始めに言っておきますが…
ガバガバ調査なので間違いがあるものと思って見てください
独立行政法人である酒類総合研究所が行っている全国新酒鑑評会。
令和元年5月17日に、平成30酒造年度に関して結果が発表されました。
出品数は857点、うち416点が入賞し、237点が金賞に輝きました!
↓元結果URLはコチラ↓
それで…
そもそも”新酒鑑評会”とは何ぞや?
全国新酒鑑評会
”新酒を全国的に調査研究することにより、製造技術と酒質の現状及び動向を明らかにし、もって清酒の品質向上に資することを目的に、全国新酒鑑評会を行っています。”
~酒類研究所HPより~
という目的により、統一された基準で、日本中の蔵が参加可能な吟醸酒の品評会、それが”全国新酒鑑評会”です。
事の始まりは明治20年代、全国各地で日本酒の品評会が開かれるようになりましたが、各地で基準はてんでバラバラ。日本酒の醸造技術向上のためにも、統一された基準での品評会が必要とされたそうです。
酒税を貴重な財源とする国の後押しもあり
1907年(明治40年)に日本醸造協会が行った全国清酒品評会が前身となり、1911年(明治44年)に第一回全国新酒鑑評会が開催されるに至りました。
「品評会」は個々の優劣をつけることが主たる目的
に対して
「鑑評会」は酒造技術に対する専門家の評価を技術向上に役立てることを主たる目的にしています。
どうやって鑑定するの?
独立行政法人酒類総合研究所、国税庁の酒類鑑定官、都道府県醸造試験場の技術関係者などの専門家による唎き酒(人間の五感による鑑定)の他、酸度や香気成分についての化学分析も行われ、入賞酒(俗称:銀賞)、さらにその中から金賞酒が選ばれます。
これも、
専門家による唎き酒が密室で行われているから怪しい、とか
鑑定の際に呑み込まないので飲んだ時の味が評価されない、とか
そもそも鑑評会で金賞を取っても、販売している酒とは仕込みが違うから評価の基準にならない…とか
いろいろ批判はあるようです。
結局、お米で言うところの「食味ランキング」のようなものでしょうか。
評価する一定の基準とするものであって絶対的な評価として扱う側に問題があるものだと思われます。
さて本題
と、こんな新酒鑑評会。
日本全国の酒蔵が一堂に会しているこの鑑評会で、どのような酒米が使われているのか調べてみました。
「美味しいお酒」の一種の指標となるこのような場で使用されている酒米たちはさぞや各県を代表するような品種達に違いない…!
ちなみに平成30酒造年度で最多金賞数は福島県の22蔵。続いて秋田県の18蔵、兵庫県の16蔵と続きます。
特にトップの福島県は7年連続、通算9回目の最多金賞数と言うことで盛り上がっていますが、歴代の受賞数を見ると他に山形県、宮城県、長野県などもトップ3に入っており、そんな県ではどのような酒米が使われているか気になるところですよね!(お前だけだ、墨猫大和)
平成30酒造年度新酒鑑評会【金賞受賞酒】に使われている酒造好適米!
山渡50-7 山田錦
…いや本当に
調べたんですよ…237点分…トータル一週間近くかかったんですよ…
で結果は山田錦…
という冗談はさておいて(半分以上冗談ではないんですが)
【金賞受賞酒】に使われている酒造好適米!【本番】
平成30酒造年度に金賞を受賞した237点について墨猫大和独自調べを行いました。
※SAKETIMESさんの「こちらの記事」を足掛かりにさせて頂きました。
墨猫大和独自調べ
① 蔵元のHPに金賞受賞酒の原材料名表記があればそれを採用
② 金賞受賞酒を販売しており、原材料名表記があればそれを採用
③ ①~②が無ければその蔵の大吟醸酒の原材料名表記があればそれを採用
④ それでもなければ銘柄名、金賞受賞で検索。個人のブログ等がないか調べる。
結果
※あくまで当ブログの独自(雑)調査
- 207点/237点…山田錦(約87%)
- 6点/237点…山田錦+他品種(約2%)
- 19点/237点…他品種(約9%)
- 5点/237点…不明(約2%)
5点については完全に不明…
上記①~④の調査を行ってもまったく原材料名が出てきません…
蔵元のHPですら、通常販売している銘柄ですら、「国産米使用」とか「○○県産米使用」とか「酒造好適米100%使用」とか
注!:ちなみにI類、Ⅱ類の区分があったころの受賞数を見ると、『山田錦』以外の品種を使った金賞受賞酒がもうちょっと多かったので、墨猫調査から漏れている蔵が多いのかもしれません。
…と言うのも、調査方法の③で断定してしまうのがかなり不安定なんですよ。
パターン①
蔵HP:○○県産米にこだわって日本酒造りに取り組んでます!
