2021年7月29日木曜日

金賞受賞酒の酒米は何か?~令和2酒造年度全国新酒鑑評会~


始めに言っておきますが…
ガバガバ調査なので間違いがあるものと思って見てください



独立行政法人である酒類総合研究所が行っている全国新酒鑑評会。
令和3年5月21日に、令和2酒造年度(2020年7月~2021年6月)に関して結果が発表されました。

出品数は821点、うち413点が入賞し、207点が金賞に輝きました。
令和元酒造年度はコロナの影響で入賞酒までしか審査されず、金賞は存在しませんでしたので1年(2年?)ぶりの金賞受賞発表になります。


↓元結果URLはコチラ↓

それで…
そもそも”新酒鑑評会”とは何ぞや?(テンプレ


全国新酒鑑評会(テンプレ

”(前略)清酒を全国的に調査研究することにより、製造技術と酒質の現状及び動向を明らかにし、もって清酒の品質向上に資するとともに、国民の清酒に対する認識を高めることを目的とします。”
~全国新酒鑑評会開催要領より~

ということで、統一された基準で、日本中の蔵が参加可能な吟醸酒の品評会、それが”全国新酒鑑評会”です。

事の始まりは明治20年代、全国各地で日本酒の品評会が開かれるようになりましたが、各地で基準はてんでバラバラ。日本酒の醸造技術向上のためにも、統一された基準での品評会が必要とされたそうです。
酒税を貴重な財源とする国の後押しもあり
1907年(明治40年)に日本醸造協会が行った全国清酒品評会が前身となり、1911年(明治44年)に第一回全国新酒鑑評会が開催されるに至りました。


「品評会」は個々の優劣をつけることが主たる目的
に対して
「鑑評会」は酒造技術に対する専門家の評価を技術向上に役立てることを主たる目的にしています。

ところでとってつけたように「国民の清酒に対する認識を高めることを目的」とか書いてますが何をもって認識を高めようとしているのか不明です(愚痴)。
(独)酒研に「出品酒の情報教えてくれませんか?」と聞いたら「それは出品者にしか教えられない」とか言ってるんですが、金賞受賞しましたーだけ発表してれば認識が高まると?
とか不満は尽きない・・・

気を取り直して

どうやって鑑定するの?

独立行政法人酒類総合研究所、国税庁の酒類鑑定官、都道府県醸造試験場の技術関係者などの専門家による唎き酒(人間の五感による鑑定)の他、酸度や香気成分についての化学分析も行われ、入賞酒(俗称:銀賞)、さらにその中から金賞酒が選ばれます。

これも、
専門家による唎き酒が密室で行われているから怪しい、とか
鑑定の際に呑み込まないので飲んだ時の味が評価されない、とか
そもそも鑑評会で金賞を取っても、販売している酒とは仕込みが違うから評価の基準にならない…とか

いろいろ批判はあるようです。

結局、お米で言うところの「食味ランキング」のようなものでしょうか。
評価する一定の基準とするものであって絶対的な評価として扱う側に問題があるものだと思われます。
でも実際酒屋の売り方には一部疑問を感じる・・・


さて本題

と、こんな全国新酒鑑評会。

日本全国の酒蔵が一堂に会しているこの鑑評会で、金賞を受賞するような日本酒にはどのような酒米が使われているのか平成30酒造年度に続き令和2酒造年度についても調べてみました。
(「入賞酒」は約400点と金賞の2倍もあり、そもそも入賞しただけでは販売しなかったり発表しなかったりと調べるのがしんどく・・・(独)酒研に問い合わせてみたのですが「出品酒の使用酒米は出品者以外には教えられない」とけんもほろろ・・・というわけで令和元酒造年度はあきらめました。)


「美味しいお酒」の一種の指標となるこのような場で使用されている酒米たちはさぞや各県を代表するような品種達に違いない…!(天丼)

ちなみに令和2酒造年度で最多金賞受賞は福島県と長野県が並んで17蔵。
続いて秋田県と新潟県の13蔵、山形県の12蔵、栃木県と兵庫県の10蔵と続きます。
特にトップの福島県は8年連続(平成元酒造年度を挟んで)、通算10回目の最多金賞となりました。



令和2酒造年度新酒鑑評会【金賞受賞酒】に使われている酒造好適米!

