2015年10月4日日曜日

【粳米】山形97号~つや姫~【特徴・育成経過・系譜図・各種情報】

地方系統名
 『山形97号』
品種名
 『つや姫』
育成年
 『平成20年(西暦2008年) 山形県 農業総合研究センター水田農業試験場
交配組合せ
 『山形70号×東北164号』
主要生産地
 『山形県』
分類
 『粳米』
つや姫「目指すは日本一!」

炊いてほれぼれ 冷めても美味しい

お米はここまで美味しくなれる。


毎月28日は「つや姫の日」!
美味しい『つや姫』をいっぱい食べよう!みんなと食べよう!

どんな娘?

明るく裏表のない性格で老若男女問わず、だれからでも好かれる娘。
何があろうと決して倒れず、最近の夏の猛暑もなんのその、元気活発に日本全国を走り回っています。

山形県内ではかなりののんびり屋。そんなマイペースを決して崩すことなく、周囲から心配されていた時期もありました。

今や全国の米たちの一種の目標となり、追われる立場となりましたが、そんなプレッシャーもなんのその。
天真爛漫・元気いっぱいの米っ娘です。


概要

科学的に裏付けされた極良食味「コシヒカリを超えるコメ」筆頭!!!(管理人の独断と偏見と依怙贔屓


隠れた米王国山形県が、前作『はえぬき』の雪辱を果たさんと満を持して繰り出した最強品種『つや姫』の擬人化です。
山形県で開発された稲品種の中で初の”晩生”(育成地基準)。
当初は「刈り取り前に降雪が来るのでは?」と心配する声もあったそうですが、そこは最近の温暖化に救われているところでしょうか。


現代の日本の米の最高峰『魚沼産コシヒカリ』の牙城を崩すべく、元気に全国を走り回っています。
その特徴はなんといっても極良食味と耐暑性(高温登熟耐性)。
加えて生産する農家、その栽培法を徹底して管理して生まれる品質。
山形県では『つや姫』の生産には最低でも特別栽培(農薬・化学肥料両方を慣行比50%削減)が課されており、より厳しい条件で高品質な『つや姫』の生産を目指しており、各県のブランド米と呼ばれる品種達と比べても一段と厳しいものとなっています。(※参照”平成30年度水稲新品種達の栽培条件・出荷基準~高級ブランド米の覇権はいかに?~”)

慶応義塾大学先端生命科学研究所の解析では旨味となるアミノ酸の一種、グルタミン酸が約3割、アスパラギン酸が約6割、『コシヒカリ』より多く含まれていることが科学的に証明されています。
そのような「旨味」成分が多い一方、「苦味」のもとになるアルギニンやフェニルアラニンは他品種と同等かやや低いという結果も出ており、このようなバランスの良さが『つや姫』の極良食味につながっているものと考えられています。

そしてこれは、消費者には関係のない話かもしれませんが…
近年の地球温暖化による猛暑下においても、その品質を落とさない耐性を持っており、平成22年(2010年)の記録的猛暑ではその力をいかんなく発揮し、一等米比率全国平均63%(新潟19%)のところ、98%という国内品種の最高値を記録しました(当の山形県も想定外の強さ!)。

草型は中間型、『コシヒカリ』並の晩生品種です。
耐倒伏性に関しては「やや強」と『はえぬき』同様倒れにくくなっています。
葉いもち病抵抗性は「強」と格段に強くなっています。
穂いもち病抵抗性に関しては、試験の際の罹病率が低く「判定不能」となっているため、現状かなりいもち病に強い品種と言えます。
真性抵抗性遺伝子型は【Pik】【Pii】と推定され、現状【Pik】を侵すレースが山形県内で少ないことが原因と思われます。
ただこれだけは真性抵抗遺伝子を侵すいもち病菌のレース変化によっては圃場抵抗性がどうなるかはまったくの未知数で、あくまでも”見かけの上では”強いという点には注意が必要です。
耐冷性は「中」(旧「やや強」相当)で多少劣りますが、近年の気象変動を見る限り、問題になるほどのことではないと想定されます。
収量は試験時に約560kg/10a、玄米千粒重は約22gで一般飯米用品種の中では平均的と言えます。