↓
蔵の大吟醸酒は確かに◯◯県産米(『山田錦』以外の品種)
↓
でも金賞受賞酒は『山田錦』使用(おい、舐めとんのかワレ)
パターン②
蔵の大吟醸酒は『山田錦』使用。他品種使用は吟醸酒以下。
↓
でも金賞受賞酒には他品種使用。
ただほとんどの場合、パターン①が多く、パターン②はほとんどありません。
なので半強制的に『山田錦』の大吟醸酒しか置いていないような蔵は『山田錦』使用としています、あしからず。
(まぁネット全盛期において、仮に『山田錦』以外の酒米で頑張っているとしても、それを伝えられていない時点でその蔵の敗北ってことで(言い訳))
兎にも角にも!
『山田錦』ほぼ一色の中、果敢にも他品種で挑み、金賞を勝ち取った蔵(と言うか品種に注目してますが)は以下の通りだっ!
※ちなみに本当に雑な調査なのでかなり間違いあると思われます
北海道の三大酒米、『吟風』『彗星』『きたしずく』の中から『きたしずく』が使用されています。
濃厚甘口向けの『吟風』と淡麗辛口向けの『彗星』のちょうど中間の酒質になりやすいとされている北海道のオリジナル酒造好適米です。
日本清酒(株)さんは『吟風』で新酒鑑評会出している時もあるようです。
◯
『華吹雪』『華想い』『華さやか』の華三姉妹に最近登場した『吟烏帽子』を加えた4品種が青森県の代表的な酒米ですが、その中で長女の『華吹雪』が金賞受賞蔵で使用。
栽培良好地生産の『華想い』と南部地域向けの『吟烏帽子』が4姉妹の中でも大吟醸向けとされていますが、実は『華吹雪』は心白が大きいために高精白が難しい=大吟醸向けではない、というのが一応の評価。
がんばったんだな!(管理人の妄想)
でも個人的には『華想い』『吟烏帽子』で頑張る蔵が出てきてほしい。
青森県で『華吹雪』が使用されているというのは間違いでした(゚Д゚;)
その中から2品種が金賞受賞酒で使用されています。
岩手県北部向けの『ぎんおとめ』は、先輩『吟ぎんが』の妹分。『山田錦』より大粒なものの心白が少し小さめです。
岩手県初の大吟醸向け酒造好適米の『結の香』は栽培特性にやや難あり、収量も少ない…と、欲を言うなら理想の品種までは今一歩かな(何様)?。
しかしながら高精白可能でタンパク質含量も低い、淡麗な日本酒を作ることが出来る娘(ちなみに『山田錦』の子品種)。
県産最大の規模を誇るのは宮城県オリジナルの『蔵の華』ですが、金賞受賞酒には残念ながら無し。
長野県で育成され、酒造好適米第三位の検査数量を持つ『美山錦』と宮城県民間開発の『ひより』が金賞受賞酒で使用されています。
『美山錦』は耐冷性の高さから育成地の長野県及び東北を中心として栽培され、さっぱりとした軽やかな酒質になりやすい(らしい)。
『ひより』は宮城県岩沼市の平塚静隆氏が『山田錦』に、なんと『ササシグレ』を交配させ、その後代から選抜した民間酒造好適米第二号(一号は山形県の『亀粋』)。”穏やかな日よりのように、笑顔の美しい女性”をイメージ。
他、秋田県オリジナル酒米としては『吟の精』『秋の精』『美郷錦』とある中でもやはり最新かつ大吟醸にも向くとされる『秋田酒こまち』が順当に使用されている様子。
2020年頃デビュー予定の秋田県新オリジナル酒造好適米『百田(秋田酒121号)』『一穂積(秋田酒120号)』の内、『百田』はどうやら大吟醸向けを想定している様子。
こういったオリジナル品種を使う蔵が増えると嬉しいですね。
そんなひとりよがりの愚痴は置いておいて…
我らが山形県からは山形県酒米の血統を連綿と受け継ぎ、かつその集大成、大吟醸用酒米『雪女神』を使用した1蔵が金賞受賞。