さぁいよいよ発表です!
栄えある鑑評会で最も使われている品種は・・・
『山田錦』!(天丼)



帰れ!
お前なんてお呼びじゃなくってよ!(発狂)
(まぁわかっていましたが・・・)
調査の後半は「山田錦」と書くのが面倒になって「y」とだけ書くようになっていくぐらいには、『山田錦』だらけです。

「兵庫県特A地区産」「兵庫県産」がかなり目立つ印象ですが、一部地元産の『山田錦』を使用している蔵もあるようなので、一概に「『山田錦』使用=地元産を使ってない」とは言えないのですが・・・まず今回は「使用酒米の品種」だけで区分しています。
(そもそも公開情報が雑すぎて【国産の特A山田錦、的な】判別できないことも多いのですが・・・)


【金賞受賞酒】に使われている酒造好適米!【本番】

さて本題・本番です。
令和2酒造年度に金賞を受賞した207点について墨猫大和独自調べを行いました。


墨猫大和独自調べ
① 蔵元のHPを確認。金賞受賞酒の原材料名表記があればそれを採用。
② 金賞受賞酒を販売しているか確認。原材料名表記があればそれを採用。
③ ①~②が無ければその蔵の大吟醸酒の原材料名表記があればそれを採用。
④ それでもなければ銘柄名、金賞受賞で検索。個人のブログ等がないか調べる。


結果
※あくまで当ブログの独自(雑)調査

  • 165点/207点…山田錦(約79.7%)
  •  3点/207点…山田錦+他品種(約1.4%)
  •  33点/207点…他品種(約16.0%)
  •  6点/207点…不明(約2.9%)


6点については完全に不明…
蔵本のホームページや売っている商品が「国産米使用」とか「○○県産米使用」とか「酒造好適米100%使用」とか・・・
あとは鑑評会出品酒について全く触れていない蔵で、大吟醸の酒米が2種類あると判断が出来ないので「不明」扱いにしています。


注!墨猫調査から漏れている蔵は多分必ず?あります。

まず間違えている可能性はいくらでもあります。
墨猫の調査の雑さも当然ですが、日本酒業界の雑さも相まって・・・

間違え可能性パターン①:金賞受賞酒と金賞受賞(した蔵が造った)酒
ちゃんと表記してあるんですが、単純に私が見間違えている可能性もあります。(「金賞受賞蔵の日本酒」って表記を空見している可能性はあります。)

あとは地方の鑑評会や別のコンテスト系の「金賞」を見て、私が「全国新酒鑑評会の金賞」だと勘違いしている可能性はあります。

間違え可能性パターン②:蔵の代表銘柄「〇〇〇」が金賞受賞!
いやここが本当に私が個人的に「日本酒意味わからんよ」なところなのですが

例えば【墨猫酒造の銘柄「大和」が金賞受賞した】と酒研の入賞酒目録に書いてあるとしましょう。
酒蔵は「当蔵が金賞受賞しました」とか書いて、酒研の入賞酒目録を貼り付けてるから、こっちは「ふーん”大和”が金賞取ったのか」と思うじゃないですか?
でも、まず一般販売されてる「大和 山田錦」とか「大和 雄町」とかがあるんですよね・・・どれ?
それでいて金賞受賞酒として販売されているのは「超弩級酒 紀伊」みたいなものだったりするんですね・・・「大和」どこいった!?
全てが全てこういうことをしているわけではないのですが、酒蔵の銘柄の定義というか扱いが私にはまったく理解できません。
『短稈渡船』や『山田穂』で酒蔵が好き勝手に違う品種を同じ品種扱いにして表示している事例を目の当たりにしている私としては、銘柄の扱いでさえ蔵の自由意志で好き勝手しているように思えてならないのです・・・(ちゃんと定義とかがあったらすみません)

なので「金賞を受賞した〇〇を販売」って酒屋が書いて売っているのが、全国鑑評会に出たモノと同じタンクのお酒なのか、単純に「〇〇」って名前が付いてるだけの別のお酒なのか、どういう扱いをしているのか私には理解できません。
とりあえず素直に信じてみましたが、実態がどうなのかわかりません。

