞葉枯病抵抗性】を付与して!さらに晩生化を図って!富富富ILとしての普及を!
これぞ『コシヒカリ富山HDSDSBLBLAPQ1』!
品種名は『富(短稈)(耐いもち)(耐高温)(耐縞葉枯)(晩生化)』!?(嘘です)



系譜図

でもまじめに『富富富』ってつまり『コシヒカリSDBLAPQ1』ってことですよね?

富山86号『富富富』 系譜図



参考文献(敬称略)

〇温暖化に対応した水稲新品種「富富富」の開発と栽培技術の確立:小島洋一朗




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2017年11月19日日曜日

~男米→新男米→ふくおとこの品種改良?の系譜~ザ!鉄腕!DASH!!

本日の「ザ!鉄腕!DASH!!」はTOKIOが品種改良(?)した!という触れ込みの『ふくおとこ』スペシャルでした。

後で改めて書きますが始めに結論。
この『ふくおとこ』は新品種新品種と謳われていますが”品種”と呼べるものではありません。
『新男米』を紹介するサイトなどでは「いつか品種登録を…」なんてことが書いてある場合もありますが、番組内の内容を見るに、今のままでは永遠に不可能です。


公式に”品種”と呼べるものではないので、残念ながらよく話題になる日本穀物検定協会の食味ランキング評価されるようなものではありません。



ただ、始めに言っておきますが、私は「ザ!鉄腕!DASH!!」大好きです。
もう本当に大好きです。

今回は「稲の品種改良」について少し書こうかな、というだけで批判する気はさらさらありません。
あ、でも
この『ふくおとこ』を検索すると、今回の放送内容「農家の苦労がわかる回」みたいな表現をよく見かけるんですが農業試験場の皆さんの苦労が分かる回」だしょ!?


目次



〇『ふくおとこ』の系譜・親品種達

まずは『ふくおとこ』の系譜図を下に示します。
母本の『新男米』、さらにその親株の『男米』については交配品種の記載はあるのですがどちらが母本でどちらが父本か明記されていませんでした。
…恥ずかしながら私も記憶にありませんので、仮の母本と父本を割り当ててます。
鉄腕ダッシュの公式HPをよくよく見たら記述がありました。

●男米
平成14年(2002年)に交配(?)。
これは”品種改良”というより”新品種開発”のようなニュアンスでしょうか?
『ひとめぼれ』と『たかねみのり』を圃場に1本1本交互に植えて、開花期を合わせることで自然?他家受粉させて(?)生まれたのがこの『男米』。
…えーと…正直稲は開花時に花粉がはじけ飛んでしまって9割8分は自家受粉してしまうので別品種を交互に植えたところで…交配するのは100粒に1~2粒では…?
なんだかそもそも『男米』は『ひとめぼれ』もしくは『たかねみのり』そのまんま説急浮上です…『男米』はいもち病に弱いってことは…『ひとめb…
ですがまぁ交配したことにしておきましょう…いやきっと選抜してますよ…うん…
自然交配(?)なのでどちらが母本でどちらが父本かは不明です。

●新男米
平成19年(2007年)に温湯除雄法を用いて人工交配。
いもち病に弱い『男米』の耐病性の改善が目的。DASH村初の人工交配(品種改良?)。
『ふくおとこ』の交配ではわざわざ手作業で雄しべを除いていましたが、『新男米』の交配の際はスタンダードに温湯除雄法で花粉を除いて(死滅させて)いたようです。
(【温湯除雄法】…43℃のお湯に7分浸けると雌しべは生きたまま雄しべの花粉だけ死滅させる事が出来る素晴らしい除雄法。)
母本の『男米』にいもち病に強い父本『ふくみらい』の花粉を交配。
この翌年に栽培した際、『新男米』の中でいもち病にかかるもの(交配成功?)とかからないもの(交配失敗?)が出て、罹病した株は刈り取り、選抜されました。
…これっていもち病にかかったのが『ひとめぼれ』交配株で、かからなかったのが『たかねみのり』交配株ってことじゃ…
いや、野暮はやめましょう。

