2021年1月16日土曜日

【酒米】山形酒49号~出羽燦々~【特徴・育成経過・系譜図・各種情報】

地方系統名
 『山形酒49号』
品種名
 『出羽燦々』
育成年
 『平成6年(1994年) 山形県立農業試験場庄内支場
交配組合せ
 『美山錦×華吹雪』
主要生産地
 『山形県』
分類
 『酒造好適米』

さんさんと輝く出羽燦々!よっと♪


どんな娘?

山形県における酒米っ娘の長女。

かつては山形県の酒造を支えるという大役を一手に担っていた働き者。
他県の品種と比べれば平凡だったかもしれないが、他県出身者では馴染めなかった山形という土地でその能力を十二分に発揮して活躍した。

ひとりぼっちの時代も特に苦ではなかったが、最近は妹たちが増え、とてもうれしく思っている。
現在のやや奔放気味な発言も雪女神が生まれたからこそ。
本来自分が至らないところまでも何とかしようと頑張っていた頃に比べて、精神的な余裕が出来た証左です。


概要

米どころにして吟醸王国である山形県において、初の本格的酒造好適米となった『出羽燦々』の擬人化です。

「山形県が生んだ酒造好適米にふさわしく、印象の強い名前にしよう」との方針で、山形県、農協、経済連、酒造組合連合会などにより200点以上の品種名候補が集まり、東北芸術工科大学からもアドバイスを受けながら検討が進められました。
その結果、山形を表す「出羽」、そしてそれがキラキラときらめく様子を表す「燦々」を組み合わせ『出羽燦々』と命名されました。
山形の酒への熱い想いが込められています。

令和の今でこそ『出羽燦々』『出羽の里』『雪女神』の3姉妹を要し、さらに掛米用品種として『出羽きらり』を揃える山形県ですが、昭和60年(1985年)頃における酒造好適米の生産は非常に微々たるものでした。
当時は、昭和42年(1967年)に県奨励品種に採用された『改良信交』が細々と(3ha程度)作付けされているに過ぎず、出回り量も10tあまりという、稲作が盛んな山形県では信じられないほど小規模なものでした。
その一方で県内の酒造用原料米は不足しており、代用として『はなひかり』『キヨニシキ』『はなゆたか』などの一般食用米が用いられていました。
そのような状況下、「山形県酒造適性米振興対策協議会」が発足し、酒米について「県外品種の試作」「栽培技術の改善」「生産と需要の調整」等の活動が行われます。
その成果として『改良信交』に代わり長野県育成の『美山錦』が県優良品種として採用され一時206ha(1991年時)まで増えますが、倒伏しやすいという栽培上の欠点と、粒重や心白発現率の年次差・地域差が大きい(山形県の気候条件に『美山錦』があまり適していない)という問題がわかるにつれ、作付け面積は減っていきます(140ha/1994年)。
山形県産日本酒についても同時並行で質の向上活動(後述「山形讃香」)が図られ、その活動は確実に実を結び、質の向上が成果として現れながらも、肝心の原料米については他県に頼るところ大という状況でした。
このような背景の中、「県産酒は山形県のオリジナル品種で」というのが酒造関係者にとって悲願になっていったと言われます。
生産農家にしてみれば栽培しやすくて経済的メリットのある、酒造関係者にとっては良質な酒造特性のある優れている、そんな酒米品種が切望されていました。
そんな切望された”山形県オリジナル酒米品種”として平成7年(1995年)に山形県優良品種に採用されたのがこの『出羽燦々』です。
令和元年度より優良品種から奨励品種へと格上げとなりました。(関連コンテンツ参照)


「やわらかく、端麗で、きれいな酒質」の日本酒が出来るとされています。
『雪女神』が大吟醸用と位置づけられた今では「吟醸酒向け」とされる『出羽燦々』で、事実、育成当初想定されていたのは「搗精歩合75%程度の一般清酒用」ではありますが、登場当初から彼女は大吟醸酒にも用いられています。
ただしやはり試験場の評価は「心白の大きさから50%以上の高度精白には問題が残る」とされています。

育成地に於ける熟期は「中生」で『美山錦』よりも2日ほど遅いです。
草型は穂重型で、収量は試験時に589kg/10aと多収です。
稈長は『美山錦』よりも5~6cm短いながら長稈の部類(約85cm)ですが、耐倒伏性は「中」で、『美山錦』よりも倒れにくくなっています。
耐冷性は「やや強」~「強」(当時:現在の「中」相当)の判定です。
葉いもち病抵抗性は「やや弱」、穂いもち病抵抗性は「中」とされています。
真性抵抗性遺伝子型は【Pi-a】と推定。
白葉枯病抵抗性も「やや弱」で、当初の育種目標にはないので仕方ないと言えば仕方ないのですが、病気全般には強いとは言えません。
玄米千粒重は25~26gで『美山錦』よりも1g程度重くなっています。
大粒・良質で心白(眼状心白が主と推定)の発現も良く、蒸米吸水率など酒造特性の優れた品種です。


