2025年1月13日月曜日

農薬取締法解説~特定農薬保留資材~

某番組における「無農薬農薬()」を巡って、一時期話題になった「農薬取締法」
ふんわりと、野菜や果物を育てるときに使う農薬に関する法律なんだ、とは感じても、詳細まで法令を読み上げている人は少ないと思います。
また、法律を読んで理解している方でも実は理解できていないんじゃないか・・・と言う点もありますので、以下それについて記述できればと思います。

農薬取締法の基本ではなく、特定農薬関係というキワモノの部分を解説していますので、基本を学びたい方はお戻りください。

議事録を辿るなど根拠を調べられるように、冗長かもしれませんが超長文になってます(2万文字over)
時間に余裕のある方だけどうぞ。




なお、一部において違法な農薬の使用(食品を農作物の防除に使う)を全面的に肯定しようとする人たちもいますが、断じてこういう論調には同意しかねることを先にお伝えしておきます。

※以下内容は2025年1月現在のもので、以後の国の通知や検討で内容が変更になる場合があります。



目次




1.法律上の「農薬」とは何か?使用の制限は?

農薬取締法第二条第一項及び同条第二項で、同法上の「農薬」について定義されていますが
「農薬」とは

'①「農作物の病害虫の防除に用いられる薬剤」
'②「農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる成長促進剤、発芽抑制剤その他の薬剤」
'③「天敵」

と定められています。
ちなみに「薬剤」という表記で、「これは人工的に化学合成された物質だけが対象だ」という勝手な解釈を述べているサイトやら自然派()農家()も存在しますが、植物油や食用デンプンなど、自然由来のモノでも「薬剤」扱いとなりますので、これは大きな認識違いです。(実際、登録農薬には食用デンプンを原料としたものが存在します。)
農作物の防除に用いられるモノ、資材といった表現の方が腑に落ちるかもしれません。
('②のとおり「農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられるモノ」も農薬なのですが、これにもいちいち触れていると文章が長くなりすぎることと、この点が争点になるケースが思い当たりませんので以後省略して記載しています。省略はしますが、法の適用外になることを肯定するものではありません。

さらに同法第二十四条では「何人も、次に掲げる農薬(法第十六条の表示のある農薬及び特定農薬)以外の農薬を使用してはならない。」とされています。
条文そのままに「法第十六条の表示のある農薬」と書いてしまうとわかりにくいですが、詰まるところが「法第十六条の表示のある農薬≒登録農薬」です。(登録農薬でもちゃんとした表示してなかったら法令違反だろ、というパターンはひとまず脇に置いておいて・・・)

農薬取締法は「目的法」と農業資材審議会農薬分科会特定農薬小委員会及び中央環境審議会土壌農薬部会農薬小委員会特定農薬分科会(以後、「特定農薬小委員会及び分科会」と記載)で呼称されていました。
最初に述べたとおり「農作物の防除に使用するモノ」で定義される同法上の「農薬」は、人工的に化学合成された物質だけではなく、食品でも同法上の「農薬」となり、登録を受けていない「農薬」の使用は法令違反(犯罪)です。
そしてこれは「植物を管理する」目的で防除に使用されれば対象となり、「家庭菜園の場合は対象外かもしれない」だの、「自己責任の使用は自由」だの、自分勝手な妄想を言っている人も多く存在しますが、明確に間違いです。
むしろ条文上も省令にも”例外”として記載が無いのに、勝手に「これは対象外かもしれない」なんて想像で言う時点で根本的に法令に対する認識が誤っています。

・農薬取締法における「農薬」は「農作物の防除に使用する」目的によって定義され、その生成過程や成分などでは定義されない。(食品、天然物も含まれ、社会通念上想像される“農薬”の定義とは異なる)
・農作物は家庭菜園、街路樹、公園、緑地など、「管理されている植物」全般を指し、非食用の植物の場合でも、使用場所が農地外だとしても農薬取締法の対象となる。
・以上、植物の管理のため、病害虫の防除に用いるモノ(資材)はすべて農薬扱いとなり、法令上の登録を受けていない農薬は“何人も”使用してはならない。ただし省令で定める場合を除く。【法第二十四条】

これが農薬取締法の基本中の基本で、間違いの無い事実でしょう(この点の認識がずれている人は、これ以後の話においてまだスタートラインにありません。)
X上で農業系のアカウントの皆様が、某番組の「食品を使った無農薬農薬()」について警鐘を鳴らしたのは記憶に新しいところです。
ちなみに法第二十四条ただし書きで省令によって定められている使用の“例外”は(簡略化して)挙げると「研究・試験のため」「農薬製造メーカーが自己の目的に使用するとき」「有害な外来植物対策の為」「違法な遺伝子組換生物対策のため」だけです。


ここで少し今回の主題からは逸れますが、登録農薬であっても対象となる作物(適用作物)、使用濃度、使用時期、成分による使用回数などが決まっており、特に食用農作物に使用する場合にこれらを守らない場合は罰則対象です。
つまるところ農薬は「使用できる作物」や「使用してよい方法」を決めて登録されており、決められた作物・方法以外では使用してはいけません。
ホームセンターで一般販売されている農薬も使用対象、使用方法・回数をきちんと守って使いましょう。
適用作物に「トマト」と書いてないのに、ホームセンターの家庭菜園コーナーで売っていたから~、なんて理由だけでトマトに使って良い理由にはならず、違法だと言うことです。
(法第二十五条第一項及び第三項及び省令「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」)


2.多くの人が勘違いしていること

本題に戻りまして
農薬取締法について、(過去の私自身も含め)おそらく多くの人が勘違いしているように思われます。
「農作物になにかを散布する行為すべてが農薬取締法の対象」のように捉えていないでしょうか。
「農作物にかけても安全なモノを担保しているのが農薬取締法」と考えていないでしょうか。

正直私自身も、この記事を書くために勉強し直すまでは
「登録農薬と特定農薬以外は農作物に散布してはいけない」と思っていました。

結論から言いますと
「農作物に“なにか”を散布する行為」すべてが農薬取締法の対象になるわけではありません。
「農作物に農薬(病害虫を防除することを目的にした資材)を散布する行為」だけが農薬取締法の対象です。
しかしそれはあくまで「農薬取締法の対象とならない場合」もあるだけで、食品衛生法等他の法令遵守を免れるものでもない点には十分注意が必要です。
そして、某番組のように防除を標榜している行為はそもそも農薬取締法違反となる可能性があります。つまり、安直に「有機」や「自然に優しい」などの謳い文句で活動する昨今の(一部の)活動家の違法行為を肯定するものではありません。

家庭菜園や自己責任なら良い、良いかどうかわからない、などという曖昧なモノでもありません。

農薬取締法には、法の文面には書いていない細かい区分が、省令等で設定されています、という話です。
言葉遊びにも聞こえるかもしれませんが、現実の運用として、そういった側面があることは事実です。



3.その行為は「農薬取締法違反」なのか?