『ふくおとこ』~系譜図~



今日の番組で紹介されていたので『ふくおとこ』の母本・父本は明確です。
母本は番組オリジナルの『新男米』。『男米』のいもち病抵抗性を改良したもの(前述)と紹介されています。
父本は『チヨニシキ』。愛知農総試育成の耐冷性・耐病性に優れた品種です。

温湯除雄法ではなく手作業で『新男米』の雄しべを取り除き、『チヨニシキ』の花粉を交配。
4,000粒の交配を実施して、得られた種子は107粒。
107粒の内、播種して発芽したのは57株。
交配に成功したと判断されるのは内35株。
この35株が『ふくおとこ』とされてます。
収量1kgの内、半分の500gを炊いて食べていましたね。



〇『ふくおとこ』は品種?なの?

さて改めまして
おそらく現代の常識から言えばこの『ふくおとこ』はとても”品種”と呼べるレベルのものではありません。(親株の『男米』、『新男米』と共に、ですが。)
繰り返しますが私は「ザ!鉄腕!DASH!!」大好きですよ?
批判とかではなく、あくまでも育種という視点からこの『ふくおとこ』を見ると?という話題です。

この『ふくおとこ』まだ雑種第1代です。
収穫された35株はこの代では比較的同じ性質を示しているとは思いますが…
交雑育種法を用いている以上、この種子をまいた雑種第2代からは一気に多種多様な性質を示す雑駁・雑多な集団へと変貌します。

”メンデルの法則”は有名ですよね?
赤い花と白い花を交配させると、その孫の花の色は『赤:白=3:1』となり、さらにその後代は…というやつです。
こんなのですね。「赤」が優先遺伝子、「白」が劣性遺伝子。


「通常の稲の育種(交雑育種法)には10年はかかる」というのは、多様にバラける子孫の性質が安定するのに約10代は必要という点が大きいのです。
雑種1代~4代は性質が安定せず、多種多様であり、この時点で優秀でも子孫の性質が劣っていく可能性もありますし、この時点で劣っているように見えても子孫が非常に優秀であることもあるのです。(『コシヒカリ』も後者に該当します。)

交雑育種法の選抜開始時期には大きく”系統育種法”と”集団育種法”の二つがあるのですが
雑種第2代という早期から選抜を始める”系統育種法”は「雑種後代初期に性質を見極めるのが難しい」ことからあまり行われなくなったと聞きます。
主流は雑種第5~7代まで選抜せずに育ててから選抜を開始する”集団育種法”です。


『ひとめぼれ』『つや姫』『ゆめぴりか』等、現代の米は10代以上の時間を経て、容姿の異なるもの、栽培特性の異なるものを除くことで、ようやく性質を同じくする集団”品種”として認められているのです。



〇雑種群『ふくおとこ』

だらだらと長くなりましたが
この点から『ふくおとこ』を見れば、おそらく後年の世代は多種多様な性質を示す雑多な品種の集まりとなっていくことは明白です。
原則として、品種『ひとめぼれ』の子は『ひとめぼれ』で、品種『つや姫』の子は『つや姫』ですが、この『ふくおとこ』の子は同じような性質を持った個体の集まり『ふくおとこ』ではないのです。

先ほどの図を使って見てみましょうか。
なんと言っても今回の『ふくおとこ』の交配目的(達成すべき目標)は、味に【雑味】を含ませること、とのことでした。
【雑味】が少ない母本の『新男米』に、【雑味】の豊富な父本の『チヨニシキ』を交配することで、【美味しい】+【雑味】の『ふくおとこ』が出来た、とのストーリーでした。
でわ
これもまたあまり正確な表現ではないのですが
『【赤】=【雑味がある米】』
『【白】=【雑味が無い米】』
と見てみてください。(ホモ・ヘテロとかどっちの遺伝子が優性だとか自家受粉原則だとかはまぁなんとなくで解釈してください)

