2018年11月17日土曜日

【粳米】~いのちの壱~(龍の瞳・銀の朏)【特徴・育成経過・系譜図・各種情報】

地方系統名
 『なし』
品種名
 『いのちの壱』
発見年
 『平成12年(西暦2000年) 岐阜県下呂市 今井隆氏』
品種登録年
 『平成18年(西暦2006年)』
交配組合せ
 『コシヒカリ栽培ほ場で発見』
主要産地
 『岐阜県』
分類
 『粳米』

ぼくの名前、ちゃんと知ってる?『いのちの壱』だよ

様々な食味コンテストで入賞している極良食味の代表品種、『いのちの壱』の擬人化です。


どんな娘?

お米界の麒麟児。

飄々としていながらも非常に芯が強い娘。

同じ岐阜県の先輩ハツシモ岐阜SLに親近感を持ち、後ろにくっついていることが多いです。

コシヒカリが親と言われることが多いものの
実はそのコシヒカリとは距離感がつかめず、会うに会えない日々が続いています。


概要


日本の水稲品種はほぼ公的機関(国・県)が育種したものですが、『いのちの壱』は比較的珍しい民間で品種登録されたものになります。(ただ、突然変異株を発見して固定したという意味では、”民間育種”とも少し違っている…かな?)
民間ならではというか、記録や研究という点では不明瞭(抽象的・誇張的表現が多い)なところが多い品種になっています。


『いのちの壱』といえば

◇発見者の今井隆氏の合資会社「龍の瞳」が販売している『龍の瞳』(商品名)
◇生産グループ「合同会社まん丸屋」が販売している『銀の朏(みかづき)』(商品名)

この2つが有名どころになるかと思いますが、じゃあ品種名『いのちの壱』をちゃんと認識している人はどれくらいいるのか不安(な管理人)。

細かいようですが『豊橋1号(女神のほほえみ)』も「『龍の瞳』から生まれた」とされることが非常に多いのですが、『龍の瞳』はあくまでも米としての商品名なのでこの表現はおかしいです。
稲としての名前はあくまでも『いのちの壱』なのですから


『いのちの壱』は粒の大きさが『コシヒカリ』の1.5倍と、とにかく米粒の大きさが特徴です。
そして香り、粘り、甘みなども格段に良い、極良食味品種(と言っても客観的・平均的にどうなのかは不明)としても有名です。
耐倒伏性は「弱」で、病気にも弱く、縞葉枯病抵抗性も日本水稲型(+)です。
意外なところで玄米の見かけの品質は「下の上」で、さほど良くない評価(実際生産地の1等米比率も低い)の様子で、蛋白質含量も「やや高」となっています。
公的試験場レベルなら恥ずかしくて表にも出せないレベルですが、これが「高級米」として売られているのはこれいかに?



繰り返しになりますが、水稲品種『いのちの壱』はだれでも栽培・販売(種籾も)できますが、『龍の瞳』『銀の朏』として売られているモノは、また差別化の図られたブランドになっており、第三者がこの名称で販売することは禁止されています。

◇製品『龍の瞳』
・飛騨産米および岐阜県産米
・農薬使用量は岐阜県の定める量の1/3程度
・マグネシウム・カルシウム資材2種の肥料を使用
・品質(一等・二等米)、美味しさ(水分・タンパク質・アミロースを化学的に分析+食味試験)、粒の大きさ(一定以上?)をクリアしたもののみ出荷。

◇製品『銀の朏』
・飛騨及びその周辺地域の中山間地(標高600m前後の高地)で栽培
・低農薬栽培
・化学肥料不使用



育成経過

平成12年(2000年)、岐阜県下呂市で今井隆氏が作付けしている『コシヒカリ』ほ場の中に、ひときわ背の高い個体が二株(※1)並んでいるのを発見します。

”『コシヒカリ』よりも背が15cmほど高く、籾はとても大きく、茎は太くてたくましい姿だった”とのこと。

今井隆氏は当初、新品種とは思わず、酒米の『ひだほまれ』が混入したものと思ったそうですが、”直感的に”違うものだと思った?そうです。

平成13年(2001年)に約5坪(約16.5㎡=0.16畝)で作付。
同年に試食し、『コシヒカリ』その他既存品種に無い見た目と食味の良さから新品種であることを確信したそうです。
平成14年(2002年)には2aに作付。
その後も品種登録に向けて選抜と栽培を繰り返します。

平成17年(2006年)に『いのちの壱』で品種登録申請。(※2)

(理由は不明ですが)翌平成18年(2007年)に今井隆氏は育成者権を放棄していますので、品種登録後まもなくしてだれでも『いのちの壱』の種もみ・苗を販売できるようになったようです。
その為か、自家採種して『いのちの壱』を栽培しているところも多い?のかもしれません。

とは言え、原原種の保存をしているのはあくまでも今井隆氏の合資会社「龍の瞳」であり、株式会社中島稲育種研究所に委託されているものこそが本物(管理・選別がしっかりなされているという意味で)の『いのちの壱』ということになるでしょうか?