吟醸向けの長女品種『出羽燦々』と栽培特性はほぼ変わらず、心白発現率の高い高精白可能な酒造好適米です。
『山田錦』に劣らない綺麗な酒質の日本酒が出来るということで、これからの躍進に期待です。
ところで山形県、酒造好適米の数はかなり多彩で、一位の兵庫県に次ぐ多さ。
『酒未来』『龍の落とし子』『羽州誉』のような民間育種品種も多く…いやだからさ、もっとこう…『山田錦』以外でたくさん金賞受賞してるかなぁ…とかって期待をさ(以下略
広島県の『八反錦1号』と山形県の『出羽燦々』を掛け合わせた子で、『五百万石』に代わる県オリジナル品種として育成されました。
『五百万石』の代わり…と言う点からも大吟醸向けは想定しておらず、千粒重が『五百万石』並みなのでおそらく酒造好適米の中では小粒の部類です。
高精白した際には砕けやすいはずですが…
がんばったんだな!(デジャブ)
そんな福島県も、兵庫県産『山田錦』から県オリジナル品種『越淡麗』への乗り換えを達成した新潟県に倣い、新品種『福島酒50号』を県酒米(大吟醸)の主力に据えようと画策中です。
意外と金賞受賞の多い(失礼)茨城県では『渡船(産地品種銘柄名)』を使用した日本酒が金賞受賞しています。
『渡船』とは『雄町』の異名同種、という説が根強いようですが…
さて
茨城県で銘柄指定されている酒米『渡船(産地品種銘柄名)』ですが、実際これ、何の品種を使っているのか全く分かりません。
(産地品種銘柄なんてものは商品名の様なものなので)『茨城県産渡船』なんて書いてても、もはや『渡船』と全く関係ない品種を使っている説まであります。
※詳しくはコチラの記事短稈渡船を追え3~酒米『渡船』を追う~をご覧ください※
平成2年に農研機構遺伝資源センターより酒蔵「府中誉」に、保存していた『(滋賀)渡船2号』を譲渡しており、銘柄指定を受けているのもこの後代とは思われますが…
現状まったく正体不明です
…さらに、産経新聞のこの記事にも見られるように誤解している人もいるようですが、これは『山田錦』の親品種『短稈渡船』ではありません。(農研機構さんに直接確認済み)
ちなみに『渡船』、以下のようにそれぞれ微妙に違うのです。
・『渡船』
各種由来の説がありますが、滋賀県で栽培されていた在来品種(100年以上前の品種!)、これ以上の明確な事実はありません。(雄町から選抜?札を失くした?それ全部”説”です)
ただし、滋賀県内では1905年(明治38年)以降、県外から持ち込んだ『雄町』についても異名同種として『渡船』と呼称していたので非常にややこしい。
・『短稈渡船』
『山田錦』の親品種。兵庫県が滋賀県から取り寄せたことは間違いないが、滋賀県内に『短稈渡船』なる品種は無し。
同時期に存在した品種では『滋賀渡船2号』が脱粒性を除く特性が酷似しているので、おそらく『2号系統の渡船』であったと推測されている。
産経新聞によれば、蔵で利用している『短稈渡船』は農研機構で保存されていたそうなので、農研機構に問い合わせ中。→確認完了。『滋賀渡船2号』でした。
・『渡船2号』
前述したように『短稈渡船』にごく近い品種と推測される『滋賀渡船2号』。
京都大学育種研究室と、(独)農業生物資源研究所ジーンバンクにおいて保存されている…が、ジーンバンクの方では”滋賀”の文字が抜けて『渡船2号』として保存されているのでこれまたややこしい。
どちらも『滋賀渡船2号』です。
◯埼玉県(金賞受賞5蔵中1蔵)
気概のある蔵がここにも!