最初に述べた通り、同法上の「農薬」の定義は
‘①「農作物の病害虫の防除に用いられる薬剤」
‘②「農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる成長促進剤、発芽抑制剤その他の薬剤」
‘③「天敵」
ですが、毎回これら全てに言及すると話がややこしくなるので、これ以降の私視点での「農薬」は基本的に’①に該当する(防除のための)資材として記述します。

さて、少しでも園芸関係に興味がある、園芸をしている方でしたらば、ネットや書籍、あるいはテレビなどで、「市販の牛乳を薄めてかけてアブラムシを駆除する」「市販の木酢液の散布で害虫忌避の効果が見込める」といった記述を見かけたことがあるのではないでしょうか。
またネットで検索すればいくつもこういった(無農薬を謳った)「人工的な化学合成農薬を使用しない防除」の方法は出てきます。
これを見た人が、実際に牛乳や木酢液を防除に使用するのは農薬取締法違反になるのでしょうか?

「農作物の防除に用いる資材」はすべて農薬扱いで、「何人も登録農薬以外を使用してはいけない」・・・といった法令をちゃんと読んでいる方からは苦言を呈されそうです。

なぜなら“市販の”と表現している以上、この「牛乳」「木酢液」ともに農薬として登録されている資材ではない(無登録)ことが明らかで、害虫の防除のため(忌避も防除の内)使用している以上は「農薬」となるので、これは「無登録農薬」の使用ではないのか?と。
しかしながら、「牛乳」と「木酢液」に関しては、このような場合に情報を見て“農薬のような効果があると信じて使用する場合”には農薬取締法には違反しません。
ただし、こういった情報を発信している人自身、また使用して効果を宣伝するような行為は法に抵触する可能性があるので注意が必要です。

これは要するに「黙って勝手に使え」の部類になると思われますが、あくまでも農薬取締法上では取り締まりの対象にならないというだけで、他の法令に引っかかったり使用の結果人体に危険な結果をもたらす可能性があることは何度でも述べておきます。
さらに、「牛乳」と同じような食品の「サラダ油」や「日本酒」、これらはたとえ同じように“農薬と同様の効果があると信じて”使ったとしても違法であり、“食品一般はセーフ”のような曖昧な分類で使用が対象外とされているわけではないので、勘違いの無いように十分注意してもらいたいところです。(詳細は後述)

農薬取締法上の対象物は、6つに大別することが出来ます。
『いやいや、農薬を大別するなら、「登録農薬」と「無登録農薬」、あとせいぜい「特定農薬」含めて3つだろう』と言える方は大変よく勉強されていますが、ややこしいことにさらに別の分類も存在するのです。

その例外の代表例として一番わかりやすい資材が「水」でしょうか。
水道水でも雨水を貯めたものでもかまいませんが、こういった水を勢いよくかけて害虫を吹き飛ばす行為は「防除を目的として散布」していますが、「水」単体は農薬登録されていません。
このような使用は農薬取締法違反でしょうか?
『いやいや、物理的に吹き飛ばしているのだから、そういった物理的防除は農薬ではないでしょう』と言える方、ますますよく勉強されています。
ややネタバレになってしまいますが、物理的な防除、防草シートを地面に敷く行為や防虫用にかぶせる寒冷紗等は農薬取締法上の農薬に当たらないものとされ、万能ながら身体に深刻な影響を及ぼす恐れのある取扱注意の劇薬「テデトール」もここに含まれるものと推測されます。
しかし、では「うどんこ病」の蔓延防止、軽減のために「水」を散布する行為はどうでしょうか。
すべてのうどんこ病に効果的というわけではないですが、多くの場合に水の散布によって病気を軽減できることは周知の事実ですが、これは物理的にうどんこ病菌を弾き飛ばしているわけではありません。
まさに病気の防除を目的とした、物理的防除ではない使用です。
このような使用は農薬取締法違反でしょうか?

こういった使用を取り締まりの対象としないため、罰則の対象としないために他の分類が設定されているのです。
・・・農林水産省の情報発信が弱いというか、情報公開がわかりにくい(探しにくい)のは兎も角、ちゃんとHP上で公開されている情報です。


4.農薬取締法に関わる法令上の分類

さて、早速ですが、農薬取締法上の取り扱いの分類としては以下の通りとなります。

1.登録農薬
2.無登録農薬
3.特定農薬
4.特定農薬検討保留資材
5.使用者自らが農薬と同様の効能があると信じて使用する場合にも、取り締まりの対象となるもの≒無登録農薬
6.農薬の定義に該当しないもの(使用者自らが農薬と同様の効能があると信じて使用する場合、取り締まりの対象とならないもの+物理的防除資材)

があります。
「牛乳」は6、「木酢液」は4に該当するため、「使用(注:後述)」に限って言えば農薬取締法上の取り締まりの対象にはなりません。

このように6は“使用”と一言で書いてしまうと勘違いされそうですが、「使用者自らが農薬と同様の効能があると信じて使用する」場合に限り、使用が取り締まりの対象にならないだけで、他の場合は法令違反となり、非常に限定的な指定といえます。
そして重要なのは、6(物理的防除資材を除く)や7であっても「防除効果を宣伝して使用する行為」は法令違反となる可能性が高く、少なくとも指導の対象とするよう通知されています。
「些細なことだから見逃されているだけ」と言うものとも違うので注意してください。

これは平成19年度(H19.12.17~H20.1.18)に実施されたパブリックコメント「特定防除資材としての指定が保留されている資材の取扱い(案)に関するご意見・情報の募集」において「(前略)防除に用いうる資材として宣伝することは、農薬取締法に抵触するおそれがあるので、宣伝等は行わないよう指導する。」と記載があることから明らかです。

農薬取締法第二十一条で「虚偽の宣伝の禁止」が明記されていますが、これは「製造者、輸入者、販売者」と記載され、実は「使用者」とは記載されていません。
しかし特定農薬小委員会及び分科会第9回合同会合(平成20年9月2日)で使用された資料掲載のパブリックコメント内の質疑応答において以下のような記載があります。

Q改良普及指導員等が区分C-1及びC-4の資材(この解説における6に当たる資材)を病害虫防除又は成長促進を目的に指導助言を行う場合は、宣伝行為に該当するのか。 
A指導助言を行う行為は、宣伝行為に該当します。

