2025年2月22日土曜日

『山形142号』への交代前!『はえぬき』のいままでの歩み


令和7年2月5日、山形県からの公式発表で『山形142号』のデビューが伝えられました。
名称を募集し、2027年(令和9年)から作付けを開始することを予定しているそうです。
小中学校を対象に名称を応募、と言う報道が目立ったんですが、フツーに一般公募もしていますた。(2025年2月28日締め切り。採用特典等特になし?)

奇しくも…でも何でもないんですが、この『山形142号』は7年も前(平成30年3月)に河北新聞が「『はえぬき』の後継!」とか一時報じたのを真に受けて記事を書いてました。
続報が後日出た感じ、あくまで試験中の系統の一つに過ぎないのと、食味試験の結果が対してふるっていないかのようなものだったので「デマ」と言っていましたが、それが本当になってしまうとは…

いや…いつか後継品種が出ること、代替わりすることは、頭おかしい(誉め言葉)品種の『コシヒカリ』を除けば至極当然のことなので、時間の問題ではあったのですが…
『つや姫』ちゃんはさびしいだろうなぁ…


平成の山形県の稲作を支えた大黒柱『はえぬき』さんがいよいよ引退秒読み?ということで、さらっと『はえぬき』のいままでの情勢をさかのぼってみようかな、と思った次第です。


栽培されている県

『はえぬき』は山形県生まれの山形県育ちの品種!
…とはいえ、最初期こそ山形県内に限って栽培されていましたが、徐々に他県での栽培も広がってますたよ!(同世代のコシヒカリ御三家『あきたこまち』『ひとめぼれ』『ヒノヒカリ』と比べると…比べるな!)


平成10年頃には秋田県で栽培を確認。(最遅。正確な年は未調査)
平成14年頃には新潟県、香川県、大分県でも確認。(最遅。正確な年は未調査)
平成23年産から福島県で選択銘柄に追加。
平成25年からは茨城県で選択銘柄に追加
平成27年産からは福井県で選択銘柄に追加。


秋田県はいつから作付けされていたか不明ですが、最も遅くとも平成10年頃には作付けされています。
山形県外では初の『はえぬき』作付県。
ですが直近令和2年の検査数量102tを最後に検査数量無しとなっています。
産地品種銘柄(選択)からは外されていないようですが、この分だと銘柄指定から外されるのも時間の問題でしょう。
私の手持ち資料で確認できる最大検査数量は平成16年で2,769tでしたが、ここから年々減少して令和3年の検査数量無しにまで至りました。

福島県はそこそこ遅咲きの平成23年産から産地品種銘柄(選択)。
設定後500~600tの数量がありましたが
令和3年に500tを割ると令和4年産で257t、令和5年産で217tと徐々に減少中。
とは言え、令和6年の速報値を見るに、これでも現在の『はえぬき』第二位の検査数量県です。

新潟県は平成18年の2,582tが最大(推測)。
選択銘柄で、早くも平成21年産からは1,000tも切り、順次縮小。
平成27年産から100tも切り、令和4年産でついに一桁の2tに。
令和6年の速報値でも2tになっているので、おそらく最後の1軒の農家さんが『はえぬき』を生産して検査を受けてくれているようです。

福井県はなんでこんなに遅くになってから選択銘柄に指定したかよくわかりませんが(文句ではなく本当に不思議)
初年の平成27年産が128tから徐々に増え、令和元年産で最大の628tとなりますが、そこからは減少傾向。
令和4~5年産の確定値で100t台前半で推移していますが、これでも『はえぬき』検査数量第三位の県となっています。

茨城県もだいぶ遅い平成25年から選択銘柄に指定。
ただ初年度から検査数量は40tとかなり少なかったです。
平成27年産には検査数量は一桁トンまで下がり、令和5年産では検査数量無しとなって、令和6年産速報でも確認できません。