埼玉県唯一のオリジナル酒造好適米『さけ武蔵』を利用して金賞を受賞した蔵がありました。
埼玉県の先代主力は『若水』(愛知県育成)という状況に加え、酒造に使用する米の9割以上は県外産に頼っている…という状況を打破すべく、独自の酒米品種として育成され、”武蔵の国を代表するような酒米になってほしい”という願いを込めて命名されたのがこの『さけ武蔵』です。それを利用して金賞受賞とか胸が熱くなるぜ!!!(私見)
親の『若水』よりも心白発現率は小(中心部に小さな心白)ですが、粒は大きく、粗タンパク質含量は低く、無効精米も少なくなりました。
そんな栃木県の新進気鋭の新品種『夢さらら』、そして県外出身ながら『ひとごこち』の2品種が金賞受賞酒で使用されています。
『夢ささら』は『とちぎ酒14』以来の県オリジナル酒造好適米品種。『月の光』由来の縞葉枯病抵抗性を持ち、もう片親の『山田錦』由来の酒造適性の高さが特徴です。栃木県の蔵元で大吟醸用として用いられることが期待されています。
『ひとごこち』は”新美山錦”とも呼ばれ(…が特に『美山錦』と直接的な血縁があるわけではない)、『美山錦』と同じ酒造適性を持ちながら栽培特性が優れます。淡麗で味に幅のある日本酒が醸造可能。
「魚沼産コシヒカリ」だけじゃない!
金賞受賞数もさることながら、他県と比較しても『山田錦』に頼りきらないその姿勢がもう”すごい”の一言(私見)。
金賞受賞蔵の半数近くが新潟県の品種を使用して醸してるってどんだけ胸熱(以下略
検査数量で全国二位を誇る『五百万石』ですが、小粒で高精白に向かないこともあってか新酒鑑評会でそれほど使用されない様子。ですがさすが地元新潟県、しっかりと金賞受賞です。
『越神楽』は新潟県第二の大吟醸用酒造好適米で、『山田錦』に匹敵する酒造適性を有する品種を目標に育成、平成25年から栽培されている比較的新しい品種です。(片親は『山田錦)
そして『越淡麗』、新潟県第一の大吟醸用酒造好適米で、『山田錦』と『五百万石』のエリート交配で生まれたエリート中のエリート品種。小さな線状心白により、高精白が可能で、粗タンパク質含量も少なく吟醸、大吟醸酒に適しています。県外産の酒米に頼っていた新潟県酒造の構造に変化をもたらし、多くの蔵元が『山田錦』からこの『越淡麗』に切り替えた…というのが嘘でない証拠がこの結果でしょうか。
◯長野県(金賞受賞14蔵中1蔵)
全国第三位の酒造好適米『美山錦』の故郷、長野県からは『金紋錦』が金賞受賞酒内に登場。
長野県では『美山錦』&『新美山錦(ひとごこち)』を主軸に金紋・しらかば・たかねの三錦を生産しており、新酒鑑評会での金賞受賞も多く、酒造の盛んな土地柄がうかがえます。
『金紋錦』は『美山錦』の変異元『たかね錦』と『山田錦』の交配から育成され、稈長は長くないものの柔らかいために倒伏しやすく、脱粒性も高いようです。
一時は生産が木島平村のみとなり”幻の酒米”と呼ばれていました(酒米って幻多いな…)が、需要が高まるにつれて生産が追い付かなくなり、木島平以外での生産も始まっているそうです。
3蔵が広島県のオリジナル品種『千本錦』を利用しています。
心白が大きく高精白が難しい雄町系、八反系とは一線を画す、大吟醸向け系統の酒米開発を目的として『山田錦』と『中生新千本』の交配から生まれたのがこの『千本錦』です。
耐倒伏性は『山田錦』よりも改善され、粗タンパク質含量も低く抑えられています。
金賞受賞が多いのはやはり東北を中心とした、長野県以東の地域が多いですが、『山田錦』以外を使用しているかどうかとなると、新潟県と広島県を除けばどっこいどっこいな印象でした。
使用していても十数蔵が受賞している中で1~2蔵とかなので、割合としてはそう変わらないのかな、と思います。
ただしこれはあくまで「新酒鑑評会に向けた日本酒」の原料に使われている品種の話であり、各蔵ごとに大吟醸酒を地域特産の酒米で作っているところもたくさんあります。
「美味しい日本酒はどれか」と言うよりは「教科書通りの日本酒を作れるか」という性質が強いとも言えるので、出品酒が『山田錦』に加えて高精米・アル添大吟醸・速醸・袋吊りがテンプレになるのもまた当然なのかもしれません。
【『山田錦』を精米歩合35%まで磨き、きょうかい酵母もしくは熊本酵母で醸せば金賞を取れる】なんていう「YK35」という言葉が生まれるほどです。
他県産の『山田錦』で日本酒を作ることが無条件で悪ではありませんし、
地元の酒米を利用して日本酒を作ることが無条件で偉いとは思いませんが、新潟県、広島県のように地元酒米が蔵に浸透しているのは素晴らしい事だと思います。
日本酒は各県各蔵が様々な宣伝をする中で、一面でも客観性のあるこのような鑑評会の結果を調べるのはとても楽しかったです。
調べていく中でも、福島県や新潟県のように(ネット上での)蔵の情報発信が盛んな県もあれば、群馬県や三重県ように非常に情報量がない県まで、県単位で傾向と言うか特色が見えたのも(思い込みかも知れませんが)面白い点でした。
一般用飯米で脱・『コシヒカリ』の動きが加速する中、酒造好適米もまた脱・『山田錦
へと…向かっていくのでしょうか?