【DEWA33】と【山形讃香】

1970年代後半より山形県全体の酒の品質向上を目指し、大吟醸酒共通銘柄「山形讃香」の開発や、酵母の研究開発を行い、品評会での入賞率を飛躍的に増加させることに成功した山形県の酒造業界でしたが、「県独自の酒米」については依然として不在状態でした。
そんな待望されていた『出羽燦々』という山形県独自の酒造好適米の登場を受けて、山形県酒造協会では純米吟醸酒の共同銘柄「DEWA33(でわさんさん)」を設定します。
「やわらかくて、巾がある」そんな「DEWA33」の認定基準は以下のとおり

・『出羽燦々』100%使用
・純米吟醸酒(精米歩合60%以下 アルコール添加無し)
・精米歩合55%以下(吟醸酒の要件よりもより低い精米歩合)
・山形酵母を使用
・山形オリジナル麹菌「オリーゼ山形」使用

以上の基準に適合し、厳正な審査会を通ったものが「純正山形酒審査会認定証」を貼られ、「DEWA33」を名乗ることが出来ます。
イメージソング「DEWA33ソング」もあるそうなので是非聞いてみては?

また精米歩合40%の『出羽燦々』を使用する純米大吟醸酒「(新)山形讃香」もあります。
前身は昭和59年(1984年)当時の知事の提言に始まり、昭和60年(1985年)10月にデビューした大吟醸酒の共同銘柄「山形讃香」です。
県内蔵元の大吟醸酒の中でも審査に合格したものだけが名乗れるのがこの名称「山形讃香」であり、この名称を目指して大吟醸酒の質向上や、今まで吟醸酒に取り組まなかった蔵の新規挑戦といった動きが盛んになったそうです
そのおかげをもってか「山形讃香」誕生以降の昭和61年(1986年)あたりから全国・東北の鑑評会における金賞受賞数が急増し、金賞多数の常連県となることができました。
ただ、この当初の「山形讃香」はその要件が「大吟醸酒(アルコール添加)」でしかなく、使用米も『山田錦』が殆どだったそうです。
山形を冠するお酒に県外産の『山田錦』が使われているのはどうなのか・・・とやはり疑問の声は上がったようで、平成13年(2001年)より要件を「『出羽燦々』使用」「純米大吟醸(アルコール添加無し)」に変更したそうです。
※アル添(吟醸・大吟醸)が悪、純米(アル添無し)が正義、という風潮も一部にはあるようですが客観的に見てそんなことはない・・・と思います。(少なくとも管理人はアル添が悪とは思っていないです)

こちらもイメージソング「山形讃香んだんだ!」がありますよ!

また、令和4年(2022年)3月11日に21年振りの「山形讃香」リニューアルが発表されています。
情報を統合すると
原料は、優良酒米コンテスト(主催:山形県酒造適性米生産振興対策協議会)で上位入賞した農家が栽培した『雪女神』。
醸造する蔵は、山形県の品評会における「雪女神」精米歩合40%以下の純米大吟醸酒において、上位の成績を獲得した数社。
と、日本最高峰を目指す、山形県酒造の粋を集めた純米大吟醸酒とすべく、条件がさらに厳格化されています。
21年間主役を務めた『出羽燦々』はこれでお役御免となったわけですが、確実に次の世代へバトンは引き継がれました。



育種経過


客観的に見て、あまり優良な日本酒の生産地とは言えなかった山形県でしたが、各種取り組みにより山形県産日本酒の質の向上を目指し、それは実っていくことになります。
しかし、県オリジナルでかつ良質な酒造用米には恵まれず、何とかしようと他県開発の『美山錦』を導入したものの、山形にはあまり馴染まず・・・
山形にも独自の優秀な酒米品種が欲しい、そんな頃、山形県立農業試験場庄内支場では昭和59年(1984年)から多用途向け品種開発の一つとして酒米の品種育成を実施しており、大粒・低蛋白という酒米の基本を抑えつつ、地域適応性を備え栽培特性(耐倒伏性)に優れる品種の開発を目標に昭和60年(1985年)から『出羽燦々』となる品種の育成が開始されました

母本は『美山錦』、父本は『青系酒97号』(後の『華吹雪』)として昭和60年8月6日剪穎法により人工交配が行われます。

◇母本の『美山錦』は長野県で育成された品種です。山形県においては「心白の多い大粒の酒米品種」であることから、『改良信交』に代わる品種として有望視されていました(なおその後の実態)
米の品質は高く評価されていたものの、長稈で倒伏しやすい品種です。

◇父本の『青系酒97号』はこの交配翌年の昭和61年(1986年)に『華吹雪』と命名される系統で、青森県で育成されました。
早生で短稈、大粒で心白が大きく、この時点で既に青森県から極有望視されていた系統です。

この交配によって得られた種子は27粒(『庄交85-44』)。
ちなみにこの時、母本父本を逆にした交配も試みられたそうですがそちらについては稔実しなかったそうです。

