地方系統名
『新潟103号』
品種名
『新之助』
育成年『平成27年? 新潟県 県農業総合研究所作物研究センター』
交配組合せ
『新潟75号×北陸190号』
主要生産地
主要生産地
『新潟県』
分類『粳米』
「おう、新之助だ。よろしくな!」 |
きらめく大粒、コクと甘みが満ちている
魚沼産コシヒカリを要する新潟県が打ち出した次世代の最高級品種、『新之助』の擬人化です。
平成29年度現在、福井県、もとい『いちほまれ』に絶賛目の敵にされてます。
どんな娘?
平成の最強ブランド、『魚沼産コシヒカリ』を要する新潟県の時代を担う重責は理解しながらも決して気負うことはありません。
派手な振る舞いよりも成した事柄の”質”が大事、が信条。
おおらかな性格で周囲の行動は気にせず、あくまでも自分の道を貫きます。
男勝りな話し方でぶっきらぼうにみられることもありますが、内面思慮深く、繊細な娘です。
概要
平成において最高級の米の代名詞とも言える『魚沼産コシヒカリ』を要する新潟県ですが、北海道の『ゆめぴりか』のような新興ブランド品種に徐々に追われる状態は続いており、山形県の『つや姫』に至っては食味・人気も当然のことながら、『コシヒカリ(新潟BL)』が苦手とする高温登熟耐性に優れた特性を持っているなど、温暖化が予想される将来において品質面でも劣勢に立たされる可能性が非常に高い状況でした。
そんな新潟県が自県の『魚沼産コシヒカリ』に匹敵するブランド品種と銘打って平成29年にデビューしたのがこの『新之助』です。
『新之助』の「新」は「新しい」の「新」、「新潟」の「新」。
誠実で芯が強く、かつスタイリッシュな現代的日本男児をイメージして命名されました。
平成29年の宣伝予算は約2億4000万円、平成30年は約1億9000万円、令和元年は1億2千万円と新潟県の本気が見えます。
その大粒でツヤのある外観に加え、ほんのりとした香り、豊潤な甘みとコク、しっかりとした粘りと弾力を併せ持つとされています。
高温障害耐性も優れ、コシヒカリよりもさらに遅い晩生品種として、早生の『こしいぶき』、中生の『コシヒカリ(新潟BL)』に続き、新潟県のしんがりを務めます。
高温障害耐性も優れ、コシヒカリよりもさらに遅い晩生品種として、早生の『こしいぶき』、中生の『コシヒカリ(新潟BL)』に続き、新潟県のしんがりを務めます。
出荷に係る食品基準は玄米タンパク質含量6.3%以下(水分15%換算)、1等米、水分含有率14%以上15%以下と定めています。
ちなみに
生産者の自己消費分、親戚・地主への”無償”譲渡以外は、きちんとこの基準を守った米じゃないとだめ、とも定めてます。
詰まるところ、個人での販売は一切認められていないという事ですね。
ちなみに
農家の話によれば『新之助』は肥料の多寡に対して『コシヒカリ』以上に敏感に反応するとも声も聞かれ、栽培には気を使うとのこと。
おいしい品種だからこそ、”均一な品質”が求められるブランド化において、栽培マニュアルの重要性は高そうです。
アミロース含有率は新潟県公称で15.9%、準低アミロース米といったところでしょうか?
(詳細な育種論文見ないと何とも言えませんが)
たんぱく質含量も新潟県公称で6.1%、良好です。
耐倒伏性は「やや強」。
耐冷性は「弱」と、他県の新ブランド品種の例にもれず、重視されていない様子。
いもち病抵抗性も、葉いもち「やや弱」、穂いもち「弱」と、防除が重要になりそうです。
ブランド化戦略
『新之助』の開発はまず500種類の交配から生まれた20万株の品種候補から絞り込むことから始まりました。
今までの研究成果で、米の食味は炊飯米の輝きと約7割相関があることが分かっており、『新之助』初期の選抜もまずはその「輝き」に視点を置いて行われたそうです。(公式HPより)
新潟県の新品種の開発は平成15年(2003年)にスタート。
材料となったのはプロジェクト開始の前年に養成された系統も含め、約500種類の交配から生まれた約20万株の品種候補(プロジェクト全体での候補)。
石崎育種課長によれば「何よりも「極良食味が第一で、稈の長い・低い等は二の次」であったそうです。
具体的な育種目標は以下の通り
・高温登熟条件下でも品質に優れ、食味値も高いこと。
・コシヒカリよりも熟期を遅らせることによる作業分散と気象変動に伴うリスクを回避。
ただし
新潟県(農政)としての特別プロジェクト開始と、プロジェクト素材としての新潟103号系統の育種とは別物で、新潟県は”開発期間”と”育種期間”は明確に分けて表現していますので、注意。
詳細(と言うほどのものではありませんが)はコチラ(新潟県に問い合わせてみた)
新潟県の誠意ある対応に好印象!
