2017年9月24日日曜日

【粳米】石川65号~石川65号(ひゃくまん穀)~【特徴・育成経過・系譜図・各種情報】

地方系統名
 『石川65号』
品種名
 『石川65号』(商標登録名『ひゃくまん穀』)
育成年
 『平成24年(2012年) 石川県 県農林総合研究センター農業試験場
交配組合せ
 『北陸211号×能登ひかり』
主要生産地
 『石川県』
分類
 『粳米』
「石川県…石川65号…だ」

ふっくら大粒 冷めても美味しい 百満足の食べごたえ



石川県の”水稲新品種”は『石川65号』のはずですが、もう商標の『ひゃくまん穀』が一般的過ぎてどうしたものだか…


どんな娘?

静かであまり発言せず、表情も固い為に気難しく見られることもありますが、非常に素直な娘。
口を動かすよりは手を動かす、働き者です。

同期の娘たちが華やかな舞台を目指す中、地道にコツコツ下積みを重ねています。
いつか、全国へ展開する日を目指して。


最近、ロゴ発表を受けて笑顔の練習を始めている…とかいないとか。


概要

平成28年(2016年)前後より始まった米ブランドの覇権をめぐる戦国時代。
東北・北陸の各県が高級路線品種を打ち出す中、石川県は現主力『コシヒカリ』と同等の食味ながら栽培特性と収量が優れる品種をもって、別路線から米戦国時代に生き残りをかけます。
その石川県オリジナル品種『石川65号』(以下表記商標登録名『ひゃくまん穀』)の擬人化です。

同時期同じ北陸からデビューした『新之助』『いちほまれ』『富富富』と混同され、並べて紹介されることが多い彼女ですが、目指している路線が全く違うことはちゃんと認識しておきたいところ。
彼女はあくまでもコシヒカリ並みの多収品種としての普及が目的であり、高級ブランド路線を目指すものではありません。

”2018年石川県担当者
 「将来の県外展開も考えているが、競争が激しい高級路線の土俵に乗りつもりはない」”


『コシヒカリ』より大粒であり、粘りが強く、しっかりとした味。
さらに『コシヒカリ』と比較して冷めた後に硬くなりにくいのも特徴です。
そのような『コシヒカリ』並みの食味に加えて、収量は『コシヒカリ』の20%増という多収品種。
熟期は『コシヒカリ』より10日程度遅い晩生品種で、出穂後の高温障害回避及び農作業の分散化が可能とされています。
障害型耐冷性は「弱」と弱さが目立ちますが、石川県では問題ない?のかな?
稈長はやや長めですが、稈質が強いため耐倒伏性は「やや強」との評価。
いもち病抵抗性(葉)もコシヒカリ並みの「弱」とされています。


育種経過

平成18年(2006年)に石川県農業総合研究センターにおいて人工交配。
集団育種法が用いられ、選抜が進められます。
平成19年(2007年)はF1を圃場で養成。
平成20年(2008年)には一気にF2からF4まで世代促進温室内での栽培で世代促進と固定化を進めました
平成21年(2009年)、F5世代を穂別系統選抜。
平成22年(2010年)、F6から単独系統選抜を行い、平成23年(2011年)以降は系統群系統の選抜と並行して、系統生産力検定他各種試験が行われます。
そして平成24年(2012年)に『石川65号』の系統名が付されました。
その後平成25年(2013年)より奨励品種決定調査に供試、平成27年(2015年)に品種登録申請が行われます。
そして平成29年(2017年)に名称(商標)公募の結果、9,516件の応募が国内外から集まりました。
もっとも応募数が多かった名称が『かがやき』だったそうですが、すでに商標登録がされていた為、二番目に応募が多く、かつ石川県のお米と分かりやすい『ひゃくまん穀』が名称(商標)として選ばれました。↓↓↓


…え?なんで(商標)って付くかって?
あくまでも品種名は『石川65号』のままで、商標登録上の名前が『ひゃくまん穀』です。
石川県というのがどうも変なことをしている(と管理人は思う)県でして…

まず、通常の手続きとしてごく一般的に品種登録に先立って商標を先に取得します。(コメント欄参照)
というのは”原則として品種登録と商標登録は名称が同一のものは登録できない”ので、商標登録してしまえば、それはもう品種名には用いることができません。
そして手続きにかかる時間は「商標登録<品種登録」なので、万が一の盗用を避けるためにも先に商標登録して「品種名」の権利を確保してから、品種登録決定後に商標登録を取り消す…となんとも面倒な作業が必要になるわけですが…

地方系統名で品種登録をして、その後決まった名称は商標登録をして…ここまではいいんですが

石川県では最初の地方系統名の品種名はそのまま変えないそうなんです。(H28.12.6「平成29年産国内農産物の銘柄設定の意見聴取会議事録」より)
石川県現主力オリジナル品種の『ゆめみづほ(商標)』も品種名は『石川43号』、商標上の名前が『ゆめみづほ』となっています。
なぜ変更しないかは不明。
前述の会議の中で”石川県は伝統的にこのようなことをしている”との発言がありましたが…ってその前の石川26号『ほほほの穂』はちゃんと品種名変えてるじゃないですか!
近年変えない理由が全く分かりません…面倒臭いだけなんじゃないだろうな石川県?
品種名を変えない理由がわからん