香川県は必須銘柄で設定してくれている優しい(?)県で、平成10年代は主力品種第一位『ヒノヒカリ』、第二位『コシヒカリ』を補完する第三位の品種として『はえぬき』が作付けされていました。(ただし検査数量的には『オオセト』が香川県第三位っぽい)
平成16年頃は3,000t近い検査数量が確認できます。
それが平成25年産から2,000tを割り、平成29年産では1,000tを割り、と年々減少しましたが、これは香川県オリジナル品種『おいでまい』の台頭によるものと思われます。
ここから令和元年産が800t台だったのに対して、令和2年産で急に33tまで検査数量が急減少します。
確定値の令和5年産で10t、速報値の令和6年産で1tと、まだ完全にゼロには至っていませんが、下手せずとも香川県の『はえぬき』農家さんも最後の1軒なのかもしれません。
このぶんだと、めずらしく『はえぬき』が準主力品種として活躍した香川県においても、銘柄設定解除がそう遠い未来ではなさそうです。


大分県では平成24年頃から作付けがほぼなくなる(検査数量が0~2t程度)のですが、平成30年を最後に選択銘柄からも消えました。
検査数量で「0t」表示は0ではなく1t未満の数量を示しているので、おそらく最後の6年間、1~2反程度の水田で作り続けていた方が大分県にはいたんですね。
しかし平成16年産も195tしか検査数量はないので、もともとそれほど大規模普及と言う様子でもないようです。



というわけで、山形県の主力品種としては文句なしですが、他県で目立った活躍ができていたのは香川県くらいでした。
それも最大で3,000t弱なので、秋田県や新潟県のピーク時より少し多い程度で、(生産量の推移は後述しますが)全体で20万トン近い生産量に比べれば微々たるもの(1%以下)です。
山形県が「県オリジナル」にこだわった結果、県外に出したがらなかった…とは言われていますが、原因はどうあれ、結果として国内でもトップ5に入る生産数量を持ちながら、主力生産県は山形県ただ1県と言うのもかなり珍しい部類でしょう。


令和6年現在は検査数量でまとまった量がある、つまり大規模に栽培されているのは本当に山形県のみとなってしまいました。
福島県と福井県はそれぞれ200t、100t程度の検査数量なので、いつ消えてもおかしくないですし、他県も10t以下かすでに「検査数量無し」ですので、順次消えていくのは想像に難くありません。


作付面積

※以下、特段の断りがなければ『はえぬき』の作付面積は全国の面積


セミデビューと思われる平成3年、わずか40haの作付けから始まった『山形45号』(『はえぬき』命名は平成4年)。
山形県従来主力の『ササニシキ』に代わる「ユメのコメ」として、正式に『はえぬき』と命名された平成4年の作付け面積は4,376ha、翌大冷害の年平成5年は16,517ha、さらに翌年平成6年には山形県の水田面積の約30%を占める24,322haと急増していきます。

平成7年には3万ha台に達し、平成9年の時点(32,649ha)で全国の作付け面積シェアトップ10にはいるようになりました。
翌平成10年には山形県内の作付け約3.1万haで山形県内の水田47%を占めていたそうです。
平成12年には4万ha台に到達、平成17年に(おそらく)最大の45,359haに達しました。
この最大値の平成17年で、全国のうるち品種に占める作付け割合は3.1%程だったようです。山形県内では43,209haで県内シェア65.7%となっています。


さて、このあたりから詳細な作付面積の調査はとぎれとぎれになってしまいますが、平成28年ころまで4万ha前後、山形県内に占める作付面積は60%前半で推移していたようです。
(ここまで稲品種データベースの数値)

(ここから社団法人 米穀安定供給確保支援機構 情報部の「品種別作付動向」
平成25年の時点で『はえぬき』の全国に占める作付け面積比率は2.7%であり、山形県内に限れば水田面積の62%を占めていました。

これに農林水産省の水稲作付面積調査から面積を算出すると、大体全国で41,094ha、山形県内で39,370haとなりました。(※正直農水省と米穀機構の母数が同じかわからないので、面積の数値は超ざっくり参考程度