※この年代の時点ですでに「普及指導員」の名称が正確かと思われますが、ひとまず意味は通じますので「改良普及指導員」の名称のまま話を続けます。

改良普及指導員は製造者、輸入者、販売者(無償の譲渡含む)のいずれにも該当しないように感じますが、はっきりと「宣伝行為に該当する」と回答に記載されています。
また、残念ながら発出日がわからなかったのですが、農林水産省消費・安全局農産安全管理課農薬対策室名で出された「特定農薬(特定防除資材)の指定及び検討の現状について」の中では次のように記載されています。

(前略)農薬取締法に規定する農薬の定義に該当しないと判断されたもののため,これらの目的等で使用される限りにおいては,農薬取締法の規制の対象外である。しかしながら,農薬としての効能効果を標榜して製造・販売される場合や農薬として使用される場合は,指導・取締りの対象となるので,ご注意願いたい。

以上総合的に判断して、農林水産省としては防除効果を謳っての「使用」に関しても、登録農薬と特定農薬以外は認めないという方針が見て取れます。
あくまでも6の資材は(すぐさま実害がある可能性は低いので)「黙って使う」分には見逃される資材と言うことではないでしょうか。(とはいえ“無農薬農薬”などと、安全性も確かめられておらず、効果も大して無いモノをよくもまぁ使うな、とは思いますが。)
農薬としての効果を謳うか謳わないか、それだけで判断が分かれるなんてあり得ない、と思う方もいるかもしれません。
しかし「農作物の防除」という目的によって対象が規定される農薬取締法においては、ごく自然なことではないでしょうか。
とは言え、一部の活動家が「空気の浄化のため」なんて謎理論で得体の知れないモノを農作物にまいて、「農薬じゃ無いからセーフ」とか言ってる空恐ろしい現実もあるわけですが(そしてそれを信奉して安全だと崇めている人間がいるのがさらに恐ろしい)

さて、本筋に戻ります。
とすれば6の「農薬の定義に該当しないもの」であっても、某番組のように「虫を寄せ付けない」などと公共の電波で効果を謳って使用することはすなわち宣伝と同義ですから、指導や取り締まりの対象に十分なり得る行為と言うことです。


5.それぞれの分類の具体的な項目は

ここでは代表的な資材のみ抜粋表記します。

1. 登録農薬
⇒国に申請して認められた防除資材
2. 無登録農薬
⇒登録せずに農作物の防除を謳って製造・販売・使用されている資材。または登録が失効した(更新されなかった)資材。4、5、6、7も場合によってはここに含まれる
3. 特定農薬
⇒食酢、重曹、エチレン、次亜塩素酸水、土着の天敵
 ※表記を省略しているが、細部まで定義されているので同名の資材が無条件で「特定農薬」扱いされるわけではない
4.特定農薬検討保留資材
⇒木酢液・竹酢液、ヒノキの葉、二酸化チタン、ヒバ油、等10資材+焼酎
5.使用者自らが農薬と同様の効能があると信じて使用する場合にも、取り締まりの対象となるもの
  ⇒酒粕、インスタントコーヒー、食用植物油(サラダ油を含みツバキ油を除く)、酒類(ビール、ウィスキー、日本酒、ワイン)、ネギの地上部、ワサビ根茎、等225資材+α
6.農薬の定義に該当しないもの(使用者自らが農薬と同様の効能があると信じて使用する場合、取り締まりの対象とならないもの+物理的防除資材)
 ⇒牛乳、緑茶(抽出物)、農薬と混合して使用する糖類
 ⇒青ジソ、ニラの葉、トウガラシ果実、ハッカ、ヤマイモキチナーゼ、等41資材
 ⇒電撃殺虫器、粘着シート、アイガモ、牛、カエル、ドジョウ、ショウガ、ニンニク、米糠、等92資材


資材数は目安として記載しましたが、例えば4の特定農薬検討保留資材では「木酢液・竹酢液」で1組1資材カウント、「酵母エキス、クエン酸、塩化カリウム混合液」が1組1資材カウントされるなど、必ずしも表面上の名称数とは一致しません。
なお、「3.特定農薬」については農薬取締法及び食品安全基本法によって定められます。

そして何度でも書きますが登録農薬と特定農薬以外は、食品であっても防除の効果があると謳う行為はしてはいけません。(農薬としての使用と販売も無論ダメ)

6.このような(わかりにくい)分類が指定された流れ

「農薬の防除を目的として用いる資材は全て農薬」、「農薬は登録しなければ使ってはいけない」、と法文では記載されていながら「使用者自らが農薬と同様の効能があると信じて使用する場合は取り締まりの対象外」という項目が省令で追加されている、なんともわかりにくいこの状態。
1登録農薬と2無登録農薬はともかく、3以下の資材がどう定義されたのか、以下記載していきます。


農薬取締法の成立・・・については詳しく触れませんが、農薬取締法は戦後の物資不足の中で、重要な食糧生産を担う農家に粗悪な(効果の無い)農薬が販売されることを防ぐことを主眼に制定されました。(それがひいては食糧増産に繋がる、ということで)
「農薬」が防除という目的で定義されているのも、「農薬を謳って販売される効果の無い資材」を販売する業者を取り締まるためとされています。(効果のあるなしではなく、「防除に用いる」というような意味で売っているものは、すべて農薬として取り締まるため)

それが大きく動いたのは平成14年7月30日。
(情けないことながら)我が山形県において無登録農薬(ダイホルダン及びプリクトラン)を販売していた2業者が農薬取締法違反の容疑で逮捕されました。
これをはじめとして、この2業者に無登録農薬を販売していた東京都の業者が8月9日に同容疑で逮捕、芋づる式に全国44都道府県で269の業者が10種類の無登録農薬を販売していたことが判明します。
買っていた農家はこれもまた情けないことに前述の都道府県で3,966戸にも上りました。

出荷停止や出荷農作物の回収など、混乱は想像に難くないですが、なによりここで問題となったのが農薬取締法の取り締まり対象です。
最初に述べたとおり、「農家に粗悪な農薬が販売されないように」を主眼に置いている従来の農薬取締法は販売者を罰することはできますが、使用者を罰することができなかったのです。
違法な資材の販売を禁止すれば、農家は買わない・使わないだろうという、これは一種の性善説に基づいていたということになるでしょうか。
しかしこの法では違法な農薬を使った農家、違法な農薬を輸入して使った農家には何の罰則もないというザル法で、まさにそのようなザルを抜ける事態が起こってしまったのでした。

これを受けて国は農薬取締法を改正し、無登録農薬の「使用」の禁止や農薬の使用基準遵守の義務化など、使用者に対する罰則も盛り込みます。
さて、使用に対する罰則を設けたのはよいですが、ここで問題になったのは有機農業などで人工的な化学合成物質に頼らない農業をしている農家への対応です。


