2015年10月4日日曜日

【粳米】山形35号~どまんなか~【特徴・育成経過・系譜図・各種情報】

地方系統名
 『山形35号』
品種名
 『どまんなか』
育成年
 『平成3年(西暦1991年) 山形県 県立農業試験場庄内支場』
交配組合せ
 『イブキワセ×庄内29号』
主要産地
 『山形県』
分類
 『粳米』
「どまんなか、です!」


どんな娘?

はえぬきの親友。
共にエリート道を目指しながらも挫折した経験あり。
ですがそんな自分の境遇にめげることも悲観することもせず、与えられた場で精いっぱい頑張っている隠れた努力家です。

山形県という狭いフィールドで活動する点は一緒だけども、米沢牛とこのどまんなかを使用した「牛肉どまんなか弁当」で一般の知名度ははえぬきよりも高い(と本人は思っている)ことが密かな誇り。

そのせいか、自己主張ははえぬきより上手で、発言も活発に行う。

でも意外とはえぬきより厳しい環境には打たれ弱い(が本人も重々承知している)。
興奮すると訛り?が出やすい。


概要


山形県で『はえぬき』と双角を成す…はずだった山形県第二の悲運児。
今や「牛肉どまんなか弁当」のためだけに存在する(嘘)。

そんな正直マイナー品種の『どまんなか』ですが、なんと認知症予防効果のある成分が多く含まれていることが山形大学・県水田農業試験場の研究で分かっています(2018年6月)。
山形大学農学部渡辺昌規準教授と県水田農業試験場の研究グループは全国の一般的な品種と山形県の品種、合わせて17品種を調査。
認知症要望に効果があるとされている成分「フィチン酸」がどの程度含まれているか分析を行いました。
その結果、『どまんなか』が最も多い4%あまりで『コシヒカリ』の1.3倍にもなったそうです。
フィチン酸は米ぬかに多く含まれ、アルツハイマー型認知症の予防効果があるという研究結果が発表されています。
米ぬかから効率的に成分を抽出する方法はすでに確立済み、あとはサプリメントなどの製品化に向けて検討中だそうです。
マイナーになってしまった『どまんなか』に新しい光が当てられるといいなぁ(管理人談)


さて、話は戻って
『ササニシキ』によく似たソフトな食感ながら、『ササニシキ』よりも粘りがやや強いとされます。
日本穀物検定協会の食味試験では『ササニシキ』並みかやや優るとの評価です。
米の食味にかかわると言われる粗蛋白質含有率は『ササニシキ』より0.2~0.3%高くなっています。

『どまんなか』の名前は「山形県がこれからも稲作の”中心地”であること」を、また「おいしさの”どまんなか”をつきぬける味わいのお米である」ことを意図して命名されました。

『どまんなか』育種開始当時の昭和56年(1981年)、山形県で主力であった『ササニシキ』は全国的に無理な産地拡大による評価低下、さらに耐病性や耐倒伏性の不十分さが問題とされていました。
加えて奇しくも平成5年の大冷害により大損害を受け、耐冷性の低さも露呈するなど、販売上も栽培上も大変厳しい状況に追い込まれていました。
さらにそれ以前から日本は”米余り”の時代へと移りつつあり、「量」から「質」へ、米に対する要求の変化も、『ササニシキ』に代わり、かつ山形県オリジナルの主力品種への渇望へと繋がっていました。

平野部、中山間地それぞれに主力品種を、ということで期待されたのが平野部『はえぬき』、中山間地『どまんなか』の2品種でした。
山形県内では(県外ではどうでしょう?)「はえぬき!どまんなか!」と両品種の名前が並んだ看板をよく目にしたものでした。(いま(平成後期)でも超色あせた看板を見られないこともないデス。)

しかしながらやがて耐冷・耐病性と食味に勝る『はえぬき』が、『どまんなか』が担うはずだった中山間地でも作付を伸ばしていきました…とはよく言われるのですが
食味に関しては単純に「おいしい」「まずい」ではなく、ササニシキ系の食味を持つ『どまんなか』よりコシヒカリ系の食味を持つ『はえぬき』の方が時代の要求に合っていた…ということも大きいようです。
ただし耐冷性「やや弱」、耐倒伏性「やや強」、耐病性(いもち病)「やや弱~中」と、『はえぬき』(「強」「強」「中」)に比べて『どまんなか』が劣っているのは確かです。

やがて県の奨励品種からも外された『どまんなか』ですが、『はえぬき』の1割程度の作付で生産が続けられています。
米沢の「牛肉どまんなか弁当」食べませう!