この年はちょうど『つや姫』の作付け面積が全国で10,000haを超えた頃で、当時すでに山形県内で『はえぬき』『ひとめぼれ』に次ぐ、県内の10%を占める第三位の作付け面積となっていました。(上記の算出をすると6,350haくらい)
とはいえ『はえぬき』は『つや姫』デビューの平成22年頃も61%(県内に占める)の作付け面積だったので、平成25年の62%を考えれば、彼女の登場で(比率が)減るようなことはなかったようです。
減ったのはやはり同じ晩生の『コシヒカリ』だったのかな。(作業分散考えても妥当か…)



5年後、平成30年は『はえぬき』の全国作付面積比3.0%、山形県内62.6%とここでもほぼ変わりません。
ただ全国の水田面積が平成25年の152.2万haから138.6万haと減少しており、山形県内の水田面積も63,500haから56,400haとなっています。
面積を逆算すると全国で38,808ha、山形県内で35,306haと、純粋な作付面積は減少しています。
『つや姫』ちゃんは県内作付面積15%までシェアを伸ばしました(推測8,460ha)


さらに5年後、令和5年、『はえぬき』は全国2.8%、山形県内61.6%とこれまた全体の作付けに占める比率はほぼ変わっておらずまったく衰えていませんでした。
ただし同様に全国の水田面積が減って124.2万ha、山形県内も52,400haと減少しているので、全国シェアも34,776ha、山形県内で32,278haと、純粋な作付では減少傾向は変わりません。



生産量

最後に全国の生産量(といっても検査数量ですが)の推移を見てみましょう。
※検査数量なので、『はえぬき』含め他品種も本当に全部の生産量とは限らない。


まぁ最初の栽培県で書いた通り、ほぼ山形県産で他県の生産量なんてほぼ影響がナイデショウケド(悲)


平成16年以前の検査数量データが見つけられていないのですが…
最大面積と思われる平成17年産が233,716t、面積の統計と合わせて考えればこれが最大検査数量に思われます。
逆を言えばこれ以降は減少に転じ、平成19年産で22万t台、平成20年産で21万t台、平成21年産に20万t台となっていきます。

平成22~24年産は19万t台の検査数量となりますが、25年産で21万t台にV字回復。(茨城県が銘柄指定した年ですが、当該県が40tの検査数量なのでこれは関係ありません。)
山形県でなぜか2万t近い増産がありました。(なぜだ?)
続く平成26年産も22万t台とさらに増産。

この期間も基本的に山形県全体の主食用米作付面積は減少しているので、『はえぬき』の検査数量が増えたのは他の細かい品種の整理がされた結果…だと思うのですが、これと言って2万tも減っている品種がないような…?(いやきっちり表にして見比べていないんですが)
『つや姫』デビュー後もなぜか勢力増していたのですかね。

とは言えそれもここまで…と思っていたのか?
平成27~28年が20万t台で、平成29年19.1万t、平成30年17.8万tと減っていくのですが…
これが令和元年度に再び19.7万tまで増加します。
このまま令和3年産まで(減少気味ながら)19万tを維持しており、全国的にも山形県内としても全体のうるち米の生産量が落ちている中、謎の粘り腰を見せています。

しかしさすがにこれが最後の増産。
令和4年産は約17.5万トン。さらにこの時点でもう100トン以上検査数量のある県は福島県と福井県しかありません。

令和5年産は約16.7万トンとまた少し減少しました。そして何より特に高温障害のひどかったこの年、一等米比率が31.9%まで落ち込みました。
日本全国等級が落ち込んで、令和のコメ騒動初年度もこの年ですね。
平成最大の冷害年も平成5年でしたし、「5」は米にとって呪われた年…?