雑種第1代(今回の番組で試食されていた『ふくおとこ』もここに該当します)は、なるほどすべて【赤】=【雑味がある】米ばかりですね。
雑種第2代は…おっと、【白】=【雑味のない】米が4分の1混ざるようになってしまいました。
これが雑種第3代になると…【白】=【雑味のない】米は全体の4割近くになってしまいました。
図はありませんが
雑種第4代では
(【赤】=【雑味のある】米)(【白】=【雑味のない】米)97
雑種第5代では
(【赤】=【雑味のある】米)(【白】=【雑味のない】米)1715
だんだんと比率が1:1に狭まっていきますね。
一番最初は【美味しい】+【雑味】の『ふくおとこ』が出来たように見えても、選抜・固定をしなければこのように当初の特性はどんどん薄れていってしまうのです。(通常の育種ではこの【白】=【雑味のない】株を見つけ、捨てることで【赤】=【雑味のある】株の純度を高めていきます。)

無論これは【雑味】というたった一つの特性で考えた場合です。
実際は【雑味】以外の様々な性質(遺伝子)が組み合わさり、またこのような単純な遺伝をするものばかりでもないので、さらに複雑・多岐に変化をしていきます。
つまり
味の良いもの・平凡なもの、病気に強いもの・弱いもの等々、”個”で見ればバラバラな性質を持った株の集団になっていくという事です(当初の優秀な性質を残した株も残っているはずですが)。
番組の最後で”品種改良は後年優秀な種子を選抜していくことで約10年で完成する”ようなことで〆られていましたが、今回のように”株”の状態で選抜もせず、刈り取って種子にしてしまっていては永遠に不可能です。
(今回はそもそも雑種1代なので分離すらしてなかったとは思いますが)混ぜこぜにしてしまった種もみの状態では、どの株が優秀で、どの株が劣っていたのか、もはや知る術がないからです。
播種する籾(種子)を選別する塩水選などはあくまで充実した籾を選択するためのもので、栽培特性や食味の優れた種子を選択する性質のものではないので、上の図での【白】=【雑味のない】種籾は逆立ちしても選抜(排除)できません=”後年優秀な種子を選抜していく”こと自体不可能です。
おそらく番組としてもそんなことは知っていて、そこまで厳密に選抜する気もないのでしょう。


ということで
表記するなら雑種群『ふくおとこ』の表記が正確でしょうか?


〇もしかしたら…

母本の『新男米』、さらにその親株『男米』もおそらく固定化・選抜はしていないでしょうから、これら二つも雑多な性質を持った個体の集まり、呼べて”雑種群”という程度のものであったと推測されます。(というかまともに10年掛けて固定・選抜してたら番組にならないですものね。)
※蛇足ですが、こういった固定されていない雑種世代を交配親株に用いることは優秀な品種を生み出すには有効な手段とされています。
話を戻して、しかしそう考えると
そもそもこの【『新男米』×『チヨニシキ』】の雑種1代35株ですら何一つ同じ株は無かったのかもしれません。

この点から見ると
番組の中では発芽した種子57株のうち、22株が”出穂期が母本の『新男米』と同じだから”という理由だけで”交配失敗”の烙印を押されて除外されていましたが(『新男米』と見てわかる形質の違いのある品種群を作る、という番組の趣旨的には正しいのかもしれませんが)、もしかしたらこの22株は単に出穂期が同じなだけで、中には雑種群『ふくおとこ』『新男米』を遥かに凌ぐものがあったかもしれません。
※通常の交配であればこの判断は至極真っ当、”交配失敗”と判断して差し支えないものです。これは親株の遺伝子が純正のホモ接合体ではないと仮定したら、という話です。

雑種第1代で出来た雑種第2代、1kgの種子の半分を食べてしまいましたが、この中に雑種群『ふくおとこ』『新男米』を遥かに凌いでいくものがあったかもしれません。

両者共に、より耐病性にも優れ、倒伏に強い優れた遺伝子を持った個体があったかもしれません。
ただ
無かったかもしれません。
農業試験場の職員の方々は選抜・育種の際には日々このような葛藤と闘われています。(雑種1代を選抜したり食べちゃったりなんて無法はしてませんよ?)