間違え可能性パターン③:『山田錦』の大吟醸しかないなら強制的に『山田錦』使用に
「地方のお米にこだわって日本酒作りに励んでいます」と自称なり他称なりしていても、「鑑評会に出しているのは『山田錦』」という例は腐るほどあります。(これを悪いと言っているわけではないですよ?)
しかし『山田錦』でしか大吟醸を造っていないのに、鑑評会には地元米別品種で出品・・・という例は私は見つけることが出来ていません。
なので半強制的に『山田錦』の大吟醸酒しか置いていないような蔵は『山田錦』使用としています、あしからず。
もしかしたら出品酒には何か工夫している・・・かも?
(まぁネット全盛期において、仮に『山田錦』以外の酒米で頑張っているとしても、それを伝えられていない時点でその蔵の敗北ってことで(言い訳))

兎にも角にも!
『山田錦』ほぼ一色の中、果敢にも他品種で挑み、金賞を勝ち取った蔵(注目しているのは品種ですが)は以下の通りだっ!

◯北海道(金賞受賞4蔵中2蔵)

北海道は『彗星』と『きたしずく』の2品種で金賞蔵発見

北海道の酒米三姉妹、長女『吟風』、次女『彗星』、三女『きたしずく』。(『初雫』なんていなかったんや)
その中から『彗星』(福司酒造株式会社)と『きたしずく』(日本清酒株式会社千歳醸造所)が使用されているようです。
両者ともに『吟風』を親に持つ本当の姉妹品種。
濃厚甘口向けの『吟風』、淡麗辛口向けの『彗星』、中間の酒質になりやすい『きたしずく』とされていますが、「すっきりとした切れ味」とやらが高評価を受けやすいという全国新酒鑑評会ではやはり『吟風』を扱うのは難しいと言うことでしょうか?
でも「近年全国新酒鑑評会では甘さや香りを重視する傾向が~」みたいな報道もあったんですが・・・わからんですね。

令和元年度酒造好適米 検査数量ランキング【確報値】でもわかるように北海道の酒米は近年増産がかかっているようです。
もしかしたらこれから北海道産米にシフトする動きもある・・・のかも?


◯青森県(金賞受賞4蔵中1蔵)


青森県の新酒米『吟烏帽子』が早速金賞受賞

青森県独自酒米品種の華三姉妹に続く4女、『吟烏帽子』を使用した株式会社松緑酒造の「六根」が金賞を受賞です。
「やませ」に代表される厳しい栽培環境の青森県県南地方で栽培が可能な大吟醸用酒米として期待の集まる品種で、早速その『吟烏帽子』を使って金賞受賞って熱いぜ(個人の意見)
青森県の県南地方は本当に気象条件が厳しく、従来の酒米品種は栽培が出来なかったそうなので、県南地方の蔵にしては本当の意味で「地元の米を使った日本酒」を作ることが出来るようになったわけですね(その道を目指すかどうかは別として)


ちなみに華三姉妹三女の『華さやか』も「プログルテリンという酵母に消化されにくいたんぱく質の割合が多い」という変わり種持ち。
そういった面白いオリジナル酒米を使って金賞受賞とか見てみたいですよね(そんなのお前だけだとか言わないで)
・・・とはいうものの、『華さやか』のこの特性は「お米をあまり削らなくても雑味のないお酒が出来るよ」なので、大吟醸造りをする際のアドバンテージは少ないか・・・


◯岩手県(金賞受賞4蔵中3蔵)


『結の香』、読みは「ゆいのか」。

なんだかんだで「米どころ」である岩手県。
大吟醸向けの岩手県オリジナル品種『結の香』で金賞を受賞した蔵が2つありました(イラスト記載の3蔵は間違いかも…)。
トップ品種『山田錦』と青森県の『華想い』の子品種で、小さく中心部に発現しやすい心白(でもそもそも発現率はそんなに良くないとか)のおかげで、高精米が可能な岩手県酒米のエース品種(大吟醸向け)。

金賞を受賞したのは赤武酒造株式会社、泉金酒造株式会社、株式会社あさ開(この蔵はリサーチミスかも…)
県内金賞4蔵中3蔵はなかなかの使用率です。(使用”数”では新潟・山形・長野に敵いませんが・・・)



◯宮城県(金賞受賞8蔵中2蔵)




河北新聞のデマなのか、宮城県酒造組合のせいなのかわかりませんが
なぜかいないことにされている『美山錦』ちゃん。
(日本酒業界では”錦”がついていれば『山田錦』扱いなの?そんなことあるん?)
でもちゃんと合資会社内ヶ崎酒造店で使っているはず・・・ですが・・・?
日本の酒米生産量第3位、『五百万石』と並ぶ東日本の重鎮・超有名品種だというのになぜこうなった・・・
『山田錦』クラスの千粒重27~28gに比べれば小粒とも言われる千粒重26g弱程度ですが、大吟醸造りできるんですね。

そして民間育種の『ひより』がこちらも『美山錦』とのコンビで金賞受賞(合名会社寒梅酒造)です。
民間育種系は情報が少なくていかんです・・・


◯山形県(金賞受賞12蔵中6蔵)


山形県の酒米の集大成にして至高の最高級酒米品種『雪女神』!!!