全国に先んじたブランド化戦略

このような優れた性質を有する『つや姫』を日本一のブランド品種とすべく、先代『はえぬき』『どまんなか』コンビで大ゴケした経験を教訓として、山形県とJAが一丸となって
取り組んできました。

”ユメの米”とまで呼ばれた『はえぬき』(と一応『どまんなか』も)が今や大半が低価格帯の業務用に甘んじている現状。
その要因とされるのが次の三点です。

①.登場初期に作付を県内に限定したため、県外での知名度が上がらなかった(さらに同世代デビューの他品種に全国区での作付を奪われた)。
②.さらにPR活動もうまくいかず、①に加えて知名度の低迷に拍車がかかった(山形県とJAでの統一した活動もなし)。
③.短稈で倒れにくく、比較的病気にも強い品種であった為、山間地などの栽培不適地での作付け拡大や、収量を上げようとする多肥栽培が横行し、食味・品質を大幅に下げた(市場評価の低下)。


『つや姫』は

①.デビューを待たずに全国28府県に種子を配布し、いち早く他県への展開を図りました。
  →当初、宮城県と大分県が奨励品種に採用。次いで島根県、長崎県も採用。
  それでいて品質の低い『つや姫』が出回らないよう、各県には栽培要件などの設定を要請(後述)。

②.これについては枚挙にいとまがないほどたくさんあります。
  県とJAが協力してPRに取り組み、初年度だけで2億円余りの額を宣伝に投じました。
  当時としては珍しかったテレビCMも、購買層の女性から高感度が高く食通で知られる作家の阿川佐和子さんを起用して実施。読売新聞にも広告を掲載しました。
  さらに吉村美恵子県知事を筆頭として県職員までもトップセールスとして各地を巡り『つや姫』の知名度向上を図りました。
 「つや姫レディ」や地元サッカーチーム「モンテディオ山形」のユニホームの広告もありますね。

 特に平成22年(2010年)の記録的猛暑時に記録した一等米比率98%という大挙は、各メディアによって大々的に報じられました。おかげで多大な広告費用を掛けずとも、全国に高温耐性が高く、美味しい新品種『つや姫』の名を知らしめるのに大いに貢献したとされています。


③.前述したように生産者は登録制、栽培適地(当初で県内水田の約3割のみ)以外での作付けは禁止し、高品質の米生産を目指しています。
 栽培要件も有機栽培を前提とした”最低でも特別栽培”全国と比較しても非常に厳しもの。
 他県で奨励品種になった際も可能な限り、栽培条件を限定するよう要請しています。
 さらに山形県産『つや姫』に関しては品質管理に加えて生産量管理にも重きを置き、足らず余らずの適正供給量の維持に努めています。(生産量が足りなければせっかく得たシェアを他品種・産地に奪われかねず、逆に余るほど過剰な供給となると価値の下落につながります。)

本格デビュー当初の平成22年(2010年)の生産量は約12,500t。内県外用に10,000t、県内用に2,500tを割り振るなどあくまでも県外重視の姿勢は明確でした。
このように見事に『はえぬき』の教訓を生かし、今や(2018年現在)全国に知れ渡る一大ブランド品種としてその名を轟かせるまでになりました。

そして令和の時代を迎え、米生産の盛んな東北六県・北陸四県では各県が減反政策廃止の時代を見据えた品種を携え、『つや姫』と同じ土俵に上がってきています。


それでも山形県(つや姫)は負けないぞい!