令和6年産の検査数量は現在令和6年12月時点の速報しか出ていませんが、同時期の令和5年産に比べてやや少ない数量となりそうな気配はあります。
『ササニシキ』は平成5年の大冷害後、そこそこがっつり面積が減っていましたが、『はえぬき』の立ち位置的に、多少高温障害で等級が減ったくらいなら、他の品種に変えることもなかったということでしょうか。(冷害と違って収量はひとまずガッツリ減らないことと、目の前に適当な代替の品種がないこともあるでしょうけども)



1等米比率

検査数量の記録を私が見られたのが平成18年からなので、それ以前はわかりませんが…
※県別でしか出していない年もあったので、以下山形県における検査結果だけ。

平成18~21年産まで90%どころかほぼ95%超えが続いており、平時はこれがスタンダードと思われます。
93%⇒95%⇒96%⇒97.1%

平成22年産が一転急落して75.3%となっているのですが、これは『つや姫』の高温耐性を知らしめた記録的猛暑の年だったからですね。
全国平均1等米比率が約63%と低下した年ですし、高温登熟耐性が高いわけでもない『はえぬき』であればこの結果は順当でしょう。

これ以降は低い年で90%とちょい、他は95%前後と、80%台すらない高水準で令和4年まで推移しています。

そして令和5年、この年も全国的に高温障害が問題になった年で、『はえぬき』の1等米比率も31.9%まで大きく落ち込みます。
前述したように『はえぬき』の高温登熟耐性は高いわけではなく、並の中の並「中」ですから当たり前と言えば当たり前です。
そして同じ「高温の年」といっても程度が大きく違ったということでしょう。
高温に強いはずの『つや姫』の1等米比率まで大きく落ち込んで、大変な年となりました。

令和6年産は速報値ですが91.4%と平時通りの実力を発揮中です。



総合的に

※当ブログは、山形県産米については特に依怙贔屓を行います。


『はえぬき』は間違いなく平成~令和において山形県の主力品種として作付面積・収量両面で活躍している品種で、令和6年現在も健在です。

『つや姫』『雪若丸』といった新興品種登場後も山形県内のシェア6割を占め続け、幾度か生産量の増加を見ていることからも、山形県内の頼れる汎用品種と言えるのではないでしょうか。


1等米比率も90%どころか95%前後となることも珍しくない、超優秀品種です。


交代が公言されたといっても山形県内で3.2万ha(東京ドーム約6,800個分!)という広大な面積で栽培され、特段高温年でなければ収量・品質ともに文句のない優等生です。
16万tクラスの生産量のある『はえぬき』は果たしてスムーズに後退となるのか、『山形142号』が足踏み状態となるのか、注目していきたいですね。

『山形142号』の方が収量は上、らしいですが果たして実際の現場で差が出るかが不透明だと(管理人が勝手に)思っています。
高温登熟耐性が強くなるのももちろん強みですが、熟期が同等とは言え『雪若丸』の血を引いているとなると葉色の変化その他細かく栽培の肌感覚は違うでしょうし、「慣れている『はえぬき』でいいや」という考えも大いにあるのかなぁ…と。

当然山形県は一定時期までに種籾の供給を100%切り替えするのでしょうけど
『はえぬき』デビューと同等の展開ができたとしても、3万haレベルまで4~5年はかかりそうですし、その間に(農家さんの不慣れによるものも含む)「うまく採れなかった」系の話で紛糾するようなことがないといいなぁ・・・と思います。
現地試験と、実際に不特定多数の一般農家に配って栽培するのとではまた違った問題が出るでしょうし、(早々無いとは思いますが)猛烈にバッシングが出たら種子切り替え先延ばしなんてことも(被害妄想)
山形県としては原種圃管理大変なのでさっさと切り替えたいでしょうけど…

しかしながら
気象変動へのリスクヘッジ、品種の寿命等総合的に見て、30年以上主力を張ってきた『はえぬき』は隠居の時期でしょう。
贅沢を言うなら『山形142号』の高温耐性はもう一段階強いものが欲しかった気もしますが(同クラスの『つや姫』のR5検査結果を見ていると)
「その時あるもので勝負する」もまた心理の稲品種。

『山形142号』へ期待を寄せ、支えていきましょう。
なんだかんだいって、完全切り替えは令和13~14年頃でしょうからまだまだだしょ!



・・・いややっぱり悲しい
もうちょっといてくれないかな
『どまんなか』も令和元年からがっつりへってるけどまだ数百トンはあるし…仲良く末永く…


参考文献

食糧統計年報平成15~20年版


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