※念を押しておきますが、当ブログは露骨に山形県びいきを行います
山形県は頑張っていたんですね!(感激)

「酒どころ山形」の巻き返し運動と同時に育成された山形初の吟醸向け酒造好適米『出羽燦々』、その血を引き継いだ醸造酒向け酒造好適米『出羽の里』、そしてさらにその血を引き継いだ集大成にして『山田錦』に匹敵する最高峰の大吟醸酒向け酒造好適米『雪女神』!!!
新潟県の『越淡麗』への切り替えには一歩遅れたものの、受賞蔵の半数がこの山形県独自の最高級酒米品種を使用しているこの現況、ついに追いつけ追い越せの状況になりましたね!
高級用飯米の分野で『魚沼産コシヒカリ』を猛追する『つや姫』に続き、『雪女神』も頂点に向かって驀進中です!!!
※さらに念を押しておきますが、当ブログは露骨に山形県びいきを(略

これもまた誤解の無いように何度でも言いますが、県独自・県産の酒米を使って金賞を取るのが絶対的に偉いとか言うつもりは毛頭ありません、
が、個人的にそういう「地域ならでは」みたいのが大好きなんです、すごいと思うのです。
山形県でそういう動きが広がっているのを見るのは嬉しいのです。

山形県の酒蔵の来年の結果も楽しみです♪


◯福島県(金賞受賞17蔵中4蔵)


福島県のオリジナル『夢の香』と北海道のオリジナル『きたしずく』

さて・・・なぜあなたがここにいるの『きたしずく』?
理由は全くの不明ですが、北海道のオリジナル酒米『きたしずく』を使って千駒酒造株式会社が金賞受賞。
これは蔵の公式HPでも書いていたので間違いないでしょう・・・『山田錦』以外を使っているだけでも珍しいのですが、他県のしかも生産量上位組でもない『きたしずく』が使われているのはかなり意外ですね・・・なにかネームバリューが?
『山田錦』以外で県をまたいで金賞受賞酒に使用されているのはこの『きたしずく』くらいです。

近年特に金賞受賞蔵数獲得上位県でオリジナル品種使用の機運が高まっている中、新潟県(7蔵)、山形県(6蔵)、長野県(5蔵)には多少見劣りしますが、金賞受賞数1位の福島県では松崎酒造株式会社、笹正宗酒造株式会社、曙酒造株式会社の3蔵が福島県オリジナル品種『夢の香』を使用して見事金賞受賞です。(曙酒造は『夢の香』と『山田錦』併用)
山形県の『出羽燦々』と広島県の『八反錦1号』を両親に持ち、平成11年育成のなかなかの古株ですが、頑張っていますね嬉しいじぇい!
福島県では令和元年に大吟醸用品種として福島酒50号『福乃香』を発表しましたので、『夢の香』を使う気概を持っている蔵元さんは徐々に『福乃香』に移行・・・していくのでしょうか?

ちなみに『福乃香』は静岡県の『誉富士』と山形県の『出羽の里』の子品種です。
え?ちょっと何これ山形県の品種優秀すぎない?



◯茨城県(金賞受賞9蔵中1蔵)


H30酒造年度は『雄町2号』が代役を務めましたが・・・今年は『滋賀渡船2号』で

そこそこ金賞受賞蔵数の多い茨城県ですが、オリジナル品種『ひたち錦』がありながらおしなべて『山田錦』が並んでいる状況(それ自体は珍しいわけではないですが)。

そんな中唯一府中誉株式会社の「渡舟」が『渡船2号』で金賞受賞です。
・・・いや正直言ってこれ調べてないんですが、鑑評会用はまさか『山田錦』使った「渡舟」とかないですよね?そんなことしてないですよね?本当に信じて良いんですよね?(やらかしてくれてる可能性は大いにある)

