2018年6月15日金曜日

コシヒカリの血縁・稲の親子関係について~コシヒカリの子品種は子にあらず~


◯手始め四コマ

ということで本日のお題は「稲の親子関係」


◯コシヒカリ御三家の近縁係数、ゲノム率はどれくらい?

上の四コマで『ひとめぼれ』が言っている内容をまとめると以下のようになります。


品種名近縁係数ゲノム率(コシヒカリ由来)
ひとめぼれ0.76980.8%
あきたこまち0.61780.0%
ヒノヒカリ0.60861.3%

父本の母本(祖母の位置)に『コシヒカリ』がいるひとめぼれは兎も角、なぜヒノヒカリの近縁係数が0.50にならないか…というと
ヒノヒカリの系譜図を見てもらうとわかるんですが、父本の『黄金晴』の祖先にさかのぼると『農林22号』がいます。
これはコシヒカリの片親になっていますね。
こんなところで繋がりがあるので、日本の水稲品種は直接交配親でなくとも、共通の祖先をもっていることが多いため、一見関係ないようでも血縁が混じっていることになるんですね。(※詳しい計算方法は省略)
(『亀の尾』『朝日(旭)』『大場』『愛国』『神力』『上州』6品種の寄与率が高いとされています。)

では?

『あきたこまち』は近縁係数を計算すると【0.617】なのに、実際の『コシヒカリ』由来のゲノム率は80%にもなります。

『あきたこまち』はなぜ60%前後ではなく、80%と高い値を示すのか。
同じ近縁係数0.6程度の『ヒノヒカリ』のゲノム率は約60%なのに。


ごめんなさいね~ヒノヒカリ。
実は…あなたは本当の私の子じゃないのよ~
ええええええっ
じっ…じゃあ…あきたこまちが本当の子!?
…いや
なんなんだねぃ、この茶番は…
「本当の子」って意味不明じゃないかねぃ?




…という茶番はさておき
稲の交配と育種を考えてみると単純計算の”近縁係数”が稲の遺伝的背景を必ずしも反映しないことがわかるかと思います(と管理人が勝手に解釈しています。ので間違っている可能性もあるのであしからず。)。

それと遺伝子やら染色体やらゲノムやら理解が浅いので間違っているかも、あしからず。
(詳しいことは自分で調べよう!)


◯稲の育種(品種の作り方)を追ってみよう①~親とF1世代遺伝子型~

品種を作るには何と言っても別の稲個体同士の交配から始まります(交雑育種法)。


今回はこの二品種を掛け合わせて新品種『ひのめぼり』を作ることにしましょう(命名センスゼロ)。

互いの遺伝子型は(説明の都合上)以下のようになっていることにします。


分かりやすくするために各遺伝子の性質を【草丈】【耐病性】【耐冷性】【美味しさ】と単純化しました。
◯各遺伝子は二対で一組です。
◯優勢・劣勢は(この場合関係ないので)考えません。
◯遺伝子座の左右にも特に意味はありませんが、説明の便宜上左を母本(卵細胞)、右を父本(花粉)としている(かもしれません)。

稲のおしべ(花粉)とめしべ(卵細胞)には、それぞれこの遺伝子を半分にしたものが入っていますから、『ひとめぼれ』(母本)と『ヒノヒカリ』(父本)を交配したF1(雑種第一代)の遺伝子型は以下のようになります。

『ひとめぼれ』『ヒノヒカリ』ともにしっかりと固定化された(遺伝子型がホモ)品種ですからF1はすべてこの遺伝子型で統一されています。
【草丈】【耐病性】【耐冷性】【美味しさ】全てにおいて親の『ひとめぼれ』『ヒノヒカリ』から半分ずつ遺伝子をもらっています。(遺伝子型がヘテロ)

この新品種『ひのめぼり』の両親との近縁係数は【0.50】で、遺伝子の由来率も50%です
…と人間なら終わるんですが、そうはいきません。

稲の育種はこれからです。

※例外(?)的にこのF1世代を”品種”としているハイブリットライスがあります。(『みつひかり』とか)
 雑種第一代に起きる雑種強勢という特性を生かして、両親や固定品種より優れた性質を持つ作物品種をF1品種などと言って稲以外の多くの作物で一般的になっています。
 が、これの意味するところは優秀な品種を育てられる(収穫できる)のは最初に種を買った一回限り。種を生産している種苗会社から延々と種を買わなくてはいけないのでまた別の問題があるとも言われていますがこれはまた別の話。
 人工交配した作物は体に危険だとかもはや末期としか思えないような非論理的なことを言っている方たちもいますがそれもまた別の話。のくせに在来種は大丈夫とか言う謎理論を(略