7.特定農薬(特定防除資材)の創設と初期検討状況

農薬取締法の改正により、登録農薬以外の仕様に関しての罰則を整備することはよいのですが、この場合農家が自家製造して従来から使用しているような防除資材で、安全が明らかであろうというものにまで登録の義務を課すのは過剰規制になることが懸念されました。
そのため、過剰規制になることを避けるために登録を必要としない「特定農薬」という制度が創設されることになりました。指定された資材は農薬としての販売が可能、しかし使用方法や量については指定しない(出来ない)という部類になります。(特定農薬小委員会及び分科会第11回合同会合より一部引用)
なお、「特定農薬」は制度の趣旨がわかりやすいよう「特定防除資材」と呼称される場合もありますが、正直言葉遊びに過ぎないですし、呼ぶことになった経緯からして(個人的に)くだらないと思ってますのでこの後は「特定農薬」としか表記しません、あしからず。

特定農薬は農薬取締法第三条第一項において次の通り定義されています。

(前略)その原材料に照らし農作物等、人畜及び生活環境動植物(その生息又は生育に支障を生ずる場合には人の生活環境の保全上支障を生ずるおそれがある動植物をいう。以下同じ。)に害を及ぼすおそれがないことが明らかなものとして農林水産大臣及び環境大臣が指定する農薬(以下「特定農薬」という。)

たまに自然派()の頓珍漢が「“その原材料に照らし農作物等に害を及ぼすおそれがないことが明らかなもの”は特定農薬だと法令にも書いてる!だから食品は特定農薬!」とか都合のいい切り取りと曲解をしていることがありますが、最後の「農林水産大臣及び環境大臣が指定する」を無視してもらっては困りますよね。
また前述したように食品安全基本法も絡んできますので、どこの誰とも知らない個人が自分勝手に安全だと決めつけて合法になるものでは決してありません。
また、量も使用方法も規定出来ない中で絶対に害を及ぼさない物質など存在せず、そもそもこの特定農薬の定義自体が矛盾染みてはいるのですが・・・それはまた最後の話になりますので先に進みましょう。

さて、特定農薬の候補とするため、平成14年11月から12月にかけて、国が都道府県などを通じて農業生産現場で使用されている農業資材についての実態調査を実施した結果、全国から寄せられた特定農薬の候補はのべ約2,900種、重複を除いて約740種にも上りました。
平成15年1月30日の農業資材審議会において、「食酢」、「重曹」及び「使用場所の周辺で採取された天敵」を特定農薬として指定すべきとの答申がなされましたが、その他大量の資材が検討保留状態となります。

ただし、この時点で既に、そもそも「農薬」に該当しないアイガモやコイ、防虫シート等は検討から除外することとされ、検証対象は679種類とされていたようですが、兎にも角にも、そういった「保留資材」については
平成15年3月13日14生産第10052号「農薬取締法の一部を改正する法律の施行について(通知)」において次のように記載されています。(抜粋)

今後、効果や安全性について、デ-タ収集等により、順次評価していくこととしている。なお、判断が保留されたものであっても、農薬としての効果を謳って販売されるものは、従来どおり取締りの対象とするが、使用者自らが農薬と同様の効能があると信じて使用するものは、この限りでない。

このように平成15年3月13日以降、特定農薬の検討保留資材については「使用者自らが農薬と同様の効能があると信じて使用」する場合、取り締まりの対象としないと正式に通知されました。
なお、「農薬としての効果を謳って販売されるもの」は取り締まりの対象とも明記されています。
なお、「“販売“なんだから金銭を受け取らずに譲る分には良いんだ」、なんて自己中心的な理論も通じません(法第二条第四項記載【販売(販売以外の授与を含む)】)

そしてこの約1年後
平成16年4月23日15消安第7436号及び環水土発第040423001号「特定農薬(特定防除資材)に該当しない資材の取扱いについて」が発出されました。
この中では、特定農薬として検討保留資材とされていた中から「使用するためには登録が必要な資材(現在登録なし)」11資材と「使用するためには登録が必要な資材(登録あり)」6資材が下記①のように登録無しでは使用してはいけないものとされ、「農薬に該当しない物」58資材については下記②のとおり農薬に該当しないと判断されたことが正式に通知されました。

17種類の資材については、薬効は認められるものの、使用方法によっては安全性に懸念があることから、登録農薬でない限り農作物等を害する病害虫の防除及び農作物等の生理機能の増進又は抑制を目的として(法第1条の2参照※。以下「農薬として」という。)使用すべきでないこと
※【H16.4時点なので現行の法と条文が異なる】
② また、58種類の資材等については農薬に該当しないと判断される

ただしこの通知は平成23年に廃止され、今では効果がないのでご注意ください。
なお、②の「農薬に該当しない」とされた58種類の資材についても「(前略)これらの資材を農薬として使用した場合は、法に違反することとなること。」と同通知内で明記されていますので、いずれにせよ防除を謳う行為はこの時点から禁止されています。(「農薬として」とは、上記①に書いてあるとおり「農作物等を害する病害虫の防除及び農作物等の生理機能の増進又は抑制を目的として」と言う意味です。)

こうして特定農薬の保留資材約740種のうち、75種については対応が明示され、他の保留資材は平成15年通知に基づいて「使用者自らが農薬と同様の効能があると信じて使用」する場合は取り締まりの対象とならない状態となりました。

しかし今回平成16年通知の75種にせよ、この時点の保留資材にせよ、「農薬としての販売」はもちろん、「農薬としての使用」も当然違法です。
ここだけは勘違いの無いようにお願いします。
前述の通り「販売」は無償での譲渡も含みます。


8.平成16年の通知以降の協議①(緑茶、焼酎、牛乳、コーヒー、農薬と混合する糖類について)

平成15年及び16年通知後の検討状況をこれから追っていきます。
(ここからが非常に長くて複雑)

※特定農薬小委員会及び分科会合同会合第1回~第5回は省略※

平成16年の通知以降、特定農薬小委員会及び分科会合同会合や農業資材審議会農薬分科会では残った保留資材に対して特定農薬選定に向けた議論を進めます。(主に後者の合同会合で)
この最初期は食品であっても安全性や薬効を確かめる試験を1資材ごとに行って検討していたようです。
平成17年8月31日、特定農薬小委員会及び分科会第6回合同会合で、「緑茶(抽出液)」「焼酎」「牛乳」「コーヒー(抽出液)」については、特定防除資材(特定農薬)の評価指針に基づき、実用的な薬効がないと判断され、審議の結果、これらの資材については「農薬に該当しない資材」として整理することについて了承されます。
ちなみに「コーヒー」はインスタントコーヒーです。(試験結果に記載あり)
牛乳や焼酎などは無農薬の代名詞のような印象を私は持っていましたが、当時の試験の結果として“客観的な効果がなく、病害虫の防除等に用いる意味がない”ために保留資材から外すとの決定が下されており、(少なくともこの試験結果を見る限り)自己満で使っているに過ぎないということになるでしょうか。
なお、牛乳の試験結果を見る限り、牛乳臭は酷い、黒カビは発生する、薬害もみられると酷い結果でした。その代償としてアブラムシの数は農薬使用ほどではないほど、減少してはいたのですが、それも散布対象の作物が異常に弱っていた影響も示唆されています。(牛乳まいたせいで弱ったのでは?)
有効性も怪しく、その反面害は発生するような非常に怪しいモノです。

