2020年9月19日土曜日

【飼料米用】西海203号~ミズホチカラ~【特徴・育成経過・系譜図・各種情報】

地方系統名  
 『西海203号』(『水稲農林438号』) 
品種名
 『ミズホチカラ』
育成年
 『平成21年(西暦2009年) 九沖農研センター』
交配組合せ
 『奥羽326号×F6【水原258号×台農67号】(86SH283長)』
主要生産地
 『熊本県、福岡県』
分類
 『飼料用(飼料米用)・粳米』

「ミズホチカラですヨ。何でもお任せアレ♪」



どんな娘?

飼料米用品種の首長を務め、飼料用米っ娘全体の中ではサブリーダー。
一応現在は飼料米っ娘に属してはいるが、粳米っ娘や酒米っ娘にも近い立ち位置で、苦労人期間も長いことも有り幅広い品種達の間で顔も広い。
その繋がりを活かした(用途の違う)品種間調整を得意としており、夢あおばの補佐をしっかりと勤め上げる。
 
外国(韓国出身インド系統&台湾出身)品種の血がそれなりに濃い事に加え、引きこもり()期間が長く、他者と話す機会が少なかったせいか話し方がたまにカタコト調になる。

名探偵と一緒に孤島に閉じ込められたりでもしたら、被害者側になる確率100%な娘・・・という冗談はさておき
実年齢(交配や系統化した年)で数えればたちすずかはおろか夢あおばよりも年上、でも品種化なった年から数えれば3人の中で一番年下・・・という年上の部下・年下の上司状態。
比較的実年齢の近い夢あおば(交配が3年後、品種化は7年早い)はまだ良いが、たちすずか(交配は14年も後だけど品種化は2年早い)のような品種と接するときは本人も相手も少しどぎまぎしてしまうことも。


概要

「需要に応じた米の生産・販売の推進に関する要領(令和2年度現在)」において、国が認可している「多収品種」の一角、暖地向き(温暖地の平坦部も可)の多収品種『ミズホチカラ』の擬人化です。

名前の由来は「水田で力を発揮する多収品種」にちなんで命名された・・・そうです。
「ミズホ=瑞穂=みずみずしい穂&力(ちから)」なのか「水田の”水”=ミズ&穂&力?」なのか・・・墨猫大和はこれだけでは良く理解できず・・・

飼料用稲の中では「飼料米用」に分類され、茎葉等地上部多収ではなくあくまでも子実である「籾」が多収な品種としてあげられています。
また飼料用のみにとどまらず、米粉や焼酎の原料としての加工適性も保有しており、他の飼料米用品種や兼用品種とは一線を画す、多用途米と呼べるものになります。
ただしこういった用途のお米の例に漏れず、玄米品質や食味は主食用品種より著しく劣るために、「ご飯」として炊いて食べる用途には適さないとされています。
農研機構のホームページでは「熊本県では主に米粉用として、福岡県では飼料米用として作付けされている」とされていますが果たして今現在の実態は・・・?

さて
飼料用稲品種を普及させる目的の一つに主食用米の需要が減った分を、新規需要による生産で補おう=水田の耕作面積を維持しよう、というものがあります。
その「新規需要」として米粉としての利用(米粉パンなど小麦粉の代用)にも注目が集まっていました。
政府は平成27年(2015年)3月に閣議決定した「食料・農業・農村基本計画」で、平成25年(2013年)の時点で「飼料米:米粉用米=11万t:2万t」だった生産量を平成37年(令和7年:2025年)までに「飼料米:米粉用米=110万t:10万t」とする生産努力目標を記載しています。
これは令和2年3月に新たな閣議決定がなされ、平成30年(2018年)の時点で「飼料米:米粉用米=43万t:2.8万t」だった生産量を令和12年(2030年)までに「飼料米:米粉用米=70万t:13万t」とする生産努力目標と一部下方修正なりましたが、いずれにせよ当時の視点でみれば実に10倍もの生産増が必要でした。
 この生産努力目標達成の為、各気候帯に適した多収品種が求められ、その一端として九州全域で普及しているのがこの『ミズホチカラ』です

育成当初(奨励品種決定試験)は粗玄米重は確かに多収だったものの、主食用に向かない上に、短稈のために地上部全体の収量も多収とは言えずWCS用としても向かない、と一旦はお蔵入りになりかけたこともありました。
しかし情勢は変わり、平成中期から飼料米用や米粉用の多収品種が望まれる情勢になって、見事返り咲きを果たしました。
数々の多収品種、『モミロマン』『べこあおば』『モグモグあおば』などの交配親になるだけはある、優秀な品種だからこそ、というところでしょうか。