◯稲の育種(品種の作り方)を追ってみよう②~F2世代以降の遺伝子型~


さて交配してF1世代が出来たので、次はF2(雑種第二代)です。
生殖細胞(花粉や卵細胞)は減数分裂して発生します。
つまり上記の『ひのめぼり』F1世代の遺伝子座から【草丈】【耐病性】【耐冷性】【美味しさ】それぞれについて二対の遺伝子のうち、『ひとめぼれ』か『ヒノヒカリ』どちらか一方が選ばれて生殖細胞となります。

植物体の染色体(遺伝子)は二対で一組です。

生殖細胞(花粉や卵細胞)はその半分、一対だけです。

前述したように『ひのめぼり』はヘテロ型の遺伝子なので、その生殖細胞は下のような16通りの種類が産まれます。

『ひのめぼり』F1はランダムに生まれるこの16通りの生殖細胞がそれぞれおしべ(花粉)、めしべ(卵細胞)になっており、F1から生まれるF2世代はこの16通りの中から2つを組みあわせたものになります。

例えば
◯パターン7(卵細胞)+パターン15(花粉)
この組み合わせだとF1世代と同じ遺伝子型で、どの性質も固定されていません。(遺伝子型の左右に特に意味はありません)

◯パターン8(卵細胞)+パターン10(花粉)
 これだと【耐病性】と【耐冷性】が『ひとめぼれ』の遺伝子で固定されました。


◯パターン1(卵細胞)+パターン5(花粉)
 これだと【耐病性】以外『ひとめぼれ』由来の遺伝子で固定されています。

これはほんの一例ですので、F2世代がどれだけ多様な遺伝子の組み合わせの雑多・雑駁な集団になるかがわかるかと思います。
あり得る可能性としては…
えーと?…全部で120通り?(自信は無い、まったく無い)

とは言え、これはヘテロ接合体も含めた場合の数。

将来的に産まれる新品種『ひのめぼり』は、交配を繰り返す中で固定され、ホモ接合体になっているでしょうから、最終産まれうる遺伝子パターンは限られます。


◯稲の育種(品種の作り方)を追ってみよう③~固定世代の遺伝子型~

とりあえずF2世代から多様な遺伝子座になりながらも、世代交代(自家受粉)を繰り返すうちにヘテロ接合体は減り、ホモ接合体の遺伝子座が増えていきます。
現代は集団育種法が用いられる事が多いので、F5~7世代まで選抜せずに栽培を繰り返します。
そうすると今回の仮定の場合、理論的には次の16通りの『ひのめぼり』が出来ることになります。


…まぁ16通りの『ひのめぼり』とは言いましたが、パターン1とパターン9は『ひとめぼれ』『ヒノヒカリ』になっていますね。

そう、実は理論上はF2世代以降では交配親と同じ遺伝子座の個体が出来得るんですね。
(例え出来ても選抜されて消えますから何の問題もないはずですし、そもそも確率が相当低い気がする…)


さて話を戻しますと
こうして出来た14の候補は

【パターン8】
 『ひとめぼれ』の栽培特性そのままに、『ヒノヒカリ』の食味を導入した『ひのめぼり』
【パターン15】
 『ヒノヒカリ』に『ひとめぼれ』の耐冷性を導入した『ひのめぼり』

とそれぞれ両親の特徴を何らかの形で受け継いでいますから、あとは育種目標に沿った個体が新品種『ひのめぼり』として日の目を見ることになります。

ここで仮に【パターン8】『ひのめぼり1号』【パターン15】『ひのめぼり2号』としましょう。
1号、2号共に、両親に対する単純な近縁係数を計算すると共に【0.50】ですが、遺伝子依存率は全く違う結果になることがわかるかと思います。

『ひのめぼり1号』=『ひとめぼれ』『ヒノヒカリ』75%25%
『ひのめぼり2号』=『ひとめぼれ』『ヒノヒカリ』25%75%

ただし、【パターン3,4,6,11,12,14】の六通りは遺伝子上も両親均等に50%となっています。

そしてここで私が言いたいのは14通りの『ひのめぼり』どれひとつとして『ひとめぼれ』と『ヒノヒカリ』の交配から直接生まれることは無いという事なんです(ホモ接合体になり得ない)。
品種『ひのめぼり』は『ひとめぼれ』と『ヒノヒカリ』の子である『雑種第一代(F1)』からしか生まれないんです。
品種化されれば間違いなくこの『ひのめぼり』は『ひとめぼれ』の子品種、『ヒノヒカリ』の子品種と呼ばれるのですが、実は『孫』なんですよ。(という屁理屈をこねてみたかっただけ。)

※1:実際は前述したように交配親のさらに交配親が共通であったりするので単純に母本由来、父本由来の遺伝子とはできない点もあるのですが、そこは簡略化しました。
※2:実際はこのように単純な遺伝をするものではなく、主たる性質のほかに他の性質に影響を与える遺伝子もあるのですが、そこは簡略化しました。
※3:これは超単純化した考え方ですので現実とは大きく乖離している部分もあります、あしからず。