〇でも、”品種”ってなんだろう?

種苗法による品種の定義は以下の通り。
「この法律において『品種』とは、重要な形質に係る特性(以下単に『特性』という。)の全部又は一部によって他の植物体の集合と区別することができ、かつ、その特性の全部を保持しつつ繁殖させる事が出来る一の植物体の集合をいう。」(種苗法第二条第二項)
なんだか難しい言葉ですが
稲で言えば見た目で揃った稲の集団で、かつ孫子の代にも同じ性質を残せるもの…と言ったところでしょうか?
・『つや姫』を田植えしたら半分は背丈はバラバラになるし、倒れやすい株もあるし、施肥のタイミングが分からない…
・去年の『つや姫』は味が良くて暑さに強かったけど、今年の『つや姫』は味が悪い、その次の年は味は戻ったけど暑さに弱くなって…
なんてことでは困るよ~ということです。

そうすると、雑種第1代で選抜も(F1では出来ないんですが)せず、固定化もされていない『ふくおとこ』はとてもではありませんが”品種”としては認められないのがわかるかと思います。
『ふくおとこ』の後代は雑駁・雑多、多種多様な集団になっていくことは後述した通りですし、ある程度系統選抜をしないかぎり、この点は何年たっても解消され無いものと思われます。

ですが…

〇品種とはいったいどこまで厳密なモノでしょうか?



明治から大正にかけて日本を席巻した品種『神力』
財団法人広島県農林振興センター農業ジーンバンクに残されている品種『神力』を栽培・比較した成果表を見たことがありますが、出穂期は早生から極晩生まで、稈長は40cmから120cmまで、心白の発現性もバラバラ、紫稲まで存在します。
奨励品種になったものも『早生神力』、『中生神力』、『晩生神力』が存在します。



同じく明治に『亀の尾』『神力』と並んで稲の三大品種に数えられた『愛国』
『早生愛国』、『中生愛国』、『晩生愛国』と呼ばれる在来品種が存在し、じつに多様な性質を持った品種の集団であったことが推測されます。

このように大正~明治に見られる”品種”とは(同名異種の可能性もありますが)現代の基準では考えられないほど雑駁・雑多、多種多様な個体の集まりでした。
有名な『旭』も『朝日』との区別が判然としていません。


では、現代の”品種”はすべて統一された同一の”個体”なのか?と言えば
厳密には違います。
この点、特に『南魚沼産コシヒカリ』信奉者、『コシヒカリBL』批判者は大きく勘違いしていると思われるところです。
(あと良くも悪くも今回の番組でも勘違いする人がいるかな?)

前述したように品種とは”植物体の集合”です。
現代の品種は限りなく同一の性質を持つ集団になっていますが、DNAレベルで同一個体の集合でもなく、クローン体の集合でもありません。
ただ、その”違い”が目で見えないレベルまで統一された集団であることは間違いありません。
そしてそれを『品種』として認めているのです。

ですから、多少の”ブレ”はどうしても存在し、それは後代になるほど発現しやすいものです。
稲は自家受粉するので原則『つや姫』の子は『つや姫』ですが、(無意味・無用な事ではありますが)厳密に見れば他家受粉をする個体、突然変異を起こす個体が一定確率で発生する以上、栽培を続ければまったく同じ『つや姫』は存続しえません。
そしてそれは試験場で育種された品種のおおもとの”育種家種子”でも実は同じことが言えてしまうのです。
交雑育種法で生まれた品種は雑多な遺伝子の集合体で、世代を重ねるごとに性質は安定していきますが100%純系にはなりません。
品種のおおもと”育種家種子”ですら見た目の性質に現れない遺伝子の”ブレ”は存在するのです。

昭和50年頃、日本一の作付を誇った『日本晴』
各地の『日本晴』のDNAを調べてみると、いもち病抵抗性遺伝子を持つものと持たないものが存在するそうです。
育種段階で固定されていたように見えても、厳密にはわずかに違いがあった、ということの良い例でしょうか。(育種段階で少しドタバタもあったらしいですが)