ちなみに
酒造好適米の品種が不明だった蔵
【群馬県】
島岡酒造(株)…群馬泉
貴娘酒造(株)…貴娘
【長野県】
(株)豊島屋…神渡
【三重県】
(株)伊勢萬…おかげさま
【石川県】
(株)加越…加賀ノ月※
※「加賀ノ月」は大吟醸酒が『五百万石』原料だけだったのですが、それで新酒鑑評会を受けていると明記が無かったので不明扱いとしました。
これ…毎年調べるのはしんどいな…
(独)酒類総合研究所さんって、問い合わせたら教えてくれるもんかな…
ふむ…結局、老害はあまりでしゃばるな、ということらしいな、山渡。
引退はいつだ?
ずいぶんと辛らつですね、雄町。
貴女に比べたら私なんてまだまだ若いですよ。
完全引退されちゃ困るな。
まだまだ、後輩の指導は尽きないぞ。
一辺倒より…分担、出来たらいい
そうですね
東北まで行くのも大変ですから、任せることが出来れば私も楽が出来るでしょうか?
ええ、どうかお任せください。
新潟は半分任せてもらっているしね。
役割分担、こういった動きが広まることは悪い事ではないね。
そうそう、老人は労わるものだぞ。
老人…
ふっふっふー!
そうだね!
うちのお年寄りたちにもゆっくり休んでもらうことが必要だよね!
………………
誰がお年寄り…なのかしら?
ねぇ…さやか?
ほえっ!?
あー…うー
え~っと…まぁ…それは
古城錦の姐さんとか…じゃないかな?
あら…そう…
じゃあ、あとで豊盃たちにも伝えておくわね
はえっ!?
◯北海道(金賞受賞3蔵中1蔵)
濃厚甘口向けの『吟風』と淡麗辛口向けの『彗星』のちょうど中間の酒質になりやすいとされている北海道のオリジナル酒造好適米です。
日本清酒(株)さんは『吟風』で新酒鑑評会出している時もあるようです。
◯青森県(金賞受賞5蔵中1蔵)
◯岩手県(金賞受賞6蔵中2蔵)
岩手県の酒米は『吟ぎんが』『ぎんおとめ』姉妹に加えて大吟醸向け酒米『結の香』。その中から2品種が金賞受賞酒で使用されています。
岩手県北部向けの『ぎんおとめ』は、先輩『吟ぎんが』の妹分。『山田錦』より大粒なものの心白が少し小さめです。
岩手県初の大吟醸向け酒造好適米の『結の香』は栽培特性にやや難あり、収量も少ない…と、欲を言うなら理想の品種までは今一歩かな(何様)?。
しかしながら高精白可能でタンパク質含量も低い、淡麗な日本酒を作ることが出来る娘(ちなみに『山田錦』の子品種)。
◯宮城県(金賞受賞13蔵中2蔵)
『ひとめぼれ』『ササニシキ』に代表される米どころ宮城県ですが、酒造好適米の品種は実は非常に少ないです。県産最大の規模を誇るのは宮城県オリジナルの『蔵の華』ですが、金賞受賞酒には残念ながら無し。
長野県で育成され、酒造好適米第三位の検査数量を持つ『美山錦』と宮城県民間開発の『ひより』が金賞受賞酒で使用されています。
『美山錦』は耐冷性の高さから育成地の長野県及び東北を中心として栽培され、さっぱりとした軽やかな酒質になりやすい(らしい)。
『ひより』は宮城県岩沼市の平塚静隆氏が『山田錦』に、なんと『ササシグレ』を交配させ、その後代から選抜した民間酒造好適米第二号(一号は山形県の『亀粋』)。”穏やかな日よりのように、笑顔の美しい女性”をイメージ。
◯秋田県(金賞受賞18蔵中3蔵)
『あきたこまち』で有名な米どころ秋田県では『秋田酒こまち』を利用した3蔵が金賞受賞。他、秋田県オリジナル酒米としては『吟の精』『秋の精』『美郷錦』とある中でもやはり最新かつ大吟醸にも向くとされる『秋田酒こまち』が順当に使用されている様子。
2020年頃デビュー予定の秋田県新オリジナル酒造好適米『百田(秋田酒121号)』『一穂積(秋田酒120号)』の内、『百田』はどうやら大吟醸向けを想定している様子。
こういったオリジナル品種を使う蔵が増えると嬉しいですね。
◯山形県(金賞受賞13蔵中1蔵)
