2020年1月26日日曜日

ミルキークイーン3姉妹 クイーン・サマー・オータム 低アミロース米の系譜



【ミルキー 華麗なる一族】


伯母と娘


ミルキークイーン』(漢字表記:美白米女王)は通称スーパーライス計画で国によって育種された低アミロース米です。
低アミロース米としては先駆けの北海道の『彩』、そして東北農試の『スノーパール』に続き世に出た品種で、『コシヒカリ』譲りの良食味で普及率は最大級となっています。
またその低アミロース性遺伝子「Wx-mq」は従来の品種に比べ、気温によるアミロースの変動が少ないことも特徴です。

低アミロース米は(見た目に白濁した米粒)、強い粘りが特徴です。
お米のデンプンはアミロースとアミロペクチンの2種類で、アミロースの値が高くなるほど粘りが弱く、低くなるほど粘りが強くなります(粘りの代表格、糯米のアミロース含量は0%ですね)。
そんなお米の粘りを決める大きな要因となる「アミロース含有率」ですが、お米それぞれの特性の他に、高温環境下で低く、低温環境下で高くなりやすい傾向があります。
かつて北海道米が「不味い」と言われたのも、冷涼な北海道の気候ではアミロース含有率が高くなりやすい(ぱさついた食感になりやすい)事も大きな要因でした。
しかし近年は高温下の影響により、『コシヒカリ』のアミロース含有率については『ミルキークイーン』の育成当初には17%前後と言われていましたが、今では15%台にまで下がることもあるようです。
同じく育成当初には「アミロース含有率が15%以下、かつ糯性でないものを低アミロース品種とする」という記述もありましたが、高温環境下の現在では基準品種との比較で判断する必要もありそうです。
 
平成の終わり、良食味品種が特にブランド化において重要視されている中、低アミロースを売りとした品種も数多く出ていますが、やはり低アミロース米として『ミルキークイーン』は有名どころではないでしょうか。
順調に作付を増やしていった『ミルキークイーン』ではありましたが、基本的には『コシヒカリ』である事からも病気に弱いために、特に病気が多発する地帯では栽培が難しい問題がありました。
そんな中、女王の娘、王女(プリンセス)が育成されます(正確には『ミルキープリンセス』は『MQ』の姪ですね。)。
パキスタン由来の縞葉枯病抵抗遺伝子を持ち、病気の多発地帯でも対応できる低アミロース品種が生まれたのでした。


三姉妹の完成形


系譜で見れば『ミルキークイーン』には妹と呼べる育成時に同処理で生まれた『鴻272』がおり、系統まで保存されたもので言えば二人姉妹です。
ですが
公式(育成者農研機構による)ではなんと、ミルキーは三姉妹らしいです。

低アミロース米のような粘りが強いお米は(人の好みにも依りますが)食味の面で良い評価を受け、特に冷めた状態でも味が落ちにくいことや、他のぱさつきやすい米とのブレンドで食味を向上させる効果を発揮することからも、その需要は堅調なものがあるようです。

ただし近年、農業経営体の大規模化が続く中、同じ熟期の『ミルキークイーン』単体では特に収穫時期において農家の作業集中の問題が発生します。
堅調な需要が見込まれるMQ系統だからこそ、熟期の異なるミルキー三姉妹(農研機構公式設定)が育成されました。

早生の『ミルキーサマー』、中生の『ミルキークイーン』、晩生の『ミルキーオータム』の3品種は低アミロース米の作業時期の分散化を図ることを、ひいては大規模農家の経営負担軽減を意図しています

サマー、オータムは『ミルキープリンセス』から見れば、従姉妹になるのでしょうけども、公式には”お義母さま”となりました。


ミルキー一族一覧


まぁかと言って少しばかり遺伝子があるからって故郷の言語を喋れるわけないですけども


関東168号『ミルキークイーン』(平成7年生まれ)
 簡潔に言えば「アミロースを作りにくくなった『コシヒカリ』」です。
 その為アミロース含有率が低くなった以外は病気に弱く、倒れやすいなどの欠点も同じで、熟期も変わりません。
 日本全国で栽培