佐藤洋一郎氏著「コシヒカリより美味い米」に『日本晴』について上記のような記載があるのですが、公式の報告書ではこの内容を確認できませんでした。
明確に残っているのは『日本晴』の子品種『黄金晴』が配布先の試験結果でいもち病抵抗性に差がありすぎ、真性抵抗性遺伝子が違う固体が混ざっているのでは?と記載されているものだけでした。
佐藤氏が勘違いしているのか、実際『日本晴』でも似たようなことがあったのか、これはわかりません。


しかししかししかし
これは原則問題にするようなことではありません。
そんなに極限まで同一のものを求めなくとも実用上問題はなく、仮に同一のものを求めるのならばその為にそそぐ労力と手間があまりにもそこから得られる成果に見合わず、非現実的です。

例えば市販されている雑巾。
1mm幅が違ったら何か問題がありますか?
「ちょっと!この2枚の雑巾、同じ製品なのに幅が1mm違うんだけど!?」
クレーマーの多い日本でもさすがにこんなことで訴える人はいないでしょうし、仮に1mm単位で雑巾の幅の製品管理などしても意味はないですよね?
布は伸び縮みがあるんですから多少の幅は容易に変わりえますし。
さすがに同一規格の雑巾の中で10cm、20cm単位で幅が違えば見た目にもわかりますとは思いますが、こういった製品に限らず、人間社会ではある程度の”ブレ”を許容しています。
乱暴な例えですが、こういうことだと私は理解しています。





言わずと知れた『コシヒカリ』
彼女ですら、奨励品種としての試験のために新潟県他各地に送られた時点で、いまだに性質にばらつきがあり、固定が完全でなかったとの記録があります。
ということは、より個体としての”ブレ”が発生する確率が高いという事です。
しかも彼女はすでに誕生から60年以上経過し、育種家種子もとうの昔に尽き(たと思います。)、世代交代を繰り返す中で、それこそ育種当時の『コシヒカリ』とは”個体”としては違ったものになっている可能性が高いのです。(無論”品種”としての『コシヒカリ』は健在です。)

根拠となる論文を見ていないので確証はないですが
日本各地の『コシヒカリ』をDNA鑑定するとやはり各地の『コシヒカリ』は、地域によって遺伝子座で微妙な違いがあるそうです。

偽コシヒカリ問題でDNA鑑定が用いられることも多々ありましたが、そこで顕在化したのがこの『本物のオリジナル・コシヒカリ』とは何ぞや?です。
前述したように”品種”『コシヒカリ』は各地で微妙に遺伝子座が異なっていることがあり、それによって本当の品種『コシヒカリ』を栽培していたにもかかわらず、『偽コシヒカリ』の烙印を押されてしまった農家の方もいます。
では
どの『コシヒカリ』の遺伝子座がオリジナルで本物なのか。
どの”個体”『コシヒカリ』を基準にすれば”品種”『コシヒカリ』の真贋を見極められるのか。
私個人の意見ですが、もはやこれは実体のない”個体『コシヒカリ』”を求めているのですから”答えのない問い”としか言いようがありません。


繰り返しになるかもしれませんが”品種”は全く遺伝子的にも同一の個体の集合…などではないのです。
という認識を持っていると、彼女
『コシヒカリBL』があそこまで批判された理由がまったくわからないですよね。
彼女は遺伝子的には99%近くが『コシヒカリ』と同一とされています。(いもち病抵抗性が明らかに『コシヒカリ』と違うので別品種ではあります。)
そんな彼女が食味試験を行い、国の審査も受け、『新潟県産コシヒカリ』として売られることを許可されて何がおかしいのでしょうか?
さて
『コシヒカリ』がいいからと”育種家種子”を使わず、自家採取を繰り返せば、自然交配や突然変異で”品種”の同一性は失われていきます。
では他県の『コシヒカリ』を使えば?
でもそれはもしかしたら新潟県が育ててきた『コシヒカリ』とは遺伝子上99%近く一緒でも1%違う”個体”かも知れません。
どうも”コシヒカリ信奉者”の皆様はBLは気になるけどこちらは気にならないようです。
どうにも傍から見ていると不思議です。
今までの『新潟県コシヒカリ』とは少しでも違えば嫌だ!と言っている農家の皆さんが、なんと、平気でその少し違う(かもしれない)『他県コシヒカリ』を使うんですから。

