2015年10月4日日曜日

【粳米】山形45号~はえぬき~【特徴・育成経過・系譜図・各種情報】

地方系統名
 『山形45号』
品種名
 『はえぬき』
育成年
 『平成3年(西暦1991年) 山形県 県立農業試験場庄内支場』
交配組合せ
 『庄内29号×あきたこまち』
主要産地
 『山形県』
分類
 『粳米』
「はえぬきです…こんにちは」

どんな娘?

引っ込み思案で自己主張が苦手(下手)。

ただ、自己主張が苦手なために知名度が低いだけで、その堅実かつ質の高い仕事ぶりは知る人ぞ知るところ。
とはいえやはりそれに見合う対価に恵まれない状況に本人も少しもやもやしています。
それでも決してくじけない、倒れない。

山形の米っ娘達のとりまとめとして、さらなる上を目指すつや姫、雪若丸を支えることに腐心している。
・・・表面上あまり見えなくても本人は頑張っている。

薄幸のおとなしい米っ娘です。


概要

魚沼産コシヒカリにも劣らない実力を持ちながら低価格での取引に悩まされる山形県が生んだ悲運児…自己主張に失敗した所が彼女の失敗…ってそれだけではないのですがね…
そんな『はえぬき』の擬人化です。
コシヒカリに匹敵する極良食味、かつ草丈が短く機械作業に適し、極強の耐冷性を持つ山形県の「ユメのコメ」です。

山形に生まれ、山形で成長した、まさに生え抜きの山形県品種。
『はえぬき』なんてすばらしい名前だと思うのですが、どうも世間の評価は芳しくない様子。


日本穀物検定協会の食味ランキングで平成27年まで22年連続の特A評価を受けるという実力は折り紙つき、安定した品質を誇る優秀な品種です。
このように特A評価を長期間受け続けたのは他に『新潟県魚沼産コシヒカリ』しかありません(『岩手県産ひとめぼれ』も惜しいところなのですが…)。

ただし、デビュー当時に山形県が箱入り娘として大事にし過ぎました。
産地間競争の激化の折、県の主力品種『ササニシキ』が冷害による(他県産の)大打撃で信用を失うという事態に陥るに当たり、状況打開の大きな期待がかけられたのが『山形35号(どまんなか)』と『山形45号(はえぬき)』の2品種でした。
しかしあくまでも「山形県オリジナル品種」にこだわり、県外への作付に慎重になり過ぎたため、丁度デビュー時に冷害への弱さを露呈して全国的に一線から去りつつあった『ササニシキ』の作付を、『ひとめぼれ』他同世代の別の品種達に取られてしまうという悲劇が。
他、宣伝不足等も重なり、全国的な知名度はまったく上がらず、品質の割に安値での取引をされています。
ただし冷めても美味しい、美味しいのに安い、そんな彼女は(平成初期~中期の時点で)セブンイレブン始め、食品業界には引く手あまたであり、一般消費者には「安くて美味い」米となって届いています。
そして何よりも
彼女の失敗は山形県になによりも大事な「教訓」を残しました。
大成品種『つや姫』の成功を陰ながら『はえぬき』が支えていると言ってもよいと、私は思います。

『つや姫』のおかげか少しずつ評価は上がっている?のでしょうか
”ブランド米”と呼ばれています、うれしいです!

育成地における熟期は「中生の晩」で『ササニシキ』よりも2~3日遅い品種です。
草型は中間型で、標肥・多肥条件のどちらでも稈が短く(約65~70cm)、茎はやや太く強稈であると評価され、耐倒伏性は「強」です。
葉いもち病抵抗性は総合的評価から「やや強」、穂いもち病抵抗性も同じく「やや強」となっています。(真性抵抗性遺伝子型は【Pia】【Pii】と推定)
白葉枯病抵抗性は「やや弱」で『ササニシキ』と同等です。
耐冷性は育成当初「強」の判定でしたが、後に「極強」に(の後さらに基準が変わり「強」に)
収量は『ササニシキ』並(約580~620kg/10a)ですが、多肥で倒れることがないのでやや収量は勝り、玄米品質は常に勝っているとの判断がされています。
千粒重は約22~23gです。