プロジェクトの集大成として平成27年(2015年)に選択された『新潟103号』は、平成27年9月24日に新潟県庁で「新潟の新しい米 名前発表会」を開催。
そこで『新之助』の名称が発表されました。
他県のように名称公募をするのではなく、専門家の助言を受けた上で新潟県が決定したそうです。
デビュー当初の「仮渡し金」は1万7200円/60kgで、これは『魚沼産コシヒカリ』と同額というかなりの強気設定でした。
ただしやはりそう簡単にいかないのが高級ブランド品種路線。
高価格と認知度のバランスがとれず、だんだんと下落していき令和2年度には1万5200円/60kg(同年『魚沼産コシヒカリ』1万6500円)になりました。
ただ、ここまで下落した価格が功を奏したのか、コロナ禍により家庭でちょっとした高級品を求める指向が強まったのか、令和2年度産の売り上げは前年比で1割増えたとのことで、認知度の向上が見られます。
「魚沼産コシヒカリ並み」と言う壁への挑戦という道のりは、やはり険しいようですね。
「魚沼産コシヒカリ並み」と言う壁への挑戦という道のりは、やはり険しいようですね。
育種経過
『新之助』単独の育種経過は以下の通り
平成15年(2003年)に母本『新潟75号』、父本『北陸190号』として人工交配。
平成16年(2004年)秋から平成17年(2005年)にかけて温室栽培により世代促進。(一年間に3世代を進めたそうなので、ここでF4?)
今までの研究成果で、米の食味は炊飯米の輝きと約7割相関があることが分かっており、『新之助』初期の選抜もまずはその「輝き」に視点を置いて行われたそうです。
飛んで
平成24年(2012年)から平成26年(2014年)にかけて奨励品種決定現地調査に供試。
平成27年(2015年)、F14をもって品種登録出願となりました。
『新之助』の育種期間は13年とけっこう長丁場ですね。(ただし公式では”開発期間”を指して「新之助の育成は8年」との表現が使われていますね)
系譜図
自身の魚沼産コシヒカリと同価格帯での販売という強気の新潟県、『新之助』の行く末や如何に。
新潟103号『新之助』系譜図 |
参考文献
〇新潟米「新之介 しんのすけ」:https://shinnosuke.niigata.jp/
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ご無沙汰しております。
返信削除「新之助」が本当に格好良くて好みです!
「いちほまれ」関連では、品種化寸前に「越南291号」の情報そのものを県外公開したことが非常に引っ掛かっています。
公的機関のイネ育種では、地方系統番号が付いた時点でそこまでの試験データを試験成果の情報交換会である程度公開するのが慣習で、それで各育成機関間で試験栽培で交換しあうものなのですが……。
交配組み合わせの件といい、どうも育成関係者ではなく県の農政関連の思惑で振り回されているのだろうとは思いますけどね。福井県の育種関係者に同情したくなります。
こんにちは~
削除度々コメントありがとうございます。
福井県の「いちほまれ」、発表当初は期待していたのですが、なんだかその宣伝の腹黒さに最近偏見が深まってまいりました…(これも懸命に育種されてきた育種関係者様にはまったく無関係なことなので申し訳ないとは思うのですが…)
福井県は『コシヒカリを育てた!』とは言うものの、『福井県の試験場が類まれなる先見の明があって極良食味のコシヒカリを選抜した!』…という美談ではなく、ぶっちゃけた話偶然に偶然が重なって選抜に残した中生品種がたまたま「耐冷性」「穂発芽耐性」「食味
」に非常に優れた個体だった、という失礼ながら「お粗末」な話。
「いちほまれ」を選抜してきた技術は「コシヒカリ」など関係なく、それこそ60年以上育種関係者の連綿と培われてきた技術であるはずなのに、福井県の言い草は『コシヒカリを選抜した技術』。
無知識の一般の方にはこれでウケがいいのかもしれませんが、個人的にはなんだかやるせません。
人気さえ出れば何でもいいというのか…悲しいですね。