また、「農薬と混合して使用される糖類等の取扱について(案)」も取り上げられ、殺虫剤の忌避作用を緩和して殺虫剤のかかった農作物を食べることを促すことで効果を増強することが推測される糖類(「砂糖・三温糖」、「さーたーゆ」、「ブドウ糖」)について、農薬取締法上は農薬に該当しないものとして取り扱うこととして了承されています。

なお「牛乳」等の4資材と糖類(「砂糖・三温糖」、「さーたーゆ」、「ブドウ糖」)に、特定農薬小委員会及び分科会第5回合同会合で議題に挙げられた「液状活性炭」については、平成17年10月26日から同年11月24日までパブリックコメントが実施されましたが、特に意見は集まらなかったようです。
このパブコメの結果は第7回合同会合で報告されていますが、これで正式に4資材及び「農薬と混合する糖類」については「農薬に該当しない資材」と整理されているように思われます。(ただし、この結果を農業資材審議会農薬分科会に報告するとの発言があったのに同審議会で報告された形跡なし)

なお、外された4資材(緑茶、焼酎、牛乳、コーヒー)の農薬取締法上の取り扱いについて農林水産省職員より「農家が使うときに、薬効もありませんし、問題もないので、関係ありません(自由に使用して良い)」との発言がある。(H18.3.31第7回合同会合)
明言はないがこれは「農薬としての効果を標榜せず」という前提で話していると思われ、保留資材と同様「使用者自身が農薬と同様の効能があると信じて」使用する場合に取り締まりの対象にしないことを述べていると捉えるのが自然でしょう。


【補足】焼酎、コーヒーはこの後年の通知で取り扱いが変わるので注意です。

9.平成16年の通知以降の協議②(55の食品について)

「牛乳」等の薬効報告が成された平成17年8月31日特定農薬小委員会及び分科会第6回合同会合で、特定農薬の保留資材に対する検討はひとつの大きな転機を迎えました。
「(薬効が望むべくもない)食品をそのまま用いるものについては、原則として特定防除資材(特定農薬)の候補から外してもよいのではないか」との意見が委員より出たのです。
※「特定農薬の候補から外す」であって「農作物の防除に自由に使用できるようにする」ではない。
この意見に当たり、候補資材となっている食品の取扱いについて事務局で整理し、次回の会合で検討することとなっています。

平成18年3月31日、前回会合より約半年後に開催された特定農薬小委員会及び分科会第7回合同会合で特定農薬の検討資材の中から55の食品がリスト化(農林水産省作業)され、委員からこれらの資材については「農薬でないものとの扱いをする」との了承を得ています。
これら食品についても「薬効がないので使用は自由」と農林水産省から説明されていますが、同時に「食品全てを対象としてこの取り扱いとするわけでは無い(あくまでもこのリスト上の食品が対象)」旨の発言がある点も注目ポイントです。
とはいえ、最終的にこの55食品全てが除外されたわけではなく、中には後年特定農薬として検討が続けられる14資材も含まれていました。(アロエ、イネ、ウイスキー、オリーブ油、粉ミルク、サラダ油、シイタケ、ショウガ、ナタネ油、日本酒、ネギ、綿実油、ワイン、ワサビ根茎)

「食品類は口にしても安全だから、自己責任で使う分には法の対象外・自由」と身勝手なことを言っている人はおそらくこのあたりの経過を曲解していると推測されます。
それに、繰り返しますがそもそも(薬効が望むべくもない)特定農薬の検討対象資材の中から食品を一括して外してはどうか」であって、「食品を農家が防除に自由に使用出来るようにしよう」という話ではありません
この食品の中には後年検討が続けられた結果、「使用者自らが農薬と同様の効能があると信じて使用した場合」であっても取り締まりの対象とする資材が含まれていますし、「食品ならば自由」などという事実はどこにもありません。
ちなみにショウガのみ「農薬の定義に該当しない」との判定で、他は全て「使用者自身が農薬と同様の効能があると信じて」使用した場合であっても取り締まりの対象になっています。
そのショウガとて、農薬としての効能を標榜するならば当然取り締まりの対象となります。


この整理では55の食品から14種を除いて、41資材が使用者自身が農薬と同様の効能があると信じて使用する場に取り締まりの対象とならない資材になりました。


10.①②2つの協議結果、正式な通知のない理由

ただ、ここで不思議なのはここまでの決定プロセスを経ているのに「緑茶(抽出物)」「牛乳」、そして検討資材が一部含まれるとはいえ、55の食品対象外になったことを国が正式に通知している文章が見当たらないことです。
と言うのも、この後平成23年及び平成26年に発出された正式な通知の中には、前述の協議における「農薬でない扱いをする食品」がほとんど掲載されていません。(「コーヒー」はいかなる場合も使用不可、「焼酎」は保留資材であるなど、一部は情報が公開)
ただ、その原因というか当時の農水省がどう考えていたかわかるやりとりがこの第7回合同会合にて見られました。

委員より
「これまでの検討結果(緑茶や牛乳などがどのような協議で検討資材から外され、どのような扱いにしたか)を概要としてまとめ公開してはどうか、議事録をたどればわかるだろうが、使う農家の側からすると非常にわかり難い印象がある」
旨の発言があったのですが、これに対する農林水産省職員(農薬対策室長)の最初の回答はオウム返し
「どのような検討内容かは議事録で公開しており、結果はパブリックコメントを実施しオープンにしているわけで、農家などがなお詳細を知りたい場合は議事録を辿って見ればわかるようになっています」(意訳)
というもので・・・「議事録やパブコメではわかりにくい」という質問に対してこれです(疲れていたのかな?)
「それが大変なので、議事録等を遡らずに、一目で今までの検討状況がわかるもの(表)として公表できないのか」と再度委員から問いかけがあり、これに対して室長の「議事録では不十分ということですか?」等のやりとりを経て「検討します」ということで問答が終わりましたが、このやりとりからは少なくとも当時の農林水産省ではパブコメと議事録の公表で情報開示と提供は十分であるとの認識がうかがえます。