育成地では極晩成の品種で、登熟は非常に遅いです。
稈の剛柔は「剛」と判定され、稈長は75cm前後と短いために、耐倒伏性は「極強」と判定されていますが、極端な多肥となると倒伏することもあります。
収量(粗玄米重)は九州沖縄農業研究センターの試験では標準肥料栽培で約640kg/10a、極多肥栽培で約760kg/10aとなっている多収品種ですが、生育期間が長いため沖縄のような2期作をするような場所では小収となってしまいます。
それでも暖地であれば通常主食用品種よりも20%は多収が見込め、平成20年(2008年)の広島県福山市での試験栽培では1,007kg/10aという試験結果も残しています。
玄米品質は「下上」と優れず、食味判定も「中下」と主食用米には到底及びません。
『コシヒカリ』並みの低タンパク(約5~8%)ではあるものの、アミロース含有率が約23~26%(1993年当時:対比『コシヒカリ』15~18%)と非常に高い値を示し、粘りが少なく固いお米であることがわかります。

いもち病は穂・葉両方において試験では発病がほぼ認められず、見た目は非常に強いものになっており、圃場抵抗性は不明です。
これは真性抵抗性遺伝子と推定されている「Pib」「Pita-2」「Pi20」によるものと思われ、菌のレース変化には注意が必要です。
白葉枯病抵抗性は「弱」、縞葉枯病には「罹病性」で常発地帯での作付は出来ません。

通常の水稲であれば問題にならない水稲用トリケトン系除草剤(4-HPPD阻害型除草剤、成分名:ベンゾビシクロン、メソトリオン、テフリルトリオン)に感受性を持ち、強い薬害が発生します。
トリケトケン系除草剤はスルホニルウレア系除草剤への耐性を持つ雑草に有効な除草剤として使用が広まっていますが、これら耐性雑草が確認されトリケトケン系除草剤を使用せざるを得ないような水田では『ミズホチカラ』の栽培は難しいということになるかと思います。


各種適性

育種期間が非常に長く、多用途米が想定されていた『ミズホチカラ』は様々な用途への適性が育種時に行われていました。

①米粉パン加工適性(熊本製粉(株)にて)
『ミズホチカラ』の米粉は『ヒノヒカリ』や『コシヒカリ』と比較して損傷デンプン率が低く、粒径が小さい特性を持っています。
この特性によりパンの膨らみ(ボリューム)に優れることがわかり、米粉パンへの加工適性が高いとされています。

②清酒醸造適性(岩手県醸造食品試験場にて)
大粒で低タンパクと、一見酒造適性が高そうに見えますが、試験の結果、精米時の砕米率が高く、吸水性もそれほどよくなく、消化性も劣るとの判定が下されます。
砕米率が高いことから高精米を行う吟醸酒などにはそもそも不適で、消化率の低さから出来たお酒が「味薄」になることが予想されるなど、清酒醸造の用途には適さないとされました。

③焼酎醸造適性(熊本県工業技術センターにて)
一般的に蒸留後のアルコール取得率が高い米が焼酎加工適性米とされており、『ミズホチカラ』はアルコール生成歩合は通常品種並みであるものの、デンプン価が高いことから白米重あたりのアルコール取得率は一般品種より高くなります。
蒸米の評価やアルコール生成歩合が標準の『ヒノヒカリ』並みと判断され、焼酎への加工適性は高いとされています。

また芋焼酎製造時の麹原料としても、ハゼ込みが良く、糖化速度が早く、麹酸度が高いことから適性の高いことが示されています。

④飼料米適性(福岡県農業試験場にて)
飼料米として求められるのはまず安さ=多収であることです。
その点『ミズホチカラ』は疎植極多肥栽培でも倒伏せずに収穫でき、福岡県では829kg/10aという収量(粗玄米重)の試験結果も出ています。
また穂揃期前追肥により、籾の粗タンパク質含量(CP)を6.8%まで高めることが出来、これは飼料の栄養素を向上させることが期待されます。
そして極多肥栽培した『ミズホチカラ』は、籾の状態ではTDN(可消化養分総量)は80%を割り込み、トウモロコシの98.5%には到底及びませんが、玄米の状態であるならば95.3%とトウモロコシと同等の高いTDNとなる事が示されています。(めん羊を用いた試験)
籾に関しても給餌する前に挽き割り及び圧ぺん処理することによりTDNは90%近くまで改善することがわかっており、飼料米の用途に適した品種であるとされています。