育成地における出穂期は『ササニシキ』よりも1~2日ほど早い「中生」に属します。
稈長は『ササニシキ』より5cm程度短く、稈質も「やや剛」と耐倒伏性に優れ「やや強」とされています。
草型は「中間型」です。
いもち病抵抗性は葉・穂共に『ササニシキ』よりは強いものの「やや弱」との判定がされています。
真性抵抗性遺伝子型は【Pia】【Pii】と推定されています。
障害型耐冷性抵抗性は「中」、遅延型冷害抵抗性は「中」~「やや強」の判定です。
千粒重は22.0~22.5gと『ササニシキ』より少し粒が大きめです。
奨励品種決定調査ではいずれも『ササニシキ』並かそれより優る食味と評され、アミロース含有率は1%程度低い17.7%程度です。


名称公募

県産米の失地回復の大きな期待を掛けられた『山形35号』は『山形45号』とともに名称公募を行いました。

山形県では新品種のデビューに当たって「水稲新品種銘柄確立対策協議会」が立ち上げられていました。
一般的にデビューする際に重要な「イメージ戦略」について、その基本的な方向付けをどうするか、検討が重ねられていました。
なお、流通宣伝対策事業全体のコンサルティングは日本ベリエールアートセンター(東京・銀座)に委託されます。
(なお結果はお察し)

県民の期待とデビューに向けた準備が着々と進む中、平成3年(1991年)8月から9月までの2ヶ月の期間で山形県農政課は新品種名の一般公募を行います。
これとは別に首都圏・近畿圏における主婦層に対する試食調査や、市場環境調査が行われており、新品種のネーミングにも活用されることになっていました。

「多くの人から親しまれ、愛される名前」「印象が強く残る新鮮なもの」を基本に全国的に広く募りました。
また国内のみならず、山形県と姉妹県州関係にあるアメリカ合衆国コロラド州及びユタ州でも邦字新聞に掲載して貰うなどしてPR活動をしています。

『山形45号』『山形35号』両品種の名称公募において、最優秀賞(各1点、合計2点)と優秀賞(各3点、合計6点)が用意されていました。
最優秀賞に対する副賞は賞金30万円と『山形45号』10kg、『山形35号』10kgを贈呈。
また優秀賞への副賞は賞金10万円と『山形45号』5kg、『山形35号』5kgが用意されました。
賞金総額は120万円とかなりの大盤振る舞いが見て取れます。


出足の8月の応募数は鈍かったものの、9月17日に行われた中間発表を受けて応募数が激増したと言われ、9月後半は1日に7千通もの応募が郵送されてきた日もあったそうです。
前述したアメリカからも、主に日系人の方々から約20通ほどの応募があったそうです。
最終的な応募数は11万1,142点。
2品種分の応募数とは言え、平成後半~令和において行われた名称公募に引けを取りません。

山形県農政課は想像以上の応募数に(うれしい?)悲鳴を上げつつ整理作業を行い、最終的に『えりぬき』『だんとつ』の二つが選ばれました。
そうして選ばれた『だんとつ』をさらに検討、平成4年(1992年)6月25日に『山形35号』は『どまんなか』と名づけられました。


育種経過

昭和56年(1981年)、山形県農業試験場庄内支場で母本『イブキワセ』父本『庄内29号』の交配から生まれた後代から選抜されました。
耐倒伏性と良食味に優れるが耐病性で劣り、玄米外観が劣る『庄内29号』に『イブキワセ』の玄米品質、そして耐病性を導入するのが主たる育成目標でした。

1981年交配。
1982年雑種第一代養成。
1983年個体選抜、1984年単独系統と選抜育種。
1985年のF4世代より『庄216』の系統群番号が与えられ、1987年F6世代で『山形35号』の地方系統番号を与えられるに至ります。
以後奨励品種決定調査や食味試験などが行われ、晴れて1991年山形県の奨励品種となりました。(その後は…前述してますので聞かないでください…)


系譜図

父本の『庄内29号』は『はえぬき』の母本となっており、実は二人は異母(?)姉妹。

山形35号『どまんなか』系譜図


参考文献(敬称略)

〇水稲新品種「山形35号」の育成:山形県立農業試験場研究報告
〇オリジナル水稲品種の開発とトップブランドへの展望:櫻田博


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