このため正式な通知がついぞ出ず、この期間に検討が開始され除外が確定した資材は(意図的なのか忘れられたのかは定かではありませんが)平成23年以降も正式に通知されることはなかったものと推測されます。
これを良い・悪いと判断するつもりはありませんが、10年以上経った今実際私が調べてみた経験からは、何が検討資材で、どの段階で検討から外れ、どのような扱いになったか、議事録と各会議資料を読み返す方法では非常にわかりにくかったことは確かです。
そして一連の無農薬農薬騒動で諫めている側の方々でも、「使用者自身が農薬と同様の効能があると信じて使用する場合」は合法というか、取り締まりの対象とならない資材があることを知っている人はいない(興味を持って調べている人でも情報にたどり着けていない)ように感じました。
いずれにせよ、例の番組は無農薬“農薬”等と防除を標榜している以上、法に抵触することは間違いないと思われるのですが・・・


話題は帰って
このような問答があったことを勘案すると、特定農薬小委員会及び分科会の議事録で承認された資材やパブリックコメントで公開された分類は、そのまま使用(農薬と同様の効能があると信じて)の可否に適用できると考えて問題ないです。(この解釈で間違いないと、農林水産省農薬対策室に確認済み)

前述のとおり、牛乳、緑茶、農農薬と混合して使用される糖類等、食品41資材は、(薬効が認められないため)使用者自身が農薬と同様の効能があると信じて使用する場合は取り締まりの対象外です。


11.平成16年の通知以降の協議③(保留資材の一斉整理について)

平成18年3月31日特定農薬小委員会及び分科会第7回合同会合時点で、「特定農薬の保留資材は効果を謳わない限り使用は自由」とされてから3年が経過していました。
保留資材は、極端に言ってしまえば単に全国への聞き取りで上がってきたものを、安全性を確認もせずそのまま挙げているだけのものです。
これらの候補資材が特定農薬の可否の議論にかからずにそのままとなっている状態は好ましくなく 、整理することが望ましいとの要請が委員からあったことから、 これらの候補資材の取扱いについて整理し、次回の会合で検討することとなりました。

これより1年半後。
平成19年10月30日、特定農薬小委員会及び分科会第8回合同会合開催の時点で、特定農薬の検討保留資材は原材料ベースで475資材(平成19年9月末現在)と記載されています。
ここで前述の「これまで保留資材とされてきた475資材を整理するための方針」が示され、その方針として以下の区分A、区分B、区分Cとする提案がありました。

区分A【継続審議資材】
・・・この時点で薬効等のデータが提出されており、今後も特定農薬の検討対象とする資材。
区分B【不明資材】
・・・ACいずれにも該当しない資材で、パブコメの結果(使用実態、安全性等の情報提供)を持って、ACいずれかに振り分ける資材。
区分C【削除対象資材】
・・・検討資材から削除する対象とする資材で、「C-1これまでの合同会合で個別資材毎に薬効等を検討した結果、特定防除資材に該当しないと判断された資材」「C-2文献等により、毒性を有している可能性がある資材」「C-3他の法令で既に規制されている資材」「C-4過去の合同会合において整理してきた特定防除資材の要件から、特定防除資材に該当しないと判断できる資材」「C-5定義が不明確で評価・指定の対象とならない資材」という内訳。

なお区分C-1,4は従来の保留資材の扱いと似たような形で「使用者の責任と判断で自らが使用されることについては何ら問題の無い資材」C-2,3,5「いかなる場合も使用禁止とする資材」ということで整理されています。
これを基に事務局で資材を整理、一部委員に確認を委任し、平成19年11月~12月にパブリックコメントを実施して、その結果を基に最終整理することで同会合においては了承を得ました。

実際にパブコメが行われたのが平成19年12月17日から平成20年1月18日、61通65県の意見が寄せられました。
平成20年9月2日、この結果を受けて、AC区分を整理した上で、特定農薬小委員会及び分科会第9回合同会合で審議が行われます。
委員から整理ミスの指摘や修正意見を受けて、再度一部資材の区分変更が行われ、なお詳細は事務局(農林水産省)で再整理を行うことが了承されました。なお、これら保留資材から削除される資材については、十分な周知期間を持って周知を行うこととされています。(急に使用禁止とすると現場に混乱が生じることが予想されたため)
ただし、保留資材から削除され、「使用者の責任と判断で自らが使用されることについては何ら問題の無い資材」については、一部委員からは懸念もあるようでした。
使用を認めることで詐欺まがいの商売に悪用されないかと言うことでしたが、やはりここでも「いかなる形であれ防除効能を謳う行為が農薬とするかどうかの判断基準である」と回答されています。

この後の平成20年11月21日、特定農薬小委員会及び分科会第10回合同会合が開かれますが、主な議題は検討中の保留資材に関するもので、前回の第9回合同会合で扱われた保留資材から削除するAC区分の資材については特に触れられていません。

なお、この第10回合同会合で、特定農薬の審査基準について「食品については薬効検証を一部省略することも可能」にする議論も行われているのですが・・・これ以降食品が指定されていないところを見ても、実効は無かったように思われますので詳しくは述べませんし、これ以降も特に触れません。
むしろこれは“特定農薬”がいかに矛盾して混沌としているかの象徴となるのですが…それは最後に。

平成22年10月5日、特定農薬小委員会及び分科会第11回合同会合が開催されます。
この時点で特定農薬の検討資材の数(前述のA区分に該当する資材)が「35」とされていました。
ただし、特定農薬小委員会及び分科会第9回合同会合で取り扱われた保留資材から削除するとされた資材については「特定農薬(特定防除資材)の検討対象としない資材の取扱いについて(案)」及び関連する指導通知において現場への周知指導を図ることとされており、これ以外の資材も未だ正式な削除とはされていないようです。
ただしただし(2回目)、この通知はおそらく平成23年に発出されることになる通知と思われますが、この中からは食品関係を中心に大量の資材が名称を消しているのです。(ただしこの第11回会合で資料提供は無いので、この時点で消えたのか、この後の検討で消えたのか不明)

ちなみに消えたのはC-1「これまでの合同会合において特定防除資材に該当しないと判断された資材(ほぼ食品)」15資材中の12資材、そしてC-4「過去の合同会合において整理してきた特定防除資材の要件から、特定防除資材に該当しないと判断できる資材(物理防除資材)」の全て、これは「使用者の責任で使用可能」とされていた資材ですが、他の「いかなる場合も使用禁止」とされた資材からも2~3割の資材の名称が消えています。
資材の整理については事務局に一任ということで了承されていたので、正直その整理過程がわかりません。
整理した結果、呼称が違うだけで物質としては同じ、とされた可能性もありますが・・・数が多すぎますしすべての資材の検討結果を気らかにするつもりもありませんので、正直未精査です。
ただし物理的防除資材については平成15年5月の第3回合同会合、食品に関しては、平成18年3月の第7回合同会合で特定農薬に該当しないことが承認され、そして通知未記載の資材にはパブコメで何も意見はありませんでした。
そしてこの頃の農林水産省では、こういった除外や取り扱いといった方針を正式な通知はせずともパブコメや議事録の公開で十分情報開示しているとの考えだったことは先に述べたとおりです。