情けねぇぞ山形県!!!そんなひとりよがりの愚痴は置いておいて…
我らが山形県からは山形県酒米の血統を連綿と受け継ぎ、かつその集大成、大吟醸用酒米『雪女神』を使用した1蔵が金賞受賞。
吟醸向けの長女品種『出羽燦々』と栽培特性はほぼ変わらず、心白発現率の高い高精白可能な酒造好適米です。
『山田錦』に劣らない綺麗な酒質の日本酒が出来るということで、これからの躍進に期待です。
ところで山形県、酒造好適米の数はかなり多彩で、一位の兵庫県に次ぐ多さ。
『酒未来』『龍の落とし子』『羽州誉』のような民間育種品種も多く…いやだからさ、もっとこう…『山田錦』以外でたくさん金賞受賞してるかなぁ…とかって期待をさ(以下略
◯福島県(金賞受賞22蔵中1蔵)
全国新酒鑑評会において怒涛の7連続(平成30酒造年度現在)最多金賞受賞数を誇る福島県…しかし悲しいかな、『山田錦』以外を使用しているのはたった1蔵。そんな松崎酒造(株)さんでは福島県オリジナル品種『夢の香』が使用されています。広島県の『八反錦1号』と山形県の『出羽燦々』を掛け合わせた子で、『五百万石』に代わる県オリジナル品種として育成されました。
『五百万石』の代わり…と言う点からも大吟醸向けは想定しておらず、千粒重が『五百万石』並みなのでおそらく酒造好適米の中では小粒の部類です。
高精白した際には砕けやすいはずですが…
がんばったんだな!(デジャブ)
そんな福島県も、兵庫県産『山田錦』から県オリジナル品種『越淡麗』への乗り換えを達成した新潟県に倣い、新品種『福島酒50号』を県酒米(大吟醸)の主力に据えようと画策中です。
◯茨城県(金賞受賞12蔵中1蔵)
『渡船』の代役で近縁種(仮)の『雄町』さん |
『渡船』とは『雄町』の異名同種、という説が根強いようですが…
さて
茨城県で銘柄指定されている酒米『渡船(産地品種銘柄名)』ですが、実際これ、何の品種を使っているのか全く分かりません。
(産地品種銘柄なんてものは商品名の様なものなので)『茨城県産渡船』なんて書いてても、もはや『渡船』と全く関係ない品種を使っている説まであります。
※詳しくはコチラの記事短稈渡船を追え3~酒米『渡船』を追う~をご覧ください※
平成2年に農研機構遺伝資源センターより酒蔵「府中誉」に、保存していた『(滋賀)渡船2号』を譲渡しており、銘柄指定を受けているのもこの後代とは思われますが…
現状まったく正体不明です
…さらに、産経新聞のこの記事にも見られるように誤解している人もいるようですが、これは『山田錦』の親品種『短稈渡船』ではありません。(農研機構さんに直接確認済み)
ちなみに『渡船』、以下のようにそれぞれ微妙に違うのです。
・『渡船』
各種由来の説がありますが、滋賀県で栽培されていた在来品種(100年以上前の品種!)、これ以上の明確な事実はありません。(雄町から選抜?札を失くした?それ全部”説”です)
ただし、滋賀県内では1905年(明治38年)以降、県外から持ち込んだ『雄町』についても異名同種として『渡船』と呼称していたので非常にややこしい。
・『短稈渡船』
『山田錦』の親品種。兵庫県が滋賀県から取り寄せたことは間違いないが、滋賀県内に『短稈渡船』なる品種は無し。
同時期に存在した品種では『滋賀渡船2号』が脱粒性を除く特性が酷似しているので、おそらく『2号系統の渡船』であったと推測されている。
・『渡船2号』
前述したように『短稈渡船』にごく近い品種と推測される『滋賀渡船2号』。
京都大学育種研究室と、(独)農業生物資源研究所ジーンバンクにおいて保存されている…が、ジーンバンクの方では”滋賀”の文字が抜けて『渡船2号』として保存されているのでこれまたややこしい。
どちらも『滋賀渡船2号』です。
◯埼玉県(金賞受賞5蔵中1蔵)
気概のある蔵がここにも!