”個体”『コシヒカリ』は世間一般で表現されているほど絶対的で普遍的なものではないのです。
この点、多くの農家と消費者が誤解しているところであり、その理解不足の一端が『コシヒカリBL』批判とも言えると思います。(評論家(笑)の方々の売名行為も大きいとは思いますが)


こう書いていくとまるで”品種”はてきとーに簡便な範囲で許容されてるのかぁ…などという誤解のないよう言っておきたいですが
”品種”を守る努力と苦労は日本各地、各品種で行われています。
遺伝子単位での同一性の保持などという非現実的なことはしていませんが、品種としての栽培特性・性質が失われないよう、日々関係者の努力によって守られ続けているのです。


〇まとめ

TOKIOの『ふくおとこ』からなんだか脱線しましたが
こういった”品種”定義の変遷やある程度の寛容性を考えると、『ふくおとこ』もある時代では十分”品種”と呼べるのかもしれませんね。

あと、肝心なのが『男米』『新男米』『ふくおとこ』全てにおいて言えるのですが、本当に狙い通りの個体になっているのか、大いに疑問です。


いもち病に弱いけど美味しい品種】×【いもち病に強いけど美味しくない品種】

の組み合わせで【いもち病に強くて美味しい品種】が出来るというのは理想で、その通りになるものではありません。
いもち病に弱くて美味しくない個体】【いもち病にそこそこ強くてまぁ美味しいと言えなくもない個体】等中途半端な性質の個体が交配した後代のほとんどを占めるというのが実情です。(固定化されていない、遺伝子上の関連性質等、様々な要因がありますが)
最終的に人間の思い描くいいとこどりの性質を備えた後代は集団の中ではほんのわずかなのです。
『新男米』に食味で雑味を持つ『チヨニシキ』を交配したからって単純に足し算のように雑味が加えられるとは限らないのです。
海洋調査などでまさに奇跡的な発見が続いているTOKIOならば…もしかしたら一発で狙い通りの性質を…



ただなんにせよこれでは”品種改良”とは呼べません。
今回のこれはただの”人工交配作業”をして雑多な集団を手に入れただけです。
例えるならダイヤの鉱脈から一抱えの大きな岩を掘り出したにすぎません。
大きなダイヤの原石が埋まっているかもしれませんが、それを岩の中から見つけ出して、さらにその原石を磨き上げてこその”品種改良”。
交配の後の選抜が胆です。




な~んて小難しいような、重箱の隅をつつくような理屈を並べて見るような番組じゃないですよね、鉄腕ダッシュは

という話でした。



蛇足

2018年初頭はいろいろありましたが…
無事!18度目の米作りが始まりました!


TOKIOオリジナル品種『ふくおとこ』の更なる発展をお祈りします。





〇続報・系統選別開始(令和元年~)

選抜しなきゃ意味ないだろう、という体でずっと書いてきましたが、令和元年度から『ふくおとこ』は系統育種を開始するようです!
セオリー通り、F2世代を播種した昨年は様々な形質を持った雑種群として分化していたようです。

選抜系統は以下の三つ

◯『福の旅人』…稈長が長い系統(『いのちの壱』のような優秀な品種?)※1
◯『福のやまびこ』…出穂が早い系統(過酷な環境に強い?)※2
◯『No1太一』…見た目の粒が大きい系統