そしてなぜか商標の権利者は石川県ではなく全農になっている、これも不思議。



系譜図

平成29年秋より一般販売開。
新潟県『新之助』、福井県『いちほまれ』、富山県『富富富』(はどの程度本気か知らないが)と高級ブランド路線を目指すと公言している品種が北陸でひしめく中、ただ一県石川県だけが多収・良食味と言う点から農家の所得向上、経営安定化を目指しています。
平成29年度は新登場と品薄の影響かある程度高値での販売もあるようですが、石川県農林水産部も「『ひゃくまん穀』を家庭用のみならず中食・外食用としても展開したい」と述べており、”高級ブランド化”といったところからは明らかに一歩引いている印象です。

と言ってもいまだに『コシヒカリ』のネームバリューは絶大なモノであると思われますので、「コシヒカリと同等の良食味」を謳って果たして消費者に受け入れられるかどうか…
路線は違えどこれもまた険しい道であることに変わりはないでしょう。 


石川65号(ひゃくまん穀)系譜図


参考文献(敬称略)

〇水稲晩生品種「石川65号」の育成:北陸作物学会報
〇水稲新品種「ひゃくまん穀(石川65号)」の育成と特性:中村啓二



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6 件のコメント:

  1. 青森県でも品種登録に先だって品種名称を商標登録しています。決定した品種名と他者の商標が被らないようにする以外には、諸事情で品種登録が遅れた(名称が自分たちで取った商標と被る以外で審査に引っ掛かった場合など)ときに権利関係をなんとかする役割があります。
    確か、東北6県の場合は、順調に品種登録審査が進行すれば商標を取り消す手続きを行って、品種名を例えば「つや姫」や「青天の霹靂」にするのが慣習だと思われますが、石川県ではその一手間を省略したいのかもしれません。また、そもそも流通させる銘柄名≠品種名にしておけば、後々IL系統を作ったときとかやりやすいのかなとも思いました。

    いずれにしろ、稲の品種登録での識別性の審査は年々厳しくなっていく傾向があり、品種登録に時間がかかるケースも多いため、まずは商標で押さえるという考えそのものは一般的ではないかと考えています。

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    1. おじゃまします。

      品種登録の制度と、商標登録の制度が整理されていないことで問題が生じることがありますね。

      出願公表された名称を見た(悪意のある)人が、その名称を商標登録申請すると、品種登録よりはるかに先に商標が登録され、その結果、「この品種名では登録できませんよ」…みたいなことになるのです。

      このような事態を避けるために、Kayさんのおっしゃるように、品種登録と商標を同時に申請し、商標を先取りしておいて、「この品種名では登録できませんよ」…と言われたときに、商標を取り消すことで → 品種登録される、という複雑な手続きを踏む必要があります。

      制度の欠陥ですな。

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    2. 成程成程

      品種登録と商標登録制度の変な互換性というか、相互補完の欠陥はぼんやりと把握していましたが、勉強になります。(そう言えば我が山形県の『里のゆき』ちゃんも、品種登録時『ゆきの舞』で申請して商標『雪の舞』と被るということで翌年名称変更していました。)

      石川県以外にも東北194号や千葉28号(ちば28号)と、よく知られている銘柄名と品種名が異なる稲品種はありますが、ただ単に手間を省きたいというだけで…いや案外蓋を開けてみればそんなものなのかも…しれませんね。(?)


      お二方とも書き込みいただきありがとうございます。
      超亀更新でロクな内容がないこんなブログですが、どうか今後もお気軽にコメントくださいませ~

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  2. ひゃくまん穀の情報とても参考になりました!

    商標登録、品種登録に詳しくはないのですが、
    例えば、「石川65号」は別の商標で売っても大丈夫ってことになりますか?
    実際には農協が管理しているのでできないと思いますが、、


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  3. はじめまして
    ごはん毎日食べてます!さん…?

    ご質問の内容ですが
    石川県の『石川65号』に対する扱いがどうなっているかわかりませんので、なんとも言えません。
    (種苗としての無許可の譲渡は有償であれ無償であれ不可能です。)

    ちなみに
    高級ブランド化に成功した『つや姫』は自家消費分を除いて全量出荷が定められています。
    品質保持のため、農家個々で勝手に『つや姫』を売ること自体認められていないのです。
    他の高級ブランド路線の品種も状況は似たようなものです。


    『龍の瞳』のように稲品種『いのちの壱』の収穫物を販売するにあたり特定の商標を取得している(民間)例もありますが、基本行政が宣伝して名が知られている品種(商標)名以外をわざわざ使うようなことがなく、かつ近年の高級ブランド路線品種は生産者要件等のガイドラインを整備しているので農家の勝手にはできないというのが基本と考えていいとは思うのですが…
    『ひゃくまん穀』は高級路線から二歩も三歩も引いて、現行石川県産コシヒカリ並みの価格帯での勝負のようですので、なにかと緩いかも…わかりません。

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    1. まとまりがなくなってしまいましたが

      商標登録は石川県以外がコメ(その他関連商品)を「ひゃくまん穀」として販売することを制限しており
      品種登録は「石川65号」の種苗関係の無断譲渡当を制限しており

      稲品種「石川65号」をどのような名称で販売できるかは、石川県の定める各種ガイドライン等に左右されるものかと思われます。

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