「山田錦の親の短稈渡船をふっかつ()させた」と(自称なのか他称なのか不明ですが)誤った情報が必ずと言って良いほど付いてくる蔵ですが、金賞受賞しているのだからその酒造りの腕は確かなのでしょう。
『短稈渡船』・『山田穂』両問題でも散々言っていますが、「品種の名前・出自を誤る・偽る」ことと「お酒の味どうこう」は関係ない話ですので・・・

茨城県の産地品種銘柄では「渡船」と設定されていますが、品種としてはジーンバンク保存の『渡船2号』でほぼ間違いないでしょう。
ジーンバンクの記録で「滋賀県原産」とされているのでおそらく『滋賀渡船2号』の品種名誤謬であることが推測されますので、当ブログでは「ジーンバンクの渡船2号=滋賀渡船2号」として扱っています。
大正5年(1916年)育成の彼女は(おそらく)現行栽培品種の中で最古参、最も古い品種です。
『雄町2号』が唯一レベルで敬語を使う相手となっております。(まぁ実績というか現場経験では圧倒的に『雄町2号』が上なのですが・・・)


「研究機関が保管していた『短稈渡船』を府中誉が復活~」みたいなこと言ってる報道やらなんやらあるんですがその研究機関(農研機構ジーンバンク)が否定しましたので間違いなく誤りですね、あしからず。
上記蔵は「茨城県には2種類の”渡船”があってうちのは稈が短いから”短稈渡船”だ」と言葉遊びのようなことを言っておりますが・・・なんだかんだ「山田錦の父親復活」と、まぁなんとも黒っぽいグレーな商法をしておられるようです。



◯栃木県(金賞受賞10蔵中1蔵)


こちらもまた新進気鋭の大吟醸用酒米品種『夢ささら』

そこそこの金賞受賞酒数のある栃木県ですが、『とちぎ酒14』しかなかったオリジナル酒造好適米に登場した大吟醸用酒米『夢ささら』。
株式会社虎屋本店の1蔵のみですが、この酒米を利用して金賞を受賞しました。

縞葉枯病への抵抗性を持たせているのは山形県や新潟県といった他県と違い地域色が出てますね(本当に?)
他の酒造が盛んな県に追従するならば、この『夢ささら』を利用する蔵が今後増える・・・のかな?
仮にそうだとしても新潟県や山形県、長野県に比べてもその活動はかなり鈍いようです。



◯新潟県(金賞受賞13蔵中7蔵)


『越淡麗』と『越神楽』の2品種はまさに圧巻

『コシヒカリ』で有名な「米どころ」新潟県は当然、といっては過言かもしれませんが酒米に関してもいち早く県外産に依存する態勢からの脱却を図り・・・とは言え、ソレっぽい動きをしていると言ってる県は当然他にもあるのですが、せいぜい県産米を使った商品をそろえる程度に止まっていることが多いように感じます(秋田県だったり静岡県だったり・・・)
この「金賞受賞酒の過半が県オリジナル品種」という圧倒的な実績はさすが米王国新潟県といったところでしょうか。

中川酒造株式会社、高の井酒造株式会社、新潟銘醸株式会社、株式会社DHC酒造、大洋酒造株式会社、麒麟山酒造株式会社の6蔵が使用している新潟県オリジナルの『越淡麗』は小さめの線状心白に低タンパク、大吟醸用のエリート品種です。

『越神楽』は原酒造株式会社と農研機構北陸研究センターとの共同育種品種です。
新潟県における『山田錦』に匹敵する酒米、その育種目標そのままに実力を発揮して見事金賞受賞です。



◯長野県(金賞受賞17蔵中5蔵)



一応(失礼)1等米比率が全国1位(が多い)だったり、反収も多めだったり、それなりに(失礼)「米どころ」な長野県ですが、『コシヒカリ』が主力だったり食味ランキングの特A獲得もあまりぱっとしない(失礼)せいかどうも影が薄い(個人の主観)長野県ですが、金賞受賞蔵の数から言っても酒造はかなり盛んなようですね。
平成30酒造年度の時は1蔵しか見つけられなかったので「けっ・・・つまんねぇ残念だなぁ」と思ったのですが、新潟県並みに、そして名実共に”脱山田錦”の動きは盛んなようですね。