◯令和元年(2019年)12月時点~
 新潟県の魚沼産コシヒカリが2万782円/60kgで全国1位、対して山形県産『つや姫』は1万8,631円で2位につけています。
 本格デビューから10周年を迎え、山形県はこの現状に甘んじず、さらなる躍進を企画しました。
 新年度から始まる第5次戦略の中で「5年以内に魚沼産コシヒカリを超える」ことを目標に掲げ、いよいよ本丸取りに動きます。

〇令和2年(2020年)~
 コロナ禍で業務用米の需要が激減し、民間の在庫量の増加により米価全体が下がり、新潟県産や魚沼産の『コシヒカリ』ですらマイナスになる中、唯一北海道産『ゆめぴりか』と山形県産『つや姫』だけが値上がりの傾向を見せました。
 両者ともに業務用ではなく家庭向けであったことが大きいとされていますが・・・
 新潟県産コシヒカリの神話崩壊とも言える事象・・・とまで言うとさすがに過言でしょうか。



名称公募

『はえぬき』を上回る日本一のお米として『山形97号』を育て上げたい…
山形県の強い意気込みで、平成20年(2008年)1月21日の時点で県民への周知を図る「水稲新品種『山形97号』デビュー1,000日前イベント」を開催し、デビューに向けた3ヶ年戦略を開始します。

「米どころ山形の恵まれた環境と、人々の熱意が、かつてないおいしい、新しいお米を創り上げました。」
そんな『山形97号』について、デビュー1,000日前イベントに続き、山形97号ブランド化戦略実施本部事務局は広く一般から名称を募集しました。

最優秀賞(1点)には賞金30万円と『山形97号』60kg、優秀賞(4点)には賞金5万円と『山形97号』10kgを用意していました。
このほかに応募者全員を対象とした参加賞として
・尾花沢すいか6Lサイズ1玉(8/1~8/15応募分)20名分
・だだちゃ豆2kg(8/16~8/31応募分)20名分
も設けられていました。

平成20年(2008年)8月1日から8月31日までの1ヶ月間の間に全都道府県に加えアメリカハワイ州からのものも含め、最終3万4,206件の名称応募がありました。

同年9月から10月の間に山形97号ブランド化戦略実施本部で名称の絞り込みを行い、以下の7点の名称が候補として残りました。

番号候補名説明
一の穂(いちのほ)味わい、白さ、ツヤ、香りなど、おいしさナンバーワン、「米は山形」を堂々と。
おしんちゃん世界50ヵ国以上で人気の「おしん」+「ちゃん」で親しみやすく、覚えやすく。
千年の恵(せんねんのめぐみ)食の楽土をめざして先祖代々受け継いだ米づくりへの想い、技を「千年」に結晶させて。
つや姫(つやひめ)炊き上がりのツヤと輝き、冷めてもおいしい商品力に、大切に育てた意味の「姫」を。
出羽穂の香(でわほのか)山形の旧国名「出羽」に、「香りが素晴らしい」という特徴をやさしく表現。
めでた めでた「花笠音頭」にのせ、高品質米の誕生を祝う「セレブレーション・ライス」。
山形97号(やまがたきゅうじゅうななごう)すでに知名度のある開発ナンバーをそのままに、品種への自信をこめた名称。

この7点の候補を対象として平成20年(2008年)12月19日から平成21年(2009年)1月22日の期間で、今度は県民投票が実施されます。(当然山形県民が対象)
ちなみにここでも投票者の中から30名が抽選で選ばれ『山形97号』5kgがプレゼントされています。

そしてその県民投票の結果

1位『山形97号』
2位『出羽穂の香』
3位『つや姫』

(以下4位「おしんちゃん」、5位「千年の恵」、6位「めでためでた」、7位「一の穗」)という山形県民の変な県民愛が噴出する結果となり、この結果を受けたうえで、山形97号ブランド化戦略実施本部は商品特性の伝わりやすさと首都圏在住女性の支持が高いことなどを理由に平成21年(2009年)2月23日、名称を『つや姫』に決定しました。
品種への自信を名称に込めるようなことがなくて本当にほっとしています。