とりあえず一部不可解な点が残るものの
平成23年2月4日22消安第8101号及び環水大土発第110204001号「特定農薬(特定防除資材)の検討対象としない資材について」22消安第8102号「特定農薬(特定防除資材)の検討対象としない資材に関する指導について」が通知されます。

ここでは別表1から別表3まで3つにカテゴライズされています。

別表1「名称から資材が特定できないもの」、別表2「資材の原材料に照らし使用量や濃度によっては農作物等、人畜及び水産動植物に害を及ぼすおそれがあるもの」、別表3「法に規定する農薬の定義に該当しないもの」です。
これらの取り扱いについては以下のように通知されています。

「特定農薬(特定防除資材)としての指定が保留された資材については、「農薬取締法の一部を改正する法律の施行について(通知)」(平成 15 年3月 13 日付け 14 生産第 10052号農林水産省生産局長通知)第2の3の(2)により、「使用者自らが農薬と同様の効能があると信じて使用するものは取締りの対象としないこと」とされてきたところである。(中略)このうち、通知別表1又は別表2に掲げる資材については、今後、使用者自らが農薬と同様の効能があると信じて使用する場合であっても取締りの対象とする。

この文章と、いままでの合同会合のやりとりを総合するに別表1,2は農薬登録しない限りいかなる場合も使用禁止、別表3は今までの保留資材と同様に「使用者自らが農薬と同様の効能があると信じて使用する場合」は取り締まりの対象としない、と言うことになるでしょう。

なお、特定農薬小委員会及び分科会第12回合同会合(平成23年4月26日開催)でこの通知について「この対象とされなかったものこれら(中略)につきまして農薬として使用しないよう指導していくということと整理しております」と報告が行われており、今まで述べてきた通り「農薬としての効果を標榜する」ことはあくまでも対象外です。


12.平成16年の通知以降の協議④(2回目の保留資材の一斉整理について)

平成25年11月1日、特定農薬小委員会及び分科会第15回合同会合が開催されます。
ここでは特定農薬として検討中・保留中の資材について、再整理が行われました。

使用が報告されている資材(データが提出されている資材)が10資材、使用が報告されているものの農薬の使用とは判断されない資材が4資材、使用が報告されていない資材が19資材、農薬とは判断されない資材が1資材と4つのカテゴリーに分けられます。
委員会では特に異議無く承認され、パブリックコメントを実施することとされました。
また、この第15回合同会合では「エチレン」と「焼酎」について特定農薬に指定することについても承認され、指定に向けてパブリックコメントの実施等必要な手続きを進めることになりました。

検討対象から削除する資材に関するパブコメは平成25年12月24日から平成26年1月22日まで実施され、結果は平成26年3月4日開催の第14回農業資材審議会農薬分科会で報告されています。
届いた意見は6通で、少なくとも保留資材からの削除について反対するものはありませんでした。
この内容を通知したものが
平成26年3月28日25消安第5778号及び環水大土発第1403283号「特定農薬(特定防除資材)の検討対象としない資材について」25消安第5954号「特定農薬(特定防除資材)の検討対象としない資材に関する指導について」です。

これによって使用が報告されている資材である10資材、「木酢液、竹酢液」、「ホソバヤマジソ(シソ科)」、「ウエスタン・レッド・シーダー(ヒノキ科ネズコ属樹木)」、「ヒノキの葉」、「二酸化チタン」、「インドセンダンの実・樹皮・葉」、「甘草(マメ科カンゾウ)」、「酵母エキス、クエン酸、塩化カリウム混合液」、「ヒバ油」、「ヒノキチオール」検討保留状態で残りました。
さらに保留資材として「焼酎」が加わります。

というのも特定農薬を新しく指定するため「平成 15 年3月4日農林水産省・環境省告示第1号(特定農薬を指定する件)の 一部改正案について」ということでパブコメが平成25年10月21日から平成25年11月19日までの期間及び平成25年12月16日から平成26年1月14日までの期間に行われましたが、その中で「焼酎」の指定について日本酒造組合中央会から、特定“農薬”として指定されることは消費者の誤解を招くとして反対意見が出たのです。
これを受けて前述した第14回農業資材審議会農薬分科会では、「焼酎」については今後、特定農薬小委員会及び分科会において、範囲やその名称、情報提供する内容について検討した後、改めて食品安全委員会に諮問する等、指定に向けた手続きを進めることとされました。
以後、何も動きはありませんので、保留のままになっていると推測されます。

なお、「焼酎」を特定農薬に指定すべきで無いという意見がパブコメでも見られましたが、その大まかな理由が「焼酎が農薬に指定され殺菌効果があるとされると、消費者に焼酎は殺菌に使用できるような危険で有害なモノだと認知され、焼酎離れ、販売不振につながりかねない」というものでした。
個人的な率直な感想は、「既に食酢が指定されてまったくそんな動き(食酢が危険だ!みたいな騒ぎ)が無い中、いくらなんでも杞憂が過ぎるのでは?」ですが…
自然派()だの無農薬派()の人たちやらが「食品だから食べて大丈夫⇒殺菌に使っても安心」と言っているのとは真逆の思考があるのは興味深いと思いました。
「使うと殺菌できる⇒殺菌できることが出来る食品は危険」と言う思考は言われてみればあり得なくは無いことではありますよね。
扇風機も世に出た最初は「使ったら死ぬ」と騒がれていたそうですし、私自身含め知的とは言えないうわさ話に流されがちな世の中です。杞憂と片付けるのはさすがに早計でしょうか。

しかしこれでせっかくの「焼酎」を堂々と使用できる機会は失われたことだけは事実です。


13.平成16年の通知以降の協議⑤(協議の終わりと保留のままの11資材)

さて、これにて終わりになります。

と言うのも、平成25年11月1日特定農薬小委員会及び分科会第15回合同会合及び平成26年3月4日開催の第14回農業資材審議会農薬分科会以降、合同会合の実施や特定農薬に関する検討は見られず、これを持って特定農薬に関する議論は保留されているように思われます。
そのため、特定農薬としての指定も検討資材からの削除も通知されていない以上、令和6年現在でも特定農薬の保留資材が11資材あると言うことになります。

実際「木酢液」については令和4年9月9日開催の中央環境審議会水環境・土壌農薬部会農薬小委員会(第85回)で「保留されている」旨の発言があり、「焼酎」についても特定農薬の食酢の使用例に記載がある(使用を暗に認めている)ことから間違いは無いと思われます。