かつては木村平村だけで生産されていた『金紋錦』(結局消費が増えたので他地域での生産も始まっているとか)で、株式会社角口酒造店、株式会社中善酒造店、北安醸造株式会社が金賞を受賞。
昭和39年生まれの結構な古参で、栽培特性では弱いところが多いのですが、かつて長野県の統一銘柄「金紋信州」を造るために選ばれただけはあって出来る酒質はかなり良いようです。

またそんな古参品種だけでなく、平成30年から銘柄設定された新進気鋭の『山恵錦』で、株式会社高橋助作酒造店、株式会社亀田酒造店の2蔵が金賞受賞。

長野県と言えば『美山錦』の生まれ故郷ではありますが、ひとまず金賞受賞蔵にはいませんね・・・まぁそもそも大吟醸向けではない、ということでしょうか?



◯福井県(金賞受賞2蔵中1蔵)



一般用飯米では『いちほまれ』で日本一を目指す福井県。
『越南296号(旧)』『越南297号(旧)』『越南298号(旧)』の中から最終選抜された彼女は県オリジナルにして初の高級向け(大吟醸用)品種がこの『さかほまれ』です。
とは言え、酒米生産のほとんどが『五百万石』で、県主導の酒米品種が不在の福井県なので、そもそも「県初のオリジナル酒米」だったりします(『越の雫』ってそれっぽいんですがJA育成品種)

・・・ただ金賞受賞蔵の数を見るにあまり日本酒造りが盛んな県ではないようにも思えるのですが・・・
わざわざ大吟醸用の酒米品種を持つ意味はあるのでしょうか?(コスパ的に)

でも地元米使って金賞を取った株式会社一本義久保本店、その男気(?)熱いですぜ(個人の主観)



◯広島県(金賞受賞9蔵中2蔵)



平成30酒造年度でも金賞を取った相原酒造株式会社は引き続き『山田錦』との併用。
また金光酒造株式会社は『千本錦』単体で見事に金賞受賞です。

広島県で生産が盛んな八反系品種や『改良雄町?』が苦手とする高精白(心白が大きく削りすぎると砕けやすい)、そしてそのせいで大吟醸造りが県産米で行いにくいという弱点を解消するために育成された大吟醸向け品種の役目を見事果たしています。
金賞受賞蔵数もそこそこな広島県は、今後の戦略をどう見据えているのでしょうか?

『中生新千本』と『山田錦』の両親両者から名前を頂いて『千本錦』と命名された彼女。
いやぁしかしこの親の『中生新千本』もなにやら表記揺れがあるのでその由来を調べてみたいものですね・・・いやすみません酒蔵が書いてることは信用できないので一次情報当たりたいんです・・・
そういえば「広島雄町」が『改良雄町』だって言う話も本当ですかね?
広島県が本気でそう思っているのは間違いないでしょうけど。
どっかで取り違えたとか(脱線)



◯山口県(金賞受賞5蔵中1蔵)



うーん・・・山口県・・・何も思いつかない(失礼)

そういえば今は兵庫県で育成されたとか言う間違った情報が流布されている『伊豫辨慶1号(辨慶)』の一番最初の出身地はここ山口県でしたね(在来『辨慶』の出身地)・・・脱線

全く調査していないので本当かどうか正直怪しいのですが・・・
(誤解を恐れず言いますが、復刻系の話は大体盛っているか勘違いかなにかしら間違った情報が含まれているのが常です)
明治~大正にかけて生産が盛んだった在来品種の『穀良都』を平成に山口県や福岡県が”復活”させたそうです。
多分大正期に育成された在来『穀良都』から育成された純系淘汰後代品種だとは思うのですが・・・「亀の尾復活」みたいに酒蔵やら何やらが好き勝手している可能性が大きい(偏見)と思うので(偏見)
ただこの『西都の雫』の片親に『穀良都』が使われていることからも、山口県では何かしらの品種『穀良都』を保持しているはずです。
さて、その正体は何者?(岡山県が『雄町2号』の品種名を忘れたように山口県も忘れている可能性は十二分にあります)

まぁそんな親の由来どうこうは歴史の問題であって品種の特性や日本酒の味には何も関係ない話ですのでこれくらいにして・・・
『西都の雫』は千粒重は25g程度と酒米の中では小粒の部類ですが、『山田錦』譲り?の線状心白のおかげで大きく削ることが可能で、大吟醸造りが可能なようです。