◯超極端に結論を出そう

こんなところ(?)で超極端な結論を出させていただくと、結局これが近縁係数はほぼ同じ【0.6】程度ながら『あきたこまち』と『ヒノヒカリ』のコシヒカリ由来のゲノム率が80%:60%と大きく違う理由です。

人間であれば子は親の遺伝子を50%ずつ引き継ぎます。
しかし
稲の子品種は親の遺伝子を均等に引き継ぐとは限らないのです。
(稲の”親-子”は人間でいうところの”祖父母-孫”の関係です)

同じく片親に『コシヒカリ』を使って育成された品種でも「どのような性質に注目して選抜するか」によって母本父本どちらかに遺伝子が偏った品種は十分生まれ得ることは上の例で示した通りです。
『コシヒカリ』の遺伝子を多く残した個体が選抜された結果が『あきたこまち』であり
『コシヒカリ』と『黄金晴』両親の遺伝子をほぼ均等に残した個体が選抜された結果が『ヒノヒカリ』ということでしょう。


と…ということはだよ?
あたいはコシヒカリの子で間違いないってことでいいんだよね!?
そうよ~
びっくりさせてごめんなさいね~

(びっくりしたことにびっくりですわ…)
えと…私も近縁係数とゲノム率がだいぶ近似していますから、選抜も両親の性質を均等に引き継いできたと言えるのかもしれません。
ちなみに上の例の【パターン13】のように元の品種はほぼそのままに、他品種の耐病性の導入だけを目指す育種の極致が『コシヒカリ新潟BL』や『ハツシモ岐阜SL』です。
理論上は雑種世代を繰り返してもBLは出てくるはずなんだけどね~
確率的に非常に低いから何度も”戻し交配”を行うのよ~
は~い!はいはいはい!
質問!

どうしました?つや姫。
ぜんぜんわからない!
ええ…
そう言えば結局、私ってコシヒカリの何になるのかしら?
もう長くなり過ぎたので出てこないでください…
ええ!?(また?)








しかし…
この通りだとするとそもそも稲に近縁係数を用いること自体間違っているような気もするのですが…じっさいどうなんでしょう?➡コメント欄参照
※近縁係数は「いくつの対立遺伝子座がどちらで固定するかの平均だそうなのでこれで良いようです。(Kayさん解説感謝です!)
なので本当の遺伝子依存率はやはり幅が出るようですね。(人間だって祖父母-孫間では25%の依存率とはならないはずですしね)

繰り返しになりますが、これは管理人の勝手な解釈なのでどこか(もしくはほとんど)間違っている可能性があります。



参考文献

〇「コシヒカリ」の全ゲノム塩基配列解読:http://www.naro.affrc.go.jp/archive/nias/seika/nias/h22/nias02201.htm
〇コシヒカリとその近縁品種の栽培面積:http://tmhkyoshida.my.coocan.jp/yosida/honbun/kosimen.htm

4 件のコメント:

  1. おお、なんてタイムリー。昼間読んでいた論文がまさに近縁係数の計算の話です。近縁係数による水稲奥羽系統の分類(https://repository.naro.go.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=23&item_no=1&page_id=13&block_id=21)
    確かに稲は遺伝子を固定化するため、何世代もかけて形質に関わる遺伝子座がホモ接合になったものを作り出します。しかし、「いくつの対立遺伝子座がどっちで固定するか」の平均が近縁係数と考えると「親品種」と「子品種」の近縁係数0.5ででいいのです。なぜなら上記の図のパターン1~16について、それぞれの親について遺伝子の由来の比率を計算して平均を取るとしっかり0.5になるからです。
    近縁係数はそもそも人間で考える場合も綺麗に全て両親の半々になるとは限らない(人間はそもそもがヘテロなので、1つの遺伝子について考えても子供のありえる遺伝子型は4パターン)のに、親子は0.5と考える、血縁についての指標に過ぎないものなので、利便性優先でいいのでしょう。

    なお、リンク貼った論文が面白いと感じたのは奥羽系統(農研機構東北農研で育成された系統)に反映されている東北の育種の歴史ですね。ササニシキ、コシヒカリがメジャーになる前後、そのあともササニシキからひとめぼれに世代が交代しているのがわかりやすい…。

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    1. はえ~なるほど~

      勉強になりまっす!
      そもそも近縁係数ってそういう意味だったんですね(不勉強)

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    2. それでやっぱり『ヒノヒカリ』のコシヒカリ由来遺伝子率が近縁係数並みの約60%ってのは平均通りってことで”フツー”ってことは間違いないですね(笑)

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  2. まさしく平凡、平均値w
    で、論文見ていると「純系淘汰品種、変種、突然変異系統については原品種と同じとみなし
    」とあるので、ミルキークイーンとコシヒカリ間の近縁係数は1.0で計算するのが一般的なようです……このあたり私も初めて知りました。

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