地方系統名
『青系208号』
品種名
『あおばまる』
育成年『令和2年(2020年) 青森産業技術センター農林総合研究所』
交配組合せ
『べこあおば×ふ系PL4』
主要生産地
主要生産地
『青森県』
分類『飼料用(WCS用)』
「おうっ!あおばまるだっ!!」 |
どんな娘?
青森県飼料用稲の新世代。
肉体の強靱さを誇ることが多い飼料用稲品種達の例に漏れない屈強な体に加え、寒さへの耐性は比類無く、まさに新世代。(でもWCS用でそれって役に立つの?)
声が非常にでかい上に米っ娘の見た目以上に腕力が強いので、飼料用稲の仲間内はまだ良いのだが、他県の粳米っ娘の中には怖がる(ビビる)者も一定数いる。
WCS専用(厳密には”向け”)品種にしてはとんでもない(何が?)おかげで、某首長からは拒否反応を示されている…があおばまる本人は意に介していない様子。
細けぇ事は気にするな!
概要
青森県における令和の新世代飼料用稲の片翼、WCS(発酵粗飼料)用稲品種『あおばまる』の擬人化です。
「大きく生長した青葉(茎葉)を食べて、家畜が丸々と太るように」との願いを込めて命名されています。
相方の『ゆたかまる』と共に青森県の畜産業を支えることが期待されます。
青森県における飼料用稲品種は、WCS向けに『うしゆたか』(平成20年育成)と『みなゆたか』(平成21年育成)、飼料米用向けとして『えみゆたか』(平成28年育成)と平成に育成された”ゆたかシリーズ”(管理人の勝手な命名)が主役を占めていました。
それが令和に入りWCS・飼料米それぞれ新規品種が育成されました。
令和元年度(令和2年2月)に姉貴分となる飼料米用向けの『ゆたかまる』が青森県の飼料作物奨励品種に指定されたのに続き、令和2年度(令和3年2月)にWCS向けとしてこの『あおばまる』が指定されました。
令和4年(2022年)より一般に種子販売が開始されました。
WCS向けですので通常の水稲のように種子である米を収穫するのが目的では無く、茎・葉・籾の地上部全てを収穫することを目的としています。
先代WCS主要品種の『うしゆたか』に比例して収量(黄熟期全重)で2割増となっています。
ホールクロップのロール数で比較すると、『うしゆたか』で10aあたり8.5ロール分収穫できるところを、同条件下で『あおばまる』は10ロール分収穫できるようです。
とか言いつつも、先代『うしゆたか』の玄米収量がせいぜい650kg/10aだったのに対して『あおばまる』は800kg/10a近いので普通に飼料米用品種としても使えそうなものですが、青森県の指定ではあくまでも「WCS用」とのこと。
途中まで飼料米用として育成されていたものの、熟期が遅く草姿が大柄なので、発酵粗飼料用に切り替えたという変遷を持つようです。
飼料米用としては姉貴分の『ゆたかまる』に任せることとなりそうです。
「なぜかイナゴに食われにくい(公式)」そうで、ケイ酸吸収率が高いので葉が硬い、とかあるんでしょうか。
育成地において「中生の晩」に属し、出穂期は8月6日頃、成熟期は9月20日頃となっています。
青森県下ではこの熟期は遅いと判断されるようですが、WCS用であり黄熟期刈り取りが前提なので問題にならないとされています。
育成時に計測された稈長は94~96センチ、穂長は約17センチの「偏穂重型」で、耐倒伏性は「強」と判断されています。
WCS用品種にとって重要な地上部収量(全重)は黄熟期で約160kg/10a、成熟期で約210kg/10aと十分に多収です。(対照『うしゆたか』で黄熟期約125kg/10a、成熟期約170kg/10a)
そして玄米千粒重は31.0~33.6gと非常に大きいものとなっており、玄米の収量(粗玄米重)も700~800kg/10aまで至ります。(N成分1.0+0.4kg/a多肥区)
前述のように1粒当たりが大きく、穂発芽性も「易」とされているため、新規取り組みの際には播種量を増やしたり、催芽時・浸種時にも注意が必要とされています。
いもち病への真性抵抗性遺伝子型は【Pik】【Pita-2】を保有していると推測され、青森県内のいもち病菌レースでは感染しないために圃場抵抗性は「不明」と判定されています。