翌昭和61年(1986年)は世代促進温室を用いてF1世代~F3世代まで集団養成を行います。
F1世代は昭和61年(1986年)2月から5月にかけて13個体を養成、採種。
F2世代は同年5月から9月にかけて約720個体を選抜せずに養成。
F3世代も同じく無選抜で約720個体を同年10月から翌昭和62年(1987年)1月にかけて養成します。
続いて昭和62年(1987年)、F4世代について圃場に1,200個体を栽植し、個体選抜が実施されます。
この集団での立毛概評は「熟期が早生から中生が主体」「長稈」「熟色やや不良の個体多し」でした。
この中から圃場においては「中稈~やや長稈」に加え「熟色が良い」個体を選抜し、最終的には室内選抜において「大粒」であり心白発現程度が「中~やや多い」とされた良質な20個体が選抜されました。

そして昭和63年(1988年)F5世代より単独系統選抜を行います。
前年選抜の20個体を20系統として、1系統当たり36個体を栽植し、各種の特性調査を行います。
この中から熟期は「中生」、稈においては「中長稈」かつ「強稈」、そして「大粒」で心白発現率が「多い」である5系統各4個体を選抜し、翌年の系統群に設定することとします。

平成元年(1989年)F6世代において前年選抜した5系統に『庄酒788』~『庄酒792(後の『出羽燦々』)』の系統番号を付与し、5系統群20系統を設定、選抜を実施します。
生産力検定予備試験及び特性調査(耐冷性、品質)を実施し、心白の大きすぎる『庄酒790号』系統群が、この時点で廃棄されます。
また、この年より山形県工業技術センターで酒造適性試験、試験醸造も開始され、玄米の外観や心白発現率だけでは判断できない酒造適性について調査が行われています。(結果、『美山錦』以上の酒造適性を持つものと評価)
平成2年(1990年)F7世代は生産力検定本試験、系統適応性検定試験並びに特性検定試験に供試されます。
4系統群20系統が設定され、収量、品質の比較的優位であった『庄酒792号』の1系統群が選抜され『山形酒49号』の地方系統名が付与されます。

平成3年(1991年)F8世代では奨励品種決定調査で地域適応性の検討が行われます。
この世代以降は毎年1系統5個体を選抜・採種し、翌年1系統群5系統とすることで固定度を上げていきます。
F8世代では奨励品種決定予備調査に供試されますが、『美山錦』と比較して本場及び庄内支場、置賜分場では「多収だが品質がやや劣る」、最北支場では「収量は並だが品質で優る」と評価が分かれ、他県(岩手・秋田・宮城・福島・栃木)に於ける調査結果でも品質については良・不良の判断が分かれていました。
この年は長稈になったことによる倒伏の懸念と、千粒重が軽く心白の発現も少ない、そして品質も劣ると判断されたことから奨励決定予備調査として再検討されることになります。(秋田県・福島県では検討打ち切り決定。岩手県は継続としたが2年目実施無し。)

平成4年(1992年)F9世代、本場・庄内・置賜・最北各地での試験で概ね収量・品質共に『美山錦』並か優り、耐倒伏性に優れているとの評価を受けます。
県外における調査では、宮城県で「心白が大きすぎる」との理由で調査打ち切り、栃木県では概ね好評価でしたが基本調査へは進まず、実質打ち切りとなりました。

平成5年(1993年)F10世代から山形県奨励品種決定基本調査に供され、一応各試験場で収量や品質が並か優る(『美山錦』比)とされ「やや有望」と評価されますが、この年はまさに平成の大冷害となった低温年次で全般的に酒米の品質が不良となっており、明確な評価が下せないとの理由で基本調査を継続して検討することとなります
またこのF9~10世代間に工業技術センターでの試験醸造が行われており、「やわらかく、端麗で、綺麗な酒質」との良好な官能評価も受けました。

平成6年(1994年)基本調査2年目となるF11世代では、前年と打って変わっての高温条件下での試験となり、全試験場で収量・品質共に『美山錦』に優るとされ、本場・庄内・置賜では「有望」、最北支場で「やや有望」とされ、初年度の予備調査から年々評価が上がった結果となりました。


以上の試験の結果、酒造好適米品種として有望であると認められ平成6年(1994年)に種苗法に基づく品種登録出願が行われます。
平成7年(1995年)2月に山形県主要農作物奨励品種審議会にかけられ、同年4月山形県優良品種に採用されました。



系譜図

山形酒49号『出羽燦々』系譜図


参考文献

〇酒米新品種「山形酒49号」の育成:山形県立農業試験場研究報告
〇「山形酒49号」の特性:東北農業研究
〇水稲品種「山形酒49号」の栽培技術の確立:東北農業研究
〇山形酒造組合ホームページ:https://yamagata-sake.or.jp/publics/index/75/
〇山形県における酒米開発の取り組み:http://www.kitasangyo.com/pdf/e-academy/tips-for-bfd/BFD_38.pdf
〇山形県酒 造組 合の需要 開発活動:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/97/4/97_4_236/_pdf



関連コンテンツ






0 件のコメント:

コメントを投稿

ブログ アーカイブ

最近人気?の投稿