※1『いのちの壱』発見のエピソードから、「稈長が長い品種=美味しい品種」のように紹介されていましたが、稲の背の高さと美味しさに絶対的な相関関係があるわけではありません。(ある程度の傾向があることは否定できませんが)
※2「過酷な猛暑となった平成30年度でもいち早く出穂した!=過酷な環境に強い」のように紹介されていましたが、これは単に出穂期が早いだけ。耐暑性があるかどうかとはまた別の話です。(無論暑さに強い系統である可能性はあります)


水稲の育種についてはコチラ→『稲の品種が生まれる確率って?』←でも紹介していますが、いまだ雑種第二世代の『ふくおとこ』は遺伝子固定がガバガバのはずです。
昔はこのように初期から”優秀そうな個体”を選ぶ系統育種法が一般的でしたが、何度も言うように遺伝子の固定が完全ではないので、この時期に性質の優劣をつけても後代までそれが維持されることが実質少ないため、ほとんど行われなくなった方法です。

つまり【系統育種法】で
早い段階で選抜して、「美味しい、病気に強い品種」だと思っても
何年か育成していくうちに「美味しくもない、病気に弱い品種」になってしまった…ということが起こりやすいのです。


あくまでも可能性の問題なので、選抜されたこの3つの系統がどのような成長をしていくか楽しみですね!







2017年11月13日月曜日

福井県のポストコシヒカリ『いちほまれ』さんに対する疑問徒然(暴走気味です、お許しください)

1.福井県は「『いちほまれ』は平成23年に育種開始。育種期間6年」と言っているが

「親元の『富山67号』と『イクヒカリ』の人工交配は平成19年」

やっぱり育種期間6年じゃないんじゃないのか福井県?(10年ですよね?)
食味値なんかは盛大に盛るくせに、変なところで鯖を読む福井県。なんなんでしょう?



いちほまれのトコでも書いているんですが…


『1.育種期間6年』について
新しい記事を発見して、その中で福井県の冨田部長の発言?がありました。

やはり違和感しか感じない…


ポストコシヒカリ(今の『いちほまれ』)の育成が始まったのは平成23年だ。
でも交配は数年前に行っていた。←?
通常育種は10年以上かかるというのに、社会や農業の情勢はどう変わるかわからない。
だからいろいろな交配を行った材料をストックするという福井農試ならではの対応を行っていた。←?
ポストコシヒカリの育成を始めた平成23年に、当初の育成目標に合うようなストックがあった。
ポストコシヒカリの『目標に合った候補』20万種を1本1本手植えした→選抜・育成。

はい…はい?
記事を書いた人の解釈によるものなのか、冨田部長様が…いやそれなりの立場の人だと思うんですけど…なんでこんな言い方になるかな…
育種のカギを握る交配に関して(予測できる・あるいは予測できない)社会情勢、農業政策、気候変動あらゆる変動に対応できるよう(予算や圃場の広さもありますから無限にとはいきませんが)可能な限り多様な交配を試すのはどの試験場だってやってることではないのですか?(やってないのかな…)
しかも
『いちほまれ』の耐倒伏性や耐病性の高さは無論、高温登熟障害に対する耐性も10年前に交配したのならばそれほど革新的で奇抜な交配組み合わせとも思えませんが…(すくなくとも温暖化を予想できないようなご時世では既になかった…ハズ)育成途上の『てんこもり』を親株に使ったのならばまだ話は分かるんですが、『いちほまれ』の交配した頃にはとっくに育成終わってませんでしたっけか…?
なんだかなぁ…オーソドックスですよねぇ…
福井農試は色々交配したストックを持ってて、ポストコシヒカリのプロジェクトが立ち上がったから、ストックの中から『目標に合った候補』を選んで育種を開始した…?
そもそも世代促進しかしていないストックの中から育成目標に合ってる候補をどうやって選んだんですかね?
『コシヒカリ』を育成した時のように取り合えず交配した中から探してみようかなんて、まさかそんな本当の(悪い意味での)『コシヒカリを育てた技術』を使ったなんてオチではないですよね?