育種経過

九州沖縄農業センターに於いて、暖地における優良多収品種の育成を目標に多国籍とも言える品種による組み合わせ交配が行われました。

交配母本は『奥羽326号』、交配父本は『86SH283長』です。

母本となった『奥羽326号』は韓国の半矮性インド型品種『密陽23号』に『アキヒカリ』を2度交配した日本型多収品種で、高い籾数(シンク能)が特徴です。

父本となった『86SH283長』(後の九系753)は、韓国のインド型品種『水原258号』と、台湾の日本型品種『台農67号』の日印交配後代に由来する系統で、交配の時点で雑種第6代です。
『水原258号』の高い籾数(シンク能)と『台農67号』の良好な登熟性(ソース能)を引き継いでいます。

『ミズホチカラ』育成当初の狙いとしては『密陽23号』及び『水原258号』の高い籾数と『台農67号』の良好な登熟性を組み合わせることにより、極多収品種を育成することが目標となっていたことがわかるかと思います。

交配年は昭和62年(1987年)、当時の九州農業試験場に於いて人工交配が行われ、55粒の種子を得ます。
同年冬、温室内でF1世代20個体が養成され、翌昭和63年(1988年)には早々にF2で個体選抜が行われ、300個体の中から47個体が選抜されます。
そして昭和64年/平成元年(1989年)F3世代は47系統の中から1系統5個体が選抜され、これより系統育種法により選抜・固定が図られます。
これ以降は毎年1系統群5系統より1系統5個体選抜が平成20年(2008年)まで続きます。(奨決中断の間も同様)
平成2年(1990年)からは『は系多13』の系統名が付され生産力検定試験及び特性検定試験に供試されます。
多肥条件下で平成4年(1992年)以降は『西海203号』の地方系統名が付され、関係各県に配布され、奨励品種決定試験に供試されます。
しかし平成4年~平成6年(1992~1994年)の3年間の評価は
・玄米外観品質及び食味が食用品種よりも著しく劣る(家庭用・業務用問わず主食用としての利用は不適)
・短稈で茎葉を含めたバイオマス収量が少ない(WCS用としての利用も不適)
と芳しいものではなく、ここで一旦配布が打ち切られ、以後10年もの間奨励品種決定試験は中断されていました。

この間は系統保存のみが行われていました。

試験が再開されたのは平成17年(2005年)です。
この少し前より飼料用米や米粉用米等、新規需要米に適した多収品種が求められるようになったことが大きな契機となりました。
再開に際して飼料特性並びに米粉パンや焼酎原料用米等の加工適正の調査も行われるようになります。
特性検定試験は「粗飼料多給による日本型家畜飼養技術の開発」(2006~2009年度)の予算で、米粉パン加工適性試験では熊本製粉株式会社(松永幸太郎博士)の協力を得て実施されました。

これらの試験結果により優秀性が認められ平成21年(2009年)に『水稲農林438号』、平成23年(2011年)に『ミズホチカラ』として品種登録されました。
日の目を見る(品種登録されるまで)かなりの年月を要しており、品種登録時は雑種第25代にまで達していました。
平均的に見て普通の品種であれば12~13代程度(約10年)で品種登録されていますから、かなりの遅咲き品種と言うことになるでしょうか。


系譜図


ミズホチカラ 系譜図
西海203号『ミズホチカラ』系譜図



参考文献

○米粉パン、飼料用米及び焼酎原料等、多用途利用される暖地向き多収米新品種『ミズホチカラ』の育成:九州沖縄農業研究センター報告第66号
○飼料用・米粉用など多用途に利用できる多収水稲新品種「ミズホチカラ」:農研機構http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/karc/2008/konarc08-04.html
○飼料用米向け水稲新品種「ミズホチカラ」の飼料適性:棟加登きみ子ら
○食料・農業・農村基本計画:農林水産省https://www.maff.go.jp/j/keikaku/k_aratana/




関連コンテンツ


飼料用稲(米)とは?













2 件のコメント:

  1. 説明欄の名探偵ってもしかして名探偵コn…というのはさておき実年齢はあの二方よりも上なのに品種になった年から数えれば年下…まさに上司か部下かよくわからないですね笑
    夢あおば。ミズホチカラ。たちすずか。気のせいかもしれないですがどれも一部分だけ人の名前に実際にありそうですね。あおばとみずほは特に、すずかもまぁ…
    by12TK

    返信削除
  2. 新潟県の『葉月みのり』が自分の中では人名っぽい第一ですね(。・ω・。)
    名字と名前セットでベストマッチです♪

    返信削除

ブログ アーカイブ

最近人気?の投稿