関東194号『ミルキープリンセス』(平成13年生まれ)
 ミルキークイーンの娘(公式)
 縞葉枯病の多発地帯でも安定して栽培できるよう、パキスタンの稲品種『Modan』由来の抵抗性遺伝子を導入。
 背も低くなったことで、多肥栽培が可能となり、収量面で真価を発揮します。

◎関東IL7号『ミルキーサマー』(平成23年生まれ)
 簡潔に言えば「ミルキークイーン早生」
 インド型稲『Kasalath』由来の感光性遺伝子「Hd1」を導入して早生化(MQより成熟が18日早い)しました。
 稈長もMQより短くなりました。
 千葉県や沖縄県で栽培。

◎関東IL10号『ミルキーオータム』(平成30年生まれ)
 簡潔に言えば「ミルキークイーン晩生」
  インド型稲『Kasalath』由来の感光性遺伝子「Hd5」を導入することで晩生化(MQより成熟が14日遅い)しました。
 令和元年度より新規設定の末妹、生育特性もMQとそう変わらないようです。


◎【番外】『ミルキースノー(候補名)』(現:ふ系228号『あさゆき』) 
 簡潔に言えば「ミルキー一族に入り損ねた子(管理人の曲解)」
 青森県の低アミロース系品種です。
 『ミルキークイーン』の孫にあたる品種で、当初の品種名候補に『ミルキースノー』があったとか。(『美白米雪丸(ふぃくしょん)』!
 ミルキー一族ですので、低アミ遺伝子も当然「Wx-mq」です


この他にも低アミロース品種の親として用いられており、(消えてしまった)福井県の『ニュウヒカリ』、熊本県の『秋音色』、農研機構の『姫ごのみ』などが存在します。


  そんな元祖低アミロース米『ミルキークイーン』は、低アミロース品種として最大の作付面積を持つことからもやはり一番の有名どころではないかと思いますが、某バーチャルアイドルで英語ぺらっぺらなキャラで擬人化されるなど、名前からも洋風なイメージが強いようですが…
実は純な日本品種。
パキスタンの品種の血を引く『ミルキープリンセス』や、インドの品種の血を引く『ミルキーサマー』『ミルキーオータム』と違い、『コシヒカリ』のアミロース形成遺伝子の不活化である『ミルキークイーン』には外国の血など混ざりようがありません。

実はこの他にも、いもち病抵抗性遺伝子導入の為に中国品種の『戦捷』、フィリピン品種の『Tadukan』などの血を引く品種も多いんです。日本のお米については特に独特な文化ではありますが、純粋な日本品種とはならない場合も結構あるんですね。

低アミロース米のエース、ミルキー一族の活躍に今後期待しましょう。


2 件のコメント:

  1. ミルキー系の低アミロース米、すなわちWx-mqを持つ一族がエースなら、対抗馬としては『おぼろづき』『ゆめぴりか』『ほっかりん』『だて正夢』に代表されるWx1-1の一族ですかね。
    『スノーパール』『たきたて』系譜の低アミロース米は年次変動が激しいタイプなので徐々に衰退しつつあるし(青森県でも『たきたて』の子『ねばりゆき』が奨励品種から最近外されました)。

    あとこっそりアピールするならWx-mq持ちのミルキークイーンの孫『あさゆき』が青森県にはおります。

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    1. 北海道一族の中にひとりの『だて正夢』さんは少し肩身が狭そうですが、さらに勢力を広げれば新たな一族が増えるかも…

      そして…
      ふ系228号『あさゆき』さん、別名『美白米雪丸(ふぃくしょん)』さんですね!
      『ミルキースノー(ふぃくしょん)』どこかに書き足したいと思います~

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