いえ、言われていることはわかるんですよ。
平成23年にポストコシヒカリ開発のプロジェクトが立ち上がって、(福井県から?)育種目標が明示された、と。

今(平成23年)から交配していたのでは最低でも10年はかかってしまう、と。

独自?の取り組みで様々な交配組み合わせをしていた福井農試には育成途上(世代促進中)の『てんこもり』×『イクヒカリ』の後代雑種(の他にも交配組み合わせがあったかもしれませんが)があり、『ポストコシヒカリ』の育種目標と一緒だった、と。

これなら育種期間を短縮できるよー、と。

だから平成23年が育種開始で、6年の育種期間なんだよ、と。

なんだかこじつけというか理由の後付け臭い…気がするんですよねぇ…
プロジェクトが立ち上がる数年前から、福井農試では既に次世代の主力品種用の交配・育種を始めていて、あとから県の予算が本格的についた、って話ならわかるんですが…(個人の偏見ですよ!)
色々交配してたら、急にプロジェクトが立ち上がったので、その育種目標に合うストックから選抜しました!って…なんとも違和感…
「急な要請にも応えられるくらい豊富な交配をしているんだよ福井農試は!」って言いたいようなんですが、【目標設定】→【交配親選定】→【交配・選抜】の流れが常識として頭に染みついている私にとっては、なんだか福井県の対応が後手後手というか…たまたまうまくいっただけじゃない?な感じが…
育種という行為自体多分に『偶然』が大きく働くことは理解しているつもりで、「結果良ければすべてよし」だとは思うんですが、でもあんまり褒められた話じゃないんじゃない…ですよね?
ってそんなこと米を食べる消費者には関係ない話ですし興味もないでしょうし、『いちほまれ』の味や品質にはまったく関わりのない話…のように思えるんですが、ですが、ですよ?
正しい情報を正しく伝えないような組織は、他のことでも情報を正しく伝えてないんじゃないか…と心配になってしまいます。


ちょっとなんなんですよの!
わたくしばかり批判するような内容ばかり!
管理人!
うるへー!
なんだか気になるんだよ!仕方ないだよ!

なっ…なにが気に入らないというんですの!


選抜作業を「1本・1穂手作業で」とか「20万種から!」とかいちいち凄いことのように宣伝してるあたりだよ!

日本全国津々浦々他の試験場の方々は手作業での選抜をしていないのか!?
機械刈り取りで楽してるのか!?

日本全国津々浦々の他の試験場では100種200種の中から選抜しているのか!?
ひとつの品種がそう簡単に見つかるものなのか!?
う…


普通だわ!(多分)普通のことだわ!
選抜作業が地道で華やかさのないひたすらでひたむきな【手作業】なのは!
選抜元が数万、数十万になるのは!
我々の食卓はそうした一般人にほとんど知られていない『日本全国』の試験場の職員・育種関係者の方々の努力に支えられているのであって、福井県が、いちほまれだけ別格なのか!?そうなのか!?
こうなるともうなんだかすべてが嘘に見えるわ!
食味官能試験0.70ですら怪しく見えるわ!
『嘘は言ってない』けどなんだか変な操作とかされてそうだわ!
さぁさぁさあ!どうなんだいちほまれ!
お前の本当はどこにあるんだよぅ!?
うう…


がるるるるぅぁ!
はい、そこまでにしておきなさいな。
この状況を裏返せば、いちほまれも福井県も、後にはもう引けないわよね~
人でも何物でも、強い光を受ければその分だけ影は濃くなりますわ。
コシヒカリの姿を見てきた貴女ならこの意味、わかってますわよね、いちほまれ?
…はい。
知名度が上がれば当然批判も増えますわ。
そういう事にも、少しづつ慣れなくてはね。
とは言っても、こんな育種関係の細かい事を、しかも詳細情報が明かされる前に決めつけて批判しているようなのは放っておいていいですわ。
福井県関係者もプロなんですからそう誤情報を流し続けるようなことはしませんわよ。(多分…)
もけ!?
はぁ~い
墨猫さんは寝る時間よ~
じゃあ~
いちほまれも、おやすみなさいね~
…がんばるのよ
…!
はい…ですわ…
わたくし…頑張ります!

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