2018年からは正式に原原種から原種栽培、そして種籾採種と、公的機関の種籾生産と同じ行程を用いるようになりました。


※1
他にも既存品種の中から見つかった『イセヒカリ』もですが、ほ場に二株並んで(同じ)
変異株があるというのは、常識から言えば考えにくいことです。
変異株の種籾は、当然、前年に変異した株から採取されたものになります。
それは他の何千何万という他の種籾とごちゃ混ぜになるはずであり、それはランダムに育苗箱に播種され、さらに育った苗は田植え機を使ってさらにランダムに植え付けられます。
つまり、前の年に変異した種籾が、”奇跡的に”育苗箱に近接して蒔かれ、”奇跡的に”連続して田んぼに植えられた…というとんでもない奇跡の結果ということになるはずですが…
ただもうその点は確かめようがないので、真実は不明…というところでしょうか。


※2
品種登録をする際の品種名は、商標登録されているものは使用できません。
合資会社「龍の瞳」は米の販売名を『龍の瞳』として商標登録していたので、品種名は『いのちの壱』として品種登録を行いました。



系譜図

”『コシヒカリ』栽培田の変異株から選抜された”ものであって、”『コシヒカリ』の突然変異種”断定されているわけではない点には注意が必要…かな?(でも一応品種登録の際には”コシヒカリの変異株”としている様子)

発見者の今井隆氏がさらっと「『コシヒカリ』の遺伝子がほとんど含まれていない」と書いていた(ただ何を根拠にしているか不明)ので、”出自不明”というのが正確なのかもしれません。

『いのちの壱』系譜図【暫定】



参考文献

〇銀の朏「こだわりの栽培」:http://ginnomikazuki.com/kodawari/index.html




5 件のコメント:

  1. 『イセヒカリ』もですが、自称「自然に発見された突然変異体」って、ほとんどはたまたま混じった株か交雑種だった可能性のほうが高いですよね。二株も同じ変異が揃うことなんてまずないのに2本あった場合、それはたまたま交雑してしまったのが並んだと考えたほうが自然に思います。変異株というか原種生産現場での「異株」が正しい表現なんでしょうが、いろいろ情報拡散の間に言葉をすり替えた人がいたんだろうなぁ

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    1. 『亀ノ尾』、『みどり豊』、『かぐや姫』発見時のように「◯◯本の穂が見つかった」、なら「ああ、分げつしたんだなぁ」と思うんですが

      まぁ否定する根拠もないので、あくまでも既存品種と明確に区別できる点があったからこそ品種登録も出来た、ということで新品種には間違いないでしょうから、「突然変異」という表現もやはり『いちほまれ』の”20万種!!!”みたいなマーケティング戦略の一環になるんではないでしょうか?

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  2. 「龍の瞳」から生まれた〜って表現自体はそこまで気にならないです。それだと本当は「『青天の霹靂』は『まっしぐら』の孫である」って表現に欺瞞があることになってしまうので……『まっしぐら』って名前は『青天の霹靂』の最終的な親系統の1つ「青系158号」交配時には無かったから「青系138号」が祖父じゃないのか……みたいな議論になってしまう。
    「いのちの壱」という名前より「龍の瞳」という名前を重視したいなら好きにしなさい、という感じで見てました。

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    1. 『豊橋1号(女神のほほえみ)』に関してはむしろ逆でしょうか?

      異株が発見されたのは平成24年ですから、そのころすでに水稲品種名は『いのちの壱』です。
      正式に品種登録される平成17年頃までは『龍の瞳』と呼称していたようですから、『まっしぐら』で言えば「『青系158号』の親は『黒1931』だ」みたいな?感じが私の中でイメージです。

      それにブランド『龍の瞳』はあくまでも『いのちの壱』が収穫されてから各種検査に合格して初めて名乗れるもの(だと思ってます)

      という私見でした。

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    2. 事情詳しく知らなくてすみませんでした。
      まあ異株時点で想定していた名前は権利者のみ知る……だと思うんですが。流れを見ると、最終的な商品名を商標で保護したいが品種登録もしたいという石川県のノリだと考えたので。ややこしいけど逆に違う名前で売ることがやっぱり民間的にはいいんですかねぇ

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