○中国、香港、台湾でも「つや姫」「TSUYAHIME」及びロゴマークを商標登録済み。
 香港、台湾では中国語表記『山形滋雅(シャンシン ズーヤー)』も商標登録。
 行くぜ世界!
 (なんで『艶姫』じゃないのかって、あちらでは”艶姫”だとちょっといかがわしい職業のお姉さんの意味になってしまうからだとかなんだとか)


育種経過


平成10年(1998年)から「次期主力品種の育成」を目標として開発の始まった『つや姫』。
中生~晩生の早の良質・良食味米の育成を育種目標に、同年母本『山形70号』父本『東北164号』として人工交配が行われました。


◆母本の『山形70号』は耐倒伏性が強い良食味の品種で、平成9年(1997年)~平成12年(2000年)まで奨励品種決定調査に供試されましたが、『はえぬき』『コシヒカリ』の代替品種としては収量・耐倒伏性に劣るとの判断が下されました。しかしながら品種特性解析試験(平成9年)では玄米品質、食味は良好であり、味度も高いとされています。

◆父本の『東北164号』は平成8年(1996年)に系統名を付され、各地域で奨励品種決定調査に供試されており、系統名を付された同年には山形県の庄内試場で予備調査が行われました。『コシヒカリ』並みの収量、『ササニシキ』を上回る食味との評価でしたが熟期の遅さと玄米品質の低さから一年で打ち切り。翌年の品種特性解析試験では玄米千粒重の重さと食味の良さが判断され、今回の交配相手として選ばれました。


交配初年、得られた種子数は27粒。同年に世代促進温室で8個体をF1培養。
翌平成11年(1999年)、圃場に栽植されF2育成。同年世代促進温室でF3培養、得られた種子重量は48.7gでした。
平成12年(2000年)、F4世代864個体を圃場に展開【集団内容・中世の晩~極晩生、短稈~長稈】。
この864個体の中から出穂期中生の晩~晩生、短稈~長稈、穂数多、耐倒伏性の強い33個体を選抜。さらにこの33個体の中からアミロース含有率が低く、品質と草姿の良好な23個体を室内選抜。
平成13年(2001年)、23個体を単独系統として
熟期、草姿、耐倒伏性他立毛有望度、葉いもち圃場抵抗性及び耐冷性検定結果から圃場において18系統を選抜。
さらに品質、玄米粗タンパク質含有率により8系統まで絞られます。

平成14年(2002年)、8系統は『庄3182~庄3189』の育成地番号が付され、この中から『庄3187』(これがのちの『つや姫』)系統のみが選抜され、生産力検定試験、特性検定試験、翌平成15年(2003年)からは系統適応性検定試験に供試されます。
平成15年(F7世代)は冷夏・冷害、平成16年(F8世代)は台風15号による潮風害に見舞われ、生育特性の試験は揮わなかったものの、『コシヒカリ』『はえぬき』を上回る良食味が評価され、平成17年(2005年)F9世代に 『山形97号』の地方系統番号が付されます。
『山形97号』はその後、4年間(F9~F12世代)の県内奨励品種決定調査で有望と認められ、平成21年(2009年)山形県の奨励品種(奨励)となります。

同年、名称公募3万4,206件の中から選ばれた7候補から県民投票および検討の結果、名称を『つや姫』に決定しました。


系譜図

宣伝ではよく、「山形県の産んだ亀ノ尾の血を受け継ぎ…」と言われてますが、詰まる所コシヒカリの血を継いでいるんです。
交配組合せになっている『山形70号』、『東北164号』共に、その親にはコシヒカリの血が受け継がれています。
やはりここでも『亀の尾(4号)』、『旭』と現代日本の良食味米の始祖達の存在が大きいことに気付かされます。

山形97号『つや姫』 系譜図


参考文献

〇水稲新品種「つや姫」(山形97号)の育成:山形県農業総合研究センター水田農業試験場
〇つや姫公式HP:https://www.tuyahime.jp/



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品種名・産地品種銘柄・商標の違いについて



















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