まとめ

前回平成30酒造年度の調査の時は、発表から間もなかったせいか「金賞受賞酒」の販売自体が非常に少なかったようで、今回は調査が遅れたという”けがの功名”ではありますが、「金賞受賞酒」がかなりの割合で販売されており、『山田錦』以外を使用している蔵を多くピックアップできました。

ただし、くどいようですが
これはあくまで「新酒鑑評会に向けた日本酒」の原料に使われている品種の話であり、各蔵ごとに大吟醸酒を地域特産の酒米で作っているところもたくさんあります。
「美味しい日本酒はどれか」と言うよりは「教科書通りの日本酒を作れるか」という性質が強いとも言えるので、出品酒が『山田錦』に加えて高精米・アル添大吟醸・速醸・袋吊りがテンプレになるのもまた当然なのかもしれません。

他県産の『山田錦』で日本酒を作ることが無条件で悪ではありませんし、
地元の酒米を利用して日本酒を作ることが無条件で偉いとは思いません。


やはり新潟県に続いて長野県、山形県、福島県と言った「酒どころ」にして「米どころ」が地元産にこだわろうとする動きは、見ていて楽しいですね。

要は個人的に好きなんだ!
それだけなんだ!

・・・という意味では兵庫県の蔵は地元の『山田錦』使っているのに目立たないのは不公平な気もしますが・・・
そもそもちゃんと全国新酒鑑評会の出品酒の情報公開と周知をちゃんとしてくれればいい話なんですよ。
体感4割くらいの蔵はろくに鑑評会に触れてないし、原料の公表もしてないしで・・・
繰り返しになりますが、原料名書いていても「特A山田錦」とか「山田錦を〇割削った」しか書いてなかったりはざらですからね。
そんな日本酒業界の情報開示状況というか態度を目の当たりにして
骨折り損のくたびれもうけ、が目に見えてるのでどうにもやる気になりません・・・




そんな愚痴は兎も角
飯米では『コシヒカリ』1強から業務用、高級家庭用に再編の動きが見える中
酒米でも『山田錦』1強からこれまた再編の動きがあるように見えます。

次はどんな独自品種で金賞受賞するのか
『山田錦』以外の使用に注力している県の受賞割合はどうなっていくのか
来年度の新酒鑑評会が楽しみですね。

しかしまったく独自品種がない秋田県はなんなんだ?



他年度結果
















3 件のコメント:

  1. 色々思うとこはありますが、米に関しては、品種差よりもその年の気候変動による米質の傾向の方が影響が大きい、と酒造現場では考えられているんでしょうね。

    そこを踏まえて、酒造好適米の品種開発は気候に関係なく品質及び収量が安定すること、山田錦程度に精米出来ることが目標となりますが(それを地道に真面目にやった結果が『吟烏帽子』等昨今の新しい品種)、いい品種が出来ても結局は「地元では山田錦がとれないから使う」に収まりがちな気がします(だから逆に東北はそういう意味で酒米の品種開発に期待は出来る)。

    高温年の米は「硬く溶けにくい(=消化性が悪い)」から酒造りが難しいとのことなので、いっそ高アミロース米で酒を造るとどうなるんだろうか……と思ったりします。高温年で顕著に変わることと言えばアミロース含有量の減少なので。

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    1. 酒の多様性≒酒蔵の作り方の多様性≠仕込んだ米の多様性
      という考えが基本なんだろうなとも。

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    2. 飼料用米の時もそうでしたが、「品種『〇〇〇』は酒造りに適している」レベルで覚える分には良いんですが、その品種の(米の)どんな特性がどのように適しているのか・・・となるともう酒造の分野の話になってくるのでお勉強も苦しいです・・・
      日本酒造りで言う「硬さ」は一体何なのか・・・消化しにくいとは・・・うーぬ
      高アミロース米での醸造ってどうなんですかね・・・というか普通の酒米のアミロース含量って一般飯米用品種の粳と比較してどの程度なんでしょうか?(調べれば出てくるかな・・・)


      『山田錦』以外で金賞受賞が熱いぜ!というのは本文中でも書いてますが完全ワタクシの趣味というか好みというか主観的に思っていることですが
      100年近く育種を継続してきて未だに『山田錦』以上の酒造好適米がないわけもないだろう・・・というのは客観的に思うので
      理由はどうあれ『山田錦』並に蔵が慣れれば、各地の特色生かした品種が豊富になるんだろうなと期待しております(それが客観的に良いことかどうかは置いておいて)

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