埼玉県唯一のオリジナル酒造好適米『さけ武蔵』を利用して金賞を受賞した蔵がありました。
埼玉県の先代主力は『若水』(愛知県育成)という状況に加え、酒造に使用する米の9割以上は県外産に頼っている…という状況を打破すべく、独自の酒米品種として育成され、”武蔵の国を代表するような酒米になってほしい”という願いを込めて命名されたのがこの『さけ武蔵』です。それを利用して金賞受賞とか胸が熱くなるぜ!!!(私見)
親の『若水』よりも心白発現率は小(中心部に小さな心白)ですが、粒は大きく、粗タンパク質含量は低く、無効精米も少なくなりました。
◯栃木県(金賞受賞11蔵中2蔵)
一般用飯米で『なすひかり』『とちぎの星』と、関東圏では水稲品種に力を入れている印象を受ける栃木県。そんな栃木県の新進気鋭の新品種『夢さらら』、そして県外出身ながら『ひとごこち』の2品種が金賞受賞酒で使用されています。
『夢ささら』は『とちぎ酒14』以来の県オリジナル酒造好適米品種。『月の光』由来の縞葉枯病抵抗性を持ち、もう片親の『山田錦』由来の酒造適性の高さが特徴です。栃木県の蔵元で大吟醸用として用いられることが期待されています。
『ひとごこち』は”新美山錦”とも呼ばれ(…が特に『美山錦』と直接的な血縁があるわけではない)、『美山錦』と同じ酒造適性を持ちながら栽培特性が優れます。淡麗で味に幅のある日本酒が醸造可能。
◯新潟県(金賞受賞15蔵中7蔵)
真打登場!「魚沼産コシヒカリ」だけじゃない!
金賞受賞数もさることながら、他県と比較しても『山田錦』に頼りきらないその姿勢がもう”すごい”の一言(私見)。
金賞受賞蔵の半数近くが新潟県の品種を使用して醸してるってどんだけ胸熱(以下略
検査数量で全国二位を誇る『五百万石』ですが、小粒で高精白に向かないこともあってか新酒鑑評会でそれほど使用されない様子。ですがさすが地元新潟県、しっかりと金賞受賞です。
『越神楽』は新潟県第二の大吟醸用酒造好適米で、『山田錦』に匹敵する酒造適性を有する品種を目標に育成、平成25年から栽培されている比較的新しい品種です。(片親は『山田錦)
そして『越淡麗』、新潟県第一の大吟醸用酒造好適米で、『山田錦』と『五百万石』のエリート交配で生まれたエリート中のエリート品種。小さな線状心白により、高精白が可能で、粗タンパク質含量も少なく吟醸、大吟醸酒に適しています。県外産の酒米に頼っていた新潟県酒造の構造に変化をもたらし、多くの蔵元が『山田錦』からこの『越淡麗』に切り替えた…というのが嘘でない証拠がこの結果でしょうか。
◯長野県(金賞受賞14蔵中1蔵)
全国第三位の酒造好適米『美山錦』の故郷、長野県からは『金紋錦』が金賞受賞酒内に登場。
長野県では『美山錦』&『新美山錦(ひとごこち)』を主軸に金紋・しらかば・たかねの三錦を生産しており、新酒鑑評会での金賞受賞も多く、酒造の盛んな土地柄がうかがえます。
『金紋錦』は『美山錦』の変異元『たかね錦』と『山田錦』の交配から育成され、稈長は長くないものの柔らかいために倒伏しやすく、脱粒性も高いようです。
一時は生産が木島平村のみとなり”幻の酒米”と呼ばれていました(酒米って幻多いな…)が、需要が高まるにつれて生産が追い付かなくなり、木島平以外での生産も始まっているそうです。
◯広島県(金賞受賞8蔵中3蔵)
長野県以西で唯一、『山田錦』以外の品種で醸した酒で金賞受賞しているのは八反シリーズで有名な広島県。3蔵が広島県のオリジナル品種『千本錦』を利用しています。
心白が大きく高精白が難しい雄町系、八反系とは一線を画す、大吟醸向け系統の酒米開発を目的として『山田錦』と『中生新千本』の交配から生まれたのがこの『千本錦』です。
耐倒伏性は『山田錦』よりも改善され、粗タンパク質含量も低く抑えられています。
まとめ