これを今の農林水産省が「保留資材の扱いではない」と言うなら、国民への通知や周知はどうなっているのかという問題ですので、繰り返しになりますがあしからず。

実に長大になってしまいましたが、以上が農薬取締法改正から特定農薬を検討する段階で取り扱いが決定していった資材の詳細です。
条文だけを読めば登録農薬、無登録農薬、特定農薬の3種しかないのですが、農薬としての効果を謳わず、使用するという一定条件下で“使用する分には”取り締まりの対象とならない資材そのような使用でも取り締まりの対象となる資材と、明確に通知されています。



14.特定農薬という矛盾した存在

初期の牛乳や緑茶の薬効実験に見られたように、食品類にはとても実用的な効果があるとは言えず、牛乳に関してはカビの発生や散布した農作物の衰弱まで見られるなど、害のほうが強いように思われます。

そもそも特定農薬の定義である「安全で効果のあるというのは大分夢物語に思えます。
物質の毒性を決めるのは量です。
人間の場合、水ですら飲み過ぎは水中毒を起こし、調味料として普通に使っている塩も摂取しすぎれば死に繋がるのは周知の事実です。
これについては第9会合同会合最後に座長を務めた本山東京農業大学客員教授(当時)の発言が印象的でした。


(前略)何が問題かといいますと、原材料に照らして安全性が確実なものを指定するということだから、ラベル表示ができないということになったわけです。きょうの書類の中にもありますけれども、つまりラベル表示を義務化しなければ安全性が担保できないようなものは特定農薬の趣旨に反するから、ラベル表示は法律的に義務化できない。ということは、それぞれの資材の品質それから用法・用量、これが規制できない。それが全く自由なもとで、なおかつ安全で、しかも薬効があるというものを選ばなければいけないということだったわけです。
それはだれがどう考えても不可能なことなんです。薬効にしても、安全性にしても、品質と用法・用量で担保されるものであって、絶対的に安全なものというのはあり得ないし、絶対的に薬効のあるものなんてあり得ないわけです。ですから、最初からこの仕組みには矛盾があったわけです。そこで、何とか使用基準に近いような品質と薬効、用法、用量をラベル表示できないだろうかと、何回も問い合わせしましたけれども、どうしてもだめだと。多分、内閣法制局の見解だったと思うんですけれども、制度そのものに矛盾すると。
その結果、今まで延々とやってきて、いまだに最初の3つ以外は何もふえていないというのは、そこに制度的な問題があったわけです。ですから、私は今、最後に遺言といいますか、これが最後ですので申し上げたいのは、これはやっぱり制度的に無理ですから、今まで保留になっているものを整理する必要はありますけれども、私が5年前から役所のほうにお願いした、これを特定防除資材として指定するのではなくて、農薬登録制度の中の1つの枠組みとして、安全性が比較的確実なものは、審査の基準をもう少しやさしくしてどんどん認めていくということにしていただけませんかと。そうすれば、もっとたくさん、どんどん指定ができると思うんです。それがない限り、無制限に用法、用量も使用基準も何もなくて、いいですよということは、とてもじゃないが、できないわけです。

「無制限に安全なモノは無い」、まさにその通りですよね。
特定農薬への指定を増やすために、「食品を特定農薬に指定する際、薬効は必要ないのでは?」なんて議論も一時期ありましたが、それ以上に「無制限の使用で安全を保障しろ」という夢物語を言っていることの害で、特定農薬の指定は遅々として進まなかったように思えます。

この後年も結局変わっていないところを見ると、この矛盾をはらんだまま、農薬取締法は運用されていることになるのでしょうか。
ただこれに関しては「農薬と同様の効能があると信じて使用する場合は取り締まり対象外」というのが、農林水産省として出したひとつの答えなのかもしれません。



15.まとめ

条文をそのまま解釈すれば「農薬と同様の効能があると信じて」だとしても、牛乳を使用すれば農薬ではないか、と考えるのもごもっともです。
しかし特定農薬小委員会及び分科会の合同会合や省令で「使用者自身が農薬と同様の効能があると信じて使用する場合は取り締まりの対象としない」旨の発言等が明記されていることから、これに従って運用されるとするのが自然でしょう。
それにしても「取り締まり基準の条件はすべて公開すべきだ」ということを言うつもりはありませんが、このあたり(特定農薬やら)の情報開示の仕方があまりにも不親切です。
この内容把握するのに、(私自身の頭が悪いのもありますが)およそ一か月もかかりました。
議事録もつまみ食いで読みたいところだけ読んで理解できるものではなかったですし…


以上の内容について「私は違うと思う」とかいう感情的な感想文は不要ですのであしからず。情報が公開されている、ということを軽視される方は多いですが、そうなると根本の認識が違いすぎます。
今までの内容と現在の農林水産省が違う回答をした場合は、むしろどこで変わったのか(そしてそれがどこで情報開示されているのか)を説明してもらわなくてはいけません。


「使用者自身が農薬と同様の効能があると信じて使用する場合」について
実は法令違反だけど、国や県として取り締まらないだけ・・・なのかもしれませんが
ここがどう解釈されるのかについては農林水産省にお問い合わせください。
解釈はどうあれ、最終の結果として「取り締まりの対象ではない」ことは確かでしょうから、私はそれ以上深掘りしません。

無論、何度も繰り返し言っていますが、農薬としての効果を標榜すれば法に抵触するとされていますし、食品の中にも「農薬と同様の効能があると信じて」使用したとしても指導の対象と明記されている資材もありますし、散布した食品が腐敗してどんな悪影響が出るかもわからない以上、登録農薬以外を使うべきでは無いというのも至極まっとうな話です。
私も全面的に賛同します。
牛乳、緑茶、コーヒー、焼酎の実証で見られたように実用的な効果も無いのです。そんなリスクを冒してまで効果の無いものをなぜ使う必要があるのでしょうか。
食品以外でも、「木酢液」など製法によっては有害成分を含むこともあったり、いずれにせよ単なるお気持ちを満足させるためだけにリスクを冒すのは賢明とは言えないでしょう。


私が見落としている省令、規則、もしくは矛盾した回答を農林水産省がしてきた際はどうかご教授ください。
以上の内容が絶対正しいとは言うつもりはありませんし、現在の農林水産省職員様が10年以上前の上記の議事内容を把握した上で回答しているとも限りませんので。

しつこいようですが、この部分が明瞭に広報されていなかったり厳格に取り締まりされていないのは
効果もろくに無くてリスクのあるようなモノをまいて自己満足している人にまともに付き合っている暇は無い、ということなのだと思います。



参考文献


○農薬取締法
○食品安全基本法
○食品衛生法
○無登録農薬問題の経過及び対応 
○農林水産省 農薬コーナー
○農業資材審議会(農林水産省)
○農薬工業会公式HP


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