名称公募

県産米の失地回復の大きな期待を掛けられた『山形45号』は『山形35号』とともに名称公募を行いました。

山形県では新品種のデビューに当たって「水稲新品種銘柄確立対策協議会」が立ち上げられていました。
一般的にデビューする際に重要な「イメージ戦略」について、その基本的な方向付けをどうするか、検討が重ねられていました。
なお、流通宣伝対策事業全体のコンサルティングは日本ベリエールアートセンター(東京・銀座)に委託されます。
(なお結果はお察し)

県民の期待とデビューに向けた準備が着々と進む中、平成3年(1991年)8月から9月までの2ヶ月の期間で山形県農政課は新品種名の一般公募を行います。
これとは別に首都圏・近畿圏における主婦層に対する試食調査や、市場環境調査が行われており、新品種のネーミングにも活用されることになっていました。

「多くの人から親しまれ、愛される名前」「印象が強く残る新鮮なもの」を基本に全国的に広く募りました。
また国内のみならず、山形県と姉妹県州関係にあるアメリカ合衆国コロラド州及びユタ州でも邦字新聞に掲載して貰うなどしてPR活動をしています。

『山形45号』『山形35号』両品種の名称公募において、最優秀賞(各1点、合計2点)と優秀賞(各3点、合計6点)が用意されていました。
最優秀賞に対する副賞は賞金30万円と『山形45号』10kg、『山形35号』10kgを贈呈。
また優秀賞への副賞は賞金10万円と『山形45号』5kg、『山形35号』5kgが用意されました。
賞金総額は120万円とかなりの大盤振る舞いが見て取れます。


出足の8月の応募数は鈍かったものの、9月17日に行われた中間発表を受けて応募数が激増したと言われ、9月後半は1日に7千通もの応募が郵送されてきた日もあったそうです。
前述したアメリカからも、主に日系人の方々から約20通ほどの応募があったそうです。
最終的な応募数は11万1,142点。
2品種分の応募数とは言え、平成後半~令和において行われた名称公募に引けを取りません。

山形県農政課は想像以上の応募数に(うれしい?)悲鳴を上げつつ整理作業を行い、最終的に『えりぬき』『だんとつ』の二つが選ばれました。
そうして選ばれた『えりぬき』をさらに検討、平成4年(1992年)6月25日に山形45号は『はえぬき』と名づけられました。(庄内で生まれ、庄内で育ったまさに生え抜きの米が大きく飛躍し続けることを願って)


育種経過

昭和57年(1982年)山形県農業試験場庄内支場で母本『庄内29号』父本『あきたこまち』の交配が行われ、その交配から選抜されました。(相棒のどまんなかより一年遅れ)
耐倒伏性・良食味で優れるも玄米品質が芳しくなかった『庄内29号』に玄米品質の優れる『あきたこまち』を交配し、良質・良食味の品種育成を目標とした形です。

1983年にF1世代の養成。
1984~1985年にかけて雑種集団の養成(集団育種法であるのでこの時点での選抜は無し)と進み、1988年F6世代に『庄546』の系統群番号が付与され特性検定試験、生産力検定試験が行われました。
そして1990年F8世代に『山形45号』の系統名が付されました。
耐倒伏性「強」、耐冷性「極強」(※当時の基準)と栽培特性に優れ、コシヒカリ系統の粘りと旨さを持つ極良食味米です。




系譜図

後発品種の『山形95号』、『雪若丸』がいよいよ山形県で始動!
彼女達は『はえぬき』の跡継ぎとなるのか、はたまた全く別の立ち位置となるのか、これからも注目していきたいですね。

※『あきたこまち』の父本『奥羽292号』の祖先にいる『大系437』ですが、ネット上では圧倒的に「大系434号」の表記が多いですがそれはすべて誤りです。
この『大系437』が正解です。『あきたこまち』の記事参照。
山形45号『はえぬき』系譜図


参考文献

〇水稲新品種「山形45号」の育成:山形県立農業試験場
〇倒伏しにくい・良質・良食味品種「はえぬき」:山形県農業総合研究センター水田農業試験場
〇オリジナル水稲品種の開発とトップブランドへの展望:山形県農業試験場庄内支場 櫻田 博 
〇「山形45号 山形35号 期待の県産米 PR活動」:山形新聞(平成3年7月31日)
〇「期待のコメ新品種 山形45号 山形35号 名称応募、10万点超す」:山形新聞(平成3年10月5日)


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