金賞受賞が多いのはやはり東北を中心とした、長野県以東の地域が多いですが、『山田錦』以外を使用しているかどうかとなると、新潟県と広島県を除けばどっこいどっこいな印象でした。
使用していても十数蔵が受賞している中で1~2蔵とかなので、割合としてはそう変わらないのかな、と思います。
ただしこれはあくまで「新酒鑑評会に向けた日本酒」の原料に使われている品種の話であり、各蔵ごとに大吟醸酒を地域特産の酒米で作っているところもたくさんあります。
「美味しい日本酒はどれか」と言うよりは「教科書通りの日本酒を作れるか」という性質が強いとも言えるので、出品酒が『山田錦』に加えて高精米・アル添大吟醸・速醸・袋吊りがテンプレになるのもまた当然なのかもしれません。
【『山田錦』を精米歩合35%まで磨き、きょうかい酵母もしくは熊本酵母で醸せば金賞を取れる】なんていう「YK35」という言葉が生まれるほどです。
他県産の『山田錦』で日本酒を作ることが無条件で悪ではありませんし、
地元の酒米を利用して日本酒を作ることが無条件で偉いとは思いませんが、新潟県、広島県のように地元酒米が蔵に浸透しているのは素晴らしい事だと思います。
日本酒は各県各蔵が様々な宣伝をする中で、一面でも客観性のあるこのような鑑評会の結果を調べるのはとても楽しかったです。
調べていく中でも、福島県や新潟県のように(ネット上での)蔵の情報発信が盛んな県もあれば、群馬県や三重県ように非常に情報量がない県まで、県単位で傾向と言うか特色が見えたのも(思い込みかも知れませんが)面白い点でした。
一般用飯米で脱・『コシヒカリ』の動きが加速する中、酒造好適米もまた脱・『山田錦
へと…向かっていくのでしょうか?
ちなみに
酒造好適米の品種が不明だった蔵
【群馬県】
島岡酒造(株)…群馬泉
貴娘酒造(株)…貴娘
【長野県】
(株)豊島屋…神渡
【三重県】
(株)伊勢萬…おかげさま
【石川県】
(株)加越…加賀ノ月※
※「加賀ノ月」は大吟醸酒が『五百万石』原料だけだったのですが、それで新酒鑑評会を受けていると明記が無かったので不明扱いとしました。
これ…毎年調べるのはしんどいな…
(独)酒類総合研究所さんって、問い合わせたら教えてくれるもんかな…
ふむ…結局、老害はあまりでしゃばるな、ということらしいな、山渡。
引退はいつだ?
ずいぶんと辛らつですね、雄町。
貴女に比べたら私なんてまだまだ若いですよ。
完全引退されちゃ困るな。
まだまだ、後輩の指導は尽きないぞ。
一辺倒より…分担、出来たらいい
そうですね
東北まで行くのも大変ですから、任せることが出来れば私も楽が出来るでしょうか?
ええ、どうかお任せください。
新潟は半分任せてもらっているしね。
役割分担、こういった動きが広まることは悪い事ではないね。
そうそう、老人は労わるものだぞ。
老人…
ふっふっふー!
そうだね!
うちのお年寄りたちにもゆっくり休んでもらうことが必要だよね!
………………
誰がお年寄り…なのかしら?
ねぇ…さやか?
ほえっ!?
あー…うー
え~っと…まぁ…それは
古城錦の姐さんとか…じゃないかな?
あら…そう…
じゃあ、あとで豊盃たちにも伝えておくわね
はえっ!?
他年度結果
喜久泉の西田酒造店の商品一覧に、展覧会出品用のものがありました。
返信削除山田錦40%の吊り下げ雫酒とのこと。
http://www.densyu.co.jp/information.html
とはいえ、これだとやっぱり展覧会出品用は山田錦一色のようで寂しいですね……
西田酒造店さんは、「華思い」試験醸造でも協力していただいたりして、新品種導入そのものには積極的な酒蔵なので今後には期待したいです。
あちゃ~
削除やっぱり間違いありましたか(確信犯)
修正します!
(多分これ以外もいくらでもボロは出てくると思います…)
しかしこれで本当に…青森県は『山田錦』一色…
『吟烏帽子』ガンバレ!