障害型耐冷性は「極強」です。
時折「極強10」と紹介されている場合もありますが、これは平成26年(2014年)以前の基準によるものと思われ、父親にして基準品種である『ふ系PL4』と同じ耐冷性ということだと思われます。
蛇足
耐冷性(障害型冷害耐性)は平成21年(2009年)にそれまでの最高位ランク8「極強」(『コシヒカリ』や『はえぬき』)を「極強8」として、それよりもさらに冷害に強い「極強9」「極強10」「極強11」の3ランクが追加されました。
その後さらに国際基準に準ずる目的から、上記の追加で11ランクになっていた耐冷性は9ランクに圧縮されることとなり、「極強10」「極強11」は「極強」(ランク9)となりました。
飼料適性
『うしゆたか』は通常の食用粳品種である『むつほまれ』よりも粗繊維含量が低く消化が良く、無機成分組成(K/(Ca+Mg)当量比)が優れるとされているので、『あおばまる』も同様…と考えて良い物かは不明ですが…
K/(Ca+Mg)当量比は、K(カリウム)の過剰摂取を一因として発生する家畜のグラステタニー(低マグネシウム血症)を防ぐためにも2.2以内に収めることが目標とされています。
『うしゆたか』は育成時1.73(対照『むつほまれ』2.08)で十二分目標内でしたが、公表されていないのか、今は大して重要視されていないのか…?
雪印種苗株式会社に依頼して行われた近赤外分析による値ではTDN(可消化養分総量)が51.7~59.9、Vスコアは94~100ですので「良」評価ということになるでしょうか。
育種経過
詳細な育種論文って公表されるのかなぁ…
平成19年(2007年)に『べこあおば』を母本、『中母59』(後の『ふ系PL4』)を父本として交配、育種が開始されています。
◇母本の『べこあおば』は東北農業研究センターで育成されたWCS/飼料米兼用品種です。
◇父本の『ふ系PL4号』は障害型冷害への耐性の新ランク「極強10」を有する品種です(それ以外は知らぬ)
~そしてこの間不明~
平成28年度の農林総合研究所年報に「発酵粗飼料用品種『青系208号』を育成した」旨の記載があり、新配布系統一覧の中にも同様に『青系208号(黒2553)』が記載されていますが、これが上記の交配後代系統であり、後の『あおばまる』として品種化されるものとなります。
平成29年(2017年)から研究所内及び現地での栽培試験が開始され、年報によれば「本県に適する優良品種の選定」の項目で『青系208号』は「継続」の判断が成されています。
続く平成30年(2018年)もおそらく継続して現地試験が行われ、同上の項目において『青系208号』は「やや有望」と評されています。
同様に令和元年(2019年)は「有望」との評価がされ、ここで概ね奨励品種への採用は固まったものと推測されます。
令和2年度(2020年)は原種として9a、418kgの生産が行われています。
そして令和3年2月に飼料作物奨励品種に指定されています。
令和3年(2021年)は原種として99a、5,220kgの生産が行われ、この翌年令和4年から一般に種子の販売が開始されました。
系譜図
青系208号『あおばまる』 系譜図 |
参考文献
○平成28年度~令和3年度年報:青森産業技術センター農林総合研究所
○稲WCS用新品種「青系208号」の特性:青森産技農林総合研究所
○令和3年度普及する技術:青森産技農林総合研究所
○プレスリリース情報_「稲発酵粗飼料用新品種 「あおばまる」が出願公表」:青森産技農林総合研究所
○農林総合研究所 通信 第4号:青森産技農林総合研究所
○研究成果情報:農研機構https://www.naro.affrc.go.jp/org/tarc/seika/jyouhou/H20/suitou/H20suitou001.html
○粗飼料の品質評価ガイドブック:(社)日本草地畜産種子協会
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